学生起業から数か月で、IT企業の取締役に抜擢!
IT企業の3人と同時に退社し、縁もゆかりもない日南市で農業を開始!
目標は日本を代表する農業法人!
今回インタビューした農家は、宮崎県日南市の㈱ひじかたの土方康平さんです。
学生企業から数か月でIT企業の取締役に抜擢されて活躍され、その後同志3人と農業を開始!
勢いのある農業法人代表の、就農までの経緯や栽培のこだわり、今後の目標などをインタビューしました!
学生起業の後に、IT企業の代表に抜擢!
土方さんはどのような学生時代を過ごされましたか?
とにかく、バドミントンに情熱を注いでいた学生時代でしたね。
大学はバドミントンのスポーツ推薦で進学し、中国の長沙という都市でバドミントン留学もしました。
残念ながら技術や精神ともに未熟で、バドミントン選手としては大成しなかったのですけどね。
す、すごい!
バドミントンでスポーツ推薦や留学までされるなんて!
そこから一転、大学卒業間近に起業をされたそうですが、どのような会社でしたか?
私を含めバドミントンに懸けてきた選手が、もっと就活で評価されるような仕組みを作りたいと思い、主にバドミントン選手の就活支援の業務をする会社を起業しました。
その後大学を卒業し2018年に、ご縁あってIT企業の共同代表に就任しました。
卒業してすぐにIT起業の社長に抜擢……?
一般の新卒では想像もつかないようなジャンプアップですが、どのような経緯でしたか?
そのIT企業の創業者が、大学時代のバドミントンの総監督という縁があったのです。
当時私を抜擢してくださったのも総監督でしたし、ご縁をいただいた形で共同代表に就かせていただきました。
重責を全うするために、学生時代に作った会社はその時に売却しましたね。
身近に縁があったとはいえ、土方さんの起業家としての手腕が評価されたのですね!
IT企業の社長として、どのようなことをされていたのですか?
就活関連の合同説明会を、関東から関西まで20回以上は企画開催しましたね。
20社以上は新規契約も獲得して、営業職の方への研修も実施しました。
大きな成果も出していない新卒の若造を、期待値込みで共同代表にしていただいたので、とにかく責任を果たそうと必死でした。
人一倍行動したおかげか、任期1年目で売上総利益昨年比130%増という成果もついてきましたね。
新卒で社長就任した時から、とんでもない成果を出されていたのですね……
ただ社長に就任した2年後の2020年9月に、社長の座を降りることになりました。
傍から見れば、絶好調の若き社長だったと思いますが?
共同代表という立場で、色々な経験をさせてもらったことはすごく感謝していますし、充実した日々だったのですが……
やっぱり、自分で会社を興してオーナーになりたいという夢が再び大きくなったんです。
お世話になった会社になるべく影響を与えないように、就職説明会や就活サイトのフローをほぼ完成させたのちに、私に共鳴してくれた3人とともに、新たな仕事を求めて会社を辞めました。
自分のオーナー企業を作るべく独立したということですね。
全くの畑違いの農業を選んだのはなぜですか?
これから先に何がやりたいのかを思いつく限り書き出して、その中で一番可能性を感じた業種が農業だったのです。
①高齢化がとんでもなく進んでいて、プレーヤーが入れ替わるタイミングが来ていること
②生きていく上で野菜は必要で必ず売れるものなのに、農業は儲からないと言われていること
③投資家から投資を受けて、スピード感のある規模拡大をする農業法人はほとんどないこと
これらを私のIT企業での経験を持って参入すれば、チャンスがあるという直感がありました。
ITやメディアという「空中戦」よりも、地に足つけた「地上戦」をやりたかったというのも、理由の一つですね。
まあ当時は、農業のことなんて何一つも知らなかったのですが。(笑)
まさに畑違いの業種への参入ということですが、社長の座を降りて新規就農をすると決めた時の、周りの反応や声はどうでしたか?
私はびっくりするほど周りの意見は気にしないので、全く分かりません!
ただ妻は、不安だったと思います。
全く違う業種で会社を興して、しかも移住までするなんて言われたら、反対されるのは当たり前でしょう。
だけど私の熱意に折れたのか、最終的には「ついていく。」と言ってもらえました。
妻にも不満はあったはずですが、移住して農業をする私についてきてくれたのは、感謝しかありませんね。
移住して農業を開始も、IT企業時代のようにはいかず……
農業をやると決断してからの過程はどんな感じですか?
社長を退任して、移住して農業をすると決めてからは、あっという間でしたね。
まずは各地方の農政課に掛け合ってもらって、色々な農家さんの作物を見学させていただきました。
日南市は訪れたこともなかったのですが、農政の方に良くしてもらったり、後の師匠となる農家の方に良くしていただいたこともあって、2か月後には日南市に移住、㈱ひじかたを設立しました。
IT企業さながらのスピード感ですね!
ただいきなり栽培を開始できるわけではなく、まずは農地の確保や栽培技術を学ぶことから始まると思います。
どのように農業を学ばれましたか?
まずは10か月ほど、メンバーそれぞれが日南市の農家さんの所で研修をしていました。
栽培技術の習得はもちろん、どの作物を栽培するか、どこに借りられる農地があるかを、見極める期間でもありましたね。
やはり最初は、栽培技術の地ならしをされたわけですね。
研修中や就農当初は、資金面に不安はなかったのですか?
IT企業の代表から農業研修生への転身ですから、収入はだいぶ減りました。(笑)
貯えがあったとはいえ、研修していた10か月は貯金は減る一方で、かなりきつかったですね。
新規就農の補助金は、収入要件を満たせないなどの縛りから、受けませんでした。
一日でも早く自社で農業がしたいという気持ちもありましたしね。
だから翌年の2022年9月から、金融公庫と地方銀行から200万円の融資を受けて運転資金に充てて、自社生産をスタートしました。
就農前後は、やはり皆さんお金の不安は尽きないものなんですね。
ところで、肝心の農地はどうやって確保しましたか?
後継者のいない高齢農家の方からの事業継承という形で、80aのビニールハウスと25aの農地、倉庫や農業機械一式を、個人投資家の方々から2000万円を投資していただき購入しました。
「農業で成功してやるぞ!」という情熱しか持っていなかった当時の私に支援していただいたことは、感謝しかありません。
2000万円もの大金を、投資家からの援助で!
農業に必要なものが揃えられるとはいえ、中古のビニールハウスや農業機械を一括で購入することは怖くなかったですか?
たしかに、減価償却も終わっているハウスや農業機械を初年度からまとめて購入することに、迷いも多少あったのは事実です。
しかし、振り返れば結果的に正解だったと思います。
まとまった農地や農業機械などを自社が所有することで、規模拡大の基盤となる拠点ができたのですから!
ちなみに、後継者がいない高齢農家を紹介してくれたのは、㈱まるかじり代表の渡邉泰典さん(たいぴー)でした。
2000万円の資金のために投資家の方をつないでくれて、自らも(株)ひじかたの株を購入する形で支援してくれたのも、たいぴーでしたね。
なぜ彼が農業素人だった私に、栽培技術と資金繰りという協力をしてくれたのか、今でも分かりません。(笑)
移住した日南市の先輩農家でもある、たいぴーさんの後押しもあったのですね!
農家としての土方さんの才能や情熱を、たいぴーさんは見出していたのでしょう!
たいぴーのおかげで就農当初の苦難を乗り切れたので、感謝しています。
そんな彼は現在㈱土方の役員として、経営や栽培にも加わってくれています。
移住や新規就農の先輩としても、頼りになる副社長です!
苗作りにこだわる栽培
晴れて自社での栽培を開始するわけですが、実際に自社で農業をしてみてイメージは変わりましたか?
素直に、「農業って楽しい!」と感じましたね。
自分が作業にかけた時間が、収穫という目に見える形で返ってくる!
肉体労働の疲れは当然ありましたが、望んでいた「地上戦」をやっている充実感が圧倒的に勝っていました。
IT社長も経験した方が肉体労働を楽しいと感じるのは、なかなか興味深いですね!
さて本丸の栽培面ですが、2024年現在は何をどのくらいの栽培面積で栽培されていますか?
ニンニクを1ha、ズッキーニを2ha、雨よけハウスと促成栽培のピーマンを合わせて70a、カボチャを2ha、サツマイモを20aです。
主にJAに出荷していますが、数年のうちには㈱ひじかたの名前でスーパーにも卸していきたいですね。
労働力は、取締役(私)を合わせた社員5名と、アルバイトの方が5名です。
会社創立から数年で、かなりスケールアップされたのですね!
栽培面でのこだわりはありますか?
特にこだわっているのは、苗の生産です。
苗半作と言われるほどの苗づくりを、弊社では苗九作くらい重要だと考えています。
具体的には、①温度や水分条件を調節し、②冷蔵庫や冷暗所を設けて、③時には数時間ごとに発芽を計測します。
例えるなら、「コンディションの整ったアスリート苗を育てる」といったところです。
強靭なアスリート苗さえできれば、農薬の散布回数を減らせるという自社のデータもあります。
農薬散布を減らせれば労働時間も減らせますし、栽培面積と利益が増えるという好循環が生まれますからね。
苗づくりをこだわっているわけですね!
それでは、最初から栽培面は順風満帆でしたか?
いいえ、全く!
2022年に自社で栽培を始めて1週間で、台風によって大損害が出たので。
ハウスのビニールがほとんど飛ばされて、作付計画も狂っていって……
特にハウス栽培のズッキーニは、徒長したヒョロヒョロの苗しかできませんでしたし、EC濃度が濃すぎて肥料障害になってしまったりしていました。
結局2023年にかけて、利益予測を大きく下回る赤字を出してしまいました。
クラウドファンディングで被害回復のための支援をいただいたのですが、スタート直後から派手に転んだことは、精神的にもきつかったですね。
1週間でビニールが飛ばされるのは辛いですね……。
そこから、どのように立ち直していったのですか?
なんとか諦めずに2023年を乗り切れたのは、周りに恵まれたからです。
創業時のメンバーやたいぴーに、技術的にも精神的にも支えてもらったことが大きかったですね。
初年度に失敗した経験を無駄にしないためにも、失敗したタスク管理の検証や日々マニュアル化を行っています。
タスク管理や作業のマニュアル化は、IT企業では日常茶飯事のことで、IT業界で戦ってきた私たちの強みでもあります。
将来的な規模拡大のためにも、土台となる栽培技術の向上は必要不可欠なことなので、これからも継続していきたいですね。
今後の目標や就農希望者に対してのメッセージ
規模拡大していくということですが、土方さんの今後の売上目標や達成したいことを教えてください。
まずは2030年までに、(株)ひじかたグループでの売上を20億円、4ケタ万円の利益を出す会社にすること!
農業未経験からの新規参入でも、縁もゆかりもない土地に移住して就農したとしても、農業で成功できるんだということを証明したいです!
最終目標は、やさいクラブさんやアオイファームさんのような、全国に野菜を届けられる農業法人を作ること!
そのために冷涼な気候の長野県にも圃場を確保する計画で、通年で出荷できる体制を作りたいですね。
あと実は2024年の11月に、投資会社さんからの追加融資を元手に、漬物業者をM&Aで(株)ひじかたの事業内容に組み込みました。
受け継がれてきた美味しい大根漬けを主力商品として、会社をより大きくできると考えています。
なるほど。
失礼な質問かもしれませんが……
かなりのスピードで規模拡大したり、投資家の期待に応えたりしなくても、農業で生計を立てていくことは可能ですよね?
土方さんにとって、農業で成し遂げたいことはなんですか?
おっしゃる通りで、経営規模が大きいからいい企業というわけではないですし、小さくても素晴らしい農家さんはたくさんいます。
私はお金儲けがしたいというわけではなく、単に不器用で全力でしか走れないんです。
IT企業でも農業でも、私はまだ何も成していません。
あっという間に過ぎていく人生の中で、私に関わってくれた方々や社会のために何を残せるかを、常に意識して農業に取り組んでいます!
なるほど、深いですね。
最後に、新規就農を目指している方にアドバイスがあればお願いします。
「儲けたい!スローライフがしたい!」というモチベーションでは、農業は続かないと思いますね。
経験則から言わせてもらえば、農業よりIT業界の方が、よっぽど労働に対してのリターンがありますよ。(笑)
きつい時も乗り越えられるだけの情熱があるのであれば、ぜひ農業にチャレンジしてみるといいと思います!
取材させていただきありがとうございました!
取材後記
IT企業を土方さんとともに退社した同志スタッフの方々にも、お話を伺いました。
「土方さんが農業をやると言い出した時、どう思われましたか?」
「そのままIT企業に残ることもできたはずですが、なぜ土方さんについていこうと思われたのですか?」
というオブラートなしの率直な質問に、
農業という未知の分野へのチャレンジに不安がなかったわけではありませんが、「㈱ひじかたの創業者の一員なので、全員で決めた新事業を絶対に成功させよう!」という気持ちで日南に乗り込みました。
という回答をいただきました。
粗削りながらも、チームで一丸となって突き進んでいる素敵な会社だと思いました!
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