理系企業から農家へ転身!三重県鈴鹿市の女性の露地野菜農家を取材しました!

記事の内容

理系出身の女性農家

少量多品目→中量中品目の栽培に

パートナーが会社勤め

今回インタビューした農家は、三重県鈴鹿市のこだわり野菜ゆにっと「すいーとぽたけ」の吉川文(よしかわ あや)さんです。

白ネギを中心とした中量中品目の栽培をされていて、JA以外にも直売所や仲卸にも販売されています。

理系出身で土壌などの分析会社に勤められていた吉川さんに、就農した経緯や、栽培や販路、今後の目標などについて取材しました!

目次

理系大学を卒業して分析会社に就職した後に就農

ナス男(筆者)

吉川さんは理系出身ということですが、どのような学生時代を過ごされましたか?

吉川さん

皆さん私のことをリケジョだと言ってくれるんですけど……
特に理系志望だったというわけではなく、たまたま進学したのが高専だったという感じですね。
学生時代は主に電気化学を専攻していて、
高専で5年→一度就職→社会人入試で専攻科に編入→26歳で卒業
という経歴です。

ナス男(筆者)

そうだったのですね。
専攻科を卒業されてからは、何をされていたのですか?

吉川さん

土壌や排水の成分を分析する会社に就職しました。
主に私は、鳥羽市のかきがらを利用した牡蠣殻石灰についての分析をしていました。
会社員だった頃は、農業の「の」の字も頭になかったですね。

ナス男(筆者)

全く農家になるつもりがなかった吉川さんが、農家になるきっかけはあったのですか?

吉川さん

私の祖父母が鈴鹿市で農業をしていたのですが、祖父母が亡くなってからは農地が耕作放棄地になっていたんです。
私も社内結婚をして子どもが出来たタイミングだったので、退職して何かできることはないかと探している所で、
私の弟と一緒に、「こだわり野菜ゆにっと」として農業を始めました。

ナス男(筆者)

そんな経緯があったのですね。
就農前の農業のイメージはどうでしたか?

吉川さん

幼い頃は、農業は嫌だなと感じていました。
というのも祖父母の畑の土が黒ボクなので、服やタオルが黒く汚れるのが嫌だったんですよ。(笑)。

黒ボクの畑
ナス男(筆者)

たしかに服が黒く汚れるのは嫌ですよね(笑)。
その後実際に就農してみて、吉川さんの農業のイメージは変わりましたか?

吉川さん

変わりました、汚れるのは気にならなくなりましたね。(笑)
それに頑張った分だけお金や感謝の言葉になって返ってくるのは、農業の面白い所だと感じています。
実は子どもが生まれて落ち着いたら、会社員に戻ることも考えていたんですけど……
途中で農業を辞めてしまうのは、契約していた飲食店やファンになってくれたお客様にも申し訳ないと思い、現在まで続いています。

ナス男(筆者)

すいーとぽたけさんのファンが多かったんですね。
安定した立場の会社員から農家に転身されたわけですが、お金の面で不安はなかったですか?

吉川さん

お金の不安は、特になかったですね。
就農時の補助金の要件には一切該当しませんでしたが、私の場合は主人が会社員として働いてくれていましたし。
農地やトラクターなどの農機も祖父母のものが一通りは揃っていましたし、素人ながらすぐに農業ができる状態でした。
それにお金の面以上に、時間の自由が生まれたことがうれしかったです。
子どもが小さい時に家族の時間が取れたことは、今振り返ってもすごく良かったと思っています。

化学肥料農薬不使用の少量多品目栽培で農業をスタート

ナス男(筆者)

2011年に農業を始めた当初は、どのような農業をされていたのですか?

吉川さん

1haないくらいの畑で、年間150種類ほどの野菜を農薬化学肥料不使用で栽培していました。
・収穫した野菜を直売所に出したり、
・野菜セットとして個人の消費者や飲食店に出荷したり、
・マルシェや産直ECサイトのような直販もしたり、
・ジャガイモを加工工場に持ち込んでポテトチップスにしたり、
小さな農家ならではという農業でしたね。

直売所にも出荷するカボチャの畑
ナス男(筆者)

少量多品目栽培ということですね。
特に農薬不使用の栽培は難しいと思いますが、やはり化学肥料や農薬を使うのは怖いという認識だったのですか?

吉川さん

いえ全く、農薬や化学肥料が怖いからというわけではありません。
前職で土壌成分の分析をしていたこともあって、農薬も化学肥料も、適切に使用していれば安全だと当時から考えていました。
農薬化学肥料不使用の栽培にした理由は、
①就農当初に東日本大震災があって、色々な種類の野菜を個人農家から直接買いたいという需要があったこと
②少量多品目栽培を活かして、付加価値をつけるための栽培をしようと思ったこと
主にこの2つの理由からです。
それに現在は白ネギに関しては、必要に応じて農薬は散布していますしね。

ナス男(筆者)

なるほど、慣行栽培が危険だという認識ではなく、消費者のニーズに応えるための栽培だったのですね。
それでは今でも、少量多品目の栽培をされているのですか?

現在は白ネギを中心とした中量中品目栽培にシフトチェンジ

吉川さん

いえ、少量多品目栽培は辞めて、販路もグッと絞りました。
①2021年のコロナ禍以降、飲食店との取引が下火になってしまい、マイナーな作物を栽培する必要性が薄れていった。
②個別配送の送料も今後も上がっていくのが負担になると考えた。
③ジャガイモの6次産業化も、加工賃の値上がりと白ネギの後作との相性の悪さを考慮して辞めた。
④多くの消費者や飲食店との、大量の連絡やコミュニケーションが大変だった。
以上の理由から、農業経営を中量中品目に転換しました。
栽培作物や販路を絞ったことで私の中で余裕ができたので、すいーとぽたけにとっての最適な農業に近づきつつありますね。

主力作物の白ネギ
ナス男(筆者)

小回りの利く農業は、向き不向きがあるのですね。
それでは、現在の栽培作物と労働力はどんな感じですか?

吉川さん

今はJA出荷の周年の白ネギ約50aと、直売所や飲食店用の約20種類の作物を2haほどで栽培しています。
主に私が収穫や管理の全般的な仕事で、母は出荷や配送を担当して、パートさんには週三回くらい収穫や出荷調整をしてもらっています。
土日には主人や子どもたちも畑に来て、手伝ってくれることもありますね。

ナス男(筆者)

すいーとぽたけさんの栽培のこだわりはありますか?

吉川さん

できるだけ地域の資源を、肥料や土壌改良剤として利用することを意識しています。
例えば元肥で使う鶏ふんは鈴鹿市の養鶏場から、土壌改良剤の牡蠣殻石灰は鳥羽市のかきがらを利用したものです。
特に牡蠣殻石灰は、私が分析会社に勤めていた時に調査していたので、思い入れもありますしね。
資材の輸送料も上がっていくでしょうから、経費を抑える意義もあると考えています。

ナス男(筆者)

思い入れのある資材を、長く愛用している農家さんはいますよね。
あとは失敗談も聞きたいのですが、吉川さんは栽培で失敗されたことはありますか?

吉川さん

失敗は今でもしょっちゅうしていますよ。
近年で言えば、白ネギの圃場に選択制除草剤を使用したら白ネギが枯れてしまったり、タイミングを逃して雑草だらけにしてしまいました。
夏から秋にかけての高温も原因だと思いますが、さすがに落ち込みましたね。

ナス男(筆者)

選択制除草剤は高温には注意が必要ですが、近年は異常な暑さですものね……
そのような計画通りに栽培できないトラブルには、どのように対処されているのですか?

吉川さん

何か栽培トラブルがあった時用に、予備の畑を設けておくようにしています。
例えば今回のように白ネギが枯れたり、ホウレンソウの発芽不良があった時、
すぐに予備の畑に畝を立てて蒔き直しをすれば、売上がガクンと落ちたり、出荷が極端に遅れるということはないですからね。
あと個人的には、なぜダメだったのかを反省したら、すぐに鋤きこんで失敗を隠滅するようにしています!
いつまでも失敗作が視界に入っていたら、気分が滅入りますから(笑)。

今後の目標や就農希望者に対してのアドバイス

ナス男(筆者)

ここまで吉川さんのお話を聞いていると、とてもエネルギッシュな方という印象ですが……
2.5haの露地栽培を女性中心に回すって、やっぱり大変なこともあるんじゃないですか?

吉川さん

そりゃあもう、冗談なしに大変です(笑)。
晩御飯の支度や子どもの送迎もあったりしたら残業はできないですし、
子どもや私自身が体調が悪くなる日が続いた時は、作業が遅れていくのはもどかしいですね。

「筋力も身長ももっとあれば……」と思うことはたくさんあります。
だけど、工夫次第でなんとかするしかないです。
・主人や子どもが来る土日に体力が要る仕事をしてもらったり、
・コンテナはフォークリフトで持ち上げたり、
・夫婦間で普段からコミュニケーションを取って、子どもや家の用事を毎日確認したり、
私も母も体力は落ちていくでしょうから、筋力を使わずともできるような改善は常に考えていますね。

ナス男(筆者)

やっぱり大変なことは工夫して乗り切っているのですね。
ありがとうございます。
最後に、吉川さんの今後の目標を教えてください。

吉川さん

近い将来のことも、子どもたちが農業をやりたいと言うかも分からないですけど……
先祖代々の農地を守って、農業経営を潰さないように頑張りたいです。
幸いなことに主人は私の農業に理解があるので、これからも楽しみながら農業を続けていきたいですね。

ナス男(筆者)

取材させていただき、ありがとうございました!

こぼれ話:農業女子PJと水産女子PJの兼任

ナス男(筆者)

吉川さんは農水省が主催している農業女子プロジェクトと水産女子プロジェクトの2つを兼任していると伺いました。
農家が水産女子プロジェクトにも参画していることは珍しいと思いますが、きっかけはなんでしたか?

吉川さん

鳥羽市のかきがらを利用していることもあって、漁師の友人からの紹介で、水産女子プロジェクトにも参画するようになりました。
女性目線で農業や漁業に女性が参加しやすくするための活動をしています。
農業女子PJ
農水省の2つのPJを兼任しているのは。私が唯一ということらしいです!

ナス男(筆者)

様々な活動をしていく中で、吉川さんが良かったと思ったことはありますか?

吉川さん

水産女子PJにも参加していることで、魚介類も自分で捌けるようになったのはプラスでしたね。
ちなみに私は罠猟師の資格も持っているので、山と海と畑の食材はほぼ自分で捌けます。
野菜はもちろんのこと、イノシシやシカ、スッポンもいけますよ!
自分で捌けると美味しい状態で食材が食べられるようになるので、食生活が充実しますよ!

スッポンも自分で捌く!
ナス男(筆者)

ほとんどの生き物を自分で捌けるんですね…(笑)。
たしかに鮮度がいい状態で食べ物をいただくことができるのは、現場の農家や漁師の特権ですよね。

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