海外や国内で様々な仕事を経て、新規就農。
自社で事業所を運営して行う、農福連携を活かす農業
「農をたのしむ」をコンセプトにした経営とは
三重県鈴鹿市の「おひさま農園」代表の村田太志(むらた だいし)さんに、
新規就農までの経緯や、自社で行う農福連携の栽培や販路について伺いました!
就農経緯:カンボジアでの起業で、仕事の価値観が変わる
管理人村田さんはどのような子どもでしたか?



三重県の鈴鹿市で生まれ育って、家業である車屋でしたから、いずれは車屋を継ぐつもりでした。
小学校の頃の卒業文集には、「社長になりたい。」と書いていましたから、
社長という響きに、どこか憧れはあったんだと思います。



子どもの頃から、社長になる夢があったのですね。



しかし京都の大学卒業後間もなく、父親が亡くなって、実家の車屋が廃業になったんです。
私は新卒で三重県のスーパーマーケットに就職して、野菜売り場を担当していましたが……、
仕事のストレスや人間関係に、嫌気が差していました。
「現状が嫌なら、経験を積んで社長になるために、海外で起業しよう!」
と思い立ち、仕事は4ヶ月で辞めて、2012年にカンボジアに行って起業することにしました。



おお、いきなり海外で起業を目指すとは!
でも、なぜカンボジア?
どんな仕事をしようと思っていたのですか?



ぶっちゃけ、どんな業種で起業するかも考えていませんでした(笑)。
だけど物価の安い国であれば、失敗しても挽回できるだろうと思ったんです。
それでカンボジアは日本人も観光で多く訪れる国ですから、私は旅行会社を立ち上げました。
主に日本学生向けのスタディツアーを企画して、けっこう利益は出ていましたよ。



旅行会社をカンボジアで立ち上げ!すごいですね!
日本と仕事の仕方が違ったりしませんでしたか?



カンボジアの働き方は、日本とは全然違いましたね。
「24時間でも働いて、カンボジアで結果を出してやる!」
と、当初の私は意気込んでいましたが…。
出会ったカンボジア人って、仕事が人生の全てではないんですよ。
プライベートを充実させるために仕事する、という価値観の人が多くて、すごく価値観が広がりました!
カンボジアには1年間いましたが、妻と結婚して子どもも授かったので、カンボジアの会社は畳んで、日本に帰ることにしたんです。



おめでたいですね!
帰国後はどのような仕事をされていたのですか?



日本に帰国後は、塾の会社や建設業者などを転々としていました。
やっぱり人間関係とか納得できない仕事も多くて、仕事が続かなかったんですよ…。
とはいえ2018年からは、電気工事業者として独立して、個人で仕事を請け負っていましたね。



そんな村田さんが、農業に興味を持ったきっかけはなんだったのですか?



2020年にコロナ渦になり、電気工事の受注が少なくなるリスクを感じたからです。
景気に左右されずに稼げる仕事を探す中で、
「農業であれば、食べるモノには困らないだろう!」
と思い立ち、新規就農を目指すことにしたんです。


就農経緯:新規就農のハードルと、農作業の癒し効果



農業をすると決めた時の、周囲の反応はどうでしたか?



妻はもう、
「あなたが言い出したら、何を言っても聞かないんでしょう?」
と、認めてくれるというか、あきらめていました(笑)。
職を転々としていたので、必ず農業で家族を守れるようにに頑張ろうと思いましたね。



なんにせよ、了承を得られたのは良かったですね!
村田さんは新規就農すると決めてからは、どのように動いたのですか?



まずは新規就農の要件である、50aの農地を確保しました。
近所に訪問したり、人づてに空いている農地の情報を聞いたりもしましたね。
祖父の名前を出して、農地を貸してくださいとお願いして回りましたよ。



無事に50aの農地を集められてよかったですね。
…あれ?農家での研修はしてないのですか?



農家研修はしていないです。
栽培技術は、実際に作物を栽培しながら覚えました!
JAの白ネギ部会に所属しましたから、部会の先輩に教えてもらいながら。
それこそ「すいーとぽたけ」の吉川さんには、白ネギのアドバイスを何度ももらい、感謝しています(笑)。





吉川さんとは、同じ白ネギ部会なんですね。
しかし新規就農でネックになるのは、やはり資金面だと思います。
村田さんはどのくらいの資金を想定していましたか?



自己資金数百万円に加えて、次世代農業人材投資資金と、JAからの借り入れですね。
あとは私、不動産投資もしていまして。
所有していた物件を全て売り、トラクターや管理機に変えました(笑)。



資産も売り払って、農業に突っ込んだんですね(笑)。
身を切って農業に臨んだとは思いますが、不安はなかったのですか?



2020年の就農初年度は、農業利益はマイナス300万円でしたから、不安はあったと思います。
でも不動産も全て売って農業に賭けていたので、引くに引けない状況でしたね。
それでも土の上を歩いたり、農作業をしているだけで癒された気持ちになったんですよ。
色々な仕事で色々な理不尽を経験しましたけど、農業は純粋に楽しいから続けられていると思いますね。


栽培:自社で就労継続支援B型事業所を運営、農福連携を活かした作型



2020年は50aでスタートされたとのことですが、現在の栽培はどんな感じですか?



3.7haで、菜花、ジャガイモ、白ネギ、トウモロコシ、ナスなどを栽培しています。
私とスタッフ10名、農福連携で20名の方に働いてもらっています。
うちは自社で〈就労継続支援B型事業所〉を運営していて、その利用者の方に農作業をしてもらっているんです。



農福連携で20名、しかも、自らが事業所を運営!?
なかなか聞かない農業の形ですね…!
何がきっかけで、農福連携をしていこうと思ったのですか?



2021年に、他の就労支援事業所に、草取りを委託したのが始まりですね。
利用者の方と引率のスタッフが来て、雑草を抜いてくれるんですが…、
段取りも下手で仕事が遅いけど、ものすごい一生懸命にやってくれたんです!
「委託や外注ではなく、自分で農作業を教えたいな。」と強く思ったので、2024年に合同会社にしました。



調べてみると、法人格が就労支援の事業所運営には必要なんですね。
そんな農福連携を軸に据えた農業、他とは違う特徴があるのですか?



やっているのは、ごく一般的な、地域の慣行農業ですよ。
農福連携で大前提なのは、「無理しない、頑張りすぎない」ことです。
作業の段取りは細分化しますし、何度でも繰り返し気持ちよく教えます。
その上でうちの場合は、健常者と変わらないレベルでの作業をしてもらいます。
「農業がやりたい!農業が楽しい!」
という利用者は一定数いて、やる気のある利用者の方たちに、私は真剣に教えています!



厳しく聞こえるかもしれませんが…、
〈B型就労支援の事業所が作った野菜〉ではなく、いい野菜であれば、福祉の冠をつけなくても売れますよね。
自分たちが作業して育てた野菜が売れることで、利用者の自信にもなり、生活が前向きになっていくと考えています。



なるほど…!
利用者と向き合っている、村田さんだからこその農作業なんですね。
この農福連携の農業が出来上がるまでに、失敗はあったのですか?



失敗はもう、たくさんありましたよ(笑)。
2021年にサツマイモを10a植えたんですが、なんとコンテナ1箱分しか収穫できませんでした。
元々茶畑だった農地で、㏗が高すぎて、投入した石灰の量が足らなかったんだと思います。



10aでコンテナ1杯はきついですね…。
サツマイモを含め、数々の失敗は、どのように乗り越えてきたのですか?



もう、数をこなすのみでした。
「年一作だから農業は難しい。」
って言われますけど、だったら植える日を細かくずらして、年に何作分も経験してやろうと思ったんです。
白ネギもサツマイモも、毎週のように少量を定植して、経験値を貯めていきました。
今では地域の農家と比較しても、同等以上の収量は採れていますよ。



作付をずらすことで、一年で何度も試験していったのですね。
あとは、栽培面での今後の課題はありますか?



農福連携での利用者の人手を活かして、手作業で価値を生み出す作物を増やしたいです。
機械化しにくい作物、例えば摘み取る手数が多い菜花などは、面積を増やしていく予定です。


販路:利用者やスタッフの都合や体調を考慮した納品先



JA系列の直売所に6割、あとはJAを通して給食に4割納品しています。
販路面でも農福連携を活かして、適切な販路に売っています。



農福連携をしている村田さんにとって、それぞれの販路はどのような特徴があるのですか?



直売所は規格がないので、多少不揃いでも、品質が良ければ売れます。
JAを通して給食に納品するのは、出荷調整にかかる時間が少ないというメリットがあります。
納品量が限られているのが給食の特徴ですが、品質基準をクリアしていれば納品できるので、全て秀品を狙って作る過剰な労働はしなくて済みます。



JAでも、共選を利用せずに出荷しているのですね。
でも人手があるおひさま農園であれば、契約栽培とか、もっと単価が上げられる販路にも出荷できるのでは?



たしかに安定して稼ぐためには、契約出荷などの方が利益は上がるでしょうね。
しかしうちの場合は、働く利用者とスタッフの体調や都合も大切にしているんです。
・スタッフのお子さんが体調を崩した時
・利用者の心身が整わない時
など、遠慮なく休めるようにしているので、ガチガチの出荷契約で縛ってしまうのは、得策ではないと判断しています。



ただ勘違いしてほしくないのは、利用者やスタッフの都合も考慮するからと言っても、出来の悪い作物を出すつもりはありませんよ。
契約をガチガチに固めない分、出荷数量に余裕はあるので、給食の担当者からの追加の要請には応えられる体制にしています。



なるほど…!
働く方の体調も重要視した上での、販路なんですね。


目標とアドバイス:「農をたのしむ」経営理念



村田さんは、B型就労支援の利用者のことを考えられているなと感じます。
しかし私を含め、効率よく稼ぐ農業を目指す農家も、社会に必要なのではとも思うのですが。



そうですね。たしかに売上や効率は大事ですし、私自身も生計を立てるために農業をしています。
しかしうちの場合は「農をたのしむ。」を理念として、心身を酷使して必要以上に稼ぐ農業ではなく、農業をセラピーにしたいと考えているんです。
私が過去にカンボジアで価値観が広がったように、そして、農業で癒されたように。
生きづらい日本で、社会に疲れた誰かの受け皿になりたいと思っています。



農業で精神的に救われる方も少なくないはずなので、すごく意義のある事業だと思います。応援しています。
最後に村田さんのように、新規就農を考えている方にアドバイスがあればお願いします。



計画とか売上が大事とか、農家の先輩たちは言われますけど……。
まずは気軽に、農業をやってみたらいいと思いますよ。
本来、農業って、楽しいはずなんで!
そして農業でお金を稼ぐ覚悟が固まったならば、、本気で始めたらいいです。
農業は誰でも、いつからでも始められます。
それこそ生きるのが辛くなった時に、一度農作業をしてみてください。
こぼれ話:「利用者の好きな事を仕事に。」農業以外の事業も展開



B型就労継続支援の事業所を運営されているということは、農業以外の事業もされているのですか?



そうです、農業以外にも、自社で他の事業にも取り組んでいます。
①らぐーん商会:海外への日本の小物を売るECサイト
②おひさま工房:ハンドメイドの商品を売る事業
という、利用者の方の「好きを仕事に」変えていく事業を展開しています。



海外へのECサイト、ハンドメイド商品の販売、それぞれ詳しく教えてください。



①「らぐーん商会」は、日本のフィギュアや古本などを海外に輸出するECサイトです。
相当にマニアックなこだわりを持って、小物をコレクションしている利用者もいるんです!
だから熱狂的に好きなことをお金に変えてあげたいと思い、海外へのEC事業を立ち上げました。



②「おひさま工房」は、ハンドメイドの商品や、ネイルチップなどを販売する事業です。
細かな内職作業が得意で、可愛い品物が好きな利用者もいます。
自分が手作りで作った可愛い商品が、売れて自信につながるようにと、立ち上げた事業です。



単に儲かりそうだからではなく、利用者の方の特性を活かした事業なんですね。
興味深いです。


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