鳥取県日野郡日南町にUターンして新規就農
「こだわらない」ことにこだわる栽培
就農計画の所得目標を達成するコツ
今回インタビューした農家は、鳥取県日野郡日南町の「星の農園@鳥取つぼくランド」代表の坪倉裕樹(つぼくら ゆうき)さんです。
地元である鳥取県日南町にUターンして新規就農、スイートコーンや白ネギを栽培されています!
5か年目の所得目標を3年目で達成された坪倉さんに、就農した経緯や栽培、柔軟な就農計画の変更のコツなどを取材しました!
地元である鳥取県日野郡日南町にUターンして農起業!

坪倉さんが農業に興味を持ったきっかけはなんでしたか?



広島県の大学に進学して、主に工学部でコンピューターサイエンスの研究をしていました。
大学生の頃から何かしらの分野で起業したいと考えていたので、将来のために色々なスキルを身に着けたいと思い、
・飲食店での接客や調理
・ケーブルテレビ番組の編集やカメラアシスタント全般
・時にはコスプレしてニコニコ生配信
などのバイトや配信をしていました。



様々なバイトや、コスプレでニコ生配信までされていたのですね(笑)!
大学卒業後は、どんな仕事をされていたのですか?



大学卒業後は広島県の通信インフラ系の会社に就職したんですけど、人間関係のストレスで病んでしまって……。
「地元の田舎町に戻って、スローライフで仕事しよう。」
と思い、地元での起業を模索することにしたんです。



会社のストレス、大変でしたね…。
坪倉さんは地元での仕事の中で、なぜ農業に興味を持ったのですか?



色々な職種での起業を調べる中で、〈新規就農の5年以内離職率が約40%〉という記事に目が留まったんです。
「飲食店なら1割くらいしか生き残れないけど、新規就農でも6割も生き残れる業界なんだ!」
という、現役の農家さんからしたら怒られちゃいそうな軽い理由で、農業に興味を持ちました。



農水省の2019年での統計によると、
〈2014年度に農の雇用事業による研修を受けた1,591人のうち、35.4%に当たる564人が離農していた〉
というデータがありますね。
「新規就農者が辞めすぎで、定着率が低い!」という論調が多い中で、坪倉さんは逆に新規就農に可能性を感じたのですね。
起業分野を農業に定めてからは、坪倉さんはどのように行動していったのですか?



まずは農業の経験を積もうということで、広島県の有機栽培野菜の生産から福祉施設まで手掛ける会社に転職しました。
しかし福祉施設での勤務がメインで、希望していた農業の仕事は少ししかできず……。
「それならもう地元に戻って、農業研修を受けた方がいいな。」
と考えて、2017年に鳥取県日南町にUターンしてきたんです。



そういう就農経緯だったのですね。
ところで農業研修を受けたということですが、どのようなことを研修されたのですか?



鳥取県日南町が行っている、新規就農研修を2年間受けました。
トマトや白ネギなど、色々な作物を栽培勉強して就農計画を練っていく中で、
・JAを通さずに売れる作物
・根っこが深く張って緑肥代わりになる
・収穫適期が短くて日持ちしない分、美味しさを売りして直販しやすい
という条件から、スイートコーンの直販をメインの農業にしたいと思い、就農計画を作り、2019年に新規就農しました。



スイートコーンの直販、
新規就農者の方は、お金や農地の確保に苦心している印象があります。
坪倉さんは、資金や農地探しはどんな感じでしたか?



自己資金約300万円ほどに加えて、新規就農後から経営開始資金で、
トラクターや定植機、祖父名義の15aの農地に苗場を建てるなど、機械設備を揃えましたね。
就農準備資金・経営開始資金



農地探しは、けっこう苦労しました。
農業研修中から自治会や地域の集まりに参加したりして、話が来るのを待っていたんですけど、なかなかいい農地が見つからず。
それでも地域の新規就農者の先輩が積極的に動いてくれまして。
水はけの悪い農地もありましたけど、独立初年度から1.5haの農地を確保できましたね。





それでは坪倉さんは、就農計画通りに順調に独立就農できたということですか?
お金やその他の不安はなかったのですか?



不安はあんまりなかったですね。
サラリーマン時代も労働時間の割に、大して毎月の給与も良くありませんでしたから…(笑)。
だから自分次第で頑張った分だけ所得が増えるという農業は、私には向いていたのかもしれません。
スイートコーン中心の栽培から、白ネギ+ブロッコリーに変更



では、現在の坪倉さんの栽培はどんな感じですか?



6月のブロッコリーが約40a、7~8月のスイートコーンが約45a、9月~11月の白ネギが約70aですね。
労働力は基本私一人で、白ネギの出荷の時に、期間雇用のパートさんが約5名来てくれています。



あれっ?スイートコーンが一番多いのかと思っていましたが、夏の白ネギが一番栽培面積が多いのですね。



あ、スイートコーン直販メインの就農計画は変更しました(笑)。
スイートコーンは栽培や直販自体はできたんですけど……、
・収穫適期が短くて、栽培面積が増やせない
・イノシシやタヌキなどの獣害対策が大変
・スイートコーンが有名な産地ではなく、売上が伸びるか未知数
という点で、これ以上の栽培面積にはできなかったんですよ。
一方で鳥取県の白ネギは関西ではブランド品目で、生産農家も多かったので、夏の白ネギの栽培をメインにしました。



早々に就農計画を変えて、品目も変えて規模を増やしたんですね。
そんな坪倉さんの、栽培面でのこだわりはありますか?



かっこよく言えば、栽培方法にこだわらないことがこだわりですね!
高品質の作物を作るために、緑肥などの土作りや苗の管理は当たり前にした上で、
いいと思った栽培方法はどんどん試しています。
例えばスイートコーンは、定植直後の乾燥を防いでよりいい品質にするために、マルチャーを買い足してマルチ栽培をするようになりました。
1年試してすぐに止めた栽培もありますが、全てが栽培技術につながっていると思っています。





毎年栽培技術を試行錯誤されているのですね!
それでは栽培面では、大きな失敗したことはありませんでしたか?



いや、排水対策には毎年苦労しています。
就農当初から水はけが悪い農地も借りているので、つまり売上が立たない農地もあるんです。
新規就農者はいい状態で借りられる農地は少ないですし、すぐに返して信用を失うわけにもいかないので……。
農作業の合間にサブソイラーや暗渠を入れて徐々に改善しているのですが、地代は毎年払わないといけないので、一年でも早く収益が出る農地にしていくのが課題ですね。
直販メインの計画を変更して、JA出荷がメインに



現在の坪倉さんの販路はどんな感じですか?



スイートコーンに関しては、直売所や私の作業場で販売しています。
就農当初はなんとなく直販に憧れがあって、JA出荷を敬遠していた節がありました。
だから就農から数年は「星の農園@鳥取つぼくランド」の認知度を高めるために、HPやYouTubeチャンネルも作って発信もしていたんですよ。
ただ、白ネギとブロッコリーに関しては、JA出荷がほぼ100%ですね。
栽培面積で見れば、JA出荷の割合の方が大きいですね。



販路面でも、直販からJA出荷メインに、就農計画の変更をしたのですね。



獣害や収穫適期の短さから、今以上はスイートコーンは栽培面積を増やせないので……。
それに栽培面積が増えてきて農作業が忙しくなったので、YouTubeやHPでの発信も止めてしまいました。
それでもふるさと納税の返礼品は私のスイートコーンが上位ですし、県外からも私の作業場に買いに来てくれる方もいるので、全量直販で売り切っています。





えっ、スイートコーンは直販でほぼ売り切れてるのですか!
それならばブロッコリーや夏の白ネギも、直販でもっと販売したほうがいいのでは?



いや、ブロッコリーや夏の白ネギは直販で勝負できる作物ではないと思っているので。
それに〈農業の売上=価格×数量〉なわけじゃないですか。
・直販の場合、価格は自由に決められるけど、数量はいくつ売れるかブレがありますよね。
・JAの場合は、価格は大きくブレることはないですし、数量は規格以上であれば全量出荷できます。
安定した栽培技術を身に着けて出荷量を増やせば、その分売上が増やせるので、JA出荷の方が所得の見通しが立てやすいですからね。



〈農業の売上=価格×数量〉、不変の方程式ですよね。
就農計画を達成するコツ、就農希望者に対してのアドバイス



坪倉さんの今後の展望はありますか?



実は5か年就農計画の最終的な所得目標は、3年目で達成したんです。
だから次の5か年の目標はもっと高く、
「私が鳥取の夏の白ネギ栽培を引っ張り、白ネギ栽培を目指す新規就農者の見本になること」
に設定しました!
近年は猛暑の影響で、夏の白ネギ栽培に鳥取県全体で苦戦しているんです。
だから産地のブランドを守るためにも、常勤できる従業員も雇って、夏の白ネギの栽培規模を拡大していきたいです。



すごい、2年も前倒して所得目標を達成しちゃったんですね!
勘違いされている方もいますけど、5年後の未来が分かるわけではないですから、就農計画の柔軟な変更はOKなんですよね。
それにしても作物や販路に関して、大胆な計画変更だったと思います。
坪倉さんがリスクを恐れずに、就農計画を変更できた要因は何だと思われますか?



うーん、まあ、当たり前のことですが、
〈自治体の直近のデータなどを参考にして、就農計画をちゃんと自分で計算して作ること〉
だと思いますね。
数字を自分で把握していれば、計画変更があっても概算やイメージはできますから。
直販や産地ではない作物の栽培の計画を、否定するつもりはありません。
だけど根拠のない自信をこだわりとは言えないです。
栽培面や販売面に根拠が持てないのなら、JAが推している作物から始めるのがいいと思います。





就農計画を前倒しで達成した坪倉さんが言うと、説得力がありますね…!
新規就農を志す方にとっては、有益なアドバイスだと思います。
取材させていただきありがとうございました!
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