転職を繰り返す→農業大学校を経て、新規就農
利益を上げるための作物転換
直売所でほとんどを売り切る「ずらし戦略」
福岡県うきは市の楠正宏(くす まさひろ)さんに、
新規就農した経緯や、多品目農家の栽培と販路の戦略について伺いました!
就農経緯:転職を繰り返し、農業の道へ
管理人子どもの頃の農業のイメージはどうでしたか?



サラリーマン家庭で育って、正直農業をしたいとは考えていませんでした。
とりあえずで進学した農業高校でも、泥だらけになるのは嫌でしたし、勉強熱心ではありませんでしたから…(笑)。



農業高校には行ったけど、農業をする気ではなかったのですね。
では高校卒業後は、どのような仕事をされていたのですか?



高卒の18歳から22歳まで、色々な仕事を経験しましたが…、
どの仕事も全く続かず、9回くらい転職しましたね。
22歳から4年間続いた緑化木生産の仕事も、社長の息子と揉めて、勢いで退職してしまいました。
堪え性がなく、テキトーに生きていました。



そうだったのですね。
そんな楠さんが、農業に興味を持ったきっかけは何でしたか?



同級生の訃報が2件あり、今までの生き方を省みる必要性に駆られました。
「明日どうなるかも分からないなら、もっと真剣に生きないとダメだ!」
と思い立ち、人生を改めようと、真剣に打ち込める仕事を探しました。
そんなタイミングで、うきは市の広報誌の、「農業研修生募集」という欄に目が留まったんです。



当時のうきは市でも水耕栽培のトマト栽培が流行していて、非農家から水耕栽培のトマト農家になったという、後輩の話も聞いていました。
「天からの導きだ!オレもトマト農家になろう!」
と思い立ち、すぐに農政課に出向きましたね!



当初はトマト農家になろうと思われたのですね。



そうです。ただ農政課の方から、
「トマトだけではなく、色々な農業を見るために農業大学校に行かれては?」
促されて、その場で農業大学校に進むことを決断しました。
ちょうどその日の消印までの願書が有効だったので、即日書いて申し込みましたよ(笑)!



即断即決!
農業の道に進むのに、迷いはなかったのですね。


就農経緯:農業大学校→筑前町で新規就農→うきは市に移転



2016年度から農業大学校に入られたということですが、どのような勉強をされていたのですか?



イチゴやアスパラガスや露地野菜など、色々な作物を自分たちで考えて栽培するという授業内容でした。
そして栽培の授業と並行して、農地を確保する必要がありましたが…。
うきは市ではなかなか農地が見つからず、めちゃくちゃ焦りました。



「新規就農しなければ、就農補助金は返却しないといけない。」
というルールなので、うきは市だけに固執せず、八女市などの他の地域での就農も視野に入れました。
そしてようやく、筑前町のナスのハウスと機械がそのまま使えるという、好条件の話をいただきました!
書類などの手続きもとんとん拍子で進み、2017年に筑前町で新規就農を決めました。



無事に農地が見つかって良かったですね!
あとは、新規就農では資金面がハードルになると思います。
青年等就農資金の準備型の話もありましたが、資金面はどのくらい確保しようと考えていましたか?



実は、全く貯金してなくて…。
昼は農業実習、夜に居酒屋でバイトをして、資金を貯めようとしたのですが…、
過労でバイト中に倒れてしまいました。
頭を下げて母親から30万円ほどお金を借りて、準備型の補助金が入るまで乗り切りました。



夜まで働き詰めでは、そりゃあキツイですよ!



ただ就農当初の資金面は苦労したとはいえ、ハウスと機械は地主の農家さんから借りられたのが幸運でした。
種苗費や肥料費くらいで、初期投資はほとんどかからなかったので。
2017年の1年目は露地ナス8a、冬春ナス16aでスタートしました。
他のナス農家さんの所にも勉強に行って、売上は1年目は400万円、2年目も530万円と、順調に売上を上げることができましたね。



栽培面は順調に売上を伸ばせたのですね。
…あれ?
「うきはの果菜園」という農園名ですから、筑前町からうきは市に農業拠点を移したということですか?



そうです。
3年目に地主の農家さんと栽培方針で意見が合わず、筑前町から離れることになりました。
タイミングよく地元のうきは市で農地が空いたので、3年目の2020年から、うきは市に拠点を移したんです。


栽培:圃場を活用しつつ利益を上げる作型の追求



では、現在の栽培はどんな感じですか?



うきは市では計28aのハウスを建てまして、そのハウスでスナップエンドウや抑制キュウリ、スイカ、トウモロコシ、ズッキーニを栽培しています。
1.5haある露地では、ブロッコリーをメインに、水菜や小松菜、ほうれん草などを栽培しています。
基本は私1人で、妻が出荷調整などを手伝ってくれています。



ナスから、作物を転換されたのですね!
それにしても、ほぼ一人農業で、この規模をこなせるのはすごいですね…!
栽培面でのこだわりはありますか?



栽培のこだわりは…、変わったことは特段してないです(笑)!
各作物に合わせた管理は勉強しますが、土作りや肥料設計など、栽培の基本はどの作物も同じなので。
圃場を活用しつつ、利益を追求する作型を試行錯誤してきた結果、作る野菜が変わってきました。



たしかに、上手な農家は、何を作っても上手なイメージがあります。
では、就農してから失敗や苦労はありましたか?



やっぱり3年目に、うきは市に拠点を移した年はきつかったですね。
1,2年目の筑前町の時は、ハウスも機械も借りられたのですが…。
うきは市ではハウスもトラクターもなくて、機械設備投資の必要があったんです。
売上は伸びていたので、補助金も満期前に打ち切りで、キャッシュフローにだいぶ困りました。
通帳残高が数十円だった時もありました…(笑)。



残高数十円…、なにも買えないですよね…。
どのように金欠を乗り超えたのですか?



今まで苦手で逃げてきた財務に、正面から向き合いました。
・未収の経費が引き落とされる時期
・トラクターやハウスの減価償却費
・野菜の売上額と入金される時期
など、細かく管理するようにしました。
「就農5年目で売上1000万円の売上を立てられなければ、離農するしかない…!」
と自分を追い込み、農業を頑張りました。
タバコを吸う気もお金もなくて、強制禁煙のおかげか、10㎏痩せましたよ(笑)。



細かくキャッシュフローを見て、健康的にもなれたのは良かったですね(笑)。


販路:ほとんどの野菜を直売所で売り切る秘訣



現在の、うきはの果菜園さんの販路はどんな感じですか?



ほとんどを、うきは市内の2か所の直売所に出品しています。
1割ほどは、農家さんから紹介で、スーパーの仲卸業者に卸しています。



直売所でほぼ売り切っているのですね!



筑前町でナスを栽培していた時は、ナスの産地でもあり、ほとんどJA出荷でした。
しかしうきは市はフルーツ王国として知られている一方で、野菜のイメージは弱いんですよ。
だからJA出荷ではなく、直売所で勝負できる作型作物にしようと思っていました。



なるほど。
しかし、これだけの規模で栽培する野菜が、9割直売所で売れるものなんですか!?



直売所に出品して売るための、工夫はしていますよ。
・4~7月はキュウリは直売所に溢れるから、抑制栽培のキュウリを8月から出荷する
・水菜や小松菜は8月~3月までで、春以降は売らない
・出品者がほぼいないスナップエンドウを栽培する
など、スキマを埋めるような作型にしています。



なるほど、ニッチ戦略というか、ずらして栽培するわけですね!
たくさん野菜がある時期だと、価格勝負になって、売れ残ることもありますからね。
だけどそれでも、現在の作型に行き着いて売り切れるまでには、苦労があったのでは?



もちろん、いきなり現在の作型に行き着いたわけではありません。
販売している直売所には週5日は通って売れ筋調査しましたし、店員さんにもどの時期にどの野菜が足りないかなどを、聞き込みしました。
「POPなどをしなくても売れていく商品」を意識して、いかに突き抜けるかを考えてきましたね。



直売所でPOPなしでどんどん売れていく状態、理想ですね。
参考になる販売の考え方で、勉強になります。


目標やアドバイス:お金から逃げないこと



うきはの果菜園さんの、今後の目標はなんですか?



うきは市で農地をもっと増やしていきたいですね。
子育てが落ち着けば、妻も農業をする時間が増やせると言ってくれているので。
夫婦2人で売上2000万円を目標に、最適な農業を構築していきます。



1人農業から、夫婦での農業になっていくのですね。
最後に楠さんのように、新規就農者の方にアドバイスがあればお願いします。



まずは普及課などで、栽培品目のデータや経費や売上などを調べることから始めることをおすすめします。
自分のやりたい品目や生活から逆算して、どのような農業ができるのかを考えたらいいと思いますね。



私の元にも、就農希望者の方がたまに相談に来られますが…。
SNSで見るようなキラキラした農業に憧れている方も多く、
「その規模や売り方だと、農業じゃなく家庭菜園なのでは?」
という方もいます。
結局農業は利益を追求しないと、憧れでは生活が成り立ちませんから。



楠さんが言うと説得力がありますね。
取材させていただき、ありがとうございました。


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