旅先で出会ったハーブ農家に憧れ、農家を目指す
室内農業のメリット
飲食店に直販する理由
静岡県浜松市のMzFarm-縁結農園代表の松本良介(まつもと りょうすけ)さんに、新規就農した経緯や室内農業×マイクロハーブについて伺いました!
就農経緯:旅先で出会ったハーブ農家に憧れて農家の道へ
管理人松本さんはどのような学生時代を過ごされましたか?



静岡県浜松市で生まれ育ち、うるさいと思われるほど活発な少年でした。
大学は女の子にモテそうな職業に就ける学部に行きたかったんですけど…、学がなくていけず(笑)。
北海道の帯広畜産大学に進学しましたが、当時は正直そこまで農業には興味がなかったです。



大学ではどのような勉強をされていたのですか?



植物内の殺虫成分を分析する研究を、大学院までしていました。
研究自体は好きだったんですけど……、
将来どんな仕事に就いて、人生で何がしたいのか迷いが出てしまったんです。
だから大学院は休学して、やりたいことを見つける旅に出ることにしました。



自分探しの旅、ということですかね。
どのような旅だったんですか?



車中泊やファームステイをしながら、日本を縦断する旅をしました。
全国の色々な農家さんを、働きながら訪問していましたね。
その中で出会ったのが、広島県のハーブ農家さんです。
自分で育てたハーブを自分が好きなシェフに使ってもらい、その料理を食べに行くというスタイルに、すごく憧れました!
「農家という生き方ってかっこいいな!非農家だけど、新規就農したい!」
と将来の目標が出来て、大学院を中退しました。



突然の農家志望を伝えた時の、周囲の反応はどうでしたか?



まあ予想通り、賛成してくれる人は少なかったです。
今では笑い話ですけど、院の教授とも揉めましたし…(笑)。
父親にも「なんでゼロから農家?」と、反対されました。



反対は予想通りだったんですね。
家族からも反対されたそうですが、どのように就農を認めてもらったのですか?



営農計画書を作って、家族に何度もプレゼンしましたよ!
熱意が通じたのか、母親も手伝うと言ってくれて。
師匠である広島県のハーブ農家で研修したのち、2020年に地元の静岡県浜松市で、新規就農することにしたのです。


就農経緯:露地→古民家内でのマイクロハーブ栽培に



新規就農となると、まずは農地の確保からだと思います。
松本さんは計画通りに、農地を借りられたのですか?



いや全く、農地は当初の計画通りにはいきませんでした。
借りた農地が元駐車場として使われていて、ガチガチに踏み固められていたんです。
まともに作物の根っこも張らず、土作りを全力でしても、すぐには収益が上がる見込みはなかったですね。
とはいえ母親も手伝いに来てくれているので、まずは休憩場所やトイレ問題を解決するために、拠点となる空き家も探すことにしたんです。



ちょうど農地の近くにあった古民家を借りることができました。
古民家内の清掃やDIYをしていく中で、
「古民家で室内栽培で、マイクロハーブができるんじゃね?」
と閃いたんです!
YouTubeなどで調べて自作した室内農業システムは、今でも稼働していますよ。



露地から室内農業に切り替えたのですね。
ただ室内農業にしても、初期投資はかかるわけですよね?
松本さんは資金はどう工面されたのですか?



当時の私の貯金の30万円と、父親からの借金などで300万円を元手に始めました。
初期投資として、軽トラや室内農業のラック、耕運機などを買いました。
しかし予定していた次世代農業人材投資資金は、マイクロハーブの実績がなくて、初年度からは通らなかったんです。
だから最初の1年間は、マイクロハーブの栽培や販売の実績作りに奔走しました!



予定していた補助金がなくなったのは、就農初年度ではきついですね。



でもまあ楽観的な性格もあって、不安というよりは、ワクワク感の方が勝っていましたね!
資材も周りの農家からのいただき物を、DIYしながらやりくりして。
そうして一年目から販売先が40件を超えて、栽培も安定してできるようになったことで、認定新規就農者として2年目から補助金をいただけることになりました。



いや、逆境からの突破力がすごいですね!


栽培:古民家内でのマイクロハーブ栽培



現在の松本さんの作型と経営規模を教えてください。



露地の畑やビニールハウスもありますが、
メインはやはり、古民家内でのマイクロハーブ栽培ですね。
15畳ほどのスペースで、年間通して25種類の作物を栽培しています。
労働力は私と母親で、週2回パートさんも手伝いに来てくれています。



たったの15畳!?
でも室内農業って、聞きなれないんですけど、どんな特徴があるのですか?



一番の特徴はやはり、気候にも左右されずに安定的に生産が可能だという所です。
近年の猛暑の中でも、室内ではLEDライトや空調で環境をコントロールできるので、計画通りの播種~収穫が可能です。



省スペースでも集約的、計画的に栽培できるのはすごいですね。
ただ大手企業も、マイクロリーフなどを回転数を上げて栽培している印象があります。
他の大企業とは異なる、栽培のこだわりはありますか?



たしかに大手でも、大規模に機械的に栽培は可能です。
うちの場合は、回転数や出荷量というより、お客様の要望に合わせて栽培していることが強みです。
例えばマイクロ春菊は、他では双葉が揃った時点で収穫するのが一般的ですが、
うちではさらに1~2週間育てて収穫しています。
あえて長く栽培することで、春菊と分かる葉っぱが出て、お皿に見た目のインパクトを残せます。



なるほど、飲食店のニーズにも対応可能なんですね!
それでは室内農業では、栽培面で失敗はありませんか?



いやいや、今でも試行錯誤は続いていますし、本当にゼロからの室内マイクロハーブ栽培は苦労しましたよ!
・潅水のタイミング
・培地や播種の量
など、就農当初は四六時中、マイクロハーブを観察していました。



課題はありますか?



現在は収穫したマイクロハーブの培地を、キノコの廃菌床や草刈りした後の枯れ草を加えて、自家製コンポストを作っているんですけど、
その自家製コンポストを戻した畑でハーブを育てて、種を自家採取して、環境や経済的に優しいリサイクルの農業を作りたいです。
理想のリサイクル農業をするために、規模や仲間を増やしていきたいですね。


販路:80軒の飲食店にマイクロハーブを卸す



現在の販路はどんな感じですか?



現在は約80軒の飲食店に、直接マイクロハーブを卸しています。
他にもECサイトやレストランでも販売していますよ。



80軒と直接契約!
マイクロハーブは市場には出荷できないんですか?



市場出荷はたしかにありますが、多品種のマイクロハーブを生産する個人農家には向いていないと思います。
それに室内栽培だと、種を蒔いた分だけ収穫量は計算できるので、レストラン分の受注生産が可能なんです。



決まった量を作って売り切れれば、計算して栽培できますね!
それにしても、新規就農から数年で、あっという間にレストランとの契約を増やしていったのですね。
どんな営業をしていたのですか?



フレンチレストランに食べに行って、ついでにサンプルを使ってもらったり、飛び込み営業したりもしましたね。
就農当初は必死すぎて、どんな営業をしたかも覚えていません(笑)。
でも熱意とマイクロハーブの食味が伝わったのか、断られることはほとんどありませんでした。
今ではフレンチだけではなく、イタリアンや和食、居酒屋でも取り扱っていただいていますよ!



熱意だけでは継続してもらえませんから、味や安定出荷という点も評価されたのでしょうね。
販売で苦労や失敗したことはありますか?



百貨店にも一時取り扱ってもらったのですが、マイクロハーブはお客様に手にとってはもらえませんでした。
購買層に向かなかったのか、販路が違ったのか。
百貨店での販売に失敗したことで、改めて自分のマイクロハーブの強みやお客様を見直すきっかけになりましたね。



なるほど、販路を絞ることも大切だったのですね。
販売面でこれからの展望はありますか?



今までは飲食店(to B)への販売がメインでしたが、これからは一般のお客様(to C)にも、マイクロハーブを販売していきたいと考えています。
マイクロハーブって、普段の家庭料理にも気軽に使えてアクセントになるんですよ!
ですからECサイトやスーパーでの販売に加えて、マルシェも企画開催して、マイクロハーブを広く知ってもらおうと考えています。


目標やアドバイス:古民家レストランや地域の農業コミュニティ作り



今後の目標を教えてください。



実は2022年に融資を受けて、マイクロハーブを栽培している古民家の台所を、厨房に改装したんですよ。
その厨房にシェフを招いて、古民家レストランを開いています。
現在は月一回ですが、いずれはMzFarm-縁結農園-でもレストラン運営をしていきたいですね。



そして将来の目標は、小学校の授業でマイクロハーブなどの室内栽培を導入することです!
教室内でできた作物を、地域の方に販売して、コミュニティを作れれば面白いかなと!
農業や起業家に、興味を持ってくれる子どもたちが増えたら最高ですね!



古民家レストランや室内農業の授業、面白そうですね!
最後に松本さんのように、新規就農に興味がある方にアドバイスがあればお願いします。



某首相のように、働いて働いて働きまくれば、新規就農でも不可能ではありませんよ。
ただ過去にも「古民家の中で栽培できて、楽して稼げそう!」
と勘違いして、私の元にノウハウを聞きに来た方もいましたが…。
実際には力仕事もありますし、四六時中作物と向き合わないといけませんから、ぶっちゃけ楽ではない道ですね。



楽して稼げる農業はないってことですね。
取材させていただき、ありがとうございました!

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