義両親から独立してナス農家に。経験や勘ではなく、数字を突き詰めることで利益を伸ばした話。

記事の内容

高知県安芸市で義両親と農業→独立して法人化

環境制御を駆使した促成ナス栽培

契約出荷の条件は「4定」を守ること

高知県安芸市の㈱分ち合ふ農園代表の宮崎武士(みやざき たけし)さんに、

就農した経緯や、栽培や直販の試行錯誤などについて伺いました!

目次

就農経緯:トラックドライバー→義両親と農業→独立

管理人

宮崎さんはどんな子どもでしたか?

宮崎さん

車が好きで、勉強が苦手な学生でした(笑)。
私は非農家でしたし、農業が職業になることはないと思っていましたね。
農業は正直「汚いしきつい」というイメージが漠然とありましたし。

管理人

そうだったのですね。
では農業をする前は、どのような仕事をされていたのですか?

宮崎さん

工業高校卒業後は、主に運送会社で長距離ドライバーをしていました。
車の運転は好きでしたし、大手企業ということで、若いうちは良かったのですが……。
関東圏への長距離輸送もあり、週1でしか実家の高知県に戻れなかったんですよ。
だから家族との時間を第一に考えようと、働き方を見つめ直すことにしたんです。

管理人

若いうちは良かったけれど、結婚されてから、家族優先の仕事を求めたということですかね。

宮崎さん

そうですね。
幸運にも、妻の両親が高知県安芸市でナス農家をしていました。
「農家なら家族との時間が作りやすいだろう!施設栽培なら汚れやきつさも少なそうだし!」
と考え、2009年29歳の時に、義両親の元に就農したんです。

管理人

仕事として農業をしてみて、どうでしたか?

宮崎さん

初めての農業は、イメージ通り大変なことが多かったです。
何よりもナス栽培歴30年以上の義理の父から、
「今日のナスの葉っぱは、どんな感じだ?」
と、経験と勘で意見を求められるのがきつかったですね。
もっとシステマチックに農業ができるんじゃないかと、私の中で疑問と反発心があり、義父と言い争いもしましたね(笑)。
それならばと経営を分けて、2011年に就農当初に建てた19aのハウスで、独立してナス農家になったんです。

管理人

なかなか大変な、独立の経緯だったんですね。
って、いきなり19aのナスを1人で!?
作業は回るんですか?

宮崎さん

いやもう、独立した数年は、日々の作業をこなすのに必死でしたよ(笑)。
一日の収穫だけで手いっぱい、販路もJA出荷以外の余裕はなかったです。
それでも、農業は全てが自己責任の世界ですから。
思い描く栽培と販路を実現するために、数々の失敗をしながらも、徐々に営農面積を拡大してきたんです。

促成ナスを栽培しているハウス

栽培:環境制御で数字で判断する促成ナス栽培

管理人

では現在の栽培はどんな感じですか?

宮崎さん

暖房機付きのハウス73aで促成ナス栽培をしています。
通常のナスに加えて、白や緑、ゼブラナスなども育てていますよ。
労働力は私と取締役、外国人実習生とパートさん、計8名です。

管理人

当初の19aから、かなり面積を拡大されたのですね!
それも、施設栽培の促成ナス1本!

宮崎さん

以前は暖房を使わない半促成のナスや、露地野菜なども試した年もあります。
ただ労力と利益を鑑みて、促成ナス1本に絞りました。
2026年度には、中古のハウスをさらに借りて、90aを超える予定ですよ。

管理人

なるほど。
栽培面でのこだわりはありますか?

宮崎さん

「タバコカスミカメ」という天敵昆虫を活用して、殺虫剤をなるべく控えた栽培体系にしています。
JGAPの認証も受けて、誰でも分かりやすいような栽培マニュアルの作成を進めています。

管理人

「IPM」と呼ばれる、農薬散布に頼らない総合的な防除に取り組んでいるのですね。
そしてJGAPは、仕組み化の手段として取り入れているのですね!

宮崎さん

あとは2014年からは、環境制御システムを利用した栽培には、力を入れています。
・温度湿度コントロール
・日々の灌水量
・CO2施用
など、各数値をモニタリングして判断することで、経験と勘に頼る農業からの脱却をしてきました。

管理人

環境制御!CO2発生機や自動換気などを導入している農家さんは多いですよね!
でも当初の環境制御って、トマトなどのマニュアルは豊富でも、ナスに即した数値の活用事例は少なかったのでは?

宮崎さん

おっしゃる通りで、2014年にモニタリング機器とCO2発生機を導入した当初は、何を測って基準にしていいかも手探りな状態でした。
それでもJAや高知県の勉強会に積極的に参加して、関東などの他の作物の活用事例を見学に行ったりして。
慣行制御をしてから、反収は約4t、売上で100万円以上増えましたね。

管理人

反収100万円以上!?
環境制御で生育を伸ばせると、そんなに変わるものなんですね。
ところで宮崎さんは失敗もあったということですが、栽培面で失敗したことはなんでしたか?

宮崎さん

2021年に青枯れ病を多発させてしまったことですね。
今まで青枯れ病を発生させたことがなかったので、正直油断していたんです。
2000本以上のナスの樹が枯れていき、損失は1000万円以上…。
収入保険で少しは補填できましたが、従業員の給与は継続して払えるのかと、不安で寝られなくなりましたよ。

管理人

青枯れ病、ナス農家にとっては大発生したら処置しようがない、致命的な病気ですよね。
1000万円以上の損失、私も寝られないと思います……。

宮崎さん

青枯れ病を広めてしまったのは、ハサミの使いまわしが原因でした。
だから4万円以上する電熱ハサミを、即購入しましたね。
土壌消毒の資材にも、100万円以上かけて。
普及課の方とも相談しながら、思いつく限りの対策をして、翌年から青枯れ病を抑えることができました

管理人

かなり高価な投資でも、即決するくらい必死だったのですね。
翌年の被害が抑えられたのは、宮崎さんの対策の速さと質量が勝ったんだと思います。

宮崎さん

本当に、致命傷になり得る損害でしたが、毎月のキャッシュフローを細部まで考えるきっかけにはなりました。
「ナスの市場価格が悪くても、安定した農業経営にしていかなければ!」
と、原価や販路を突き詰めるようになりましたね。

ハウス内環境をモニタリングするPC

販路:JA出荷オンリーから、契約出荷を増やす

管理人

販路の話が出ましたが、現在の販路はどんな感じですか?

宮崎さん

独立当初はJA出荷だけで手いっぱいでしたが、現在はJA出荷が3割、残りは卸業者数社との契約出荷が多いです。
定額、定量、定品質、定時の「4定」を、厳守して契約出荷しています。

管理人

契約出荷の割合を増やしているのですね!
だけど「4定」は、日々の収穫量に波のある果菜類だと、難しいことですよね?

宮崎さん

おっしゃる通りです。
ナスの収量が少ない日でも「4定」を厳守しないといけませんから、契約量にはゆとりを持たせています。
資材や営農情報などでもお世話になっているJAに、出荷しなくなることはないですね。

管理人

なるほど、出荷量にゆとりを持たせているのですね。
契約出荷を増やしたのは、やはり売上の安定のためですか?

宮崎さん

そうですね。
キャッシュフローを意識するようになってから、契約出荷を重要視するようになりました。
ナスは日によって、5㌔の市場価格が1000円ほど上下することもある作物です。
「安定経営のためには、栽培技術を上げることだけに逃げてはダメだ!」

と考え直し、契約業者との交渉が増えました。

管理人

なるほど…。
とくに宮崎さんのような、従業員を雇っている方は、毎月の固定費も計算しないといけませんしね。

宮崎さん

いや、固定費だけでなく、私は細かい経費を突き詰めて数値化しましたね。
・段ボール一枚を貼るテープの長さと価格
・1箱作るのにかかる作業時間と労働単価
・バックシーラー約6㎝分の価格
までを概算して原価を出し、業者とのプレゼン材料にしました。

管理人

そ、そんな細かい部分まで。
私は面倒なので、ざっくりとした数字しか分かりません…。

宮崎さん

確かに私も面倒でしたけど、細部まで原価が知ることは必要です。
利益が出る出荷先や、具体的な値上げ幅が分かりますからね。
そしてJA出荷のメリットや凄さも、再認識しました。
JA出荷なら事務作業もほぼありませんし、数週間後に入金されるのは、キャッシュフローの安定につながりますからね。

管理人

たしかに直販だと、「月末締め翌月末払い」が基本ですから、2か月近く入金がずれますよね。
キャッシュフローや原価計算は、直販では必要不可欠なんですね。

分ち合ふ農園の段ボール

目標やアドバイス:数字を突き詰めて、課題を楽しむ

管理人

宮崎さんは勉強が苦手だったとのことですが、環境制御の数値や原価計算など、細部まで突き詰めているのがすごいです!
私を含めた大抵の農家は、宮崎さんのレベルに至るまでに、挫折してしまう方が多いと思います。

宮崎さん

いやいや、私も経営に関して厳しい意見も言われてましたよ。
環境制御で試行錯誤していた時には、周りから笑われていたと思います。
だけど私は、知らないことを知るのは楽しいんですよ。

管理人

困難を楽しめる力、これからの時代に不可欠なことだと思いますね。

宮崎さん

昨今は全ての経費が値上がりしていて、ただ作って売るだけでは、農業が成り立ちにくくなっていますからね。
手前味噌ですが、農業の課題を楽しめるような方でないと、これから農業は大変だろうと思います。

管理人

私も頑張らねば…!ありがとうございます。
最後に、今後の目標を教えてください。

宮崎さん

・地域の農家が使える作業倉庫を建てる
・研修生にハウスを貸して暖簾分けする
・知見も包み隠さず共有する
など、地域農業の相談所になることが目標ですね。

農家仲間や地域の色々な方に助けてもらったので、私はここまで来れました。
だから農業の厳しさも喜びも「分ち合ふ農園」を作りたいと思い。2024年に法人化したんですよ。
売上1億円突破は、目標の先に見えてくると思います。

作業場での出荷調整の様子
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