旦那さんと共に実家の農業を事業承継
果樹とミニトマト栽培のこだわりや苦労
法人化して6次産業化ビニールハウス建設業に参入
今回インタビューした農家は、北海道余市郡仁木町の3N株式会社代表の西山由香里(にしやま ゆかり)さんです。
実家の農業を夫婦で事業承継して、2024年からは法人化し、事業の多角化に取り組まれています。
就農までの経緯や果樹とミニトマト栽培、法人化した狙いなどを取材させていただきました!
夫婦で実家の農業を承継

西山さんは実家が農家だったということですが、農業のイメージはどんな感じでしたか?



農家の長女として毎日畑で働く両親を見て育ちましたけど……、
農業は天候に左右される大変な仕事というイメージが強く、私は農業はやりたくないと思っていました。
それに私が高校3年生の時に、台風によって実家のブドウやプルーンが全滅に近い被害を受けて。
「農業を辞める。」
という両親の会話を聞いてしまった時、ものすごくショックだったんです。



「東京への進学を止めれば、農業を辞めなくていいの!?」
と思わず泣きながら訴えたら、
「融資の返済額に比べたら、由香里の進学費用なんかちっぽけなものだから、日本の中心を見てきなさい。」
と父に言われたのを覚えています。
父の偉大さと、一生懸命働いても報われない年もあるという、農業の厳しさを実感した出来事でした。



被害が大きくても、子どもに気丈な返答ができるご両親を尊敬します。
東京に進学されて農業を始める前までは、西山さんはどんな仕事をされていたのですか?



東京にいた約5年間は、雑貨店の営業や広報、飲食店などで働きました。
北海道に戻ってからはテレビ局で、スノーボードの世界大会や人気バラエティー番組のイベント企画などを担当していましたね。
当時から付き合っていた大工の旦那と、休みの日には仁木町の実家で農業の手伝いをするという生活をしていました。



休日に農業の手伝いをされていたのですね。
そこから本格的に、農業1本で働くことになったきっかけはなんでしたか?



旦那も私も、手掛けていた仕事が一段落した時期に、
「農業やってみる?」
と何の気なしに私の口から出た言葉に、
「農業やりたい!」
と、旦那が即座に食いついてきたんです(笑)。
旦那は農業の手際も覚えも良く、父からも一目置かれていましたから、今度は農業で活躍したいと思っていたんでしょうね。



二人で農業を始めるには、いいタイミングだったのですね!
就農を両親に伝えた時は、賛成されましたか?



実家の農業を継ぎたいと両親に伝えた時は、
「旦那は心配してないけど、由香里は大丈夫なのか?」
と、むしろ私の方が心配されていました(笑)。
私の飽き性な性格や天候リスクへの心配が、父には伝わっていたんだと思います。
不安はありましたが、この頃にはミニトマトで経営も少しずつ上向いてきていたので、頑張るしかないなと。
ただ就農当初は今思えば、農業研修というよりは一作業員というような感覚でしたね。



農業に積極的な旦那さんとは対照的に、西山さんは当時は消極的だったのですね。
そこから2017年に夫婦で事業承継されたということですが、実家の農業を引き継ぐきっかけがあったのですか?



契機になったのは、2017年に父が亡くなったことです。
心の準備ができないうちの別れだったので、心のコップに穴が空いたように、私はミニトマトを収穫しながら泣き続けていました。
だけど土地や借金を相続してから、気持ちの整理がついてきました。
「泣きながら収穫したミニトマトなんて、お客様は買いたくないだろうし、父も望んでいないはず。」
と、私も本気で農業に向き合うようになりましたね。


栽培:サクランボとプルーンとミニトマトの栽培



現在の栽培面積と労働力を教えてください。



6月末~7月中旬のサクランボが50a、9月末のプルーンが30a、6~10月のミニトマトが70aですね。
労力は私たち夫婦と従業員2人、特定技能実習生が2人、パートさんが2人で栽培しています。



栽培のこだわりはありますか?



どの作物にも共通しているのは、ほぼ有機質肥料を使って、土中の微生物や菌を意識しながら栽培していることですね。
ミニトマトは食味と収量のバランスを常に良くするために、局所の病害虫予察に加えて、ハウス全体の樹勢管理は欠かしません。
食味を追求しながらも収量も上げるために、現在は旦那が農園全体を統括して、病害虫や樹勢の管理や従業員のマネジメントをしています。



目の前の作業だけではなく、全体を俯瞰できる統括者がいるのは、安定した栽培には必要ですね。
2017年に事業承継されてから、栽培に関して苦労や失敗はありましたか?



苦労と言えば、やっぱり2018年に、再び台風の被害を受けてしまったことですね。
ミニトマトのビニールハウスが2棟がつぶれ、10棟ビニールが破れて……。
当時は従業員が少ないタイミングだったこともあり、ミニトマトの収穫が間に合わずに、何棟も収穫を諦めました。



それは辛いですね……。
台風被害を受けて、栽培面で変えたことはありますか?



災害で被害を受けても、より少人数で復旧して、農作業が回せるような栽培に改善していきました。
具体的にはミニトマトは、株間を30㎝→50㎝に広げて、ハウス1棟ごとの葉欠きや管理作業の負担を減らしました。
定植本数を18000→10000本まで減らしたことで、売上が減ることも予想しましたが、
管理がより行き届いたことで、収量や秀品率が上がり、結果的に所得が増えました。
まだまだ特A品の比率は上げられるはずなので、さらに上を目指していきたいです。





効率的に管理作業が行き届いたことで、利益率も上がったんですね!
あとは栽培に関して、今取り組んでいることはありますか?



これもやっぱり、気候変動への対策ですね。
本州の近年の猛暑で不作気味で、北海道産のミニトマトの需要が増えているんですけど、
私たちの北海道仁木町のミニトマトでも、近年の高温対策は必須になりつつあります。
2021年からはビニールハウス全棟分の遮熱資材を使って、猛暑でミニトマトの花が落ちないように対策しています。
販路:サクランボやプルーンのネット直販



現在の販路はどんな感じですか?



ミニトマトは、JAと市場でほぼ100%です。
プルーンとサクランボは、市場は3割程度で、残りは
自社サイトで、細々と産直ECサイトや直売所でも販売しています。
販売面に関しては、私がほぼ全てを担当していますね。



果物は直販の割合が高いのですね。
HPや産直ECサイトなどの、ネット販売もされているのですね!



そうですね。
先代から購入していただいているお客様は大切にしつつ、お客様も高齢になっていくので、新たな層のお客様にも届けたいと思っています。
ただ、全て私の目と手を通して届けているので、今の直販量が限界なのが正直なところです。
大々的に宣伝せずとも、私たちのフルーツやミニトマトを購入してくださるお客様と、今後もお付き合いしていきたいと思っています。
その他の取り組み:法人化して参入する新たな分野



2024年に、フルーツランド中村園から、3N株式会社として法人化されましたね。
法人化した狙いはなんですか?



栽培面の効率化や従業員も育ってきたおかげで、旦那や私が現場の農作業につきっきりでなくても、仕事が回るようになったんです。
だから余力が出来た分を、法人化して生産販売以外の新たな部門に注ぎやすくしたいと考えています。



農業の生産販売以外に取り組みたいことって、具体的になんですか?
6次産業化商品開発



まずやりたいことは、6次産業化ですね。
うちのこだわりのミニトマトをふんだんに使った、「トマトカレー」の商品開発を、2025年から取り組む予定です。
以前農園にいたシェフ経験者が、まかないで作ってくれたトマトカレーが、めちゃくちゃおいしくて「これだ!」と直感しました。
レトルトパウチにして、ネット販売や飲食店に卸すことを予定しています。



自社のミニトマトを使ったカレー、美味しそうですね!
でも6次産業化って、設備投資が大きくかかるイメージがありますが?



たしかに調理場を自社で構えたら、設備投資がかかりますね。
うちの場合は、近くのパン屋の厨房を定休日に間借りして、カレーを仕込むことにしています。
傷などで見栄えが悪いミニトマトの廃棄も減りますし、生鮮のミニトマトよりも日持ちするので、積雪がある冬の貴重な収入源にもなると考えています。
売上を農業生産だけに依存しないという、リスク分散の意味合いもありますね。



なるほど、間借りで6次産業化という手がありますか。
農園のPRにもなりそうですし、面白いですね!
ビニールハウスの建設請け負い



もう一つ立ち上げたいのが、ビニールハウスの建設請け負い部門です。
台風被害などへのリスク分散として、仁木町でも一部の果樹畑をミニトマトへ転作する農家が増えているんですけど……。
近隣農家の高齢化も進んでいて、パイプを運んで組み立てるという重労働ができる労働力が、地域には足りていないんです。
うちは旦那が元大工ですし、従業員もパイプハウス建設の経験者がいます。
今うちにある労働力とスキルを、地域に還元できる仕事だと考えました。





なるほど、無理やりに新事業をするわけではなく、今ある人的リソースを有効活用するわけですね。
それにしても、旦那さんもそうですけど、従業員の方も様々な経験や強みがある組織はいいですよね。



もうお世辞抜きにして、今うちで働いてくれている従業員は、みんな優秀です!
そんな従業員のためにも、例えば住宅ローンが組めないということがないように、法人化して社会的な信用を上げたいという思いもあります。
今後の展望や就農希望者に対してのメッセージ



農業生産は堅実にしつつも、法人化してどんどん新しいことにチャレンジする姿勢が印象的ですね。



そうですね、父から引き継いだ農業からは少しずつ変化してきていますけど、
「変わらずあり続けるために、変わらなきゃいけないことがある」
という考えは大切にしているんです。
もし子どもたちが農業をやりたいと言ってくれた時には、希望を持って引き継げるような農業経営にしていたいと思っています。



子どもたちへの承継まで見据えているのですね。
西山さんは子どもたちに農業をしてほしいと考えていますか?



子どもたちに「農業を継ぎなさい」と無理に言うつもりはないです。
だけど大人が楽しく働いている姿というのは、子どもたちに見せていきたいと思っています。
親が仕事をしている姿を子どもが見られて、次世代に引き継がれていくといのは、他の職業にはない農業の良さだと思うんですよ!





子どもが継ぎたいと思えるような農業を見せていくこと、参考になりました。
最後に、就農希望者や結婚を機に農家になる方にメッセージがあればお願いします。



「女性だから」という体力的なことを抜きにしても、現在の情勢で就農することは、相当な資金力と精神力が必要になると思います。
資材費が上がり続けて、猛暑や台風の強さも極端になっていますからね。
それでも農業をしたいという方は、まずは農業法人で働いてみて、具体的な就農計画を作ることをおすすめします。
ちなみにうちのスタッフは、
「農業には携わりたいけど、自ら経営はしたくない」
と言って、一緒に働いてくれています。
独立就農だけでなく、雇用就農という選択肢もあるのではないでしょうか。



取材させていただき、ありがとうございました!
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