誰よりも赤くて大きなおいしい桃を目指して!山梨県南アルプス市の果樹農家の「ロックなモモ栽培」

記事の内容

ロックバンド活動に打ち込んだ過去

量を捨てて質を取るモモ栽培

高単価の直販と、妥協しないクレーム対応

今回インタビューした農家は、山梨県南アルプス市の南アルプスこまの園代表の野田圭介(のだ けいすけ)さんです。

他の農家とは違うロックなモモ栽培をされていて、市場やJAに頼らずにモモを売り切っています。

元バンドマンの野田さんに、就農した経緯や、こだわりのモモ栽培と直販の対応などについて取材しました!

目次

バンド活動ののちに農業の道へ

ナス男(筆者)

野田さんはどのような学生時代を過ごされましたか?

野田さん

地元山梨の大学に進学したものの、昼夜逆転の生活をしていたりしました。
授業よりもバンド活動をしてるような、模範的とは決して言えない学生でしたね(笑)。

ナス男(筆者)

そうだったのですね(笑)。
大学を卒業されてからは、何をされていたのですか?

野田さん

新卒で入った会社を1年で辞めて、バイトを掛け持ちしながら、バンド活動を全国でしていました。
お客さんの前でドラムを叩くのも楽しかったんですけど、CDショップに自分たちのCDを売り込みに行くのもやりがいがあったんです。
「どうやったらお客さんに楽しんでもらえるか、どのように売り込みに行くか。」
マーケティング的なことも考えながらのバンド活動の期間は充実していましたし、今の農業にも通じていると思いますね。

パンクロックバンド時代の名残り?
ナス男(筆者)

農家になるきっかけはあったのですか?

野田さん

農業をしていた母が病気になったことが、農業をするきっかけでしたね。
バンド活動を辞めた後も地元山梨県のいくつかの仕事で働いていましたが……それらを辞めて、2013年に親元就農しました。
親の衰えを補わなくてはと思いと、当時再婚したことで定職について家族を支えなければという思いがありましたね。

ナス男(筆者)

そんな経緯があったのですね。
ご実家が農家だったということですが、就農前の農業のイメージはどうでしたか?

野田さん

農業に対して、私は正直いい印象がなかったんです。
というのも、私の祖父は地域のJAの組合長や土地改良のまとめ役にまでなるほどの農家だったのですが……
・欲張ってたくさんモモの実をつけて、たくさん出荷して
・とにかくみんなにいい顔をして
そんな祖父の性格や農業が、幼い頃の私の価値観とは合わないなあと。
「欲張っておいしい状態じゃないモモをたくさん収穫するのって、なんか変じゃない?」
「まとめ役だからって、みんなにいい顔をしなくてもいいじゃん。嫌われたって、自分は自分だし。」

という感じで、幼い頃の私は声にせずとも祖父とは距離を取っていました。
まあ昔はたくさん出荷した分だけ利益が上がりましたし、集団から外れたことをすると怒られる時代でしたから、私の考えの方が生意気だったんですけどね。

ナス男(筆者)

野田さんは幼い頃から、当たり前を疑うようなロックな考えだったのですね。
その後実際に就農してみて、野田さんの農業のイメージは変わりましたか?

野田さんが栽培されているサクランボ
野田さん

変わりました、農業が好きになりましたね!
基本的には自分で考えて行動したことが、結果として出る所はやりがいがありますよ!
天候不順など、自然に抗えなくてどうにもならない部分もあるけど、
「意外と面白いじゃん、農業。」
って、就農から10年以上経った今でも感じています。

通常の10分の1ほどしか実をつけないモモ栽培

ナス男(筆者)

現在の栽培作物や労働力を教えてください。

野田さん

サクランボを5a、モモを1.7ha、スモモを10a、ブドウを35a、干し柿用原料柿を15a栽培しています。
サクランボとモモは私が、スモモとブドウと干し柿は両親が主に面倒を見ていて、忙しい時に数名のパートさんに手伝ってもらう感じですね。

ナス男(筆者)

栽培面積から見るに、南アルプスこまの園さんはモモが主力なんですね。
モモ栽培のこだわりはありますか?

野田さん

「誰よりも赤くて大きな甘い桃を作る。」ことをモットーにしています。
そのために通常はモモの成木1本に対して、摘果しても2000個のモモを成らせるところを、私は200~300個ほどまで落としています。
摘果を通常よりも多くすることで、赤くて大きくて甘い桃になると私は考えています。

時に500gを超えるほどの赤いモモ
ナス男(筆者)

えっ、通常の10分の1しか実をつけないんですか?

野田さん

そして果樹栽培に重要な日射量を高めるために、低くてコンパクトな樹形に仕立てを変えています。
他の農家が見れば、「枝が少なすぎないか?これじゃあ全然モモが採れないぞ!」と言われるくらいの樹形です。
さらに白タイベックの反射マルチを樹の下に必ず敷いて、地面に向かう日光をモモに反射させて、日光をモモに当てています。

ナス男(筆者)

あえて手間を省かずに栽培されているということでしょうか。
でもおいしくなると分かっている栽培技術を、周りの農家がマネしたがらないのはなぜなんでしょうか。

野田さん

摘果を多くして日射量を高めれば、理論上では赤く大きな甘いモモになるのはみんな分かってはいるのです。
だけど日当たりが良すぎて、モモの中身が焼けるような「みつ症」になりやすいという欠点もあるんですよ。
ただでさえ通常より多くのモモを摘果するのに、みつ症のリスクも上がる栽培は、誰もマネしたがりません(笑)。
反射マルチにしても、手間や桃の品種を考慮して、やらない農家も増えてきていますしね。

ナス男(筆者)

なるほど。
シンプルな栽培に見えて、リスクも隣り合わせなんですね。
そんなこだわりのモモ栽培は、野田さんが基本的に一人でされているのですよね?
大変なんじゃないですか?

野田さん

そりゃあもう、モモの収穫シーズンである6月下旬~8月中旬は大変です!(笑)
朝2時からヘッドライトをしながら収穫して、一人で調整や出荷もしながら晩飯の時間に帰るという生活が続きますね。
「収穫量が他の農家より少ないから楽なのでは?」と思われるかもしれませんが……、
特に私は完熟ギリギリでモモを収穫しているので、その一日のうちに収穫を終わらせないといけないんですよ。
若採りするなら多少余裕も出るかもしれませんが、モモは樹上で完熟させる方が、確実に甘くておいしいですからね。

ナス男(筆者)

約2か月、早朝から夜まで仕事……。
完熟での収獲って、瞬発力も持久力も要るんですね。
あとは失敗談もお聞きしたいのですが、今までで大きな失敗はありましたか?

野田さん

失敗はたくさんありましたが、特にこの数年にある品種の失敗がつづいています。
天候不順や袋掛けを外すタイミングが悪かったのか、
300個モモがついている樹が20本分、合計約6000個が全く収穫できなかった時はきつかったですね。

ナス男(筆者)

6000個のモモがダメになるなんて。
手をかけてこだわっている栽培の分、余計にダメージありますね……。
そこからどのように改善されたのですか?

野田さん

きっぱり諦めて、その品種の樹は改植することにしました。
18,19年経っている成木で、樹のしなりがなくなって枝が折れているものもありましたし、樹の限界が来ていたこともあると思います。

ナス男(筆者)

え、でもモモの樹を30年持たせる農家もいると聞いたことがありますよ?
野田さんは18年で、モモの樹を植え替えちゃうんですか?

野田さん

たしかに樹を30年持たせるようなモモ栽培をしている農家さんもいますが、私は15年を目処に改植しています。
私の仕立て方法や冬の消毒は、通常のモモの樹の仕立てよりも耐用年数が少ない仕立てだと思っていますから。
あとは気候も年々変わってきていますので、「もったいなくてモモの樹を切れない!」状況を避けるためでもあります。
昔見ていた祖父のモモ栽培のように、欲張りたくないんですよ!
手が回らなくなってモモの品質が落ちたり、収穫し切れなくなったりしたら逆効果ですからね。

低樹形のモモの仕立て
ナス男(筆者)

なるほど、欲張らないということはブレないわけですね。

1個1000円以上のモモを直販で売り切り、クレーム対応も妥協しない!

ナス男(筆者)

現在の販路はどんな感じですか?

野田さん

南アルプスこまの園としての直販と地元の直売所、あとはECサイトですね。
遠方への輸送があるJA出荷は、モモの若採りがどうしても基本になるので、うちはJA出荷には頼っていません。

ナス男(筆者)

JAや市場に頼らずに売り切っちゃうのはすごいですね!
だけど通常の10分の1しか成らせないモモは、どのくらいの価格で販売されているのですか?

野田さん

JAだと高くても取引価格がモモ1個350円ほどだと思いますが、私は贈答用としてモモ1個に1000円以上の価格をつけています。
つける実を少なくして美味しいモモを作っている自負があるので、価格も自分で設定しないと採算が合わないですから。
あ、JA出荷している農家さんを否定する意図はありませんよ!
あくまでもうちのやり方に合わないだけで、JA出荷で利益をちゃんと出している農家さんもたくさんいますからね。

ナス男(筆者)

1個1000円以上のモモ、なかなかいいお値段ですね。
ただそれでも、南アルプスこまの園さんのモモが食べたいというお客様がいるということですよね?

野田さん

当然高いと言われることもありますが、それでも私の栽培している20種類以上のモモを全て買ってくださるお客さんがいますね。
「こんなおいしいモモ、初めて食べた!」
「いつも品切れの貴重なモモが買えてうれしい!」
という声をいただくと、私の栽培は間違ってなかったと実感できますね。

店頭に立ってモモを販売することも
ナス男(筆者)

それはうれしいですね!
しかしモモは、輸送時に傷や潰れたりしてクレームになることが、どれだけ注意してもありますよね?
直販時のクレーム対応に、苦慮している農家も多いかと思います。
野田さんがクレーム対応に関して、工夫していることはありますか?

野田さん

私も他のモモ農家さんたちと同じように、ちゃんと選別して詰めていても、モモが傷んでいる状態で届いてしまうことは正直あります。
私のモモは決して安い金額ではないですから、買っていただいたお客さんへのアフターフォローは誠意を持って対応するようにしていますね。
クレームがこちら側に非がある場合は、返金か返品交換をするとあらかじめ伝えて、お客さんに選んでもらっています。
ただ稀には、理解不能なクレームをいただくこともありますね。
「こんな硬いモモは食べられない!こんな桃を作る生産者をなんでECサイトは登録しているんだ!」
というクレームも来たことがあります。

ナス男(筆者)

え、野田さんだけではなく、ECサイトも批判ですか…。
そのような度を超えたクレームは、どのように対応するのですか?

野田さん

・少しの痛みでも返金や返品にも応じて、
・モモの特徴や食べ頃まで書いて、
・質問にも分かりやすく答えて、
クレームに関しての非は一定認めますが、全く関係のない所にまでの批判に関しては、こちらも冷静に反論しています。
「モモの品種や食べ頃の目安は書いてありますし、質問は私に聞いてくれれば答えますよ?関係のない所にまで批判するのは間違っているのではないですか?」
という感じで。
丁寧に謝罪する方がクレーム対応としては正しいのかもしれませんが、理不尽なクレーマーにまでいい顔はできませんから。
反論して低評価がつけられようが、私は全く怖くないですよ。
商品レビューが全部高評価でも、嘘くさいじゃないですか(笑)。

ナス男(筆者)

クレーム対応にもやはり、幼少期の軸がぶれずに対応されているのですね。
理不尽なクレームに関しては、野田さんのような対応の仕方もあるのですね。

今後の目標や就農希望者に対してのアドバイス

ナス男(筆者)

野田さんの今後の目標を教えてください。

野田さん

今の高単価の栽培スタイルを、人を雇って規模拡大したいとかは、興味がないですね。
周りと違う栽培と販売をしている私のことを、「変わり者で気難しい」と感じている人もいるかもしれません。
でも私は、至ってシンプルな考えです。
天候に合わせて試行錯誤を繰り返しながら、これからも自分が信じる農業をしていく、それだけです。

ナス男(筆者)

ロックな農業をし続けていくということですね。
最後に野田さんのような、親元就農希望者にアドバイスがあればお願いします。

野田さん

「親との全面衝突だけは避けろ。」ですかね。
親の農業経営や考えが気に食わないこともあるかと思いますが、いずれ自分の代になる時が来るので、一部の畑だけで自分の考えを試していけばいいと思います。

ナス男(筆者)

取材させていただき、ありがとうございました!

こぼれ話:両親とは別経営

野田さん

ちなみに南アルプスこまの園の場合は、両親と担当作物も分けていますが、確定申告も両親とは別にしていますね。

ナス男(筆者)

えっ、経営を別々にされているのですね。
たしかに確定申告も分けた方が子ども側はやる気が出るでしょうけど、ご両親は賛成だったのですか?

野田さん

両親も別経営にすることは、賛成してくれました。
父親も就農したての頃は、祖父から給与をもらう形だったようですが、
頑張った成果が額面に出ないのは、父親も納得いかなかったようで。
まあスモモや干し柿の力仕事とかは、私が両親を手伝うこともありますけどね。

ナス男(筆者)

両親とは別経営にする形。
野田さんと同じような考えの方は、最近は増えているように感じますね。

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