難病をきっかけに食の大切さに気付いて新規就農。口コミで飲食店の取引が増える愛知県豊川市のアスパラガス農家

記事の内容

難病をきっかけに食の大切さに気付く

こだわりのアスパラ栽培

口コミで増えた取引店

今回インタビューした農家は、愛知県豊川市の裕膳ファーム代表の井川裕介(いがわ ゆうすけ)さんです。

難病をきっかけに農業に興味を持って、地元の愛知県豊川市で新規就農!

口コミで販路が広がっている裕膳FARMさんに、就農した経緯や栽培や販路など、現地に行ってインタビューしてきました!

目次

難病を発症し、食の大切さに気付く

ナス男(筆者)

井川さんは農業をされる前はどんな仕事をされていたのですか?

井川さん

大学卒業後は、地元のJAひまわりで、システム系の仕事をしていたんですけど……
3年目くらいから出勤がしんどいほど体調が悪化して、病院の診察で「クローン病」と診断されました。
病名を聞いた瞬間、頭が真っ白になって、なんで自分が難病にかかるんだと精神的にも落ち込みましたね。

ナス男(筆者)

厚労省が難病に指定している病気ですね。
病気の発覚してから、仕事観や考え方に変化はありましたか?

井川さん

思うように食事の取れない生活になったのは辛かったですけど、同時に食のありがたさや大切さにも気づいたんです。
美味しい野菜を味わっているうちに、体調も気分も徐々に良くなってきて!
栄養素や免疫の勉強をするにつれて、自分で育てた野菜を食べて売ることに興味を持ち、農業を仕事にしようと決めました。

ナス男(筆者)

なるほど、食を作る一次産業に興味を持ったのですね。
そこから農業法人に転職されたと伺いましたが。

井川さん

そうですね。干し芋栽培や加工まで手掛けている、静岡県の農業法人で3年ほど働きました。
やっぱり美味しい野菜を育てる農業はやりがいがありましたし、楽しかったですね!
オフィスワークよりも体を動かす仕事の方が、私には向いていたんじゃないかな?

ナス男(筆者)

井川さんがストレスを感じない仕事に就けたのは何よりでしたね!

井川さん

ただいずれは独立して、新規就農したいという思いも強くなってきました。
それならば少しでも農地の紹介が期待できそうな、地元の愛知県豊川市に戻って、新規就農を目指そうと決めました。

ナス男(筆者)

独立を目指すと決めた時の周囲の反応、特に奥さまには何と言われたのですか?

井川さん

妻としては子育てを考えて、私には安定した給与が出る企業に勤めてほしかったでしょうね。
妻からすれば、当然の意見ですよね。
でも「一度これと決めたら折れない」という私の性格を察して、妻は納得してくれました。
私の決断についてきてくれた妻には感謝していますし、その分家族が生活するためにも農業を頑張らないといけませんね。

愛知県豊川市で独立就農をスタート

JAの研修制度を利用しながら、空きハウスを見つけて新規就農

ナス男(筆者)

ところで、栽培作物をアスパラガスを選んだのはなぜですか?

井川さん

新規就農を目指して、色々な作物の収益性を調査していました。
中でもアスパラガスは単価が良くて有力な作物だと考えていましたし、豊川市がアスパラガス栽培の普及に力を入れていたのが決め手です。
アスパラガスは食べるのも好きでしたし、これしかないだろと思いました!

ナス男(筆者)

井川さんにとって、アスパラガスを選択する条件がいくつも重なったのですね。
豊川市で新規就農するまでに、農業研修はされましたか?

井川さん

JAひまわりでは新規就農の研修制度がありまして、一年間アスパラガスの栽培研修をしました。
研修の間に並行して、空いたビニールハウスがないかを探しました

ナス男(筆者)

新規就農者の方は、農地探しに苦労するイメージがあります。
井川さんはどうでしたか?

井川さん

私の場合はおじいさん名義の農地が少しだけありましたが、農業で食べていけるほどではありませんでした。
それにアスパラガスの施設栽培での就農を考えていたので、空きのハウスは農政課やJAに相談したりしましたよ。
あとは友達や農家の知り合いに先輩に声をかけまくって!
偶然にも農家の先輩から、アスパラガスの手が回らなくなったハウスを貸してもらえるお話をいただいたんです!
すぐ近くの、中古のハウスの話もタイミングよくいただきました。
そして研修開始から1年後の2021年に、2軒のハウスと少しの露地野菜で、晴れて独立就農をスタートできました。

ナス男(筆者)

ハウスが確保できて、農業がスタートできたのは良かったですね!
あとは、気になるのはお金の面です。
就農時の運転資金とビニールハウスの修繕費は、どのように工面したのですか?

井川さん

次世代農業人材育成資金を受けました。
就農準備資金・経営開始資金
あとは青年等就農資金の融資で約600万円、自己資金200万円くらいで、
・1棟目の先輩農家から借りたハウスの年間の地代
・2棟目のハウスの修繕費や灌水設備の工事費
・冬野菜のための苗場
を準備しました。
青年等就農資金

ナス男(筆者)

中古のビニールハウスでも、やっぱり開業時にはまとまったお金がかかるものなんですねえ……。

井川さん

たしかに中古のビニールハウスの修繕も、けっこうお金がかかりましたね。
でも初期投資でいきなり何千万のビニールハウスを建てるのはリスクがあることじゃないですか。
だから空きハウスを紹介してくれたご縁には、感謝していますよ。

先輩農家から借りたアスパラガスのハウス

栽培方法をアップデートし続けるアスパラガス栽培

ナス男(筆者)

現在の井川さんの作型と経営規模を教えてください。

井川さん

合計25aほどのアスパラガスの施設栽培がメインで、あとは冬に30aほどキャベツを栽培しています。
労働力は基本私1人で、どうしても忙しい時には、声をかけてバイトに来てくれる方が2人ほどいます。

ナス男(筆者)

アスパラガス栽培のこだわりはありますか?

井川さん

有機質肥料や堆肥、光合成細菌などの微生物資材を入れて、味や品質にこだわって栽培しています。
研修中に習ったことに加えて、栽培技術はアップデートすることは、常に意識していますよ。
時には微生物や土壌の研究者の方に連絡を取って、いいと感じることはどんどんテストしています。

ナス男(筆者)

日々品質にこだわりつつ、日々栽培をアップデートしているのですね。
それでは独立就農後は、栽培面で失敗はありませんでしたか?

井川さん

いやいや!
栽培面では毎年失敗していますけど、取り戻せない失敗でいえば、就農時の設備投資ですかね。
ここまでお金をかけて直さなくてもよかったなあと思う所や、逆に点滴灌水などの設備はお金をかけて導入するべきだったかなあとか。
まあアスパラガスの収量アップや、将来の規模拡大も考えているので、
次に設備投資をする時に、この経験を活かしたいです。

ナス男(筆者)

独立して自分で設備を使い始めてから、分かることもたくさんありますよね。
新築の家に、納得できない部分が出てくるのと一緒だと思います。
あと聞きたいのは、温暖化対策です。
年々暑くなって栽培しにくくなっている気候条件で、井川さんはどのような対策をしていく予定ですか?

井川さん

私は屋根型の谷換気ができるハウスで遮光カーテンもつけていますけど、やっぱりアスパラガスが高温で日焼けする症状が出てしまうこともありましたね。
今後は温度管理や換気に一層気を付けつつ、遮光資材を濃く塗るのは試したいと考えています。

収穫作業をする井川さん

お客様の口コミで増えていった直販の取引

ナス男(筆者)

現在の井川さんの販路はどんな感じですか?

井川さん

JAひまわりに8割くらい出荷していて、あとはHPや産直ECサイト、飲食店への直販が2割くらいですかね。
定期便やまとまった量の発注を含め、計15店舗くらいの飲食店に直販しています。
今後はアスパラガス「Seimei~生命~」の直販を、少しずつでも増やしていきたいと考えています。

ナス男(筆者)

15店以上!すごいですね!
直販に興味がある農家は多いと思いますが、どうやって販売先を見つけて増やしていったのですか?

井川さん

・HPや産直ECサイトに登録したり、
・マルシェに出店して飲食関係の方にお話をいただいたり、
・飲食店にアスパラガスを持って売り込みに行ったり、

最初のうちは私から、アプローチをかけていきました。
でも今は、主に口コミで販路が増えていっています。
というのも食通の方って、全国のグルメを食べて回っているんですよ。
お客様がシェフに、
「裕膳ファームのアスパラガスはおすすめだよ!」
って言ってもらえてるみたいで(笑)!

ナス男(筆者)

お客様がシェフに、おススメしてくれることなんてあるんですね!

井川さん

テレビなどのメディアの単発の取材も受けましたし、一時的に認知度や売り上げは上がるんですけど、
結局はお客様からの口コミが一番宣伝効果があると実感しています!
その分、期待に応える品質のアスパラガスを提供するという、プレッシャーはありますけどね。

ナス男(筆者)

なるほど。
ところで直販を増やしたい理由は、価格が自由に決められるからですか?

井川さん

それもありますけど、やっぱりお客様から直接声を聞きたいじゃないですか!
特に私はこだわって栽培しているので、「瑞々しくて甘い!」と言われると嬉しいんです。
かといってJAひまわりへの出荷を、全てなくしたいとは考えていません。
JAひまわりはパッキングセンターがあって、アスパラガスを農家の代わりに出荷調整してくれるのはだいぶ助かりますから。
ピーク時の全てのアスパラガスを、直販だけで売り切るのは難しいですしね。

ナス男(筆者)

JA出荷のメリットもたくさんありますからね。
井川さんが販路を広げている中で、失敗や苦労はありましたか?

井川さん

失敗というか、最初の価格設定はやっぱり悩みましたね。
最初の直販は、スーパーの売り場の価格くらいで提示していたんですけど、
「この品質で、こんなに安くていいの!?」
と、取引先の飲食店から逆に心配されていました(笑)。
価格設定は自由ですけど、結局価値はお客様が決めるものなので、私自身がアスパラガスの価値を測りかねていました。

ナス男(筆者)

ああ……値決めや値上げで悩む農家、多そうですね。
井川さんは値上げの対応をしたときに、取引先から何か言われましたか?

井川さん

「申し訳ありませんが、値上げさせてください。」
と取引店に伝えましたけど、そこで取引が打ち切られたことはなかったです。
私のアスパラガスの味や品質を理解してくれて、その上で引き続き取引していただいていると思っています。

これからはSNSなどで裕膳FARMの認知度を上げながら、当然品質は落とさずに、お客様の期待に応えていきたいですね。

原点である食育体験への目標や就農希望者に対してのアドバイス

ナス男(筆者)

裕膳FARMさんとして、今後していきたいことなどはありますか?

井川さん

毎年数回、地域の方向けのアスパラガスの収穫体験をしているんですけど、
もっと多くのお客様に、採れたてのアスパラガスの美味しさや実際の農業を知ってほしいと考えています。
いずれは収穫体験に加えて、自分の農業の原点でもある「食育活動」もしていきたいですね。

アスパラガスの収穫体験
ナス男(筆者)

食のありがたさが分かる、井川さんならではの企画だと思います!
最後に井川さんのように、就農を目指す方にアドバイスがあればお願いします。

井川さん

まずは、「どんな農業がしたいのかを明確にすること」だと思います。
・どこで、
・何の作物を、
・どのくらいの規模で、
・どの販路で、
をはっきりされると、やるべき農業の方向性が見えてきますよ。
私は直販を増やそうとしていますが、別にJA出荷オンリーでも全く悪くないと思っていますし、JA出荷のみでうまく経営している農家も近くにもいますからね。

ナス男(筆者)

取材させていただき、ありがとうございました!

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