旅の道中に、ニセコの牧場で働く
予算を抑えて夫婦で新規就農
放牧酪農+六次産業化
北海道虻田郡ニセコ町のニセコリンリンファームの鈴木登(すずき のぼる)さんに、新規就農までの経緯や、小頭数の放牧酪農について伺いました!
就農経緯:旅の途中でニセコの牧場で働く
管理人鈴木さんはどんな学生でしたか?



東京で育って、大学までずっとサッカーを続けていたのですが…、
人間関係で揉めてしまって、大学も中退してしまいました。
ただ大学中退をプラスに捉えて、若いうちにしかできない色々な経験をしようと思い、ニュージーランドへの旅に出ることにしました。
本当にニュージーランドは、人間よりも羊の方が多いのか、確かめたかったんです(笑)。



他の人がしないような、長期旅をしていたのですね。
ニュージーランドでは、どんな生活をしていたのですか?



語学留学と、羊の牧場でファームステイをしました。
羊のお世話の他にも、ポッサムという動物を狩るという、都会ではできない強烈な経験をしましたね。
農業とは無縁の生活をしてきていたので、羊牧場での生活は驚くことが多かったです。



ニュージーランドで、初めて農業を経験をされたのですね。



そうですね、その後は東南アジアでバックパッカーをしたり、日本全国をヒッチハイクで回っていました。
そして旅の道中でニセコに寄った時に、軍資金が尽きてしまったんです。
たまたまご縁があった牧場で、働くことになりました。



本当は数か月間だけニセコに滞在して、資金が貯まったらまた旅立つ予定でした。
だけどニセコで働いていた妻と出会って結婚して、子どもにも恵まれまして。
ニセコに定住することになったので、日本全国の旅は中断することになりました(笑)。



それはおめでたいですね!
ニセコにご縁があったのですね!
就農経緯:雇用就農→酪農ヘルパー→放牧酪農で新規就農



ニセコでの牧場での農業は、どんな感じでしたか?



2007年から2018年まで、北海道でも有数の大規模牧場で、牛たちの世話全般を担当していました。
仕事は大変でしたけど、やりがいがあり、家族のために働いていました。



だけどある時から、他の牧場も見てみたくなったんです。
ニセコ周辺には30軒以上の酪農家がいて、酪農と言っても、飼育の仕方や餌や牧場主の考え方で全然違うんですよ。
難しい決断でしたが、お世話になった牧場を辞めて、ニセコ周辺の酪農ヘルパー利用組合に就職しました。



雇用就農から、酪農ヘルパーに転職されたのですね。
10年以上農業をされたわけですが、新規就農したい気持ちはなかったのですか?



新規就農はほとんど考えていませんでした。
酪農で新規就農するには、牛や牛舎、搾乳設備などで1億円以上の資金が必要とされており、私には縁がない話だと思っていたんです。
ただヘルパーで伺う牧場には放牧酪農の方もいて、そこで放牧酪農の特徴や可能性を知りました。



放牧酪農の特徴として、
・牛たちは放牧地の牧草を食み、餌やりの手間は少ない
・糞尿の掃除があまりない
・乳量は少ないけど、六次産業化などの余地がある
など、夫婦二人でも、工夫できると考えたんです。
あとは牛も家族の一員みたいな雰囲気で、酪農家も牛も、おだやかに見えたんですよ。
「小頭数の放牧酪農なら、私でも新規就農できるのでは?」
と、新規就農に興味が出てきて、ニセコでの牧場運営を模索し始めました。



なるほど。
鈴木さんは新規就農に向けて、どんな行動されたのですか?



就農の相談をしていた近所の酪農家の方が、5頭の牛と農地を分けてくれたんですよ。
さらに牛舎や搾乳の機械を置ける土地も貸してくれたので、そこに牛舎などを新たに建てることにしました。
ニセコで新規就農した酪農家は今までいなかったらしいのですが、私は運やご縁に恵まれていましたね。



鈴木さんが長くニセコで働いていたからこそ、農地や牛まで譲ってもらえたんだと思います。
ただ、牛舎や搾乳機械などは、やっぱり高かったのでは?
資金面はどう工面されましたか?



牛舎は安く抑えるために、パイプハウスで建てることにしました。
搾乳設備は、海上コンテナをDIYして設置して。
初期投資は、約1000万円に抑えることができました。
青年等就農資金の融資を資本金として、あとは次世代農業人材投資資金を受けましたね。



1億円以上かかると言われる初期投資を、かなり安く抑えられたのですね。
いいスタートが切れましたか?



いや、2021年に新規就農してすぐに、コロナ渦やウクライナショックが続いて、酪農業界全体が苦境でした。
私は小頭数の放牧酪農ですから、飼育面の改善や六次産業化は、就農前から計画に入れていましたね。


飼育:小頭数放牧酪農の飼育



現在のニセコリンリンファームさんの飼育はどんな感じですか?



夫婦2人と、牛たちが全部で13頭のホルスタインがいます。
放牧地も増えまして、6haで放牧酪農を営んでいます。
就農当時は酪農ヘルパーも並行していましたが、現在は酪農ヘルパーは完全に辞めて、ニセコリンリンファームに専念しています。



放牧酪農ということですが、ニセコリンリンファームさんの飼育のこだわりは何ですか?



乳量にはこだわっていません。
うちのような小頭数の放牧では、量を追い求めても限界が見えているので。
とにかく、牛たちが健康で長生きしてもらうことを考えています。
自由に動き回れる放牧酪農は、牛たちのストレスが低く、足腰が強くなり、治療代は低くできていますね。



なるほど。通常の酪農よりも、経費は安くできるんですね。
ところで、ニセコは豪雪地帯ですよね?
パイプハウスの牛舎は、雪で潰れないんですか?



牛たちが集まって温度があるおかげか、雪はハウスからずり落ちるんですよ。
パイプハウス周りは除雪しますが、潰れる心配は今の所ないですね。



な、なるほど…!
では、今後の飼育面での課題や目標はありますか?



放牧地の雑草を減らして、オーチャードやチモシーなど、牧草の種類を増やすことが第一ですね。
ルートマット(腐植層)を壊さないように、ロータリーで雑草を漉き込むことはできないので、すぐには変わりませんが。
それこそ長期的に、牧草地を良くしていくつもりです。


販路:引き継いだニセコの人気商品



現在の生乳はどちらに販売されているのですか?



生乳は農協に出荷しています。
今後は事業承継されていただいた「クリスピーチーズ」の販売や、自社生乳を使った商品開発に、力を入れたいと考えています。



就農前から6次産業化は計画していたということですが、どのような考えからでしょうか?



やはり無理のない頭数で生計を立てるために、6次産業化はイメージしていたんです。
まずは2023年に、ご縁があったチーズ工房の方に、アイスクリーム製造機と生乳の殺菌機械を譲っていただくことから始める予定でしたが、
「機械は無償であげるから、クリスピーチーズも引き受けてくれないか?」
と提案していただいたんです。



チーズ工房の方は事業継承を相談されていたようで、クリスピーチーズはどうにか残したいと考えていたそうです。
私は予期せぬ提案に迷っていましたが、妻が承継したいと即答したんです。
ニセコの人気商品であるクリスピーチーズがなくなってしまうのは、惜しいと思ったんでしょうね。



機械に加えて、商品のレシピも引き継ぐ話もですか!



本当に、ご縁に恵まれていました。
妻は調理師免許を持っていてスイーツ店で働いていたので、クリスピーチーズは妻が試行錯誤をしてくれました。
チーズ工房の方には、製造のアドバイスの他にも、梱包資材の発注や取引先まで紹介していただいて。
2023年5月から、商品を途切れさせることなく、クリスピーチーズを引き継げました。



地域の人気商品には、そんな物語が詰まっていたんですね。



今後はニセコリンリンファームの生乳を使った、アイスクリームも販売予定です。
乞うご期待!


年間800人以上の酪農体験



ニセコリンリンファームでは他にも、年間800人の修学旅行生に酪農の体験を受け入れています。
酪農の現場を知ってもらうことで、牛乳の消費に少しでもつながったらと考えています。



農業体験も受け入れているのですね。
だけど生徒の体験もされていると、仕事が大変では?



たしかに大変な時もあります。
ただ農業に全く触れていない学生の中には、出産した雌牛から牛乳が出ることを知らない子もいるんですよ。
それに都会の生徒たちには貴重な経験のようで、牧場に来た時よりもテンション高く帰ってくれることが嬉しいんです!



なるほど、鈴木さんも都会出身ですから、生徒に伝わりやすいのかもしれませんね。


目標やアドバイス:営農計画を厳しく立てる



鈴木さんの今後の目標は何ですか?



適正規模を超えない飼育はこれからを心がけて、無理に頭数を増やす予定はありません。
クリスピーチーズやアイスクリームの販売も伸ばして、永く酪農を続けられる経営を目指したいですね。
あと個人的には、日本全国の旅は途中ですので、いつか妻と屋久島の屋久杉を見ることがゴールですね!



ありがとうございます。
最後に鈴木さんのように、酪農や新規就農を志す方にアドバイスがあればお願いします。



小頭数の放牧酪農が珍しいのか、私の元に相談に来られる方がけっこういます。
新規就農希望の方に伝えたいのは、通常は5年の営農計画書を、私は8年の営農計画を作ったことです。
計画通りに農業は進まないですけど、1つ1つの数字の根拠を明確にすることが大切です。
結局厳しい情勢や農政の方からの厳しい指摘もありますが、黒字の営農計画を立てられるなら、自信や農政の方の信用につながると思います。


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