食物アレルギーや摂食障害で苦しんだ学生時代
東京都武蔵野市&小金井市で新規就農
農園講師や農業体験や農福連携、八百屋業、農業の魅力を伝える取り組み
今回インタビューした農家は、東京都武蔵野市と調布市のこびと農園代表の鈴木茜(すずき あかね)さんです。
食に悩んで苦しんだ学生時代の原体験から農業に興味を持ち、東京都で新規就農!
野菜の生産以外にも八百屋業や収穫体験などにも取り組まれている鈴木さんに、就農した経緯や、栽培や販路、今後の目標などについて取材しました!
食物アレルギーや摂食障害に苦しんだ過去

鈴木さんはどのような学生時代を過ごされましたか?



神奈川県伊勢原市で育ったのですが、生まれた時から卵・牛乳・小麦・肉・魚の食物アレルギーがあって、苦労しました。
給食もほとんど食べられなかったので、一人だけ弁当持参で。
中学校では、背の低さや食物アレルギーのこともコンプレックスに感じて、不登校や摂食障害だった時期もあります。



大変な経験をされたのですね。
そこから立ち直って、農業に興味を持った理由はなんでしたか?



授業の一環で「世界がもし100人の村だったら」を読んで、感銘を受けたんです!
私の悩みなんかちっぽけなもので、世界にはもっと重大な課題が山積していると思い知らされました。
社会の課題について調べる中で、食物アレルギー持ちで摂食障害だった過去から、自然と農業に興味を持ちました。
「食に苦しんだ私だからこそ、伝えられることがあるんじゃないか?」
「農業を通した社会貢献がしたい!」
と進路を定めて、農業高校に進学しました。



辛い経験から立ち直った勇気は素晴らしいですね。
農業高校での生活はどうでしたか?



農業高校の栽培実習は、心から楽しいと思えましたね!
「園芸福祉士」という、障がいを持つ方と農業をつなげる資格を取れたのも有意義でした。
私もいずれは新規就農したいと思いましたが、卒業後の進路については進学か就職かで悩みました。
高校三年生の当時は、4年間大学で座学の勉強するよりも、野菜に携われる仕事で早く経験が積みたいという思いが強くて。
両親や先生の反対を押し切って、青果物流会社に就職しました。



高卒で就職されたのですね。
青果物流会社では、主にどんな仕事をされていましたか?



果物やハーブ類の仕入れと、取引先への納品が主な仕事でした。
ミスなく毎日青果物を納品し続けるプレッシャーで、毎日必死でしたけど、
・消費者のニーズ
・セリから店頭に並ぶまで工程
・鮮度維持のコツやいい野菜の目利き
などの経験や知識は、今でも八百屋業に活きています。
でも、
「いずれ農家になるためには、やっぱり現場で農業をしないとだめだ!」
という思いも膨らんでいました。
そんなタイミングで、たまたまお話をいただいたご縁で、農業法人への転職をしました。



卸業者や物流会社の仕事は大変なんですね…。
転職された農業法人では、何をされていたのですか?



熊本県の野菜の農業法人で1年、それから東京都立川市のミニトマト農家で3年働きました。
・毎月利益を上げるための栽培や働き方
・個人のミニトマトの収穫量を見える化
など、効率を上げるための工夫などは、仕事としての農業で学ぶことが多かったです。
ただ私が目指す農業は、大量生産する農業だけではなく、「作物生産+αの社会貢献」からブレませんでした。
「やっぱり独立就農を目指すしかない!」と、決意が固まった期間でもありましたね。



利益追求も雇用の効率化も、農業には必要なことではありますけど、
鈴木さんの目指す農業観とはズレがあったのですね。



そうですね。
そんな時に東京農業アカデミーという、東京都で新規就農を目指すカリキュラムが創立されたことを知り興味を惹かれました。
実際に東京で新規就農して活躍している女性農家の記事も拝見していましたし、
都市型農業であれば、私が理想とする「農業生産+αの社会貢献」という営農スタイルが可能だと思いました。
思い立ったが吉日ということで、即断で農業法人を辞めて、2020年に東京農業アカデミーに参加することにしました。
東京での農地確保の難しさに直面する



東京農業アカデミーでは、どんなことをしていたのですか?



東京農業アカデミー八王子研修農場では、露地野菜の栽培を学び直しながら、就農した時の自分で作付計画や農業所得300万円をあげるシュミレーションを立てました。
実際の就農した時に備えながら、借りられる農地も同時並行で探していました。



新規就農の場合、最初の農地探しに苦労する方が多いです。
鈴木さんは農地探しは順調でしたか?



新規就農した皆さんも同じことをおっしゃると思いますが、最初の農地選びは苦労しましたね。
私の場合は東京都農業会議に行って相談して、東京農業アカデミーに通いながら、就農場所の選定やヒアリングを重ねました。
タイミングよく武蔵野市と小金井市の2か所の農地の話が、私に回ってきまして。
2つとも生産緑地=宅地化が容易にできてしまう農地という気になる点はありました。
しかし選り好みできる時間もなかったですし、独立農家になれるチャンスが目の前に来たという嬉しさもありまして。
結果的に2つの市で新規就農という、東京都で初のケースになりました。





最初の農地が確保できてよかったですね。
あと、やはり気になるのはお金の面です。
自己資金や補助金など、どのくらい想定されていましたか?



自己資金は約300万円で、種苗費肥料農薬費などの運転資金に充てました。
生産緑地という理由で新規就農の経営開始型の補助金は対象外でしたが、中小企業向けの創業助成金や、機械購入の助成金も受けられました。
就農準備資金・経営開始資金
当然経営開始型の補助金はいただけるなら受け取った方が、資金にもメンタルにも余裕が出るのはたしかですけど、
もらった分のお金を返還する義務が発生する補助金もあるので、必ず得になるわけではないと考えてました。



農地の返還リスクなど、生産緑地ならではの難しさがありそうですね。
新規就農の補助金の難しさを詳しく知りたい方は、こびと農園さんのnoteを見ると良さそうです。
2か所の農地で少量多品目栽培



それでは、現在のこびと農園さんの栽培作物と労働力はどんな感じですか?



新規就農時に借りた小金井市の畑は、相続発生により返却しました。
現在は武蔵野市と調布市の2か所に、合計約4反の畑があります。
年間を通して、50種類ほどの野菜を栽培しています。
労働力は基本私一人で、援農ボランティアさんが来てくれることもありますね。



栽培のこだわりはありますか?



野菜を途切れずに収穫できるように、端境期をなるべくなくすような栽培計画を立てていることですね。
私の場合はこびと青果店という、毎週2回テナントで八百屋を開いているので、品物がないということをなくすためです。
あとは、彩りや消費者の求める野菜、差別化を意識しています。
例えばカリフラワーでも、他のスーパーで売っているものとは違う彩りの品種を栽培したり、珍しいけど美味しい種類の野菜を作るようにしていますね。





女性ならではの観点と、青果の取り扱いを経験しているという、鈴木さんならではの栽培ですね!
鈴木さんは、栽培で失敗されたことはありますか?



失敗はたくさんありましたよ……。
特に大失敗だったのが、独立一年目に、牛糞堆肥を畑に入れた時でした。
完熟堆肥を入れたつもりだったのですが、ちょっとの匂いが近所の住宅やマンションまで広がって……、
警察まで畑に来るクレームになってしまいました。



消費者が近くに住んでいるという、都市農業あるあるですね。
周辺住民の方からのクレームは、どのように対処されたのですか?



市役所の方と一緒に、近隣の住宅を一軒ずつ回って謝罪しましたよ。
野菜以外にも、まずは周辺環境に配慮が要るのだと改めて気づかされました。
匂いと同様に、都市近郊農業では、農業機械を使うときの音にも注意が必要なんです。
騒音クレームになりそうな刈払い機は、住宅に人がいる時間帯にはできないですし、
消毒する時も、エンジン音が小さい、背負いのバッテリー式動噴を使うようにしています。



周辺への配慮、なかなか大変ですね。
あとは現在の栽培の課題があれば教えてください。



近年の猛暑で、夏の果菜類が特に不作になってしまったので、作付計画を大幅に変更することを検討しています。
猛暑を想定して、例年より1か月くらい前倒して作付するような計画も準備しておくくらいでないと、と思っています。
「こびと青果」として直販や八百屋業にも取り組む



現在の販路はどんな感じですか?



こびと青果として、60%くらい販売しています。
あとは収穫体験や、卸売業者に40%ですね。



個人のブランドで、6割も売っているのですね!
鈴木さんは「こびと青果店」という、八百屋もされていると伺いましたが。



そうですね、週2回テナントで野菜を販売しています。
他の農家と違うこととしては、野菜市場の買参権を取得して、市場の野菜のセリにも参加してすることですかね!
私が栽培した野菜に加えて、セリで買った野菜も、取引先に卸しています。
あとは夫が同業の卸業者の仕事をしているので、こびと青果店の仕事を手伝ってくれていますね。





セリまで参加して野菜を流通させているのですね!
農家の知見に加えて、青果流通会社での経験が存分に活かされているのは興味深いです。
そんな他の農家とは違う特殊な販路に関して、苦労はありましたか?



都市近郊ということもあり、「こびと農園の野菜を扱いたい」と業者や飲食店からたくさん引き合いがあるのですが……
中にはこちらの要望通りには扱ってもらえないこともありましたね。
・鮮度が悪い状態で棚に陳列されていたり、
・当初の勢い通りのなかなか注文をくれなくなったり、
やっぱり、こびと農園の野菜に理解のある業者やお店と長く付き合っていきたいじゃないですか。
だから取引する時には、HPや実際の店舗に行って野菜棚を見るなどの、リサーチをするようにしています。



たくさんの引き合いがある中で、販路を見極める力も必要になるのですね。
生産以外の+αの取り組み



鈴木さんは作物の生産以外にも、様々な取り組みをされていますよね?
こびと青果の八百屋業の他には、何をされているのですか?



そうですね、限られた農地では売上に限界がありますし、私の目標としていた+αの社会貢献の取り組みもしています。
八百屋業以外には、①農福連携、②農業収穫体験、③東京都の体験農園の講師、ですね。
①農福連携



一つ目は、農福連携です。
継続的に福祉事業所と連携して、障がいある方に農作業をお願いしています。
私が農業高校時代に取得した園芸福祉士の知識や、都市近郊という立地を活かせる取り組みだと考えています。
農業って生産以外にも、野菜や土を触ることで心が癒される効果もあると思うんです。
作業者の方にも楽しんで作業してもらえるような、農作業の仕組み作りを試行錯誤しています。



農福連携!
農家にとっても人手不足の解消にもなりえるので、いい取り組みですね。
②収穫体験



2つめは収穫体験です。
ジャガイモやトウモロコシなどの季節の野菜の収穫体験を、子ども向けと近隣住民向けに年に5,6回ずつ企画しています。
都会の方にとっては、畑に入ることや野菜を自分で収穫することって、特別な体験なんです。
自分で収穫した野菜を食べて美味しさを知るというのも、私が提供できるサービスの一つだと思っています。





こびと農園さんは収穫体験の販路の割合も多いので、人気の企画なんでしょうね!
③体験農園の講師



3つめは、江戸川区と小金井市にある体験農園の農園講師です。
家庭菜園をされている方に、野菜の栽培を教えることをしています。
農業知識がない方に丁寧に農作業を教えることで、私も勉強になることもあります。



初心者の方にも分かるようにかみ砕いて説明するのって、自分の理解にもつながりますよね。
今後の目標や就農希望者に対してのアドバイス



野菜の栽培以外にも、多方面で活躍されている鈴木さんは、女性農家のモデルケースの一つと言えるのでは?



いやいや(笑)。
就農前から思い描いていた営農スタイルを、毎日必死でしているだけですよ。
だけど農業で社会貢献するという軸は、これからもずっとブレずに続けているつもりです。
この先もこびと農園の長所は伸ばしつつ、私にしかできないような営農スタイルを築いていきたいです。
個人では限界も見えているので、ゆくゆくはこびと農園の法人化も目標に頑張っていきたいですね。





なるほど。
最後に鈴木さんのように、新規就農や女性で就農を目指す方にアドバイスがあればお願いします。



女性が就農を希望していると周りに伝えると、
「農業機械は扱えるの?重いものは持てるの?結婚や出産したらどうするの?」
など色々言われたり、現実的にハードルもあります。
でも本気で就農したいのであれば、ブレずに進んでほしいです。
女性でも就農して活躍されている農家さんはたくさんいますし、背が低くて一輪管理機の取り回しも一苦労な私でも、工夫次第で農業はできていますよ。



取材させていただき、ありがとうございました!
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