奥出雲に移住して新規就農!有機JAS取得の地域伝統の栽培を、キャラクターでPRする戦略

記事の内容

東京から奥出雲に移住して新規就農

地域の畜産と連携した循環型&有機JAS栽培

キャラクターやストーリーを付ける販売

今回インタビューした農家は、島根県仁多郡奥出雲町の、(株)「うちの子も夢中です」代表の大塚一貴(おおつか かずたか)さんです。

東京のゲーム制作会社を辞めて、父方の故郷である奥出雲に移住&新規就農!

農業マンガも大人気の「うちの子」さんの、就農までの経緯や奥出雲伝統の栽培、キャラクターでPRする販売などについて取材しました!

目次

東京から奥出雲に移住&新規就農

ナス男(筆者)

うちの子さんは農業をする前はどんな仕事をされていましたか?

うちの子ちゃん

東京で生まれ育ったゲームが好きな子どもで、大学卒業後はゲーム制作の会社に入社しました。
夏休みになると、父の出身地である奥出雲に毎年帰省していました。
虫取りをしたり、家庭菜園の野菜を祖母と収穫したり、東京ではできない体験はすごく楽しくて!
「私も定年になったら、奥出雲でのんびり田舎暮らししよう」なんて、漠然と考えていましたね。

ナス男(筆者)

東京で生まれ育って、東京で仕事をされていたのですね。
そこから奥出雲に移住した理由はなんですか?

うちの子ちゃん

2011年の東日本大震災があり、私も妻も価値観が一変しまして。
なかなか子どもを授かれなかったこともあり、思い切って都会を離れて、自然豊かな奥出雲に移住することを決断したんです。
都会の喧騒やストレスから解放されたのが良かったのか、移住してから子どもを授かることができまして!
私たち夫婦にとっては、奥出雲に来て正解だったと思っています。

ナス男(筆者)

移住の決断によって、状況が好転したのですね!
子どもも誕生して良かった!
うちの子さんは奥出雲での仕事は、農業と決めていたのですか?

うちの子ちゃん

そうですね。
帰省中に祖母の畑でお手伝いをしていたのが楽しかったのもあって、せっかく田舎に移住するからにはと、農家になることを希望していました。
だからまずは役場にかけ合って、研修先を紹介してもらいました。

ナス男(筆者)

なるほど、農家になるために、まずは研修をされたのですね。
実際に農作業をしてみて、農業のイメージは変わりましたか?

うちの子ちゃん

2年間地元のキャベツ農家さんの所で研修をしたのですが……、
想像以上に大変で、農業=のんびりスローライフというイメージが180度覆されました(笑)。
「雑草とか太陽は、もっと自重するべきだろ!」
などと愚痴を言いながら、だけど農業の土台となる栽培技術や心構えができたことはプラスになりましたね。

ナス男(筆者)

農業=スローライフという幻想が、研修中に打ち砕かれる方は多いですよね(笑)。
ところで気になるのはお金の面なのですが、うちの子さんはサラリーマンを辞めて就農するときに、お金の不安はありましたか?

うちの子ちゃん

研修中は島根県のふるさと島根定住財団の産業体験制度を受け、その後は準備型経営開始型を受けました。
就農準備資金・経営開始資金
トラクター、動噴、洗浄機、収穫機などの農機は新品で揃えていったので、正直お金の不安は頭の中をよぎりました。
ただ我に返って考え直してしまうと、間違いなく移住して就農しなくなると思ったので、作成した資金繰り表はあまり見ないようにしていました(笑)。

主力作物のニンジン
ナス男(筆者)

不安をかき消すには、ある種の勢いが大事なんですね。
ところで新規就農者は農地探しに苦労する印象があります。
うちの子さんは農地探しは順調でしたか?

うちの子ちゃん

農地探しには困りませんでしたね。
というのも奥出雲は中山間部ですが、国営開発農地というのが371haぐらいありまして、基本的に十分な農地が借りやすい状態であることは知っていました。
農地を増やすのも同様で、「借りてくれないか」という地主さんが多い地域なんですよ。
山林に還っているような農地もありますが、就農1年目からある程度の規模の農業をすることは可能だったんです。
ということで2014年に、1haの農地で独立就農をスタートさせました。

特徴のある農業

ナス男(筆者)

十分な規模の農地を借りてスタートできたのは何よりでしたね。
では、現在のうちの子さんの栽培状況はどんな感じですか?

うちの子ちゃん

露地12haでニンジンとキャベツ、ハウス20aでホウレンソウを栽培しています。
・ニンジン
播種3月~9月 収穫7月~翌3月
・キャベツ
定植4月~5月 収穫6月下旬~7月
定植8月 収穫11月~12月
・ホウレンソウ
播種3月~10月 収穫4月~12月
という作型で、労働力は家族労働2人、常勤雇用2人、季節雇用2人という体制です。

ナス男(筆者)

新規就農から数年で、かなりの面積ですね!
今の作型になった経緯はどんな感じですか?

うちの子ちゃん

島根県奥出雲町は野菜に関しては物量が少なく大産地に遠いため、単価の面で他産地に比べて不利なケースが多いんです。
ですから直販前提で、いい価格で取り扱ってもらえる都市部のスーパーに通って、売れる野菜をリサーチしました。
その中でニンジンとホウレン草という、1つの家庭で1~3袋/週は消費する普段使いの野菜が候補になりました。
ニンジン×ホウレン草のセットの120サイズ段ボール出荷だと、回転効率が良くかつ1箱にたくさん入るため、㎏単価に加えて1箱利益率が良くなるという理由ですね。

ナス男(筆者)

実際に都市部のスーパーでリサーチして、輸送コストも抑えた作物選択なんですね!
そんなニンジンやホウレン草の、栽培面のこだわりはありますか?

伝統的な和牛放牧を組み合わせた栽培

うちの子ちゃん

特長的なことと言えば、日本農業遺産に認定されている、奥出雲の伝統の和牛放牧を休耕畑でしています。
あえて雑草を生やして牛に食べてもらうことで、雑草の根っこや牛の堆肥などで、勝手に地力が上がることを目的としています。

ナス男(筆者)

和牛放牧を組み合わせた循環型の農業、ということですかね。
理屈は分かるんですけど、なかなか畜産農家に空いた畑を貸している農家はいませんよね?

うちの子ちゃん

たしかに現代の農業は専作農家が多いので、効率化の面から、和牛放牧のために畑を空けるという発想は出ないと思います。
しかし和牛放牧との連携は、視点を変えれば非常に合理的で、年間で見れば畑の管理コストはむしろ安くなるんです。
うちでは年間で休ませる畑が1haほどあるのですけど、トラクターで雑草を倒すのも面倒だし、燃料費もかかるじゃないですか?
そこで和牛たちに畑を任せることで、夏の一番忙しくて雑草が伸びる時期を、ニンジンやキャベツの管理に専念できます。

地域伝統の和牛放牧を組み合わせた農業
ナス男(筆者)

なるほど!温故知新!
畑が余っている奥出雲という地域と、相性がいい農法なんですね。

地域の有機物を利用、有機JAS栽培

ナス男(筆者)

うちの子さんは地元の肥料を使用し、有機JASを取得して栽培されていると伺いました。

うちの子ちゃん

そうですね。
・菜種油粕、大豆粕
・牛糞と蕎麦殻の堆肥
・発酵鶏糞や米糠もみ殻
など、奥出雲で手に入る有機物をブレンドしたものを肥料にしています。
化成肥料7割減農薬8割減という特別栽培の畑もありますが、有機JAS圃場は年々増えていますよ。

ナス男(筆者)

なるほど。
でも意地悪な質問になっちゃいますけど、農薬や肥料の制限がある有機栽培や特別栽培って、難しくないですか?

うちの子ちゃん

たしかに、慣行栽培ならもっと楽に作れるなと思うこともあります(笑)。
だけど農薬を減らして奥出雲の有機物を使うことで、地域の循環が生まれ、それがストーリーになります。
高価格帯のスーパーだと、農薬や有機質肥料にこだわっている野菜の需要が高いんですよ。

販売先に求められるものを作るという、うちのポリシーに沿った結果の栽培方法ということですね。

ナス男(筆者)

まさに、プロダクトインの栽培なんですね!
そんなこだわりのある栽培面で、失敗したことはありますか?

うちの子ちゃん

たくさん失敗してきましたよ…。
就農当初は特に、ニンジンの栽培に苦戦していました。
というのも、奥出雲の畑は日本で唯一の「雲南真砂土」という、肥料が抜けやすい土質なんです。
肥効のコントロールができずに、最初はニンジンが細くて、1本100gあるかないかのばかりでした。
島根県や雲南真砂土でのニンジン栽培にマニュアルがほぼなかったので、独学でやるしかなかったんです。

ナス男(筆者)

独学で手探りで栽培方法を見つけるのは、根気が要る作業ですね……。
具体的にはどのように、ニンジンの栽培方法を確立していったのですか?

うちの子ちゃん

1畝ごとに株間や条間、肥料の量を変えて、生育検査や品種試験を地道にやりました。
試行錯誤を繰り返すうちに、雲南真砂土のクセやニンジンの根域が意識できるようになって。
現在では就農1年目より肥料量を減らしても、逆にニンジンの収量や品質が上がるようになりましたね!

ナス男(筆者)

苦労して得た成果で、以前よりもさらにパワーアップした栽培になったわけですね。

キャラクターを前面に押し出した直販

ナス男(筆者)

現在の販路はどんな感じですか?

うちの子ちゃん

JAと市場35%ほどです。
あとは「うちの子も夢中です」のブランド名で都市部スーパーの仲卸や、島根県内のスーパーに65%ほど出荷しています。
先述したとおり、JAや市場に全ての作物を頼れる地域ではないので、ブランド野菜として都市部や島根県内のスーパーに活路を見出しました。

ナス男(筆者)

うちの子ちゃん、思わず手に取りたくなるかわいらしいデザインですよね!
でも「顔が見える農家」という販売をされている農家さんが多い中で、キャラクターで売り出そうを思われた理由はなんですか?

うちの子ちゃん

農家の顔を載せる売り方を否定するつもりはないですけど、属人的になって代替わりがしにくいイメージがありまして。
私が代表から退いた時や、将来的に仕入販売をするとなった時に、キャラクターであればブランドが引き継ぎやすいと考えました。
実際に野菜売り場に並んでいる「うちの子ちゃん」がバイヤーの目を引いて、商談をいただくこともありますよ!

ナス男(筆者)

バイヤーからも一目置かれるキャッチーさはすごいですね。
ただ認知度がある農家でも、大手スーパーの仲卸と契約するのは、足元を見られて難しいというイメージがあります。
うちの子さんは、どのように交渉を進めていったのですか?

売り場で目を引くニンジンのパッケージ
うちの子ちゃん

いや、商談相手が大手のバイヤーだとしても、個人農家では難しいとは感じていませんね。
というのも、単にこちらの価格や物量などを包み隠さずお話しして、バイヤーの方に納得して貰えばいいだけですから。
大幅な譲歩はできないという姿勢で、納得してくれなければ買って貰わなくていいというスタンスですね。

ナス男(筆者)

商談成立のラインを超えた取引は、断る姿勢が大事なんですね。
独自のパッケージで販路の多角化をしていく中で、失敗や苦労はありませんでしたか?

うちの子ちゃん

まあ異質なパッケージが気に食わない人もいたでしょうし、色々な雑音は聞こえてきましたよ。
だけど色々な意見を迎合して角が取れると良くならないのは、ゲーム製作で思い知っていますので、
取引してくれるバイヤーや運送会社、そしてお客様の意見だけに集中しました。

農産品も目立ちつつ、かつキャラクターも際立つ絵の占有率を見極めるまで、型版製作に3ケタ万円は投入しましたね。

ナス男(筆者)

あえて多くの意見を聞かないという方法、参考になります。

今後の目標や就農希望者に対してのアドバイス

ナス男(筆者)

うちの子さんの今後の目標はありますか?

うちの子ちゃん

世界の子どもたちの共通言語になる「美味しい」を作り出すという、「うちの子も夢中です」の言葉に込めた思いを達成したいですね。
しかしまだ道半ばなので、栽培も毎年改善しながら、時間があれば店頭に出向いてリサーチを重ねています。

ナス男(筆者)

栽培もバージョンアップしていて、今でも店頭でお客様の購買行動を見るんですか!

うちの子ちゃん

だって現地で目で見て調査しないと、問題の根源が分からないじゃないですか?
それに、
「なぜ栽培に失敗したか、なぜ店頭で手に取ってもらえなかったか?」を言語化して説明できないと、失敗の意味がないとは思ってますから。

子どもたちの共通言語になる「美味しい」を作り出す
ナス男(筆者)

失敗を言語化、勉強になります。
最後にうちの子さんのように、移住や新規就農を志す方にアドバイスがあればお願いします。

うちの子ちゃん

正直に言うと……。
農業資材の高騰と野菜の売価が低調なので、今の就農はあまりおすすめできないです。
どうしても新規就農したいのであれば、まずは大きな農業法人で働いてからの方がいいと思います。
農業経営がしたいのか、農作業がしたいのか、田舎暮らしがしたいのか。
農業法人で働く中で、自分がしたい農業をきちんと分解分析したほうが良いですね。

ナス男(筆者)

取材させていただきありがとうございました!

農家さんのリンク

こぼれ話:農業生産以外のデザイン部門

うちの子ちゃん

ちなみに妻も私と同じゲーム会社で3Dデザイナーをしていて、会社として農業生産部門の他にも、デザイン部門があるんです。
農業法人や行政からのデザインやマンガ制作などの受託、あとはシステム開発のデザイン受託と仕様作成などの仕事を受けてますね。

ナス男(筆者)

農業に密接する形でデザインができる環境だと、よりリアリティがあって伝わりそうですよね。
noteでのマンガの連載も、奥さまがされているんですか?

うちの子ちゃん

そうですね、「うちの子も夢中です」のストーリーの宣伝も兼ねて、妻が製作しています。
noteのインプレッションは、月間で150万ぐらいじゃないかな。

ナス男(筆者)

えっ、めちゃくちゃバズってる!
note民の中では、うちの子さんは有名な農業系インフルエンサーなんですね!

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