高校中退→建設業で働く
新規就農から数年で耕作面積や労働力を急拡大
「農業は稼げる職業」ということをSNSで発信
今回インタビューした農家は、香川県善通寺市「Farmer Agrink」代表の坂口知也(さかぐち ともや)さんです。
高校中退→建設業から転身→新規就農!
「3K」な農家のイメージ払しょくにも力を入れる坂口さんに、就農した経緯や栽培や販路、について取材しました!
高校中退→建設業→新規就農

坂口さんはどのような学生時代を過ごされましたか?



実は私、高校を中退してしまいまして……。
とても記事にできるような家庭環境ではなかったので、正直グレてました。
「学歴なんかなくても、稼いでやる!」
と、血気だけは盛んでしたね。



複雑な家庭環境だったのですね。
坂口さんは農業をされる前は、どんな仕事をされていたのですか?



地元香川県善通寺市の建設会社数社で約6年働いた後、福島県の復興の土木作業を約5年ほどしていました。
高校中退でも働ける所が建設業くらいしかありませんでしたから、反骨心だけで、がむしゃらに働きましたね。
昇格もして給与もそれなりに上がって、結婚して家族もできて。
学業を挫折した頃からしたら、毎日が忙しくも充実していました。



そこから農業に興味を持ったきっかけはなんでしたか?



2017年福島県での仕事がひと段落して香川県に戻る時、建設業とは違う仕事もしてみたいなあと、ふと思ったんです。
ちょうどその時が、キャベツの価格が高騰していた時期でして!
「キャベツ作れば儲かるんじゃね!?」
ということで、香川県の露地野菜農家の友人の畑で、試しに20aほど野菜を作ったのが、農業に興味を持ったきっかけでした。



まずは家庭菜園くらいの面積から、試しに野菜を作ってみたのですね。



まあ、素人がなんとなくで栽培していたものだから、案の定うまく育ちませんでした(笑)。
だけど栽培の奥深さや、農業の面白さにはハマりまして!
「農業で食っていくには、まずは栽培技術を身に付けないとダメだな!」
と考え、本格的に農家になるために、農業研修に行くことにしたんです。



将来の就農を目指すと言った時の、周囲の反応はどうでしたか?



親も妻も大反対でした。(笑)
子どもも生まれたばかりでしたし、至極真っ当な反論ですよね。
だけど2年後に売上1000万円を稼ぐという就農計画書を見せて、説得しました。
「この人の性格上、決めたことは押し通すんだろうな…。」
と妻は最終的には、自分のわがままを聞いてくれました。
この先の農業の稼ぎで家族を守らないとという、感謝と責任感でいっぱいでしたね。



脱サラからの就農ということですが、坂口さんは農家とサラリーマンとの違いは何だと思いますか?



やはりなんと言っても、時間の使い方が自分次第ということですね。
就農当初はとにかく必死で休みはなかったですが、農業経営に慣れてきた現在はサラリーマンの時よりも余裕ができています。
研修して地元香川県善通寺市で独立



農家で研修をされたとのことですが、研修はどんな感じでしたか?



香川県丸亀市の露地野菜農家さんで、1年間研修しました。
主にブロッコリーなどの収穫や定植などの管理作業全般を、外国人研修生と一緒にしましたね。
現在の私の露地野菜栽培の土台となった研修期間でしたし、農地を借りる当ても見つかったので、必要不可欠な期間でしたね。



実際に農業をしてみて、農業のイメージは変わりましたか?



肉体労働自体は、建設業で鍛えられていたので問題なかったですけど、
・ちゃんと栽培できるか
・できたとしても価格が安定しているか
・台風などの災害で全滅したら……
など、本当に農業で食っていけるのだろうかといった、漠然とした不安はかなりありました。
だけど家族の反対を押し切って始めた以上、なにがなんでも成功してやるという一心でした。



不安を振り払うように、努力されたのですね。
ところで新規就農者の方は、農地探しに苦労するイメージがあります。
坂口さんはどうでしたか?



私の場合は、順調に農地は集まった方だと思います。
というのも善通寺市だけではなく、隣の丸亀市にも足を伸ばし、少しでも農地を増やそうと奔走していましたから。
農政課の方や周りの先輩農家からの畑の紹介もあって、2019年に1.5haの畑で新規就農しました。





隣町まで!でも努力の成果で、農地が確保できて何よりでしたね。
あとは気になるのは、初期投資の面です。
就農時の運転資金と農機代は、どのように工面したのですか?



研修中は、次世代農業人材育成資金(準備型)を受けてました。
手持ちの貯金が当時は200万程でして、妻は2019年当初は外に出て働いてくれていました。
就農準備資金・経営開始資金
あとは、トラックやトラクターや定植機など、日本政策金融公庫から融資を受けながら、徐々に買い足していった感じですね。
高品質のキャベツを揃え続ける栽培



現在の坂口さんの作型と経営規模を教えてください。



耕作面積が8.5haほどで、冬のキャベツをメインに、夏にはニンニク、タマネギやオクラを栽培しています。
労働力は私と常時雇用の社員3名、平均年齢29歳の若手の男たちでガッツリ働いています!
規模や従業員は年々増えていて、現在は妻も経理として事務作業をしてくれています。



数年であっという間に急拡大されたのですね!
香川県の露地野菜と言えばブロッコリーのイメージでしたが、坂口さんがキャベツを選択した理由はなんですか?



たしかに香川と言えばブロッコリーの産地ですし、周りはブロッコリー畑がほとんどです。
私がキャベツを栽培しているのは、定植〜収穫までの時間から計算した時に一番時給が高かったからです。
研修先ではキャベツを栽培していなかったので、栽培の知識はほとんどSNSで収集しました!



時給などの収益性を、計算したうえでの作物選択!
それに、栽培はSNSで独学とは!
そんなキャベツ栽培へのこだわりはありますか?



こだわりは、キャベツの圧倒的なクオリティを出すことです!
・キャベツの品種
・追肥や農薬の種類
・作業のタイミング
自分でも毎年試しながら、SNSで栽培が上手な農家さんにDMで質問して。
気象条件が悪くてもきれいなキャベツを揃える技術には、自信があります!



坂口さんの投稿にはいいキャベツ畑が広がっていて、さすがだと思っていました!
それでは独立就農後は、栽培で失敗はありませんでしたか?



いや、失敗は……、本当にたくさんありましたよ(笑)。
一番はやっぱり、キャベツの元肥を少なくしすぎて、うまく育たなかったことですね。
キャベツは品種や季節によって肥料の吸い方が違うので、元肥の量を変える必要があるんですよ。
資金の底が見えて、スマホ代も払うのもきつくて……。
友達に泣きながら弱音を吐くくらい、絶望しかなかったです。



通帳の残高が減り続けると、精神的にもきついですよね…。
どん底の状況を、どのように乗り越えたのですか?



失敗した事実は挽回できないので、
「同じ失敗は絶対にしない!」
と切り替えて、原因の追究だけは妥協しませんでした。
試行錯誤を続けた結果、キャベツ栽培の失敗するポイントが分かってきまして。
2024年の猛暑&少雨でも、バチっといいキャベツを揃えることができたのも、失敗の経験があったからだと思っています!





2024年の猛暑はどの農家さんも苦戦していた印象ですが、坂口さんは収量を落とさなかったのですね!
だけど夏~秋の高温は、これからも続く可能性がありますよね?
温暖化に対して、坂口さんはどのような対策を取っていく予定ですか?



2024年のような猛暑がこれからも続くでしょうから、私も気を使っています。
規模を拡大していく中でも、品種の選定や水やりなどの管理を徹底できるような体制を作るのが課題です。
JAや市場+加工用というキャベツの販路



坂口さんの現在の販路はどんな感じですか?



メインのキャベツは市場出荷4割、業務加工契約6割です。
にんにくとオクラはJA100%、タマネギは業務加工100%ですね。



JA以外の販路もあるのですね。
特にキャベツの、市場出荷と契約栽培出荷を使い分けされている意図はなんですか?



キャベツの販路をいくつか持つのは、売上を安定させるためです。
キャベツは、市場価格の乱高下が激しい作物なんです。
だから取引価格が変動する市場出荷の他にも、加工契約分で絶対的に出せる売上と利益を確保することを意識しています。



キャベツは時には、収穫せずにつぶすほどの価格になってしまうこともありますからね。
ところで、どう営業して契約出荷先を見つけてくるのですか?



市場関係者との飲み会などには積極的に顔を出しますし、担当者の方の誕生日会を開いたりしてますかね。
だけど、いきなり取引の話を持ち掛けることはなくて。
お互いのことをちゃんと知った上で、ご縁があればいいかなくらいに思っています。
美談でもないんですけど、営業というより信頼関係の構築をしている感じですね。



なるほど、坂口さんの人柄が見えるようなエピソードですね!
今後の販路面での課題や目標はありますか?



やっぱり加工用キャベツの取引先は増やすことが、私の最重要課題だと考えています。
今後耕作面積が拡大していくことを見据えれば、売上の安定のためにも、加工用のキャベツの取引は重要な要素ですからね。


今後の目標や就農希望者に対してのアドバイス



坂口さんはSNSで、
「農業はやり方次第で儲かる!」
ということをよく発信されていますよね。
なかなか他の農家はマネできない投稿だと思いますが、どのような意図がありますか?



まあここ数年は、売上は前年比150%くらいで伸びてはいるのですけど……。
人件費や機械投資なども多いフェーズなので、なかなか手元には残ってはいません(笑)。
だけど過去の私のように、一度ドロップアウトした人でも、農業は成り上がれる可能性があるということを伝えたいんですよ!
私の投稿を見て「一緒に働きたいです!」と若者から連絡が来ますし、農家のリアルに興味を持ってもらいたいなと思っています。



過去の自分に向けたメッセージみたいで、かっこいいですね!
最後に坂口さんのように、新規就農に興味がある方にアドバイスがあればお願いします。



まずは周りに感謝すること、そして責任感を持つこと、正しい努力をし続けること、が大事です!
私もまだまだ道半ばですけど、「やり方次第で農業は儲かる」をこれから体現したいと思っています。
一緒に農業で成り上がろうぜ!





取材させていただき、ありがとうございました!
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