総合商社→山形県山辺町に戻って新規就農
直販→系統出荷に力を入れる理由
クラウドファンディングを利用した、産地活性化へのプラン
山形県山辺町のお天道農園代表の安孫子陽平(あびこ ようへい)さんに、
新規就農までの経緯や、栽培や販路の試行錯誤について伺いました!
就農経緯:エリートサラリーマン→地元に戻って新規就農
管理人安孫子さんはどのような子どもでしたか?



山形県山辺町で生まれ育って、祖父母が栽培していたサクランボ畑で、楽しく遊んでいました。
農業に嫌なイメージはなかったですが……、
何にもない田舎からは、出ていきたいと思っていました(笑)。
なので、早稲田大学の国際教養学部に進学しました。



早稲田大学、めちゃくちゃ優秀ですね…!
大学では、どんな勉強をされていたのですか?



ビジネス英語を勉強していて、大学卒業後は、総合商社に入社して飼料を扱っていました。
自分のアイデアで担当するビジネスを組み立てて、国内外の仕入れ先・お客さんと一緒に商売していくことにやりがいがありました。
同年代と比べると給与はかなり高い方でした。



エリートサラリーマンだったのですね!
なぜその会社を辞めようと思われたのですか?



まあ、激務だったんです。
最初の3年は月の半分は出張、残り半分は日付が変わるまで働いてました。
3年目で身体を壊して、入院してしまいました…。



高い年収の仕事は、苦労もプレッシャーも大きいのですね…。



身体を壊して入院したことで、人生を見つめ直すきっかけになりました。
・自然豊かな故郷で生きていきたい
・仕事は全て自分の裁量で組み立てたい
と思って、地元にUターンして起業しようと決めました。
何で起業するかと考えた時に、祖父母に連れられてさくらんぼ畑で遊んでいた時の記憶を思い出し、「農業はどうだろう?」と考えたんです。



農業をすると決めた時の、周囲の反応はどうでしたか?



当初は家族も反対でした。
「なんで給与のいい会社を辞めて、不安定な農業をやるの?」
という感じで。
しかし農地を探したり、資金の融資の書類を書いている私を見て、徐々に新規就農を肯定してくれるようになりました。


就農経緯:援農→新規就農&移住



故郷に帰って新規就農すると決めてからは、どのように動いたのですか?



2017年に㈱マイファームのアグリイノベーション大学校に入学し、平日は商社の仕事をして、週末は農業の基礎を勉強していました。
2020年に会社を辞めてから、埼玉県の農業法人でアルバイトとして、多品目栽培を経験しました。
同時に知り合いのベンチャー企業でも働き、農業と経営の知識を貯めていきました。
そして2022年の新規就農に向けて、作物や販売先を選んでいきました。



就農に向けて、5年間猛烈に努力されたんですね…!
作物や販路、どうする計画だったのですか?



栽培や実際の農業経営を学ぶ中で、
「サクランボの観光農園なら、利益が出せるのではないか?」
と考えました。
山形県には果樹農家の観光農園も多いので、お手本はたくさんいますし。
サクランボが成木になるまで野菜をECや直売所で販売して、基盤を作りつつ観光農園の集客につなげる戦略を立てていました。



なるほど、サクランボ栽培が盛んな地域での観光農園、ですか。
ただ新規就農となると、農地確保というハードルがあると思いますが、農地確保はどのようにされたのですか?



祖父母のサクランボ畑は、親戚が栽培していて使えませんでしたが、
・町中を軽トラで走って、目ぼしい農地を見つけて農業委員会にかけ合ったり、
・農業委員会の方にあっせんしてもらったり、
遊休農地や耕作放棄地を中心に、最初の農地を集めました。



祖父母の農地もなく、ゼロからの農地確保だったのですね。
資金面の準備はいかがでしたか?



自己資金に加えて、青年等就農資金の融資で1500万円の融資を受けまして。
苗木や野菜の種苗費、ハウスの建設費などに充てました。
農業次世代型人材投資事業(開始型)は、私は前年度の年収が600万円以上だったので、満期間は対象になりませんでした。



営農計画も、農地や資金も集まって、新規就農をスタートされたのですね。
しかし農家になると、安孫子さんの場合は年収も下がるし、苦労するわけじゃないですか。
新規就農の不安はなかったのですか?



不安は、当然ありました。
だけど、一度自分の中に燃えた「故郷で農業をやりたい」という火を消したら、一生後悔すると思ったんです。
もし就農に失敗してもまだ若いし、ダメだったらサラリーマンに戻ればいいと開き直っていました。



こうして2022年に山形県山辺町に戻って、
観光農園用のさくらんぼ30aと多品目野菜50aで、お天道農園をスタートさせました。


栽培:多品目→栽培作物を絞った理由



「観光農園用のサクランボを成園にする間、多品目の野菜を直販する」という栽培は、順調に進みましたか?



いや、全く順調にはいかず、苦労が多かったです。
・放棄地だった畑が多く、野菜の秀品率が上がりづらい
・多品目栽培で作業内容が多岐にわたるため、従業員の習熟度が上がりづらい
・水利がない畑が多く、高温干ばつに弱い
など、経営を始めてから気づかされることも多く、経営面の見直しを進めています。



始めないと分からない畑の特徴は、新規就農トラップですよね…。
それで具体的には、どのように栽培計画を見直していくのですか?



クラウドファンディングの資金も活用して、栽培戦略も見直しました。
具体的には多品目を止めて、
①サクランボ、②スモモ、③タラの芽の、3品目に絞って栽培します。
労働力は、私+正社員1人+フルタイムパート2人で臨みます。



①サクランボについては、コロナやウクライナ戦争後の物価高騰に伴う市場状況の変化から、観光農園化を一旦やめて、通常の出荷に切り替えました。
これまで主力品種であった「佐藤錦」が結実し辛く、また高温にも弱いため、結実が良く高温にも強い「紅秀峰」や「紅きらり」というの品種の割合を増やす予定です。



②スモモは山形県の特産品であり、サクランボとも作業のタイミングが被りません。
またさくらんぼに比べて、管理手間がかかりません。
ここ数年の高温干ばつの環境下においても、サクランボよりも強い印象があります。
だから用水などの水利がない畑には、スモモを植える計画です。



③タラの芽は、冬の加温ハウスでの促成栽培を計画しています。
晩秋にタラの木から枝を切り出して、駒切りにして、ハウスで加温して芽を出して出荷します。
冬から春までが繁忙期となり、サクランボやスモモと合わせて、周年での作業が可能になります。
だから規模拡大や、従業員の雇用に向いていると考えています。



多品目栽培から、作物を絞ったのですね。
出荷先も、直売所から変更されるのですか?



そうですね。
いずれの作物も山形県の特産品であり、直販ではなく、JA出荷をメインにする予定です。


販路:直売所→JA系統出荷にシフトしていく



今までは観光農園に向けたPRのために、多品目を栽培して、EC、ふるさと納税、直売所で販売していました。
しかしサクランボの観光農園を保留にしたことに加え、
・直販は売れる数が限られる。
・資材も細々買うのでコストがかかる
・出荷調整や販売の手間がかかる
という点で、直販からJA出荷にシフトしていく予定です。



たしかにJAであれば、品質が良ければ全て売れますし、栽培に専念できますよね。



当然、規模拡大して売上も上げるためでもありますが、一番は地域の耕作放棄地を食い止めたいと思ったんですよ。
地域の農家の大半が70.80代で、後継者や担い手の数が圧倒的に少ないのが現状です。
何もしないと5-10年で、数十ha単位で放棄地が出ます。
引退する人の農地を引き受けて、放棄地化を防止するためには、JA出荷がベストだと考えています。
そしてJA出荷するには、産地品目であるサクランボやスモモ、タラの芽が最適解なんですよ。



なるほど、耕作放棄地の対策のために、産地品目をJA出荷していくのですね。



そうですね。
ただ将来的には、観光農園もするかもしれません。
今山形は蔵王温泉や銀山温泉を目当てにインバウンド観光客が急増しています。
私は英語を使えるので、インバウンド観光客向けの観光農園をしてみたい、という気持ちはあります。


目標とアドバイス:地域農業のモデルケースになる



安孫子さんはメディア出演やクラウドファンディングも活用されていますよね。
自分の農業よりもさらに先に、目指すモノがあるのですか?



山形県でも稼げる農業のモデルケースを作って、新規就農者やUターン就農者も増やしたいと思っています。
山形県の人口が減り続けている現状では、色々なロットが小さくなって更にコストが増えて、農業を続ける事自体が難しくなる可能性すらありますからね。



「田舎では稼げる仕事は少ないから、都会に出ていかざるを得ない。」
という方はいるでしょうね。



私の構想では、一事業体が果樹で100ha経営して、地域の耕作放棄地の大半を請け負うのではなく、
就農者33人で3haずつ、合計100haという農業なら、実現可能だと考えています。
構想を実現するために、まずは私が農業で稼ぐ必要があるんです。



なるほど、ありがとうございます。
最後に安孫子さんのように、新規就農を考えている方にアドバイスがあればお願いします。



まずは、何事もやってみること、ですかね。
新規就農はいくつもハードルとリスクがあり、色々冷静に考えると就農する理由よりもしない理由の方が多くなります。
まずやってみて、その結果を受けて次の手を考える、ダメなら撤退する、くらいの気持ちでスタートしたらいいと思います。



そして本気で新規就農したいのであれば、リサーチは徹底的にした方がいいです。
私も苦労したように、農業は負けるべくして負けます。
就農場所や農地、作物や販路など、まずは勝算がある農業をすることをおすすめします。


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