祖父母の農地を引き継いで就農
数年先を見据えた栽培や販売の取り組み
地域貢献にも積極的に参加
今回インタビューした農家は、島根県雲南市のGEAR FARM代表の星野和志(ほしの かずし)さんです。
祖父母のブドウ畑を引き継ぎ、ほぼ直販で販売されています。
地域の将来も見据えた取り組みもされている星野さんに、就農した経緯や栽培や販路について取材しました!
祖父母の農地を引き継いで就農

星野さんはどのような学生でしたか?



小さな頃から祖父母のブドウ畑で遊んだり、ブドウの収穫を手伝ったりしていました。
祖父母は農林水産大臣賞も受賞するほどのブドウ名人で、ブドウ畑で食べるブドウは私にとってのごちそうでしたね!
だから将来は農業をしたいと農業高校や農業大学校に進みました。



ずっと農業の道を進まれてきたのですね。
星野さんは農業以外の仕事をしたいと思ったことはないのですか?



他の職業にも興味がないわけではなかったです。
美味しいブドウを作るための、祖父母の苦労や姿を見ていましたし、大変な仕事だとは子どもながらに感じていましたから。
ただ私は、集中してものづくりをしている時が、一番楽しめる性格でして。
農業って職人のような仕事の一面もあるので、私に向いていそうだと思い、近くの農業法人に就職することにしたんです。



農業法人で5年間働かれたと伺いましたが、主にどんな仕事をされていたのですか?



主に野菜の苗作りから栽培までを担当していました。
農業高校から大学まで植物栽培全般を学ぶ植物科学や野菜を専攻していたので、ブドウとは離れた作物を栽培していましたね。
ただブドウと野菜では育て方は違えど、考え方や働き方はブドウにも共通する所が多いので、いい勉強期間だったと思います。



そんな農業法人を辞めて、独立しようと思われたのはなぜですか?



やっぱりいずれは独立して、自分の農園を持ちたいという気持ちが強くなってきたことと、
祖父母が高齢になって、ブドウ栽培面積を減らしてきていたことが大きかったです。
「祖父母のぶどう栽培のノウハウを引き継ぐには、このタイミングだろう。」
ということで、2017年に祖父母元就農という形になりました。



祖父母のブドウ栽培を引き継ぐと決めた時の、周囲の反応はどうでしたか?



祖父母は、「後継ぎができた!」とすごく喜んでくれました。
両親には、独立して生計が立てられるのかを心配されていましたが、
「おじいさんおばあさんが築いてきたブドウ畑と技術という基盤があるなら、サポートしてやるから頑張ってみろ。」
と、最終的には言ってもらえました。
ブドウ名人の、地域の農業の後継者として、頑張らなきゃなと気が引き締まりましたね。



後継ぎと認めてくれたのは、良かったですね!
ところで星野さんは農業法人と自営の農家の両方を経験されましたが、
農業法人での農業と、独立してやる農業の違いは何だと思われますか?



農作業自体は、農業法人でも自営の農家でも変わらないと思います。
だけど責任を全て取らないといけないという点では、独立してからはプレッシャーをより感じますね。
ただ栽培や働き方も自由なので、こだわるべき所には、より時間をかけるようになりました。
集中して作業しているとつい21時過ぎることもあり、妻には注意されちゃうんですけどね…(笑)。
作物リレーでほぼ毎日収穫する作型



それでは、現在のGEAR FARMさんの作型と経営規模を教えてください。



野菜は10aほどで、スイートコーンやカリフローレなどを栽培しています。
作物リレーで、ほぼ毎日収穫する作型です。
ただうちのメイン作物は、加温ハウスや雨よけハウスを組み合わせたブドウ栽培ですね!
シャインマスカットが約30aで、あとは島根県の「神紅」など、合計で63aほど栽培しています。
労働力は私と、パートさんが5人ですね。



ブドウ栽培のこだわりはありますか?



栽培面では化学肥料や農薬をなるべく控えることは意識していますが、特定の農法だけに捉われているわけではありません。
ブドウ名人だった祖父母の栽培に加えて、ブドウにとってプラスだと判断すれば、栽培に取り入れています。



土作りに関しては、刈草やブドウの枯葉などの「草堆肥」をメインに、補助的な資材として牛糞堆肥を入れています。
GEARファームからほど近い、「ダムの見える牧場」の牛糞堆肥です。
良質な堆肥で、ブドウの味が乗るんですよ!
土作りのために、毎年リピートして入れていますね!





ダムの見える牧場は近くなんですね!



そうですね。
あとは、毎日ブドウの状態を見て、作業を臨機応変に決めていくことを大切にしています。
ブドウの樹勢は、毎年ブドウの樹や房ごとに変わっていくものなんです。
「ブドウは足跡が肥料になる」
という祖父母の教えはその通りだと思いますし、GEAR FARMで大切にしている考え方です。



なるほど。
あとは失敗談も伺いたいのですが、星野さんは栽培で失敗したことはありますか?



一番の失敗は、ブドウの土づくりにもっとこだわろうと思って、深耕の穴を増やしたことですね。
多く穴を掘って土を柔らかくして、ブドウの樹の根を深く張らせることができれば、もっと美味しいブドウになるんじゃないかとの仮説だったのですが……。
かえってブドウの樹の根を痛めてしまったのか、ブドウの樹の樹勢が落ちて、粒も小さくなってしまいました。



一見すると根っこは強く深く張りそうなことに思いますが、やりすぎは良くないのですね……。
そんな失敗から、どのように乗り越えたのですか?



祖父母から教わった、従来の深耕に戻しました。
失敗したブドウの樹は、元の状態に戻るのに3年ほどかかりましたね。
ブドウの樹は15年近く育てるものなので、数年先まで見据えたブドウ栽培が必要なんだと、改めて身に染みて分かりました。



ブドウって、1年で樹勢が戻るものではないのですね。
あと、GEAR FARMさんの栽培面での課題はありますか?



初心者のパートさんでもできるような、ブドウ栽培の仕組みを作るのが課題です。
属人的になりすぎている仕事は、次の世代に繋ぎにくいですから。
とはいえブドウの摘粒や房作りは1房ごとに違って、ブドウ農家の腕の見せ所でもあるので、なかなかマニュアル化しにくい所でもあるのですけどね。
ほぼ直販で売り切るブドウの販路



GRAR FARMさんの現在の販路はどんな感じですか?



ブドウはJA出荷が1割ほどです。
9割はネット販売や直売所、ふるさと納税へ、「星のぶどう」として販売しています。



ブランド化して、9割も直販で売れているのですね!
でも島根県はブドウは有名な作物で、JAなども取り扱いが多いと思いますが、なぜ直販を増やそうと思われたのですか?



ブドウ名人の祖父母の代からブドウの味の評判が良くて、元々直販はしていたんですよ。
それに「星のぶどう」が美味しいと言って買ってくださるお客様に、直接販売するのは、私としても嬉しいですからね。



あとは私が2017年に就農する前から、シャインマスカットが全国で栽培面積と出荷量ともに拡大していたことも契機になりましたね。
「シャインマスカットがこのまま増え続ければ、いつか市場価格が下落する局面が来るだろう。」
と予想していていたので、
「GEARファームのブドウが直接買いたい!」
という、農園のファンを増やしていくことで、価格や販売の安定を図っていこうと取り組んだんです。



たしかにシャインマスカットは、どのブドウ農家さんも栽培されているイメージですね。



今後は特に、島根県外の方への販売も増えたらいいなと思っています。
ちなみにGEAR FARMでは、直販のブドウに注文者から届けたい相手へのメッセージカードを同封しています。
美味しいブドウを通して、お客様の想いや笑顔を届けられたらなという気持ちです。



普段なかなか言えないことが、ブドウの贈り物と一緒に届く。
いいですね!
今後の目標や就農希望者に対してのアドバイス



星野さんは新聞やラジオなどメディアにも出演されて、農業やブドウについて語っていますよね。
情報発信に積極的なのは、理由があるのですか?



私の農業だけではなく、地元である雲南市への貢献もしていきたいんです。
1960年代に50軒あったブドウ農家は現在は8軒に、雲南市の人口も減少していて、地元の衰退を危惧しています。
ブドウや農業を通した地域貢献も、後継者である私がすべきことだと思っています。



だから農家で独立志望の方も、GEAR FARMでは受け入れていますよ。
ブドウの房作りが分かった時期に独立していくのは、GEAR FARMとしては損失なんですけど……(笑)、
地域農業の仲間を増やせるのであれば、長い目で見れば大きなプラスですからね。



栽培や販路の将来だけでなく、地域の将来のことも見据えた農業なんですね!
参考になりました!
最後に星野さんのように、祖父母就農に興味がある方にアドバイスがあればお願いします。



就農前〜就農初期に、しっかり栽培や経営の基礎固めを行うことですね。
色々やりたい理想はあると思いますが、基礎があっての応用なので。
理想が実現できるように、着実にステップアップしていくことを意識すると良いと思います。



農業でも、基礎は大事なんですね!
取材させていただき、ありがとうございました!
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