農作業の楽しさから興味を持って新規就農
飛騨高山でスナップエンドウ→夏秋トマト栽培
宿儺かぼちゃ販売やバイオコークス普及にも参画する意図
岐阜県飛騨高山市の新葉ファーム代表の大前章(おおまえ あきら)さんに、
新規就農の経緯や、別事業に参画する理由などを取材しました!
就農経緯:アレルギー体質ながら、農業に楽しさを覚える
管理人大前さんはどのような子どもでしたか?



実は私、幼い頃からアトピーやアレルギーを持っていて。
泥を触っただけでも手が被れてしまっていたので、なかなか不自由な幼少期でした。
祖父母は小さな田んぼを持っていましたが、農業で生計が立てられる規模ではなかったです。



なかなか大変な子ども時代だったのですね。



しかしおかげで、
「一つでも好きなポイントを見つけると楽しい!」
という考えが身に付きました。
今でもアレルギーを抑える薬を飲み、手に軟膏を塗りながらですが、自分が育てた野菜を食べることにハマりました。
「リアル牧場物語みたいで楽しい!将来は農業に携わる仕事に就きたい!」
と思って、地元の農業高校、そして農業大学校にも進学しました。



農業が好きになって良かったですね!
ただ大前さんは、志望していた農業関係の仕事ではなく、農家になったんですね。



そうなんです(笑)。
私は農家になりたいというよりも、JAや物流の会社に入りたいと考えていたんですけど、
「まずは現場を学んだらどうだ?」
と、農大の先生に言われたんですよ。
「若くて体力のあるうちにしかできないから、農家を経験しておこう。」
と考え直し、農大卒業後に農家研修に行くことにしました。



農家の研修、そしてその後はどんな仕事をしていたのですか?



大玉トマト農家で1年間研修した後に、別の農家の方に、
「近い将来に農業法人を作るから、一緒に働かないか?」
と、声をかけてもらったんです。
その方の農業法人の株式も購入して、生産部長という形で、いきなり1.2haの多品目の栽培管理をしていました。
農業法人の支援を受けながら、自分名義で大玉トマトの栽培出荷もしていましたね。



株式も購入して、役員として採用ですか。
大前さんの作業や姿勢などが見出されたのですね!
そして自分名義でも、栽培から出荷までをされていたのですね。



そうですね、2009年の一年だけ独立して、栽培したトマトをJAに出荷していました。
100名を超えるJAの夏秋トマト部会の中でも、当時は反収はトップ10位には入っていましたよ。
ただ30歳という節目が近づく中で、家庭の事情なども重なりまして。
2017年に新葉ファームとして、独立して新規就農することになりました。



実績を積んで、満を持しての独立だったのですね。
新規就農を決めた時の、周囲の反応はどうでしたか?



家族や妻からは心配はされましたが、反対はされませんでした。
私の意見を受け入れてくれたことに、感謝と責任を感じましたね。
だから独立初年度から、反収を上げられるように頑張らねばと思っていました。



新規就農となると、農地の確保が問題になりますよね?
大前さんはスムーズに農地を借りられましたか?



そうですね、農地を含め、地域からの支援は厚かったです。
やはり地元の農業法人で働いていたこともあり、地元でしか出回らないような空きハウスの情報がいち早く回ってきました。
ハウスを支える支柱もいただけたりと、初期投資についてはほとんどかかっていません。



初期投資が抑えられるくらい、地元で農業者として認知されていたのですね!
農地やお金が確保できたのであれば、順風満帆なスタートですね!



いや、資金面は順風満帆ではなかったです。
私の場合は農業法人での栽培経験があるので、新規就農に関する補助金は一切該当しなかったんですよ。
だから種苗費と肥料農薬などの運転資金の約2年分、JAバンクから300万円ほどの融資を受けました。
「独立してからも、今まで通りの作業をするだけだ。」
と、農業法人通りのお金や作業のシュミレーションをして、独立初年度に臨みました。


栽培:スナップエンドウ+夏秋トマト栽培



それでは、現在の栽培作物や労働力はどんな感じですか?



就農してからはしばらく2017年は15aで私1人で回していましたが、
現在は4月からスナップエンドウ→6月から大玉トマトという作型で、30aほどのハウスで栽培しています。
まるかじり農園の石垣くんとも、一緒の大玉トマト部会で切磋琢磨していますよ!





まるかじり農園さんと、同じJAの部会なんですね!
スナップエンドウや大玉トマトの栽培のこだわりはありますか?



目標反収以上の反収を求めつつも、平均を超えた余剰分は、何かにチャレンジすることを意識しています。
例えば過去には、大玉トマトの有機栽培や、ECサイトなどの直販にもチャレンジしました。
うまくいかなかったチャレンジもありますが、失敗のおかげで、反収と食味のバランスが取れた作物ができるようになったと自負しています。



毎年何かしらの試行錯誤をされているのですね。
失敗という話が出ましたが、栽培に関して大失敗をしたことはありますか?



大失敗と言えば、初年度の2017年に、自分の経験を過信していたことですね。
借りられたハウスの、水はけや肥料成分などの条件が掴み切れず、大玉トマトは散々な反収しか採れませんでした。
翌年の2018年は、台風で半分以上のハウスが壊れて大赤字で…。
融資を受けた300万円もなくなってしまいました。



税理士からも言われるほど、財務は悪かったのですね。
そこから一転して、利益を出せたのは何が要因ですか?



「次のシーズンもダメなら離農したほうがいい。」
とも税理士から通告されてましたから、改善点を洗い出しまして。
当初は直販やブランディングなども考えていたのですが、一旦栽培だけに注力して、反収を上げることに専念しました。
その結果、反収はV字回復で、自信と売上を取り戻しましたね。



まずは栽培技術を身に付けるというのは、やっぱり就農の常識なんですね。
あとは夏の高温で苦戦している方も多いと思いますが、大前さんは近年の猛暑の影響はどうですか?



たしかに夏秋トマトの産地である高山市でも、近年は異常な夏の高温で、トマトが実になる前に落ちてしまうことが多いですね。
私の場合は高温対策として、中古のハウスの軒高を40㎝上げました。
ハウス空間が広くなり、熱を逃がせるようになったことで、トマトの花が落ちにくくなりましたよ。



なるほど。ハウスの軒高を高くしたんですね!
今後の栽培面での課題はありますか?



実は2025年からは、スタッフ3名に加えて、
・外国人実習生のシェア
・夏場限定の企業からの派遣
・学生のワーホリ
など最大8名で、私がいなくても栽培管理が回せる仕組みを作っています。
私は農業以外にも、注力したい別事業が2つあるんですよ。


販路;JA出荷に専念することで、別事業にも参画



現在の販路はどんな感じですか?



2024年までは、余剰分のチャレンジとして、15%ほどはECサイトなどで直販していました。
しかし2025年からは、JA出荷のみにしました。
理由はシンプルに、別事業にチャレンジするための時間を捻出したいからです。
宿儺かぼちゃの営業



農業以外の事業?
具体的には何をされているのですか?



1つは㈱宿儺の取締役として、宿儺かぼちゃの販売促進をしています。
主に会社の会計業務や、ふるさと納税の返礼品や直販の監修などを担当しています。



別会社の取締役!?
それはまた、どういう経緯で受けたのですか?



私が直販の経験があるから、声がかかったんでしょうかね?
地域の特産品である宿儺かぼちゃは、商標や販売努力によって守られているんです。
少しでも地域の農家にためになることをしたいですし、それが地域の農家数減少を止める手段だと思っています。


バイオコークス事業の業務提携



なるほど。
あともう一つの事業というのはなんですか?



㈱AEJという会社の、バイオコークスの地域創生新規事業です。
「有機物であれば石炭の代わりにできる」という技術がありまして。
地域の有志が集まって、飛騨牛の牛糞堆肥でバイオコークスを作ろうと活動しているんです。
私は農家である経験を活かして、一次産業に関わる地域の困りごとや未利用資材発掘、行政とのパイプ役を兼務しています。



牛糞堆肥が、石炭の代わりになるのですね!
色々な企業や人から声がかかる、大前さんの実務能力はすごいですね!
でも正直、自分の農業をしていた方が儲かるのでは?



たしかにスナップエンドウとトマトを作っているだけの方が、利益は出るかもしれません。
だけど新葉ファームという屋号には、異業種と連携することで、新たな事業を芽吹かせたいという願いも込められているんです。
今はまだ小さな新葉の事業を育てていって、いずれ農業以外の収益の柱に育てばいいかなと思っています。
目標やアドバイス:地域の将来のために、事業の新葉を育てる



地域の将来のためとは、具体的にはどういうことですか?



飛騨高山は少子高齢化は激しく、子どもたちは仕事のために都会に出ていってしまうのが現状なんです。
田舎に戻ってこれるような事業や環境を作っていくことが、飛騨高山に住む私の使命だと考えています。
「つむぎ果樹園」の前坂くんも、私と同じように、飛騨高山の地域のために活動している有志ですよ。





地域の子どもたちの、将来につながる事業なんですね。
応援しています。
最後に大前さんのように、新規就農を志す方にアドバイスがあればお願いします。



今はスマホで大半の農業の情報が分かってしまいますが、実際に農作業までを経験する方は少なく感じます。
失敗して初めて分かることもたくさんありますから、家庭菜園なり農業バイトなり、農業の小さな経験や失敗はした方がいいと思いますね。
私もたくさん失敗してきましたが、失敗のおかげで見えてきた改善点や、人生の方向性がありますから。





取材させていただきありがとうございました!

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