援農アルバイトで農業に興味を持つ
新規就農&移住
JA出荷に専念して栽培の腕を磨く
京都府和束町の江籠純平(えご じゅんぺい)さんに、就農までの経緯や茶栽培のアレコレを伺いました!
就農経緯:スポーツ業界から茶農家として新規就農
管理人江籠さんはどのような子どもでしたか?



大阪府牧方市で生まれ育って、スポーツ全般が好きな子どもでした。
学生時代は野球に打ち込み、将来はスポーツ関係の職に就きたいと思い、体育学部のある大学に進学しましたね。



スポーツに興味がある子どもだったのですね!
大学では、どんな勉強をされていたのですか?



野球部やジムのトレーナーとしての経験を積み、アスレティックトレーナー、トレーニング指導者の2種類の資格を取得しました。
大学院では「筋肉痛」にフォーカスして、トレーニング後の筋肉痛からの回復方法を研究していました。



大学院まで進学されて、研究されていたのですね。
院卒業後は、どのような仕事をされていたのですか?



スポーツ整形外科クリニックに併設されたスポーツジムに入社しました。
会員様ごとのトレーニングメニューの作成や指導が主な仕事で、スポーツ現場でのトレーナー活動も行っていました。
多忙ながらも、夢だったスポーツ業界で働けることは、本当にやりがいがありましたね。



子どもの頃からの夢だった業界に就けたのは素晴らしいですね!
ただ、やりがいがあったスポーツ業界を辞めたのは、理由があったのですか?



自分の仕事スタイルが現場重視&個々の選手に寄り添いすぎで、体力頼みのような感じだったんですよ。
第一線で活躍されているトレーナーの先輩方のように、年を取ってからもバリバリ働けているか不安になって。
だからスポーツ業界以外の仕事にも、興味を向けるようになったんです。



トレーナー業、選手並みに大変そうですよね。
それでなぜ、農業に興味を持ったのですか?



私の祖父母は鹿児島で農業をしていて、稲刈りの手伝いは楽しかったので、農業にはいい印象があったんです。
「住み慣れている関西周辺の農業の仕事はないか?」
とネットで探していた時に、京都府和束町の援農アルバイトを見つけました。


就農経緯:援農→新規就農&移住



援農は、実際の農業を知るにはいい機会ですよね。
具体的には、援農ではどのような仕事をされていたのですか?



2018年5月に援農アルバイトとして、シェアハウスで援農仲間と共同生活しながら、茶の収穫から工場での加工までを経験しました。
早朝から肉体労働で、筋肉痛の研究をしていた私でも、がっつり筋肉痛になりましたね(笑)。



スポーツ業界に長くいた江籠さんでも、筋肉痛になるくらい、茶の作業は大変なのですね(笑)。



そして気づいたのは、伝統的な茶産地である和束町でも、高齢化と放棄地問題は顕著だったんです。
和束町に来た当初に聞いた、町内の茶農家の件数300件ほどは、最近聞いた話では200件ほどまで減少しているので。
だから逆に、新規就農でも農地が借りられるチャンスがあると思ったんです。



和束町での茶農家に惹かれたのですね。
スポーツ業界から農家に転身すると決めた時に、周囲の反応はどうでしたか?



家族はやりたいようにすればという感じで特に反対はなく、見守ってもらえたと思います。
会社の上司からも「日本の伝統守れるのは素晴らしい。」と応援してもらえましたね。
だから研修に引き続き2018年から、本格的に和束町内の農家の元で研修を始めました。



新規就農への道を進み始めたのですね。
ただ新規就農となると、農地確保や設備投資というハードルがあると思います。
江籠さんはどのように動きましたか?



研修中から地域に馴染んで、多くの情報を得ることは意識していました。
農地に関しては研修先をはじめ、周囲の方に非常に助けていただき、借りることができました。
機械や資材も、先輩農家さんからの紹介で、中古で安く購入できましたね。



やはり研修中から、地域に馴染むことは絶対必要なんですね。
資金面の準備はいかがでしたか?



資金面では、農業次世代型人材投資事業(準備型)を活用しました。
農業以外でも町内の宿泊施設や建設業者、製茶工場でのアルバイトをして就農資金を200万円ほど貯めて。
中古の農機やいただいた資材も多く、住まいは和束町の知人の家を借りられたので、初期投資はかなり抑えられたのではないでしょうか。



研修以外にも、いくつもアルバイトを掛け持ちして、資金を貯めたのですね。
そこまで苦労して、茶農家になりたいと思ったモチベーションはなんでしたか?



たしかに研修期間はお金も体力も大変でした。
・休みがないほどの収穫期
・茶葉価格の今後
など、不安は多かったです。
しかし色々なお茶を飲む中で、本場の宇治茶の味と香りに魅了されたんですよ。
「先輩茶農家たちのように、伝統茶業へのリスペクトとプライドを持って、自分でも美味しい茶を作りたい!」
という気持ちは揺るがなかったので、2021年に江籠園として新規就農しました。


栽培:伝統的な茶産地での栽培や苦労



では現在の栽培や労働力を教えてください。



約2haの茶園を管理しています。
やぶきたを中心に、おくみどりや在来種など、煎茶や碾茶(抹茶の原料)に向いた品種を栽培しています。
・4月5月:1番茶の収穫
・6月7月:2番茶の収穫
・10月:秋番茶の収穫
・冬:改植やその他
が、ざっくりとした年間スケジュールです。



秋番茶まで、年に3回収穫されるのですね。
和束町の茶や、栽培のこだわりはありますか?



寒暖差と宇治茶に適した土壌があることが、和束町の茶の特徴です。
肥料や農薬などは、どんなお茶を作りたいのか、しっかりイメージしたうえで考えて使用しています。



今までの茶栽培で苦労したことはありますか?



・施肥や薬剤散布の時期
・被覆や摘採のタイミング
・製茶のやり方
など、逆に100%失敗なく作れたことがないくらいです(笑)。
霜と害虫被害で、一部の茶園で一番茶の収穫を断念したこともありました。
年々天候不順も激しくなっており、収量や質の確保が大変になっている印象です。



温暖化によって、茶栽培もしにくくなっているのですね。
特に夏場の猛暑に対して、どのような改善をされているのですか?



酷暑環境下でも樹勢を保てるような資材投入や、樹勢の落ちた茶園は一番茶のみを収穫して、樹勢回復する期間を長く取るなどをしていくつもりです。
あとはとにかく、先輩茶農家や農業改良普及センターなどに、自分の仮説を質問するようにしています。
地域の先輩茶農家は、考え方や資材などを包み隠さず教えてくださるので、本当にありがたいです!



茶栽培も猛暑対策があるのですね。
現在の茶栽培の課題はありますか?



援農アルバイトの求人などを活用して、人手を確保することですかね。
私の茶園は急斜面が多く、乗用摘採機が入らないので、可搬式摘採機を2人で持って収穫しないといけないんですよ。
現在は先輩茶農家と私が、互いの茶園を協力して収穫していますが、もう一人繁忙期に確実に確保できるようにしたいですね。


販路:JA出荷に専念することで、栽培技術を上げられた



現在の茶の販路はどんな感じですか?



基本的には全て、JAを通した市場出荷です。
市場で茶商さんがお茶を見て、落札する入札制になっています。



JAに出荷しながらも、個々の茶の出来を評価されるのですね!
JAを通した市場出荷の、メリットはなんですか?



・基本的に全量買い取ってもらえる
・茶葉が出来た翌日の出荷で、保管場所に困らない
・梱包や出荷にかかる事務作業の手間がかからない
などですね。
私も就農当初は、「農業やるなら直販でしょ!」と意気込んでいましたが…、
現在は茶園の栽培管理にリソースを割いて、経営面積の拡大をしていく方向性です。



たしかに時間も人手も少ない就農当初では、直販に割けるリソースは少ないでしょうからね。
栽培技術を磨くことに専念したということですね。



ただ将来的に江籠園のお茶として、消費者の方に直接飲んでもらうための準備はしたいです。
和束町産の宇治茶として、毎度茶商さんに高評価を得られるように、茶栽培の技術を磨いていきます。


目標とアドバイス:作っていて楽しい作物かどうか



江籠さんのように、移住や新規就農を考えている方にアドバイスがあればお願いします。



今なら公的支援が充実していますので、地域の方や農家さんとコミュニケーションを取れれば、新規就農すること自体は、ハードルは高くないと思います。



ただ就農する地域と作物は、検討を重ねたほうがいいですね。
「地域で儲かる作物か」という考え方も大事ですが、「作っていて楽しいか」も大事ですよ。
私の場合は茶に即決しましたが、色々なお茶が作れるのが楽しいので、日々の試行錯誤も苦ではないですから。



作っていて楽しいかどうか、重要ですね!
最後に、今後の目標を教えてください。



売上に関しては、茶葉の相場次第なので何とも言えませんが…、
できる限り長く、茶を作り続けたいです!
毎年茶栽培の難しさや楽しさの新しい発見はありますし、営農し続けることが地域貢献だと考えています。
おまけ:抹茶や緑茶価格の高騰と、今後の戦略



2025年は、緑茶価格が跳ね上がったと聞いていますが、要因は何ですか?



報道されているとおり、世界的な抹茶ブームの影響です。
加えて、緑茶の生産者が高齢化して、年々茶農家が減少して来ていたのもあると思います。
2025年は碾茶の相場が高くなるとは前々から言われてましたが…、
予想以上で、私の茶園でも2024年の約3倍の値がつきました。



約3倍!…とはいえ、ずっと茶の価格は下落傾向だったので、一息つけたという感じでしょうか。
2025年の価格上昇を踏まえて、江籠さんは栽培戦略はどうされますか?



現状としては茶工場の受け入れの関係もあり、碾茶はあまり増やせないと思います。
だから煎茶と碾茶の割合は、あまり変える予定はないです。
高単価でも浮かれずに地に足つけて、年々増えていく茶園をしっかり管理して、美味しいお茶を作っていきたいと思っています。

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