家業である肥料農薬の販売&米の集荷販売会社に入社
ドローン事業部と農業法人立ち上げ時の苦労
スマート農業家が見据える稲作の展望
今回インタビューした農家は、福島県会津坂下町の㈲カネダイと、農業法人「縁」の代表の藤田晴樹(ふじた はるき)さんです。
家業である米の集荷販売会社に加えて、新たにドローン事業部と米の生産を行う農業法人を立ち上げて、活躍されています。
2社の経営者である「スマート農業家ハルキン」さんに、ドローン普及や省力化の米栽培での影の努力について取材しました!
家業である米の集荷販売会社を継ぐ

ハルキンさんは現在、福島県会津坂下町の米の集荷販売をされている㈲カネダイの代表ですが、
大学卒業後すぐにカネダイに入社されたのですか?



いえ、家業を継ぐつもりはなくて、大学卒業当初は神奈川県で作業療法士をしていたんです。
だけど2011年に東日本大震災があって、実家の家業や地元の米農家さんたちの苦労を見過ごせなくなって……。
米の情勢の変化が落ち着いた2015年に戻り、㈲カネダイに入社しました。



震災は大変な出来事でしたね。
㈲カネダイに戻ってから、ハルキンさんは主に、どんな仕事をされていたのですか?



弊社の事業は、
・米農家さんに肥料や農薬を販売
・米農家さんの米を集荷して、卸業者や個人のお客様へ米を販売
することが主な業務でした。
ですから美味しい米をたくさん出荷してもらうためにも、取引のある米農家さんを回り、米の肥料や栽培技術などのアドバイスするのが主な仕事でした。
時には私が消毒の竿を持って、農家の代わりに田んぼで消毒や葉面散布をしたりましたね。





肥料や米の販売をするために、栽培技術などもアドバイスされるんですね!



ただ弊社はずっと米の生産現場に携わっている分、栽培や地域の農業に関する課題もはっきり分かっていたんです。
・天候不順による米の生産の不安定さ
・米農家の高齢化と、後継者の不足
が、特に待ったなしの課題でした。
そこで、
①ドローンを使った省力化の栽培体系を確立させること
②自ら農業法人を起業して、農地の受け皿になること
に、新たにトライすることにしたんです。
ハルキンさんが変えたこと①ドローン事業部の立ち上げ



特に近年の猛暑や天候不良で、米に限らず、野菜の生育が難しいという声をよく耳にします。
天候不順による米栽培の安定が課題ということですが、具体的には何を変えていったのですか?



猛暑や天候不良に対応できない原因の一つに、私は一発肥料の使用があると思っています。
一発肥料は元肥として田植え時に使用すれば、追肥なしで栽培できるメリットがある反面、
暑さで溶出が進むと、稲が育ちすぎて倒伏しやすくなるというデメリットもあるのです。
そこで2017年から、ドローンを使用した元肥+生育状況に応じた追肥という栽培体系を普及させようと、米農家さんに提案していきました。



たしかにドローンであれば、体も疲れないし、追肥もすぐに終わりますよね!
でも頭では便利だとは分かっていても、農家にとって現状の栽培を変えるのって、なかなか勇気が要ることじゃないですか?
経費節約になるのか、美味しい米が作れるのか、不安もあると思いますし……。
どうやって米農家さんたちを説得していったのですか?



たしかに最初は、省力化できて経費削減にもなると数字では分かっていても、半信半疑の米農家さんが多かったと思います。
なので、「作業代は要らないから、弊社にドローン追肥をさせてください。」とお願いして回りました。
実際にドローンが飛んで追肥しているのを見て納得していただいたのか、その年に一気に100haまで防除作業を請け負うことになりました!



それだけの面積を一気にこなせるんですか!
ドローンすごい!



追肥の他にも、米の防除作業も、ドローン1台でできるようになりますよ!
口コミを聞いたのか、ドローンを購入してくださる米農家さんも増えました。
追肥や防除の依頼は年々増えており、現在では500ha+他県へも防除の応援に行っています!
ドローンの販売実績や作業の委託実績が評価されたのか、ドローンメーカーのDJIから代理店契約や表彰をいただきましたね。





潜在的なニーズがあったとはいえ、ドローンによる追肥や防除が地域で広がったのは、ハルキンさんの尽力の成果ですね!



まあ私が広告塔になって、自らドローンでの作業をプロモーションしていったのは事実です。
だけどドローンの普及は、カネダイがチームとしてうまく機能したのが大きかったと思います。
現在ではドローンの免許を取得するスクールや、ドローンの販売修理までを行っており、ドローン事業部は弊社の事業の柱になりましたね。
ハルキンさんが変えたこと②農地を集積して、米の生産法人を起業



2018年には米の生産を行う農業法人を起業されたとのことですが、なぜ自ら米の生産をしようと思われたのですか?



会津坂下町も、農家の高齢化や後継者不足という慢性的な課題は見えていたからです。
そこで地域の農家や栽培ノウハウを知っている私が、農地の受け皿になろうと思い、農業法人「縁」を設立しました。



でもカネダイさんは今まで米の生産はしておらず、農機も所有してなかったのですよね?
米の生産は特に、田植え機やコンバインなどの設備投資に何千万とかかり、新規で始めるにはハードルが高いイメージですが…?



おっしゃるとおりで、今まで弊社では栽培はしていなかったので、栽培のための機械はありませんでした。
カネダイでの米の販売実績があるので新規就農者にもなれず、補助金も該当しませんでしたし…(笑)。
しかし生産に乗り出すからには、従来の栽培にとらわれない、省力化した栽培体系でやろうということで。
最初に揃えたのは、ドローンとトラクターのみです!
ドローンはすでにカネダイで所有していましたし、除雪用のトラクターを使って、アタッチメントを買い足しただけです。



えっ、田植え機や収穫で使うコンバインは!?
なくてもできるんですか?



2018年当初は、苗の管理や田植えの代わりに、ドローンによるばらまき直播を採用しました。
ドローンで追肥や消毒を行って、収穫は㈲カネダイと取引のある米農家さんのに委託するという感じですね。
やっぱり起業時は、高額な田植え機やコンバインは所有できなかったんです。
だから汎用性のある機械をだけを所有して、身軽な米栽培から始めることを意識しました。



コンバインによる収穫は委託しているんですか!
生産法人というからには、収穫までして利益を出すイメージがありますが……
カネダイという販路の出口を持っているからこその、特殊な栽培スタイルですね!



あと気になるのは、農地の集積です。
親族以外に農地を預けることに、抵抗がある農家も多いと思います。
後継者不足が課題だったとはいえ、そんなに簡単に農地が集まるものなんですか?



たしかに農地を貸したがらない気持ちも分かりますし、農地を借りる側の信用も必要不可欠です。
農地を借りる側の信用というのは、農地代を払ってくれるかも当然ありますけど、
「農地をきれいに使ってくれるかどうか」が何より重要だと考えています。
だから、「雑草を生やして荒らさないように」ということは一番心がけていました。
そのおかげか、最初は4haの農地から始めた米栽培が、2023年には50haにまでなりました。



ああ、めちゃくちゃ分かります…!
せっかく貸した農地が雑草だらけになっていたら、がっかりしますよね……。
手間をかけて信用を積み重ねていくというのは、農地を借りる側にとっては大事なことだと思います。



一見すると、「縁」ではスマートな栽培体系を確立しているように見えます。
ハルキンさんは米栽培で失敗したことはありますか?



大きな失敗で言えば、ドローンによるばらまき直播を止めざるを得なくなったことですかね。
ばらまき直播は省力化できる反面、種の落ち具合にムラができやすくて、稲が倒伏しやすいという弱点が見えてきて。
刈り取りを委託している米農家さんから、
「こんなに倒伏していたら、もう刈り取れないよ。」
と言われてしまったことが、ばらまき直播を止める決定打になりました。



なるほど。
倒伏がひどい田んぼは刈り取りにくいし、食味も落ちると聞きますしね。
手厳しい指摘を受けて、どのように播種方法を変えていったのですか?



2026年からは、ばらまき直播→ドリルシーダーでの乾田直播に切り替えることにしました。
ドリルシーダーの他にも、トラクターなども買い足しましたね。
この先の農地集積を見据えると、最小限の設備だけでは限界が来ていましたから。
仲の良い米農家さんからアタッチメントを借りたり、会津坂下町の農家の方に機械を譲ってもらったりしながら、毎年少しずつ米栽培を改善していっています。


スマート農業家の見据える今後の目標



2社で正社員と役員含め、約15名の従業員がいらっしゃると伺いました。
スマート農業の実業家って、どんな一日を過ごされているのですか!?



たぶん、世間が思い描く実業家像とは程遠いですよ(笑)。
「縁」の米生産は、農地の集積ができてきた2024年に、やっと黒字になったところですから。
私は日中はカネダイの肥料や米の販売をして、「縁」での農作業は夕方からすることが多いです。
時にはライトをつけて、徹夜でトラクター作業をすることもあります。



そうなんですか!?
「スマート農業家」の肩書きとは裏腹に、めちゃくちゃ泥臭く努力されていますね……!



まあでも結果を出すことって、地道なことの積み重ねしかないと思っています。
肥料や米の販売も、米の生産も。
手を抜かない姿勢を従業員や地域の方々に見せていくしか、私にはできませんからね。



新しいことにチャレンジする方に、刺さる言葉ですね……!
最後にハルキンさんの今後の目標を聞かせてください。



㈲カネダイとしては、これからも美味しい会津坂下産の米をお客様に届け続けることですね。
米の食味コンクールにもグループで毎年参加していまして、常に上位が取れるような米の美味しさも追求していきたいです。
全国にどんどん会津坂下産の米をPRしていきます!



「縁」では、将来的には100haくらいの田んぼを集積して米の生産をしたいです。
全国の農業の課題でもある後継者不足に対する解決策を提案できるように、ドローンを使った省力化した栽培体系を確立して、全国に発信していきたいです。





取材させていただきありがとうございました!
こぼれ話:米での新規就農は現実的?



2024年は米騒動と呼ばれるくらい、米価格の高騰が話題になっていますよね。
「米が稼げるなら、米で新規就農したい!」
という米の生産で就農を志す方もいると思いますので、アドバイスがあればお願いします。



農地をスムーズに集約できて、中古や購入補助金などで機械をある程度揃えられるなら、新規就農者でも稲作は可能だとは思います。
それこそ私のように、中古のトラクターとドローンから始めるのはアリだと思いますよ。
稲作地域なら、収穫作業などを外注することも可能でしょうからね。



なるほど、
「米で新規就農は止めた方がいい。」
とよく言われますが、情勢は変わってきているのですね。



とはいえですよ!
補助金や自己資金がたくさんあれば別ですけど、就農して一年目から、すでに大失敗は許されません。
ですからラーメン屋の修行と同じように、稲作の農業法人などで2シーズンは研修してから就農することを私はお勧めします。
研修中に地域のコネを作りながら、
・事業承継や機械を譲ってくれる農家を探したり、
・まとまった田んぼを借りられる当てを探したり、
・農業法人の右腕的な存在を目指したり、
という進行が現実的でしょうね。



うっ、やっぱり…。
稲作での就農の難易度は多少下がったとはいっても、他の作物と同じように、研修時代の下積みは必要不可欠なんですね。
勉強になりました。
コメント