中山間地の合計125ha以上の田んぼで米を生産!たたき上げの女性農業者の「持続可能な米作り」への改善。

記事の内容

家業である米の生産+販売会社に就職

中山間地の「持続的な米作り」

君田産のブランド米をプロデュース

今回インタビューした農家は、広島県世羅町の「㈲こめ奉行」と「(株)アグリ君田」2社の取締役の重田弥生(しげた やよい)さんです。

自らも大型トラクターに乗りながら、米や苗の販売業務も担当されているバリキャリウーマン!

子育てもしながら農作業をされている重田さんに、就農までの経緯や米作りの効率化、これからの目標を取材させていただきました!

目次

就農の経緯:家業である米の生産販売会社に入社

管理人

重田さんは実家が米の生産と集荷販売をされている「㈲こめ奉行」ということですが、子どもの頃の農業のイメージはどんな感じでしたか?

重田さん

子どもの頃は田植え期や収穫期になると、親とは顔を合わせない日が続いていたので、大変そうな仕事だとは感じていました。
ただ私は中学~大学まで離れた所で下宿していたので、仕事として農業に携わるかどうかまでは、深く考えてこなかったんです。

管理人

農家には特別な興味はなかったということですかね。
仕事として、農業に興味を持ったきっかけはなんでしたか?

重田さん

就活で大手企業にも面接に行く中で、
「㈲こめ奉行は会社としてはどのくらいの規模なんだろう?」
と、ふと思い調べてみたんです。
2014年当時で、50haくらいの米生産と、近隣農家からの米の集荷販売をしていたかな?
就活が調子よく進んでいて、気が大きくなっていたのか、
「私がこめ奉行に入社すれば、もっと会社を大きくできるんじゃない?」
と、根拠のない自信が出てきたのが、農業に興味を持ったきっかけですね。

管理人

就職先として、実家の農業に興味を持ったのですね。
就農希望を家族に伝えた時は、賛成されましたか?

重田さん

社長である母は、もう大反対でしたね!
社長は父の死後から、ずっと会社を守って発展させてきた人なので、私の甘い考えを見抜いていたんだと思います。
「うちの会社に後継ぎで入ったとしても、地域からも従業員からも褒められないよ。」
と、厳しい忠告を受けました。

管理人

お母様もすごく優秀で、胆力のある方ですね……!
重田さんを一見突き放すような条件は、優しさにも感じますが……。

重田さん

むしろ、「絶対に会社を発展させてやる!」と、私の負けず嫌いな性格に火が付きましたね!
一旦は付き合いがあった肥料会社で、2年間肥料の納品や米の生育調査などの農業の現場を経験することになって。
そして2017年に所望していた、家業である㈲こめ奉行に入社しました。

重田さん

㈲こめ奉行では予告通り、後継ぎだからという特別扱いは一切ありませんでした。
「代かきが下手だ。そこそこの仕事ができれば満足なんか?」
など、入社当初は社長からも、よく注意されていました。
・トラクターをまっすぐ進めるための姿勢や目印の置き方
・代かきの深さやスピード
・あぜ際までの丁寧な耕耘
など、仕事をこなしながら体で覚えていくしかありませんでしたね。

管理人

まだまだ一人前の仕事ができない新入社員時代から、重田さんはどうやって周りに認めてもらえるようになったのですか?

重田さん

体力仕事も男性従業員の方と張り合うつもりで、誰よりも朝早く来て夜遅く帰っていましたよ。
徐々にトラクターの上手な操縦ができるようになっていって。
「トラクターに乗っている顔は見えんけど、丁寧で速いから、弥生ちゃんが操縦してるんやって分かるよ。」
と、今では地域の方に言ってもらえます!

管理人

真正面から評価を受け止めて、努力されたんですね!
では現在は、重田さんの仕事内容はどんな感じですか?

重田さん

今は「㈲こめ奉行」の取締役に加えて、先代から付き合いがある「㈱アグリ君田」という、君田地域の米生産法人でも取締役をしています。
だけど2社の取締役だからといって、特別なことはしていません。
私は春になればトラクターに毎日乗ってますし、秋には米の等級などを決める農産物検査を担当しています。
子どもが生まれてからは、子育てを優先しながら、従業員の方に仕事を任せるようにしています。

㈲こめ奉行の米の保管倉庫
管理人

子育てをしながら、2社の取締役ですか!
バリキャリウーマンですね!

栽培:重田さんが変えた「持続可能な米作り」の仕組み

管理人

現在の栽培面積と労働力を教えてください。

重田さん

㈲こめ奉行では従業員は15名で、大小770枚を超える田んぼで、米を生産しています!
㈱君田アグリの耕作面積を加えると、約125haくらいでしょうか。
稲苗の委託販売も、40000トレーほどしていますね。

管理人

中山間地で合計100ha以上!
小さくていびつな形の田んぼもあるでしょうから、すごいですね!

重田さん

まさに、中山間地でも持続可能な米作りをすることが課題で、生産の効率化が不可欠です。
だから私は入社以来、
①農業日誌アプリを使った作業進捗の共有
②JGAPを活用した業務の仕組みづくり
③地域の方から信頼を得て農地を借りること
に取り組んできました。

①農業日誌アプリを使った作業進捗の共有

重田さん

まず導入したのが「アグリノート」という農業日誌アプリです。
770枚を超える田んぼと15名の従業員の進捗を、全員が把握していないと、機械の稼働や作業時間でロスが生まれてしまいますからね。

管理人

〈誰がどこの田んぼでどんな仕事をしているか〉をアプリで管理することで、作業の効率化につながるのですね!

重田さん

そうですね。
あとは、
「この地域のトラクターの耕耘を、○時間で終わらせられる?」
「多く時間がかかってるのは、なんでだと思う?」
など、具体的な指示やアドバイスもできるようになったと実感しています。

②JGAPを活用した業務改善

管理人

2018年から、㈲こめ奉行さんではJGAP認証を取っていますね。
まだまだJGAPを受けている農家さんが少ない中で、こめ奉行さんがJGAP認証を受けている狙いはなんですか?

重田さん

最初のきっかけは、安心安全な米作りをしているという外部の認証を得ることでした。
しかしJGAPの勉強をしているうちに、
「これは日々の業務の仕組みづくりにも使えるのでは!?」
と考え、従業員の方にもJGAP順守の意識を持ってもらっています。

管理人

だけど日々の農業に加えて、さらにJGAPの書類仕事が増えるのはなかなか大変だと思いますが……。

重田さん

いや、JGAP認証のための特別な仕事が多いわけではなく、日々の農業の延長線上で確認できることが多いんですよ。
中でも〈整理整頓清掃〉は日常で確認するようになるので、作業の効率化に加えて、事故リスクの減少にもつながると思っています!

管理人

なるほど!
整理整頓清掃という、当たり前のことを徹底できるようになるんですね!

地域の信頼を得るためのプロ意識

重田さん

一番気を付けていることは、地域の田んぼを任せてもらっているという意識です。
だんだんと借りる田んぼが増えていく中で、
・あぜの草刈りが遅れたり、
・田んぼの中に雑草がぽつぽつと見えたり、
・米の反収が落ちたり、
など、どうしてもおざなりになってしまう年もありました。

管理人

まあたしかに、地主から見れば、自分の田んぼはきれいに保ってしっかり収量を取ってほしくはありますよね。

重田さん

「規模が増えても言い訳にせずに、まずは地域の方との挨拶から徹底しましょう。」
と新入社員の時代から主張していて、社内の勉強会では、よく従業員の方と揉めていました(笑)。
だけど〈稲作のプロ集団〉を名乗っている以上、いい仕事をしようと意見がまとまって。
おかげさまで田んぼが毎年増えていますが、反収でも8俵以上は上げられるようになりました!

管理人

ああ!ハルキンさんも全く同じことを言ってました!
ドローンやGPSトラクターも作業の効率化はできるけど、
「何よりも田んぼをきれいに管理することが大事」だと。

重田さん

うちでもドローンやGPSトラクターは導入していますけど、
使っている機械ではなくて、田んぼの状態や作業している人を見て、会社の評判って決まりますからね。
福島県のハルキンさんも、同じ米の集荷販売という会社をされていますから、色々相談に乗ってもらうこともありますね。

敷地には10台の大型トラクターが並ぶ

販路:君田産の米のブランド化を手掛ける

管理人

㈲こめ奉行さんでは、どのくらい米をどこに販売されているのですか?

重田さん

自社生産の米に加えて、近隣の米農家さんからも米の集荷をしているので、毎年30㎏で50000袋ほどの米を扱っています。
5割以上は広島県世羅産の米として、広島県内の米屋さんに販売しています。
㈲こめ奉行で生産している米はJGAP認証米として食料品店で販売していて、
集荷した米の一部は自社で精米し、飲食店やホテルや食料品店に納入しています。

管理人

30㎏×50000袋=……1500t!
すごすぎて、もはや規模が想像つかないですね!
重田さんが販売面で変えたことはありますか?

重田さん

先代が苦労して広島県世羅産の米をブランド化したように、私も君田産の米のブランド化に取り組みました。
バイヤーの方とやり取りする中で、
「君田の米は評判がいいから、地域名を前面に出して売り込みませんか?」
というお話はいただいていたんです。
それにやはり、米農家さんにいい清算金額をお渡しすることが、持続可能な米作りにつながると思っていますから。

管理人

たしかに地域名を前面に出したブランド米は、よく見かけるようになりましたね。
でも米のブランド化って、具体的に何をしていったのですか?

重田さん

君田地域の米農家さんにバイヤーさんと会ってもらって、料亭やスーパーなど、取り扱っている店に調査に行きました。
実際に自分たちの米をお客さん目線で見ると、アイディアだったり生産意欲が湧いてくるみたいで!
視察帰りのバスの中では既に、米の栽培や販売を見据えた話で熱く盛り上がっていました!

管理人

農家さんたちに、エンドユーザーを意識するように仕向けたのですね。

重田さん

さらに君田地域の生産者の皆さんと、農業だけでなく君田町の未来を農業で明るく照らせるようにという思いで、「君田未来プロジェクト」というチームを作りました。
地元の保育所の園児達を招いて農機具の展示をしたり、君田のお米を使ったおにぎりと豚汁を振る舞うイベントなどで、君田の農業のPRに努めました。

生産者たちで立ち上げた「君田未来プロジェクト」
管理人

君田という地域名を覚えてもらえる、素晴らしい活動ですね!
君田産の米は、認知は進みましたか?

重田さん

米農家さんたちの努力の甲斐あってか、新聞広告で予約販売をしているのですが、君田産の米は収穫前には注文が埋まっています!
これからも米の販売価格を上げるための施策は、積極的に打っていきたいと考えていますね。
まあ社長からは、
「あんたはバイヤーさんの相談に、おせっかいなほど乗りすぎだ。」
と言われてしまうんですけどね(笑)。

今後の展望や女性の就農希望者に対してのアドバイス

管理人

重田さんの今後の目標を教えてください。

重田さん

今後も中山間地の田んぼが集まると思いますが、規模が大きいから偉いとは全く考えていません。
田んぼ1枚1枚でしっかり米作りをすることを、これからも会社全体で取り組んでいきたいです。
個人的な目標としては、㈲こめ奉行の社長である母の経営能力と、(株)アグリ君田の社長の栽培技術を、兼ね揃えた人になりたいですね!

管理人

ありがとうございます。
最後に、女性で就農を考えている方にアドバイスがあればお願いします。

重田さん

「女性だから…」農業ができないわけではないので、得意な作業を役割分担すればいいのではないでしょうか?
私が就農した頃は、大型トラクターに乗っていたら、物珍しさに人が集まっていたんです。
でも令和では、女性がトラクターに乗って、男性が草刈りをしていても物珍しくない時代ですからね。

管理人

取材させていただき、ありがとうございました!

自らトラクターに乗って作業する重田さん
画像提供、農家さんのリンク

令和の米騒動の前後の動向

管理人

2024年は「令和の米騒動」と言われるほど、米の価格に注目が集まりました。
重田さんはどのように感じていましたか?

重田さん

米の生産と販売をしている立場から、実は2023年の12月には、米の在庫の少なさと異常な値上がりに気づいていたんです。
「このままでは収穫前に米が足らなくなるから、田植えを2週間前倒ししよう!」
と、2024年は作付計画を前倒しして生産しました。

管理人

やはり現場ではニュースになる前から、米価格の異変に気づいていたのですね。
でも「この価格なら、米作りを続けられる」と、ほっとした農家さんの声も多かったと思います。

重田さん

たしかに私としても、やっと再生産可能な米の価格になったという印象です。
2024年は予定よりも利益が出たので、
・従業員の方に年5回ボーナス出して、
・集荷している米農家さんに追加で清算をして、
・トラクターなどの機械を更新して、
あとは、地元の高校へ500万円を寄付させていただきました。

㈲こめ奉行の会社設立20周年の年に、お世話になっている地域の米農家の代表として、お礼の意味を込めた感じです。

管理人

えっ!……、椅子からひっくり返りそうになりましたよ!
でも、地元や従業員の方に還元する姿勢が、一貫していて素敵ですね。

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