震災を機に家業のシイタケ農家を継いだ2代目。農業を通した地域復興への取り組み。

記事の内容

家業であるしいたけ農家を継ぐ

菌床シイタケ+白ネギで放棄地の活用や地域住民を雇用

周年栽培や通年出荷で、JAや市場以外にも取引先を広げる

今回インタビューした農家は、福島県三春町の㈲M&Aふぁーむ・わたなべ代表の渡辺俊文(わたなべ としふみ)さんです。

旅行会社を辞めて実家に戻り、菌床シイタケと白ネギを栽培されています。

放棄地の活用や地域住民の雇用をされている渡辺さんに、栽培や販路、農業を通した地域復興について取材しました!

目次

震災を機に実家のシイタケ農家に戻る

管理人

渡辺さんは実家が農家ということですが、子どもの頃の農業のイメージはどうでしたか?

渡辺さん

正直に言うと、農業は「ダサい、重労働、単調」というイメージでした。
学生時代から、休日も農作業の手伝いに駆り出されることが多かったので……。
私は農家の長男なので、当たり前のように農業を継ぐ空気になっていたことに反発して、違う仕事に就きたいと思っていました。

管理人

それでは農業をされるまでは、どんな勉強や仕事をされていたのですか?

渡辺さん

高校生の時にアメリカへ短期留学したことで、旅行の楽しさに目覚めて旅行系の専門学校に進学しました。
専門学校の卒業後は複数の旅行会社で延べ8年、営業や企画、添乗業務をしていましたね。

管理人

英語力も旅行業の資格もあるということですか!
そんな渡辺さんが、農業を継ぐことになったきっかけはなんでしたか?

渡辺さん

東日本大震災と福島第一原発事故が起きてしまったことです。
地域の方々が長期にわたる避難生活や放射能の問題で、農業従事できなくなってしまう事態に、激しい抵抗と憤りを覚えました。
父親も農業の廃業を考えるほどで…。
「私が家族のため、地域のためにできることは何か。」
自問自答して行き着いたのが、農業を継ぐことでした。

管理人

改めて、悲惨な状況だったのですね。
2011年に渡辺さんが農家を継ぐと決めた時の、周囲の反応はどうでしたか?

渡辺さん

家族の反応はそっけなかったですが、父の満面の笑みが印象的でした。
会社の同僚や上司からは引き留めてもらえましたが、、
「言い出したらきかないお前だから引き止めない。しっかりやれ」
と言ってもらえました。

管理人

周囲の応援を受けて、農業に従事できることになったのは良かったですね。
実際に仕事として農業をしてみて、農業のイメージは変わりましたか?

渡辺さん

単に実家の農業を継ぐというよりも、福島復興に関わる産業をするつもりでしたから、子どもの頃のようなマイナスイメージはありませんでした。
そしてサラリーマンとして勤めるほど、実家の農業に対する反発やわだかまりが少なくなっていたんです。
どんな仕事でも、継続することの大変さが、理解できて来たんでしょうね。

菌床でのシイタケ栽培

栽培:周年での菌床シイタケ&白ネギ栽培

管理人

M&Aふぁーむ・わたなべさんの、現在の栽培作物や労働力はどんな感じですか?

渡辺さん

私が就農するタイミングで、シイタケのハウスや白ネギの収穫機を買い足しました。
増産していった現在では、
・菌床シイタケはビニールハウス全18棟、年間に95t生産
・白ネギは耕作面積6.7ha、年間に210t生産

他に季節性品目で、ヒラタケも栽培しております。
労働力は役員3名、社員5名、パート17名を通年雇用しています。

菌床シイタケの周年栽培

渡辺さん

弊社のシイタケは、おが粉やふすま、牡蠣殻(カルシウム)資材を混合して、全て自社で作った菌床を使用しています。
原木よりも菌床の方が、通年の安定出荷がしやすいという理由ですね。
あとは一回作った菌床は、約7回転シイタケが発生するので、ハウス1棟当たりの収益性も高いのが特徴ですね。

管理人

菌床シイタケの周年栽培ってことは、空調がついたビニールハウスで栽培されているということですよね?
燃料費も無視できない額になると思いますが、渡辺さんがそれでも周年栽培にこだわる理由はなんですか?

渡辺さん

たしかにシイタケは23度~13度の昼夜の気温差で発生するので、夏や冬のエアコン代は高いです…。
それに夏はシイタケ需要と販売単価が低下しますから、辞めていくシイタケ農家の気持ちも良く分かります。
ただ他に栽培する方が少なくなるからこそ弊社への受注があり、そこから冬季への継続出荷や販売にもつなげられる面もあるのです。

廃菌床を漉き込んだ畑での白ネギ栽培

管理人

露地栽培の白ネギも、相当な面積を栽培されていますよね。
白ネギ以外の作物と選択肢もあったと思いますが、白ネギを栽培されている決め手はなんでしたか?

渡辺さん

・なるべく多くの放棄地を活用できる
・一元管理がしやすい
・シイタケと同じように、ほぼ周年で栽培収穫できる
という条件に当てはまったのが、白ネギを選んだ理由です。

震災後にさらに増えた放棄地を有効活用していくことが、弊社の目標でもありますからね。

渡辺さん

そして弊社はシイタケ栽培で使った廃棄菌床を発酵させて、白ネギの畑に漉き込んでいます。
シイタケとの組み合わせで他社との差別化ができますし、何より白ネギがおいしくなるんですよ!

管理人

廃棄菌床も土作りに!
資源も有効に利用できるのは、いい循環ですね!

廃棄菌床は、発酵させたのちに白ネギの畑に漉き込まれる

安定出荷へのこだわりや、シイタケ栽培の失敗や課題

管理人

何度も安定出荷や周年栽培という言葉が出てきますね。
そこにこだわりがあるのですか?

渡辺さん

そうです!細かなこだわりはまだまだありますが……、
シイタケと白ネギも、「安定出荷、周年販売できる栽培」を弊社は何よりも重視しています。
弊社はシイタケも白ネギも豊富な物量を抱えており、なおかつ取引先の急な要請にも対応する機動力を確保していますよ。

管理人

でも安定出荷や周年栽培って、なかなか難しいんですよね…。

渡辺さん

たしかに、「収穫に手一杯だから、朝以外は配達できない。」
という事情も充分理解できます。
しかし売り切れてしまった時には、〈販売機会の損失〉ともなり得ます。
それに加えて周年栽培をすることで、通年雇用ができるようになります。
季節性が高い農業という産業で、年間を通して人材の定着が図られるというメリットも大きいと考えています。

管理人

機会損失や通年雇用の考え方、勉強になりました。
ところで渡辺さんは、栽培で失敗したことはありますか?

渡辺さん

小さな失敗はたくさんしていますよ(笑)。
その中でも就農初年度に、接種したシイタケ菌床を夏場のハウスに搬入した時、菌発生のための散水を忘れてしまったことがありました。
そのハウスは、全ての菌床が高温で腐朽してしまい全滅でしたね。
本来得られるはずであった金額は1000万円強!

今でも思い出す、ひどい失敗でした……。

管理人

売上1000万円の損失は、私なら立ち直れないですね…。
手痛い失敗から、どのように栽培を改善をしていきましたか?

渡辺さん

失敗ごとに改善策がないかを確認しながら、作業を進めていくしかなかったです。
何せシイタケ栽培の場合は、翌年の夏まで待たないと挽回できるチャンスは来ないので。
試行錯誤を繰り返し、ようやく栽培のコツを掴んできたのが、就農後4年を経てからでした。

管理人

なるほど、作業を確認しながら進めていく必要があるのですね。
今後の栽培面での課題は、いかがでしょうか?

渡辺さん

やはり昨今の気温上昇は過去に例がないものですから、高温対策は重要なテーマです。
弊社の場合はシイタケと白ネギ共に、高温環境下でも安定出荷ができる品種を試験して導入しています。
あとはシイタケの場合、
・強めに菌床を叩いて菌糸に刺激を与える
・気温が低下する夜間に散水する
などで、安定発生につなげることに成功しております。

様々な年代の方を雇用しながらの周年栽培

JA出荷と量販店出荷がメイン

管理人

現在の販路はどんな感じですか?

渡辺さん

シイタケと白ネギの販路は、ざっくりと、
量販店50%、JA30%、市場出荷10%その他直売所や飲食店10%

くらいの割合です。
販売面においては、JA出荷の割合が大きかったのを、私が量販店販売の割合を増やしていきました。

管理人

量販店ということは、スーパーマーケットでの取り扱いということですね。
JAや市場以外の出荷を増やすメリットはどのように考えていますか?

渡辺さん

市場やJA出荷以外の販路のメリットは、
・販売先を分散することで、販売不振等のリスク低減につながる
・地域への宣伝や訴求効果が高まる
・多様な販売環境を知れて学びになる

だと考えています。
それぞれの販路での対応が細分化するので、業務が煩雑化するデメリットもありますが、メリットの方が上回っています。

管理人

すみません、私は農家の営業活動のやり方が分からないのですが、
渡辺さんはどうやって量販店の取引を増やしていったのですか?

渡辺さん

私の場合は新規業者契約ではなく、既存業者が抱える販売店舗の拡大を実施したんです。
取引先の店舗へ出向き、シイタケや白ネギの要望を伺った結果、さらなる拡大の余地ありと判断しました。
特に白ネギにおいては、JA出荷から量販店向けを増やしたところ、手間と各種費用が抑えられて、収益増になりましたよ!

管理人

既存業者の他の店舗にも出荷するようになったのですね。
それでは、販売面では失敗はなかったんですか?

渡辺さん

いや、就農当初に各種商談会へ出席しまくっていた時は、
「JA出荷はもうダサい。自分で営業して販売する農家が最強!」
という謎の理論を持っていました。

案の定営業に時間を取られすぎて、先述通り肝心のシイタケ栽培で大失敗をしたことで、営業や販路も見つめ直したんです。

管理人

出荷先ごとの手間や利益を比べると、JA出荷も有力な販売先!」
という農家さんの意見も、よく耳にしますね。

渡辺さん

おっしゃる通りです。
その後は営業を極力控え、シイタケの発生量を増大させることを最大の目的としました。
結果は予想通り、JA出荷でもしっかり黒字化できました。

ですから今後もJA出荷を基準としながら、需要を見極めた直接取引をしていくという方針です。

今後の目標や就農希望者に対してのアドバイス

管理人

「個人農家を企業にして、その上で地域の耕作放棄地を活用していく」
というのが、先代である父の目標だったそうですね。
壮大な目標を引き継ぐことへの、プレッシャーはありましたか?

渡辺さん

そうですね、プレッシャーは当然今でもあります。
震災と原子力災害で大変な目に遭った福島の農業は、まだまだ様々な課題があり、弊社だけでは波及力が及ばない所もあります。
なので今後は、菌床シイタケ栽培に参入する企業との連携も含めて、福島の農産物や魅力を発信していきたいですね。

管理人

え、菌床シイタケに異業種参入してくる企業と連携!?
ライバルが増えることは嫌ではないですか?

渡辺さん

異業種参入やアドバイスは、まったく嫌とは考えておりません。
むしろ弊社の菌床シイタケ栽培のノウハウによって生産者が増えるなら、イコール産地としての強みとなりますから。
菌床を販売することで、弊社の利益ともなりますし、異業種ならではの発想も共有できますから。

管理人

なるほど、広い視野で見た協力なんですね。
改めてですが、M&Aふぁーむ・わたなべさんの、今後の目標を教えてください。

渡辺さん

地域放棄地の活用と地域住民の方の雇用する農業で「売上高1億円」という目標は、おかげさまで達成できそうです!
今後は新事業として、海外からの震災復興視察や、福島の農業体験ツアーを計画しています。
私には旅行業務取扱管理者の資格や経験がありますので、旅行業登録やガイドができるんですよ!

管理人

前職の経験を活かした、「農業×旅行」のツアー!
渡辺さんだからこそできることでしょうね!
最後に渡辺さんのように、これから就農希望者や親元就農を考えている方にアドバイスをお願いします。

渡辺さん

たとえ就農が決まっていたとしても、まずは違う農園や農業法人でお勤めになることをお勧めします。
異業種でもけっこうです。
学校卒業後に就農でも良いのですが、他所で働くことで、親の農業や考えを客観視しやすくなるでしょうからね。

管理人

取材させていただき、ありがとうございました!

旅行会社時代のスキルを活かした復興体験ツアーの企画も
農家さんのリンク

労働環境の改善:JGAP認証や健康診断の義務化

管理人

栽培や販売以外にも、渡辺さんが労働環境を改善していったと伺いました。

渡辺さん

そうですね。
休日や労働時間などの就業規則、栽培マニュアルを再構築する一環として、JGAP認証を2018年に取得しました。
「家族経営だから……」と、充分な給与と休日がなく働くことは、即改善しなければならないと思っていましたので。
そしてやはり「農産物に対して、第三者からの安全性の担保がある」というのは、JGAP認証で得られた大きなメリットでした。

管理人

「JGAPは取得は大変だけど、すごく意義がある」という農家さんは多いですよね。

渡辺さん

その通りで、最初はJGAP認証取得や維持に精一杯だったのですが、
・労働安全意識の強化
・労務管理の徹底
・栽培データ蓄積による経営改善
という活用ができて、規模拡大に際して大きな指針になりましたね!

管理人

そしてJGAPに次いで、従業員の健康診断も義務化したそうですね?

渡辺さん

そうです!
JGAPには〈従業員の健康管理〉という項目はありませんが、
「高齢の従業員がいつまでも元気に働けることは、企業や家族にとっても、はたまた地域にとっても良いことだらけでは…!?」
と考え、従業員の健康診断を義務化しました。

管理人

農業法人で従業員の健康診断までを義務化する法人は、ほとんどないと思います。
実際にどうですか?

渡辺さん

健康診断の義務化は、いいことだらけでした!
現在弊社は、60歳以上の従業員も13名在籍しており、中には70歳を超える方も活躍していますよ。
従業員の健康増進はもちろん、人材採用時にも企業の特徴として大きな武器になると考えております。
労働環境を改善したことで、菌床シイタケや白ネギの規模拡大や周年栽培への土台ができたと思っています。

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