新規就農して〈白ネギ栽培+防除ヘリのオペレーション〉という複合経営をする農業経営者

記事の内容

起業家として農業に参入

白ネギ栽培の苦労や今後の展望

細部まで経費計算と就農計画をして、農業の解像度を上げる

今回インタビューした農家は、静岡県掛川市の小林夏樹(こばやし なつき)さんです。

2020年に新規就農されて、白ネギを栽培されています。

農業分野での起業を果たした小林さんに、就農までの経緯や白ネギ栽培、経営者目線で農業を見る意識などを伺いました。

目次

農業で起業

管理人

大学卒業後は、どんな仕事をされていたのですか?

小林さん

大学ではプロダクトデザインを専攻して、大学卒業後はスイーツのECサイトを運営するベンチャー企業に入社しました。
「私はサラリーマンには向いていないだろう。」
と自己分析をして、将来的に起業する前提で就活をしていましたね。

管理人

入社したベンチャー企業では、どんな仕事をされていたのですか?

小林さん

パッケージデザインやWEBデザイン、販売サイトとの交渉まで、経理以外のほぼ全てですね。
2年目からは店長に昇格して店舗業務の全般を任されて、とにかく忙しくも充実していました。
社長の仕事術やベンチャー企業が大きくなっていく過程を見れたことは、起業に関してはかなりの影響を受けました。

管理人

ガンガン働いていたわけですね。
そんな充実したベンチャー企業を辞められた理由はなんだったのですか?

小林さん

残業で150時間を超えた残業をしていたので、働きすぎで肉体と精神が壊れてしまって……。
次の起業プランを立てる前に、休養せざるを得なくなってしまったんです。
だからとりあえず地元の静岡県袋井市に戻って、体調を整えながら仕事を探すことにしました。

管理人

100時間残業…。
ベンチャー企業には行動量とスピードが求められると思いますが、ハードすぎますね。

小林さん

袋井市の実家に戻ってからは、農機の販売修理、ドローンや無人ヘリの防除などをしている会社で10年ほど働きました。
お客さんである米農家の方とは、防除ヘリのオペレーションで必然的に話す機会が多くなるんです。
中には100haの稲作をされているような、いわゆる「豪農」と呼ばれる方たちも多くて!
「非農家だけど、私も将来、農業で起業しよう。」
と、新規就農を目指すようになりました。

管理人

起業分野として、農業に興味を持ったのですね。
新規就農を目指すと決めた時の、周囲の反応はどうでしたか?

小林さん

両親は昔から、
「やりたいことがあるなら、やればいい。」
というスタンスでしたので、就農に対して反対はされませんでした。
豪農の師匠たちには、
「小林君なら、何とかできると思うよ!」
と言ってもらえました。
だから、反対意見はなかったですね。

管理人

小林さんは新規就農に向けて、まずはどのように動いていったのですか?

小林さん

新規就農すると決めてからは、まずは作物やイニシャルコストについてリサーチしました。
・反収で100万円以上が見込める
・必要な農機が少なくてイニシャルコストが低い
・砂地の放棄地が目立つから、容易な規模拡大が見込める
という点で、白ネギを栽培することになりました。

だから稲作+白ネギの師匠となる農家に、会社を辞めてから不定期で1年ほど、研修のような形で勉強しました。

管理人

新規就農者は、まずは高反収が見込める作物が選択肢としては良さそうですよね。
イニシャルコストと放棄地の話が出ましたが、小林さんの初期投資と農地確保についての話が聞きたいです。

小林さん

資金に関しては、本当は次世代農業人材投資資金の経営開始型を受ける予定だったんですが……。
世帯年収600万円以上は除外という所に引っかかってしまい、受けられませんでした。
とはいえ新規就農を見据えてお金は貯めていたので、自己資金で1000万円準備して就農しました。

管理人

世帯年収600万以上というのは、同居家族が働いていれば通らない数字でしょうから、補助金の条件は厳しくなっていますね。
でも、1000万円を自己資金で準備できたのは、大きなゆとりになりますよね。

小林さん

準備した自己資金で、初期投資として白ネギの農機を揃えました。
ちょうど離農する農家の方から、動噴や皮むき機や管理機などの、白ネギが始められる農機が中古でまとめて購入できまして。
就農当初は借りて使わせてもらっていたトラクターも、2022年に新品で購入しました。

管理人

就農するタイミングを計っていたということですが、まさにタイミング良く中古の農機を譲り受けできたんですね!

小林さん

農地探しは、砂地が多そうな海岸線を車で走って、耕作放棄地をピックアップしていきました。
目星をつけた農地を、地元JAや農業委員の方に相談して。
畑管があってまとまっている掛川市の農地を借りて、2020年に新規就農をスタートしました。

砂地での白ネギ栽培

白ネギ栽培の縮小と苦労

管理人

では、現在の小林さんの栽培はどんな感じですか?

小林さん

1~3月出荷の白ネギを30a栽培しています。
労働力は基本私1人で、白ネギの出荷調整の時にパートさんに手伝いに来てもらっています。
白ネギの作業が余裕がある夏には、防除ヘリのオペレーターをしています。

管理人

防除ヘリは、前職の経験を活かした仕事ですね!
でも夏にも、白ネギの苗の管理とかの仕事があるのでは?

小林さん

あ、白ネギの苗はJAから買っています。
苗場を建てて培土や種を買って苗から育てると、1ha以上の白ネギを栽培しないと割に合わないと計算したんです。
毎日の水やりや病害虫の心配は尽きないですし、多少苗代がかかっても、確実にいい苗を仕入れた方が、時間も作れますから。

管理人

他の作物でも、育苗し終わった苗を買うのは主流になりつつありますよね。
そんな小林さんの、栽培面でのこだわりはありますか?

小林さん

牛糞堆肥や転炉スラグ、汚泥肥料などで土づくりをしています。
砂地は肥料が抜けやすいので、肥持ちを良くするイメージですね。
産廃として捨てられる資材をリサイクルして使うことは、地域にとってもプラスだと考えています。

管理人

砂地の特徴を活かすための土作り、ですね。
それでは栽培面では、大きな失敗したことはありませんでしたか?

小林さん

いや、猛暑には本当に苦戦しています……。
2020年の就農当初はまだ暑さもマシでしたから、順調に農地を拡大して売上も伸ばせたんですけど……、
2023年2024年から、一気に難易度のステージが変わりましたね。
白ネギの夏越しが難しく、出荷時期も1ヶ月以上遅れて、反収も一気に落としました……
農業所得が300万円を切った時に、離農を考えたことも何度もあります。

管理人

やはり白ネギも、近年の暑さに苦戦しているのですね…。
にしても、ダメな年で所得300万円あるなら、全然辞めなくてもいいのでは!?

小林さん

農業をする目的や売上目標は人それぞれなので、否定するつもりはありません。
だけど私の場合は、元々起業して稼ぐために農業に参入したので、サラリーマンと同等以上の収入でないと納得できなかったんですよね。
だけど夏の白ネギ対策で、まだやり残したことがあって、離農したら後悔しそうな気がしたんです。

管理人

離農寸前の状況から、どのように白ネギの猛暑対策をしていったのですか?

小林さん

まずはMAXで1ha弱栽培していた白ネギを、現在の30aまで減らしました。
白ネギ栽培は反収は高いのですが、防除や出荷調整に手間と経費がかかります。
だからうまく白ネギが育たなかった農地は、利益がマイナスになる可能性もあるんです。

小林さん

あとは根本的に白ネギが弱って病気が出るので、やっぱり地力を上げて病気に強くしないといけないと思っています。
具体的には土壌消毒を試したり、アミノ酸やケイ酸、亜リン酸などのバイオスティミュラント資材も試していく予定です。

管理人

栽培面積を減らして品質アップに努めるという、体制の立て直しをしたのですね。

夏には防除ヘリのオペレーターの仕事もこなす

全量JA出荷で、浮いた時間は稲作への勉強に充てる

管理人

現在の小林さんの販路はどんな感じですか?

小林さん

白ネギは、全量JA出荷です。
一番効率が良くて、しっかり売上が出る出荷先がJAだと思っているからです。

管理人

基本はJA出荷なんですね。
直販は考えないのですか?

小林さん

直売所やECサイトでの販売も当然検討はしましたし、経費計算もしましたよ。
だけどB品が出品できたり、JAより100円高い価格がつけられたりするくらいでは、手間と手数料が見合わないと判断しました。
JAに委託して浮いた時間は、将来やりたいことのための勉強に充てようと思っています。

管理人

なるほど。
それで、小林さんが将来、白ネギや防除ヘリ以外に取り組みたいこととは?

小林さん

実は何年後になるか分からないんですけど、稲作への参入も検討していまして。
白ネギ栽培を減らした分、米農家さんの手伝いをしながら、米の勉強をしています。
15ha以上抱えている後継者を探している米農家さんが近い地域にいれば、私が手を挙げたいと思ってるんです。
白ネギ+稲作という、私の師匠の作型ができれば理想ですね。

管理人

まとまった田んぼや地主の理解という部分で、稲作への新規の参入はハードルがありそうですけど、
農地や農機などの地盤を引き継げるのであれば、可能かもしれませんね!
水稲の防除ヘリのオペレーションともつながってますし、ご縁があるといいですね!

稲作への参入も視野に

就農希望者に対してのアドバイス、「細部まで経費計算する」

管理人

経費計算や計画をしっかり立てるというお話が何度か出てきましたが、小林さんは経営者として、数字への意識が強い印象ですね。

小林さん

だって徹底的に数字を突き詰めて、就農前にリサーチすることが全てだと思っていますから。
就農計画に穴がないかを細部まで突き詰めても、それでも実際に就農したら予期せぬマイナス要素が出てくるので。
現在は肥料や種苗費、資材など、全ての経費が上がり続けているので、
就農前に解像度が高い就農計画がなければ、必ず失敗すると思っています。

小林さん

私の白ネギ栽培の師匠は、
・出荷用の段ボール組み立て時に使用するビニールテープ60㎝が何円か
・100m管理機で畝立てするのに何分掛かるか
など、全て計算してますよ!
豪農がここまで細かく経費計算しているのだから、新規就農者も見習わないといけないと思っています。

管理人

そのくらい細部まで計算しないと、農業の解像度って上げられないんですね。
参考になります。
最後に、小林さんの今後の目標を聞かせてください。

小林さん

私の周りには1億を超える売上を出してなお、上を目指す方もいますけど……、
私は売上より決算書の数字、特に利益率を良くしたいという意識で農業をしていきたいです。
ベンチャー企業時代のような無茶な働き方をせずとも、ちゃんと生計が立てられるような農業を目指したいです。

管理人

取材させていただきありがとうございました!

細部まで就農計画を立てた白ネギ栽培
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