田舎に移住して、畜産農家を継ぐ。獣医師の夫婦が取り組む、和牛+ニンニクの複合経営。

記事の内容

農学部→獣医学部に入学し直して、獣医師免許を取る

夫婦で義両親の農業を継ぐ

経産牛の販売に取り組む

青森県田子町のオーク牧場の大久保悠紀(おおくぼ ゆうき)さんに、獣医師から農家になった経緯や、和牛とニンニクの農業経営について取材させていただきました!

目次

経緯:獣医学部に入学し直して、憧れの獣医へ

管理人

大久保さんはどんな学生でしたか?

大久保さん

私は岩手県盛岡市の住宅地、サラリーマン家庭で育ちました。
ハムスターや犬を飼っていた影響で、子どもの頃から動物が大好きでしたね。
将来は動物に関わる仕事がしたいと思い、獣医師のある大学を目指して勉強していました。

管理人

将来の夢は、獣医師だったのですね。

大久保さん

だけど大学受験の結果が芳しくなくて…。
結局、盛岡市にある大学の、農学部に入学しました。
獣医学部への転学部も検討しましたが、認可されず、大学3年生までモヤモヤした気持ちで過ごしていました。

大久保さん

だけどある日先輩に、
「そんなに獣医学部に入りたいなら、もう一回センター試験を受けて入り直せば?」
と言われたんです。
冗談で言われたことに道が拓けた気がして、一年間休学して再び大学受験をして、獣医学部に入学し直しました!

管理人

3年時に休学されて、1年間勉強して、さらに卒業まで6年かかる獣医学部に入り直すとは!
それほどまでに、獣医師になる夢は大きかったのですね!

大久保さん

回り道をしましたが、獣医学部を卒業して、獣医師免許も取得できました!
大学卒業後は岩手県奥州市の畜産関連の会社で3年間、獣医師として、牛の診療をしていました。
各農家を忙しく回って、人間よりも巨大な動物に接することは大変でしたが、憧れの獣医師としての仕事は充実していましたね。

管理人

たしかに、重くて力のある牛と接するのは体力勝負ですね。
そんな獣医師から一転して、農業をすることになった経緯は何ですか?

大久保さん

旦那が同じ職場の獣医師だったのですが、青森県田子町の畜産農家の義両親から、
「和牛やニンニクも規模を増やすから、田子町に帰ってきたら?」

と提案を受けたんです。
私も出産を機に、今まで通りの働き方を見直そうと思っていたので、2020年に田子町に移住することにしました。

管理人

ご夫婦とも獣医師なんですか!
それにしても、よく農家に転身しようと思われましたね!

大久保さん

私は動物が好きなのは変わりなかったですし、
「リアルどうぶつの森だ!すでに設備や牛が揃っている環境で、動物に囲まれた生活ができる!」
と、前向きでした(笑)!
だけど私の両親は、やっぱり安定した獣医を辞めて、移住して農家になることを心配していたみたいですね。

管理人

両親の不安も、すごく分かります。
実際に農家になって、農業の印象は変わりましたか?

大久保さん

お肉やニンニクは一番と言っていいほど美味しいですし、牛たちは可愛いんですけど…、
嫌でも売上と向き合うことは精神的にもきつかったですし、会社員として獣医をしていた頃に比べたら、休みも給与体系も整っていませんでした。
だけど夫婦で就農するからには、永く続けられる経営モデルへの改善は必要不可欠です。
2020年に夫婦で就農して、徐々に飼育や販売を改善してきました。

田子牛に餌をあげる大久保さん

飼育や栽培:和牛とニンニクの複合経営の改善

管理人

では、現在の作型や労働力を教えてください。

大久保さん

和牛を約100頭を飼育、ニンニクを1.8ha栽培しています。
労働力は私と義両親、ニンニクの定植や収穫時には、親戚の方が手伝いに来てくれています。
田子牛とニンニクが有名な地域ですから、田子町ならではの組み合わせですね。

管理人

和牛とニンニクを組み合わせた経営なんですね。
では大久保さん夫婦が、生産面で変えたことは何ですか?

①牧場内に獣医師部門を立ち上げる

大久保さん

2020年に夫婦で就農した年に、旦那はオーク牧場内に、「獣医師部門」を新たに立ち上げました。
田子町は青森県内では畜産が盛んな地域で、和牛農家が60軒ほどいるんですよ。
旦那は獣医師の経験を活かして、オーク牧場だけでなく、地域の畜産農家を回って診療しています。

管理人

生産だけではなく、診療部門がある農家も珍しいですね!
ご夫婦で農家としての知見もあるのは、地域の畜産農家にとっては頼りになる獣医師だと思います!

大久保さん

あとは獣医師免許を活かして、より深い診断に加えて、麻酔を使う医療行為(帝王切開などの)も出来ています。
オーク牧場では、牛同士や人間が傷つかないために、麻酔をかけて牛の角を切っていますが、
和牛農家で角を切っている農家は、少数だと思いますね。

②ニンニクチップを与えて育てる和牛経営

管理人

和牛生産部門に関しては、こだわりはありますか?

大久保さん

大黒森の伏流水と地域の藁と牧草で育てられる田子牛は、遠方からも買い付けに来られるほど、地域のブランド牛として名高いです。
加えてオーク牧場の場合は、田子ニンニクをチップにして、餌に混ぜていますね。
市場関係者からは、肉質が締まって美味しくなると評判です!

管理人

田子ニンニクは、和牛の餌にも活用されているのですね!
では、ニンニク栽培のこだわりは何ですか?

小グループで手塩にかけて育てられる田子牛

自社牧場の牛糞堆肥を使ったニンニク栽培

大久保さん

自社で生産している田子牛の、牛糞堆肥をふんだんに畑に入れていることですね。
良質な牛糞堆肥を毎年投入しているせいか、畑は長靴が埋まるほどフカフカなんです!
雪の下で過ごしたニンニクは、糖を貯めこみやすく、生ニンニクは甘いと感じるほどです。

管理人

ニンニク栽培も、和牛飼育と組み合わせているのですね。
大久保さんがニンニク栽培に関して変えたことはありますか?

大久保さん

モザイク症状が少しでも出ている株は、圃場の外に出すようにしましたね。
「そんなにニンニクを引っこ抜くのはもったいない!」
とは言われますけど、農薬をなるべく控えるためなんです。
おかげでニンニクの秀品率は高くなって、翌シーズンの種ニンニクも品質が良くなりました。

失敗と改善

管理人

栽培や飼育で様々な改善をされてきたのですね。
試行錯誤をしていく中で、苦労されたことはありますか?

大久保さん

やっぱりコロナ渦やウクライナ情勢の悪化から、飼料代が高騰には悩まされ続けています。
約30か月齢まで飼育しますから、1頭にかかる餌代の高騰は大変な負担になるんですよ。
やむを得ず餌の種類を変えたり、量を調整した時期もあるんですけど…。
給餌の変更が裏目に出て、枝肉体重が500㎏にも届かなかったのは痛手でした。

管理人

餌代の高騰は、どの畜産農家も大変そうですよね…。
手痛い失敗を受けて、どのような改善をされたのですか?

大久保さん

経費はかかりますが、餌を従来の給餌に戻しました。
枝肉体重は500㎏超に戻って、肉質も上がり、セリ価格も依然と同程度に戻りました。

管理人

失敗を糧に、高評価を得られる和牛になったのですね。
それにしても、経費と品質のバランスは、どの農家さんも課題だと思います。

大久保さん

本当に、理想の肉質だけを追うだけでは、経営が厳しくなっています。
今までは月に4頭は30か月齢近くまで肥育して出荷していましたが、今後は10か月齢で子牛市場にも一部出荷するように変えていく予定です。
経費高騰に対応するために、生産面だけではなく、販売面も直販の割合を増やそうと考えています。

ニンニク畑の様子

販路:ECサイトや、経産牛の肉の販売を開始

管理人

現在の販路はどんな感じですか?

大久保さん

ニンニクは小売業者が9割、1割は産直市場や産直ECサイトなど、自社で販売しています。
和牛は今までは市場に全て出荷していましたが、少しずつ自社での販売を増やしたいと思っています。

管理人

今後は直販を増やすということですが、自分で農作物の価格を決めたいということでしょうか?

大久保さん

そうですね、取引価格を安定させることは大切なので。
そしてそれ以上に、自社のこだわりをちゃんと評価してくれた上で、販売したいと思っています。

管理人

たしかに、丹精込めて育てた農作物が安かったらショックですよね。

大久保さん

あとは、経産牛の肉の販売も始めました。
今までは経産牛は出産後の授乳期が終わったら、経産牛市場に出荷していて、体重も肉質も評価は低かったんです。
だけど経産牛の肉の美味しさって、近年見直されつつあるんですよ!
オーク牧場でも、出産後半年はゆっくりしてもらって、体重が戻ってから出荷しています。

管理人

経産牛、私も最近になって聞くようになりました。
しかしまだまだ経産牛の美味しさが浸透していない中で、販売の苦労もあったのでは?

大久保さん

そうですね、経産牛を販売する前は、
「餌代がもったいないぞ。在庫が増えるだけだ。」
と、周りからは色々言われていました。
だけど、ちゃんと育て直した経産牛は、熟成肉のような美味しさになるんです!
「経産牛の美味しさが浸透すれば売れるはず!」
と信じて、販売に踏み切りました。

大久保さん

オーク牧場の経産牛の取り組みが理解されたのか、現在では経産牛をオーク牧場に預けてくれる地域の農家がいます。
10歳以上の経産牛も、引き取って飼育していますよ!

管理人

10歳以上の経産牛もいるんですか!
牛生のためにも、経産牛の直販は、大切な取り組みですね。

オーク牧場の経産牛「たっこみゆき牛」

目標やメッセージ:永く続けられる農業経営に変えていく

管理人

今後の目標はありますか?

大久保さん

地域の稲わらや牧草に加えて、今後は地域の廃棄される野菜なども餌として利用することを検討しています。
堆肥舎を建てて、地域の農家に牛糞堆肥の供給もしていきたいですね。
地域に密接して地域資源を活用した畜産は、経営にもプラスになるはずです。
ニンニクや和牛の質はもちろん、ちゃんと利益が残せる経営に変えていきたいです。

管理人

応援しています。
最後に、就農希望者の方にメッセージがあればお願いします。

大久保さん

私はたまたま義実家が畜産農家でしたが、新規就農でゼロから牛飼いをするのは、獣医になるよりずっと難しいと思います。
だから、もし親元就農や第三者承継のチャンスがあるのなら、ぜひチャレンジしてみてほしいと思います。
田子町には、移住して農家になる夫婦も増えています。
もし都会での仕事に疲れたら、一度田舎での農業体験してみるのはアリだと思いますよ。

画像提供、農家さんのリンク
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