漁師が陸に上がって新規就農!直売所で売り切る個人農家のマーケティング戦略

記事の内容

新規漁業→新規就農

季節に応じた野菜を直売所で販売

地域で認知されるための個人農家のマーケティング

今回インタビューした農家は、愛媛県新居浜市のはがた農園代表の波片仁志(はがた ひとし)さんです。

新規で漁師→新規就農という、異色の経歴!

新居浜市では有名なはがた農園さんに、就農した経緯や栽培や販路、個人農家のマーケティングについて取材しました!

目次

新規で漁業→新規就農

ナス男(筆者)

農業をされる前はどんな仕事をされていたのですか?

波片さん

北海道や愛媛の建築系会社にちょっと勤めてましたけど、一番長く就農の直前まで働いたのは、漁師の仕事ですね。
ある時にテレビで放送していた、命懸けのマグロ漁の特集に感動しまして!
「俺も漁師として、己の腕一本で稼ごう!」
と思い立ち、中古の船を300万円で購入しました!

他の漁師に習いながら、瀬戸内海でサワラやタチウオ漁などを13年間していて。
自分で言うのもあれなんですけど、2000年以前はけっこう稼いでいましたよ(笑)!

ナス男(筆者)

なんと!新規で漁業を始めたのですか!!
でも、稼ぎも良かったという状況から、なぜ漁師を辞めたのですか?

波片さん

一言で言えば、稼げなくなってしまったからです。
漁師を始めた2000年以前は40円/ℓだった重油代が、2010年過ぎた頃には90円/ℓ台になって。
船の燃料代から資材経費、魚の輸送費まで全て値上がりして、利益が圧迫されてしまいました。
水揚げ量も減少していましたし、海に投げ出されて〇にかけたこともありましたから、もう漁師を諦めて陸に上がることにしたんです。

ナス男(筆者)

重油代は年々上がって、今では110円/ℓを超えていますよね…。
命懸けの仕事が稼げなくなったら、心が折れます…。
農業に興味を持ったきっかけはなんでしたか?

波片さん

知り合いだった方の農業法人に誘っていただいて、働くことになったんです。
米の生産やニンジン栽培をするうちに、自然の中で働く農業の魅力にハマりました!
漁師の時と同じように、やるからには己の腕で稼いで責任を全部自分で取りたいと思うようになって。
2年間働きながら、独立新規就農を目指すことにしたんです。

ナス男(筆者)

そういう経緯だったのですね。
でも漁師になった時も農家を目指した時も、波片さんは結婚されていて、お子さんもいたんですよね?
周囲の反応、特に奥さまは何と言われたのですか?

波片さん

妻には「食べれるだけのお金を稼げるなら、何やってもいいよ」といつも言ってもらっているので、感謝しています。
私の意見をいつも尊重してくれている分、責任を感じながら毎日の農作業に取り組んでいますね。

漁師時代の頃の波片さんと子どもたち

2年間の農業法人での勤務中に、農地を確保して独立

ナス男(筆者)

独立就農するためには、農業経験に加えて、農地も並行して探す必要がありますよね。
新規就農者の方は、農地探しに苦労するイメージがあります。
波片さんはどうでしたか?

波片さん

おっしゃるとおり難しいですし、農地探しの間に本当に色々な苦労がありました……。
最初は30aほどのミカン畑を引き継ぐ話をいただいて、栽培管理していたんです。
でも収穫直前で「やっぱり返せ」と言われて……
就農する前から地域で揉めたくなかったので、引き下がるしかなかったです。

ナス男(筆者)

えぐい「農地の貸しはがし」……。
借りる側が泣き寝入りになっちゃうのは、問題になってますよね。

波片さん

それでも縁あって、先輩就農者の方に新居浜市の農地を紹介してもらいました。
控えめに言ってジャングル化した耕作放棄地でしたけど、
「やっと俺も独立農家になれるぞ!」
と、放棄地整備の苦労よりも、ワクワク感が勝っていましたね!

そんなこんなで2016年に、約30aのニンジン栽培から、独立就農をスタートさせました。

ナス男(筆者)

耕作放棄地でも農地が確保できて、農業がスタートできたのは良かったですね!
あとは、気になるのはお金の面です。
就農時の運転資金と農機代は、どのように工面したのですか?

波片さん

新規就農後は、次世代農業人材育成資金(経営開始型)を受けていました。
就農準備資金・経営開始資金
農機は管理機とマルチャー、フレールモアなどは、青年等就農資金の融資を400万くらい受けて揃えましたね。
青年等就農資金
トラクターは地主さんのものを譲り受けたので、トラクターのアタッチメントを買い足した感じです。

ナス男(筆者)

補助金などが受けられたのは助かりますよね。
では、就農後はスムーズに農業経営が進みましたか?

波片さん

いやいや、就農の補助金は助かりましたけど、それでも生活は大変でしたよ。
経営開始型が終了してから2年ほどは、朝にトラックドライバーをして、生活費の足しにしていました。
初年度はスマホで栽培方法を検索しながら、とにかく必死にニンジンを育てて。
私に農地を預けたいという方に声をかけてもらって、徐々に栽培面積が増えていきました。
おかげさまで、今は農業だけで生計が立てられていますね。

ナス男(筆者)

やっぱり就農後の数年間は、大変なことも多いんですね。
でも、農業に取り組む姿勢を見て応援してくれる方が少しずつ現れるのは、新規就農あるあるかもしれませんね。

ニンジンをメインにした、季節の野菜を栽培

ナス男(筆者)

現在の波片さんの作型と経営規模を教えてください。

波片さん

3.5haで、ニンジンをメインに季節に応じた野菜を栽培しています。
・春と秋はジャガイモ、
・夏はナス、ピーマン、ズッキーニ、ニンジン
・冬はニンジン、ダイコン、ほうれん草、かぶ
みたいな感じで、毎日何かしら直売所に出荷できるような作付けをしていますね。
基本は私一人で栽培していて、直売所への出荷は妻がしています。

ほうれん草の収穫をする波片さん
ナス男(筆者)

3.5haにも増えたんですね!
波片さんの、栽培のこだわりはありますか?

波片さん

うーん、人並みにはこだわっていますけど、明確に栽培や土づくりの違いとかはないですね。
あえて挙げるとしたら、秀品率を上げることは意識しています。
直売所はJA出荷分の余りを出すとか、等級の落ちる野菜を安く売り出すこともできるんですけど……
うちは品質に妥協せずに、直売所にきれいな野菜を出し続けています。

ナス男(筆者)

なるほど。
当たり前のことなのかもしれませんけど、甘えを捨てて品質を落とさずに出荷してるのですね!
それでは独立就農後は、栽培面で失敗はありませんでしたか?

波片さん

いやいや、毎年のように何かしらの作物で失敗していますよ……(笑)。
・葉物野菜がヒヨドリにつつかれてダメになったり、
・ジャガイモが病気で全滅したり、
・猛暑でニンジンが発芽しなかったり……
でも複数の作物を作っているので、何かがダメでも他の作物でカバーできてるんですよね。

ナス男(筆者)

リスク分散になるという、複数作物を栽培するメリットがあるわけですね。

直売所で売り切る個人農家の戦略

ナス男(筆者)

直売所の話が出ましたが、波片さんの現在の販路は直売所がメインなんですか?

波片さん

そうですね。
ほぼ全ての野菜を、新居浜市のJA系列の直売所とスーパーの地場野菜コーナー、計12店舗に出品しています。
ニンジン専作を目指して市場に出荷していた時もありますけど、複数の作物で直売所で勝負するスタイルが、私には合っている気がしますね。

ナス男(筆者)

市内の12か所で!
新居浜市のどのスーパーに行っても、はがた農園さんの野菜が置いてある感じですね。

波片さん

まさに、
「新居浜市の野菜売り場には、はがた農園の野菜がある。」
と、消費者の方に覚えてもらうのが狙いです!

多くの方に認知してもらえれば、野菜の味や見た目には自信がありますので、ほぼ毎日売り切れますね!

ナス男(筆者)

えっ、ほぼ毎日売り切れですか!
何か特別な工夫をされているのですか?

波片さん

特別かは分からないですけど、きれいな野菜を出し続けることの他にも、
・顔と名前がすぐに一致するような、はがた農園のシールを貼る
・彩りを意識したコーナー作り、
・ジャガイモやニンジンを一緒に並べて、カレーを連想してもらう

など、主婦の方に手に取ってもらえるような工夫をしています。

直売所のはがた農園さんのコーナー
ナス男(筆者)

献立をイメージできると、手に取ってもらいやすいかもしれませんね。
いや、でも……値下げ合戦に巻き込まれたりとかしないですか?

波片さん

たしかに価格競争は、どの直売所でも起こりうることですね。
だけど私は、全く値下げしません。
ちゃんときれいな野菜を、周りの価格に引っ張られずに出し続けていますよ!

色々なマーケティングの施策をしていますし、はがた農園の名前と野菜の美味しさをリンクして覚えてもらえば、値下げに付き合わずとも買ってもらえると思っています。

マーケティングにつながる様々な取り組み

ナス男(筆者)

マーケティング、ですか。
なかなかビジネスの勉強をしている農家は少ないですよね。

波片さん

まあでも私の場合は、ほぼ一人で農業をしているんで。
既存の農家のマネをしても、規模や知名度では太刀打ちできません
試行錯誤の結果、農業生産につながるような施策をいくつか打っています。

ひまわり畑

ナス男(筆者)

はがた農園さんはひまわり畑がSNSで有名ですよね。
これはどういうマーケティングですか?

波片さん

最初はひまわり畑は、空いた畑の緑肥のつもりだったんです。
だけど、「風景がきれいだ」と立ち止まって写真を撮る方が増えて。
畑に入って写真が撮れるスペースを設けたら、新居浜市の観光スポットとして検索結果に載るようになりました!
ニンジンのはがた農園の看板を入り口に立てて、名前を覚えてもらえるようにしています。

ナス男(筆者)

たしかに、「ひまわり_はがた農園」で記事や画像がいくつもヒットしますね!
緑肥の効果と合わせて、一石二鳥ですね!

学校給食×ニンジン

波片さん

あとは少量ですが、ニンジンを新居浜市の学校給食に卸しています。
そうすると新居浜市の子どもたちは、必ずはがた農園のニンジンを食べますよね?
給食の時間は食育の一環として、生産農家のVTRが流れたり、農家が給食に呼ばれたりしますから、
子どもたちに「ニンジンのおっちゃん」で覚えてもらえます!

子どもたちがお母さんとスーパーに行って、はがた農園のシールを見たら、
「給食のニンジンのおっちゃんだ!買って!」
って言ってくれるでしょ!?

はがた農園さんのシールとニンジン
ナス男(筆者)

なるほど…。
子どもに野菜を買ってと言ったら、お母さんはその野菜を買うでしょうね。
でも学校給食って、そこまで高く取引してもらえるんですか?

波片さん

いえ、給食は予算が決まっているので、決して高い価格でニンジンを卸しているわけではありません。
でも私は、決して高値でなくてもいいと思っています。
知名度を上げるためにCMを流すよりも、よっぽどピンポイントに子どもたちに「試食」してもらえますから!

ナス男(筆者)

いやあ、勉強になります!
小難しいマーケティングの知識を、個人の農家の戦略にまで落とし込んで実践しているのはすごいですね。

波片さん

他にもお漬物プロジェクトとか、ニンジンの高級ギフトボックスとか、畑のキャンプとか、色々企画しましたね。
これらも当初の目的は別にあるんですけど、最終的には知名度アップに寄与していると思っています。
全国で有名な農家にならなくてもいいんです。
「新居浜市のはがた農園」として覚えてもらえればいいんです!

今後の目標や就農希望者に対してのアドバイス

ナス男(筆者)

就農の経緯もキャッチーだし新居浜市で知名度もあるし、「波片さんみたいな農家になりたい!」という若者が訪ねて来るんじゃないですか?

波片さん

そうですね、私のネットの記事を見て、今までで就農希望者が20人以上来ました。
彼らに農業を経験してほしいから、
「自由に作っていいよ、実際に就農をイメージして。」
と農地の一画を貸しているんですけど……
20人以上来た中で1人も就農までたどり着かずに辞めてしまうのが現実です。

ナス男(筆者)

うっ、やっぱり新規就農のハードルは高くて厳しいですね……。

波片さん

新規就農はたしかに、金銭的にも精神的にも難しいです。
・農作業が重労働
・作物がダメになってしまわないか不安で休めない
・機械投資の多さの割に利益が出ない

など、私も就農前に農業の厳しさを知りました。
でもそれでも新規就農したければ、反対意見を振り切って突き進んでほしいですね!

波片さん

あと新規就農希望者は、地域の清掃活動や役職など、地域に溶け込む努力はしましょうね!
地域の協力があって農業が成り立っているので、「栽培だけしていればいいや。」と独りよがりにならないようにしてください。

ナス男(筆者)

新規就農した波片さんが言うと、説得力が違いますね…!
取材させていただき、ありがとうございました!

農家さんのリンク

はがた農園さんの取材後記

元漁師というキャッチーな職歴が注目されがちな波片さんですが、

栽培や販売戦略に関しては、地道な試行錯誤や努力が感じられて「泥臭くて知的な」印象を受けました。

個人農家のマーケティングに関する本はほぼないので、はがた農園さんは中小農家にとっては参考にすべき事例だと思いました。

波片さん、インタビューを受けてくださりありがとうございました!

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