自動車関連企業で働いた後、愛知県豊橋市で親元就農
少量多品目栽培から始めて、サツマイモに作物転換
青果のサツマイモ出荷ではなく、加工業者へ原料を出荷
今回インタビューした農家は、愛知県豊橋市の農園そもそも代表の鈴木直樹(すずき なおき)さんです。
親元就農で少量多品目栽培から農業を始めて、現在はサツマイモ専作に作物転換されています。
飲食店などにサツマイモペーストの販売という独自の販路を開拓された鈴木さんに、就農した経緯や栽培、非産地の販売戦略などについて取材しました!
農家の手伝いが嫌だった幼少期

鈴木さんはどのような幼少期を過ごされましたか?



祖父が大根や白菜、スイカや枝豆、養鶏など、色々していた農家だったので、
私も学校に行く前に鶏のエサやりや卵の採集をしていました。
農業の手伝いをしないと、お小遣いがもらえないのがすごく嫌で!
「農家の長男だけど、将来は農家は絶対に継ぐもんか!」
と強く思っていましたね(笑)。



嫌々農業をさせられていたなら、嫌いになりそうですね(笑)。
鈴木さんは農家になる前は、どんな仕事をされていたのですか?



工業高校を卒業した後、自動車関連企業に入社しました。
主な仕事は製造部全般で、生準と言われる製造ラインをつくる仕事や派遣スタッフの教育など、中間管理職として色々任されましたね。
祖父も元気でしたし、両親も兼業で農業を手伝っていましたから、私が農業をするのは老後だろうと漠然と思っていました。



農業が嫌いだったという過去もあるのに、農家に転身されたきっかけはあったのですか?



私が26歳の時に父親が亡くなり、実家の農業をどうするかという問題が急に出てきたのです。
私が週末に農業を手伝うことも検討したのですが、実家から通える勤務地への転勤希望も通らず……。
実家に戻って家庭菜園くらいの規模で枝豆などは作ってはいましたし、就農説明会などに出向いているうちに、農業という仕事に興味が湧いてきたという感じですね。
なので2014年に親元(祖父母元)就農したという形です。





そうだったのですね。
嫌だった農業のイメージは、就農した後変わりましたか?



農業のイメージは、子どもの頃から変わっていましたね。
一人暮らしやサラリーマンの友達の話の中で、野菜が食卓にたくさんあるというのは贅沢なことだと気づきました。
農業という仕事の魅力を、別の角度から発見できた気がします。
色々な農家さんの取り組みもネット検索で調べていましたから、やり方次第で稼げるようになるだろうと割と楽観していました。



サラリーマンから農家への転身、やはり気になるのはお金の面だと思います。
鈴木さんは就農資金として、どのくらいを確保しようと考えていましたか?



退職金も充てて、「就農には最低この程度は必要。」と言われている資金額は確保した記憶があります。
私の場合は、古くて小さいながらも農業機械は一通り揃ってはいましたけど、
結果としてサツマイモ栽培の設備投資が必要になったり、「お金が無くなったらまた外で働けばいいや。」といういい意味での余裕ができました。、



やはり自己資金は、あるに越したことはないですよね。
少量多品目栽培で就農して、サツマイモ専作に作物転換



2014年に就農した当初から、サツマイモを栽培されていたのですか?



いや、就農前の2013年から1年間、愛知県田原市の有機栽培農家の元で研修をしたので、
就農当初は年間100種類以上を栽培する少量多品目栽培をしていました。
というのも、就農する前に農業をネット検索して、色々な農家のブログを読んで農業経営や作型の研究をしていたんですよ。
中でも菜園生活風来の西田さんのブログは、めっちゃ読んで感銘を受けてまして!
「自分が実家の農業を変えていくには、有機の少量多品目栽培だ!」
と、祖父とは別部門という形で、畑を分けてチャレンジしていました。





ああ、私も取材した西田さんのブログを読んでいたのですね!
「農で1200万円!」の著書も有名ですし、影響を受けて就農する方は多そうです。
しかし少量多品目から一転して、サツマイモの専作になったのは理由があるのですか?



端的に言えば、私には少量多品目栽培は向いていなかったということです(笑)。
収穫、栽培管理、次の作付け計画など、全てを同時並行して毎日頭を使うことに慣れずに、「このままでは破綻する!」と、限界を1年目で感じてしまって……。
元々自動車関連企業のライン製造部に長く携わっていたので、設備投資をして一貫して一つのことを集中してやるほうが、私には性に合っていました。





それに加えて、色々な作物栽培を試す中で、サツマイモは、
・豊橋市の気候や土壌に合っている
・収穫適期が長くて一貫した作業ができる
・作業の多くを機械化できる
ことにメリットを感じて、サツマイモ専作への作物転換を決断しました。



どんな栽培作型でも、農家によって向き不向きはありますから、
色々な作物を栽培できたことで、結果的に自分に合う作物が選択できたということでしょうね。
現在のサツマイモ栽培の、耕作面積や労働力はどんな感じですか?



約2haのサツマイモ栽培で、主な労働力は私一人です。
9~11月の収穫と出荷が重なる繁忙期に、パートさん2名と、単発での雇用をしています。



サツマイモ栽培のこだわりはありますか?



他のサツマイモ農家にない特徴と言えば、約20種類のサツマイモを作っていることですね。
豊橋市内では、一番サツマイモの種類を多く作っている農家みたいです。



へえ、20種類も栽培されているのですね。
でも同じサツマイモでも、種類が違えば微妙に栽培のコツなどは変わってくると思うんですが。
近年人気の品種だけに絞って栽培されないのですか?



そう、たしかに品種が違えば、クセや管理も微妙に変わってきます。
私の場合は、メインは人気のある約5品種で、栽培面積も多くしています。
あとの約15品種は来作以降の試験的な品種だったり、「すごく色の濃い紫芋だったり、ニンジン芋や紅あずまなどの昔の品種が欲しい!」というお客様や業者の要望に合わせて作付けしています。
少ないものは100〜200kgだけ作っている感じですね。





なるほど、来作以降のテストや特定の需要に向けているのですね。
あとは鈴木さんは、栽培に関して大きな失敗をされたことはありますか?



失敗はたくさんありますけど、特に2024年は暑さと雨が極端に少ないという天候不順で、サツマイモの収量を相当落としてしまいました。
例年通りの作業をするだけではなく、当たり前の事ですが作物をしっかり観察して水やりをまめにしたり、畝の向きや高さも工夫しないといけないという、契機になったと思っています。



本当に、毎年どんどん暑くなってますし、雨の降り方も極端ですよね……。
どの農家の皆さんも、苦労されている印象です。
サツマイモを加工して出荷



現在の鈴木さんの販路はどんな感じですか?



ほぼ愛知県内の加工業者に、青果としてサツマイモを約5割出荷しているのが多く占めています。
あとは地元の市場出荷が1割、直販が1割といったところでしょうか。
特色のある出荷と言えば、豊橋近隣の飲食店やホテル、ペットフード店などに約3割出荷していて、
こちらは青果での出荷と、サツマイモのペースト加工までして出荷しているものもあります。





青果のサツマイモだけではなく、サツマイモペーストを売っているのですか?
6次産業化しているということですか?



つまり、6次産業化も少しやっているということですね。
加工場を賃貸で契約して、そこで一部のサツマイモをペースト加工しています。
ペースト加工するメリットとしては、
①作業工程の軽減
株間を広げて重さ重視で大きく作るために株間を広く取るので、苗の本数は通常の半分ほどで済みます。
一部のサツマイモ苗は自家増殖しているので、育苗の作業も軽減できます。
②「過剰な品質」を求められない
最初から加工原料用に栽培すると決めているので、皮のきれいさも秀品でなくてもよく、農薬使用も最低限で済みます。



まあ…たしかに、スーパーに並ばないものであれば、きれいなサツマイモである必要はないですけど……。
でも豊橋市って、サツマイモの有名な産地ではないですよね?
加工業者への売り込みなどは、大変だったのではないですか?



たしかに鹿児島などのサツマイモの大産地に比べれば、豊橋市は無名に近いです。
それでもですね、私が営業せずとも、業者側からお話をいただけることが多いんですよ!
というのも、農家が考えている以上に業者や飲食店は、地元の作物を使いたがっているんです。
さらに、「サツマイモの下ごしらえをする時間も人材もいないから、加工してある原料がほしい!」というニーズは一定数あるんですね。
サツマイモをペースト加工したら重量は目減りしますけど、利益率は上がりますし、私はやる価値はあると思っています!



なるほど。
加工場の賃貸料や手間をかけたとしても、大産地の隙間を狙った販売はニーズがあって成り立つのですね!
参考になります!
今後の目標や就農希望者に対してのアドバイス



鈴木さんのように、親元就農や作物転換を考えている方に、アドバイスがあればお願いします。



いきなり全ての作物や経営を変えるのは難しいでしょうから、まずは別部門として、畑や管理や出荷先を分けて小さく試すのがいいんじゃないでしょうか。
私の場合は父親との衝突はなかったですけど、農家の親子間の衝突はよく聞く話ですからね。



ありがとうございます。
最後に、今後の鈴木さんの目標を教えてください。



栽培面に関しては、2ha→3ha以上の面積になる予定なので、規模拡大しても仕事が回るような設備投資と雇用体系を作っていくことです。
販売面に関しては、もっと地元周辺エリアへの販売を強化したいです。
遠州、東三河、そして豊橋市。
ゆくゆくは、
「豊橋市名産の鬼まんじゅうで使うサツマイモと言えば、農園そもそもの鈴木だ!」
と言われるような存在になりたいですし、就農者の何らかの手助けもしていけたらと思っています。





取材させていただき、ありがとうございました!
こぼれ話:「農家以外の視点」を求めて学びの場へ



鈴木さんはよく、イベント販売だったり、飲食店とのコラボ商品のマッチングの場に出向いたりしていますよね?



そうですね、農作業に余裕がある時ですけど。
最近ですと、
豊橋市主催の飲食店とのコラボ商品を開発したり、豊橋百儂人という農家グループで地元の農作物をPRしています。





勉強になることですよね。
でも正直、「農業だけしていた方が稼げるなあ」なんて、私なんかは考えちゃうんですが……



ぶっちゃけ就農当初は、栽培に専念していた方が効率いいから、私も外に出ていくようなイベントは敬遠していたんですよ。
だけど農業歴が長くなるにつれて、一般の方の感覚や視点が失われていくような気もしてて。
イベントや担当の仕事などは、当然面倒なこともあるんですけど、農家以外の視点や新しい感覚がもらえるので、意識的に外のイベントに出るようにしています。



ああ…、なんか分かります。
農業って狭いコミュニティですし、外に出ようとしないと、どんどん行動や思考が偏っていく可能性もありますよね。
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