都会から山奥に移住して新規就農!土に魅せられた有機栽培農家の農的経営

記事の内容

岐阜県白川町に移住して、有機栽培で野菜と米を栽培

個人のお客さまに直接野菜セットを販売

土好きが高じて始めた堆肥作りのセミナー

今回インタビューした農家は、岐阜県白川町の五段農園代表の高谷裕一郎さんです。

都会の種苗会社を退職してから、コンビニもない田舎に移住して新規就農!

無類の土好きである高谷さんの、就農までの経緯や栽培と販路、農を取り入れた人生についてインタビューしました!

目次

都会の種苗会社を退職して、コンビニもない田舎町に移住

ナス男(筆者)

高谷さんはどんな学生でしたか?

高谷さん

とにかく、幼い頃から土いじりが好きな子どもでしたね。
土の感触や匂いも好きでしたし、土を触っていると不思議と落ち着くんです。
だから、庭に穴を掘って中に入るという遊びをしていました。(笑)
土好きが高じて、大学も農学部で微生物を専攻し、大学院も卒業しました。

ナス男(筆者)

幼少期から、土への興味が尽きなかったのですね!
大学院卒業後は、どこの企業に就職されたのですか?

高谷さん

神奈川県の種苗会社に就職して、種の生産部門で働いていました。
農業で使用する種を安定生産するために、海外圃場を回って現地でやり取りするのが主な仕事でしたね。
南米以外が私の担当国だったので、
アジア、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、と年間100日は海外を飛び回っていました。

ナス男(筆者)

世界を股にかけるビジネスマンだったのですね。
そこから一転して農家になったのは、何かきっかけがあったのですか?

高谷さん

やっぱり、2011年の東日本大震災が自分の価値観を大きく変えましたね。
「この仕事をしていれば一生安泰、絶対安全。」という考えは、あの一瞬でなくなりました。
神奈川県という都会での生活よりも、田舎で土を踏みしめながら農業という仕事に就きたいという気持ちが強くなった時期でした。
「すぐに退職して移住して農業をする!」とはならなかったのですが、妻とも将来について話し合うことが多くなりました。

ナス男(筆者)

震災を機に、人生観が変わった方は多いですよね。
ところで、岐阜県の白川町に移住したのは理由があるのですか?

高谷さん

私の趣味がロッククライミングでして、岐阜県には前からけっこう通ってはいたんです。
岐阜県のどこかに移住して新規就農したいなあと思って調べたり相談したりしていたところ、白川町にたどり着いたのがきっかけです!
コンビニもないくらいの田舎で、夜は真っ暗で静か!
自然豊かな所で、ひとめぼれでしたね!
空き家もたまたまあって、農業の研修先も見つかって!
トントン拍子で話が進み、半年後には岐阜県白川町に移住していました。
そして移住と同じ年の2015年に農業の研修を開始して、2016年に新規就農した流れです。

自然豊かな岐阜県白川町
ナス男(筆者)

ご縁があったのか、あっという間に移住を決断されたのですね!
「移住して農業をする。」と伝えた時、ご家族にはどんなことを言われましたか?

高谷さん

妻とは以前から田舎への移住について話していたので、賛成してくれました。
子どもは、小学校で一学年10人という田舎に溶け込めるか不安はありましたけど、しばらくして馴染んでくれたので安心しましたね。
妻と子どもも今では白川町での暮らしを楽しんでいますし、「もう都会には戻れないな。」と言ってますよ。(笑)

ナス男(筆者)

移住先の生活が気に入ってくれて、一安心でしたね。
あと気になるのが、やはりお金の面です。
移住や就農当初の資金はどうやって工面しましたか?

高谷さん

神奈川県で住んでいた家を売却して、移住や空き家の改修資金に充てました。
白川町から、移住者に対しての空き家の改修に関しての補助金も活用しましたので、移住の面は問題なく進みました。
農業の面では、資本金として300万円は準備していましたね。
「小規模な農業だとしても、新規就農には最低300万円は必要!」という情報は正しかったと思います。
あとは、研修時に就農準備資金1年と独立時に経営開始資金を活用しました。
就農準備資金・経営開始資金:農林水産省 (maff.go.jp)

ナス男(筆者)

家も売却して、ある意味で退路を断ったわけですね……!
金銭面や栽培面での不安は、もうなかったということですか?

高谷さん

いや、なんとか滑り出しましたけど、考えが甘かったからこそできたのだとは、振り返れば思いますね。
「週2日は休んでやる!趣味のロッククライミングも楽しむぞ!」と目論んでいましたが、全然うまくいかない(笑)
雨が続けば作業がずれ込んでいくし、晴れれば作業に追われてロッククライミングしている暇はあるわけがなかったので。
天気に振り回されるのが農業の宿命ですから、諦めているんですけどね。

自然栽培農家として独立したが……

ナス男(筆者)

2015年に自然栽培農家の所で農業研修を開始されたそうですが、自然栽培(肥料農薬不使用)にこだわりがあったということですか?

高谷さん

いえ、研修先がたまたま自然栽培の農家だったので、私も自然栽培で独立しようとしていただけです。
慣行栽培が嫌だというわけではありません。
中山間地の白川町は、平野部の大きな面積の農地があるわけではないですから、それならば小規模で収益を上げる工夫をするしかないという考えです。
大学の時の有機栽培や自然栽培の座学も、特別に興味があるわけでもなかったんですけどね。

ナス男(筆者)

なるほど、手段としての栽培方法の選択だったのですね。
自然栽培での独立は順調でしたか?

少量多品目の有機栽培
高谷さん

いや、栽培は全く順調には進みませんでした。
独立当初は、自然栽培でレタスなどの葉物を栽培していたのですが……
借りた農地が全て田んぼからの転作畑だったので、粘土質で水はけが悪く、収量も安定しなかったんです。
自然に委ねる自然栽培では土質の改善に時間がかかりすぎるので、悩んでいました。

ナス男(筆者)

元が田んぼの畑は、野菜に適した土になるまで相当時間がかかりますからね……
粘土質の畑というピンチを、どのように切り抜けたのですか?

高谷さん

ちょうど新規就農した2016年に、堆肥作りのスペシャリストの方の講演をたまたま聞いて、感銘を受けまして!
自家製堆肥を利用して土質を改善しようと、有機栽培に切り替えました。
良質な有機物を畑に投入したことで、土づくりが進んで、作物も良く育つようになりましたね。
失敗から有機栽培に変えたわけですが、堆肥や土にとことん向き合えるということで、結果的には私に向いていましたね。

自家製堆肥のみの肥効で栽培するのが五段農園のこだわり

自家製堆肥のみを使用した有機栽培

ナス男(筆者)

なるほど、自然栽培から有機栽培に切り替えたわけですね。
今の栽培作物や労働力はどんな感じですか?

高谷さん

田んぼが1ha、転作畑が40aです。
お米と約25種類の野菜を栽培しています。

他にも、培養土の販売や野菜苗の販売もしていますね。
主な労働力は私と妻で、派遣のアルバイトの方に週2,3日手伝ってもらっています。

春は野菜苗の販売もしている
ナス男(筆者)

少量多品目の有機栽培ということですね。
販路はどんな感じですか?

高谷さん

名古屋にあるオーガニック系のスーパーに、有機栽培農家のグループで卸しているのと、
五段農園の野菜セットの定期便として、個人のお客さまに販売しています。

割合は、50:50くらいですかね。
以前は直売所にも出荷していたのですが、安売り合戦に巻き込まれてしまう可能性があるのと、移動時間なども考慮して撤退しました。

ナス男(筆者)

やはり有機栽培農家は、JA以外に販路を自分で確保しているのですね。
栽培に関して、他の農家との差別化ポイントはありますか?

有機栽培の野菜セット
高谷さん

地域で排出されるオカラや米ぬか、もみ殻などを使った自家製堆肥のみの肥効で栽培しています。
ですから、市販の肥料は使っていません。

ナス男(筆者)

えっ、自家製の堆肥だけで立派な野菜と米が育つのですね!
でも、それだけの自家製の堆肥を作る場所はあったのですか?

高谷さん

栽培の要となる堆肥場は、廃用された養鶏場を改築+新築して構えました。
1000万円はかかったかなあ。
栽培で使用するトラクターや管理機は格安で手に入ったので、私が一番農業でお金を投資したところです!

五段農園の堆肥場
ナス男(筆者)

就農初期に、堆肥場に1000万の投資とは!
今でも栽培の要になっているのは、卓越した長期ビジョンが見えていたのですね!

高谷さん

いやいや、私が他人より土づくりや微生物に興味があったというだけですよ。
でも堆肥場を建てたおかげで、栽培のみならず、自家製堆肥のセミナーなどの企画開催につながりました。
投資は間違いではなかったと思っていますね。

堆肥作りのセミナーや有機栽培の講師としての一面も

ナス男(筆者)

五段農園さんの代名詞とも言える「堆肥の学校」は、この堆肥場が拠点になっているわけですね。
具体的にはどういう講義をされているのですか?

高谷さん

微生物やC/N比の算出などの堆肥作りの基礎に加えて、堆肥場で実際に作り方を教えるという内容です。
2024年は20名ほどで、農家や新規就農者の方も受講してくれていますね。

ナス男(筆者)

農家も学びに来るほどとは!
自家製堆肥のみで有機栽培をしている実績がある高谷さんだからこそ、説得力がありますよね!

高谷さん

他にも、コンポスト(生ごみ堆肥)作りの講師や有機栽培のアドバイザーとしても、依頼があれば各地でワークショップをしていますね。
・フィリピンのネグロス島で、堆肥作りの講師として現地の農家や大学の教員に指導したり
・東海地方の音楽フェスで出る生ごみをコンポストにする活動したり
という活動をしました。

堆肥の学校の実地授業の踏み込み
ナス男(筆者)

思わず目が留まるような、興味深い経歴ですね!
こういった農業以外の活動も収入の柱に、という感じですか?

高谷さん

もちろんお金をいただいていますし、野菜セット以外の収益の柱になれば嬉しいですけど……
もっと堆肥やコンポスト、有機栽培の良さを広めたいという気持ちが一番強いですね。
私は土作りや堆肥作りで人生が変わりましたから、そんな経験を受講生の方にも体感してほしいんですよ。

ナス男(筆者)

なるほど。
でも農業以外の収入を得る活動は、周りから妬まれることはないですか?

高谷さん

白川町は冬は-10℃にもなって野菜が育たないので、専業で農業をしている方がそもそもあまりいません。
半農半Xが当たり前の地域なので、特に反感を買うとかはありませんね。
むしろ、私の活動に興味を持って聞いてくれる方も多いですね。

今後の目標や就農希望者に対してのアドバイス

ナス男(筆者)

移住や新規就農、有機栽培を志す方にアドバイスがあればお願いします。

高谷さん

たぶん新規就農や有機栽培がしたい方って、周りから厳しいことを言われると思うんですけど……
色々言われながらも、それでも農業がやりたいならやればいいと思いますよ!
ただし理想や夢だけが先行して、実際の有機栽培の現状も理解せずに始めたら後悔すると思います。
「クワ一本で、数十万の元手があればなんとかなる!」という考えではあっという間に潰れます。
就農予定の場所の環境や有機栽培農家の現状は、最低限調べたり体感してから始めることをおすすめします。

ナス男(筆者)

ありがとうございます。
あとは、高谷さんの今後の目標を教えてください。

高谷さん

「規模を拡大して稼ぎたい!」とかはないですね。
栽培作物や堆肥の講師などの活動の変化は出てくるでしょうけど、「小さな農業」に留まることを意識していきたいです。
規模拡大というよりも、高齢化が進む白川町の農地を維持するために、小さな田んぼを引き受けるだけの農業経営の土台を作っていくのが目標ですね。
大好きな里山の風景を守るために、農業という自分ができる分野で貢献したいという気持ちが強いです。

ナス男(筆者)

最後に、高谷さんはご自身の子どもに農業をしてほしいと思いますか?

高谷さん

うーん、子どもに農業をしてほしいというよりも、一般の方がもっと気軽に農業を楽しめるようにしたいです。
土いじりとか野菜作りから、都会の方は離れていっているじゃないですか。
私の講演やワークショップを通して、各地で農業に気軽に触れられるコミュニティができていくのが理想形ですね。
まあ、私の子どもが白川町で農業がしたいと言いだしたら、私の経験くらいは教えてあげますけどね。(笑)

里山の風景を守りたい!
ナス男(筆者)

取材させていただきありがとうございました。

こぼれ話:ポッドキャスト「小農ラジオ」

ナス男(筆者)

高谷さんは「小農ラジオ」というポッドキャスト番組もされていますね。
音声コンテンツを発信しようと思ったきっかけはなんでしたか?

高谷さん

元々農系ポッドキャストも聴いていましたから、「それなら自分が有機栽培系ポッドキャスターのパイオニアになってやろう!」ということで始めました。(笑)
収益は発生しないのですが、ポッドキャストを聴いて堆肥の学校に応募してくれる方もいるので、宣伝にはなっていますね。
自分の発信拠点ができたことで、人との出会いも増えましたし、リスナーの方から新しいアイディアをもらうこともあります。

高谷さん

そんな小農ラジオのリスナーの方からのアイディアで生まれたのが、「土壌医塾」です。
土壌医という農業をする上での土壌の知識を勉強する資格の、3級取得を目指す対策講座です。

私は最上位の1級を取得していますから、私の勉強法や経験をオンライン授業で伝えようと考えています。

ナス男(筆者)

なるほど、土壌医の対策講座ですか!
近年耳にすることが多くなった土壌医ですけど、高谷さんは土壌医の勉強をするメリットはなんだと考えますか?

高谷さん

土壌医3級の資格や知識だけあっても、農業が成功する保証はありません。
だけど慣行とか有機とか関係なく、農業をしていく上では知っていて損はない知識です。
特に新規就農者は、ベテラン農家のような勘に頼った肥料設計ではダメだと思いますからね。

ナス男(筆者)

なるほど。
土壌医に興味がある方は、まずは小農ラジオを聴いてみるといいかもしれませんね!

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