中玉トマトを栽培していた両親の元に親元就農
食味を重視した品種への変更
直販メインの販売に切り替え
今回インタビューした農家は、茨城県結城市の㈱ファームアベタの阿部田誠(あべた まこと)さんです。
両親の中玉トマト栽培を引き継ぎ、ほぼ直販で販売されています。
栽培面や販売面で試行錯誤を続けてきた阿部田さんに、就農した経緯や今後の目標について取材しました!
就農経緯:両親の中玉トマト栽培を引き継ぐ

阿部田さんは就農する前の、農業に対するイメージはどうでしたか?



代々うちは養蚕やきゅうりを栽培していた農家で、私は農家の長男でした。
だから、いずれは農業を継ぐつもりでしたが……。
休みなく働いている両親をそばで見ていて、
「農業は大変そうな仕事だな。」
とは、子どもながらに感じていました。



ただ私が学生の頃に、大手企業との契約で、両親が中玉トマトの隔離培地栽培に乗り出したんです。
大玉トマトやミニトマトに比べて、まだ生産農家が少ない中玉トマト栽培へのチャレンジは、当時学生だった私にはかっこよく映りましたね。
だから2002年に大学卒業して、そのまま茨城県結城市の家業に入ることにしたんです。



大学卒業した年に、親元就農されたのですね。
就農を決めた時の周囲の反応はどうでしたか?



体力的には楽ではなかったですけど、不安や不満はあんまりなかったですね。
私が大学4年生当時は就職氷河期でしたし、
「働く場所があるのはありがたいことだ。若い労働力が1人増えれば、両親が少しは楽になるだろう。」
と思うようにしていました。



不安よりも、〈大手企業との取引価格が一定〉という安心感の方が大きかったです。
「生産に注力出来て、作った分だけお金になるぞ!」
と、就農して2,3年目までは単純に考えていました。



就農して数年は?
数年後に、農業経営に何かがあったのですか?



そうですね、大事件が起こりました(笑)。
取引していた大手企業が、中玉トマト事業から撤退してしまったんです!
契約を引き継いだ企業でも、年々中玉トマトの取引価格を下げられてしまって……。
「このままでは、うちの農業経営がヤバいぞ!」
と、やる気よりも危機感が増幅していったのを覚えています。



取引先が撤退……。
販路がなくなるという恐怖は、精神的にきついですね。



将来に向けての変革に迫られていました。
だから私が主導して、販路面でも栽培面でも、試行錯誤をしていったんです。


販路:契約出荷100%→庭先販売などの直販がメインに



企業との契約出荷から、阿部田さんはどのような販路に変えていったのですか?



2002年時点で企業との契約出荷が大半だったのを、飲食店や庭先や直売所などでの販売を増やしていきました。
「一か所の販路がダメになっても大丈夫。」というように、販路を複数作りたかったんです。
今では庭先販売の割合が約30パーセントくらいで、直売所やスーパー、ECサイトやふるさと納税返礼品で約40パーセントです。
残り30%はJAを通した市場出荷ですが、「ファームアベタの‘‘ゼッピン娘‘‘」というブランドトマトとして、店頭に並んでいますよ。



20年余りで、直販中心のトマトの販売に移行していったのですね!
直販が多く売れるのはすごいことですが、そもそもなぜ直販を増やそうと思われたのですか?
JAや市場出荷でも、利益を出している農家さんはいますよね?



共選出荷もしている農家さんも多いですし、ちゃんと利益を出している農家さんもいます。
だけど共選出荷の場合、こだわって美味しいトマトを作っても、組合でまとめて買い上げるじゃないですか。
なかなかファームアベタのトマトとして、評価してもらえないジレンマはありました。



こだわりが価格に反映されないのは、市場やJAあるあるですね。



直販のメリットはその他にも、
・価格決定できること
・販売手数料が低くなること
・その日に採れた鮮度抜群のトマトを並べられること
など色々ありますけど、一番は私が接客しながら自分の作ったものを販売するのが好きなんですね。
「高評価も低評価も直接聞いて、自分の責任でやりたい。」という気持ちがありました。



なるほど。
ところで一番売っている庭先販売って、どんな感じですか?



〈朝9時まで、夕方から〉みたいに、主に作業場で時間を決めて、来てくれるお客様に対面で販売する感じですね。
調整作業をしながら販売したり、不在の時は自販機でトマトを販売しています。
多い日には、30人以上がうちのトマトを買いに来てくれますね!



トマトの自販機!斬新!
それだけ毎日お客様が来てくれているのですね!
それでは、阿部田さんが販売面で失敗したことはありますか?



「サンプルで判断するから送ってくれ!」
と言ってくる業者に、トマトをタダであげたことは、失敗でしたね。
怪しいと疑りつつも、少量のサンプルを送ったんですが……、
案の定連絡が返ってこないということも、数件ありました。
だからそれ以降は、無料サンプルの提供は一切していません。
買ってみて価格以上の価値を感じたのであれば、取引しましょうというスタイルですね。



「食い逃げ」みたいなことをやる企業もあるとは!
他の農家さんも気を付けた方がいいことですね。



あとは失敗とは考えていませんが、
2年ほどトマトジュースもOEM(外部受注生産)で製造して販売しましたが、一時撤退しました。
・トマトがない夏場にも販売できるアイテムを揃えたい!
・贈答用のトマトジュースとしての需要があるだろう!
という狙いがあったのですが、
「美味しいけど高いわね。トマトと同じ価格ならトマト買うわ。」
というお客様が多くて、うまくPRしきれなかったんです。



大手企業が1ℓ数百円のトマトジュースを出していますが、それは企業の価格努力がすごいということなんですね。
個人農家の6次産業化、色々な議論がありそうです。


栽培:食味のいい中玉トマトへの品種変更



栽培面で、阿部田さんが変えていったことはありますか?



大きな変更点は、中玉トマトの品種を変えたことですね。
今までは契約企業が指定している品種しか選択肢になかったのですが、
直販メインに移行していくのなら、他の農家とは違う品種を育てようということで。
色々な品種を試していく中で、種苗会社から提案された「華おとめ」がビビッと来ました!
最初は試験的に10本ほどでしたが、年々増やしていき、4年後にはほぼ全て、6500本を華おとめに変えました。



直販用に品種も変えたのですね。
品種を選ぶ上では、高収量や病害虫の抵抗性など、条件は色々ありますが、
阿部田さんは、何を重視して華おとめを選択したのですか?



とにかく美味しいと思える品種!美味しさを重視して、華おとめを選びました。
華おとめは旨味が強くて、皮も薄くて口に残りにくいんです。
お客様にリピートしてもらうためには、美味しいトマトで、なおかつ他の農家があまり作らないような品種がいいのではと考えました。



他の農家はあまり作っていない品種…。
もしかして、食味抜群の華おとめには、栽培しにくい欠点もあるのでは!?



そうですね…(笑)。
葉カビや黄化葉巻といった、トマトの代表的な病気に対する抵抗性がある品種が台頭している中で、華おとめは抵抗性がないのは確かです。
他のトマト農家が病気が出ていなくても、私のハウスの華おとめは葉カビや黄化葉巻で大ダメージを受けている、なんてこともありました。



発病したら株ごと抜かないといけないという黄化葉巻病に、抵抗性がないのはきついですね……。



あとは、苗の価格も高めです。
華おとめの苗価格は1本約300円と、一般の品種よりも1.5倍ほど高いです。
ファームアベタでは6500本注文していますから。差額は相当ですね。



うっ、数十万単位で、他の品種との苗代に差が出るのですね…。



安定生産という観点では他の品種よりも難しいので、他のトマト農家ではしない気苦労は多くしてきています…(笑)。
それでも、美味しいと言ってリピートしてくれるお客様が多いということは、私の品種選択は間違ってなかったと思っていますよ!



それでは、現在のファームアベタさんのトマト栽培の規模と労働力を教えてください。



私が就農するタイミングでビニールハウスの規模を拡大して、現在はビニールハウス68aほどで、養液を使った隔離培地で栽培管理をしています。
高糖度トマトというよりも、華おとめ本来の旨味をしっかり出すような栽培を心がけていますね。
労働力は両親と私と、兄弟2人、あとはパートさんに5人働いてもらっています。



品種以外で、他の農家さんとの違いはありますか?



「華おとめ」の他にも、イエロー系やグリーン系などの、毎年20種類ほどのトマトを少量ずつ育てていることですかね。
品種の試験的な意味合いもありますが、直販でカラフルなトマトが並んでいた方が楽しいじゃないですか!
私も毎年出てくる新品種の特徴を把握しておきたいですし、色々なトマトの情報を、お客様に提案できる農家になりたいと思っているので。



色とりどりのトマトのパック、買ってみたくなりますよね!
あとは猛暑対策も聞きたいです。
近年の猛暑で苦戦している農家さんが多いですが、阿部田さんはどのような対策を講じていますか?



近年の暑さには、同じように私も苦労しています。
細霧冷房も導入しているハウスもあるのですが、ハウスや設備も古いので、温度も下がりきらずに蒸し暑くなるだけなので……。
今後は遮熱材であったり、高温ストレスに効果があると言われるBS資材も活用していきたいですね。


今後の目標や就農希望者に対してのアドバイス



今後の目標はありますか?



今後は規模拡大というよりは、今の規模を維持したまま、中玉トマトの食味を維持したまま、省力化効率化を目指していきたいですね。
両親も高齢になってきて、労働力は落ちるのは必然ですから。



なるほどですね。
最後に阿部田さんのように、親元就農に興味がある方にアドバイスがあればお願いします。



「親とは仲良くやろうよ。」ということですね。
私はわりと好きなようにやらせてもらえましたし、両親とはほどほどの距離間で連携は取れていますが……。
親元就農したものの農業の方向性に隔たりがあって、親子関係がぐちゃぐちゃになって辞めていった農家も、何人か見てきましたから。
どうしてもそりが合わなければ、別々の農業経営をしてみて、後々に合流するとかでもいいと思いますね!



親元就農の問題点、あるあるですね!
参考になりました!
取材させていただき、ありがとうございました!


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