農で1200万円!の著者が実践する、小さな農家の処世術を公開!

「農で1200万円!」

就農希望者であれば、一度は目にしたことがあるであろう有名な農業本です。

その著者が、石川県能美市の「自称日本一小さい農家」菜園生活風来代表の西田栄喜さん(55歳)さんです。

今回は西田さんに、小さな農家の処世術を取材してきました!

農業に興味のある方は、ぜひご覧ください!

目次

小さな農業で就農する決断

ナス男(筆者)

現在の作物と栽培規模、労働力を教えてください。

西田さん

ハウスと露地が合わせて3反ほどですね。
年間通して、定番野菜を中心に50種類ほどの野菜を少量多品目で栽培しています。
労働力は私と妻がメインで、あとはパートさんを2人雇用しています。

ナス男(筆者)

就農するまでは何をしていましたか?

西田さん

ビジネスホテルチェーンの支配人として働いていました。
ただ、常に前年比の売上を達成することなど、売上至上主義の社風に疲れていましたね。
時間と精神をすり減らしながら数字を追いかけ続ける仕事ではなく、幸せになるための手段としての仕事は何がいいのか。
何度も自問自答を繰り返すうちに、農業という選択肢が強く浮かび上がってきたんです。
ホテルマンを辞めて地元である石川県能美市に帰り、1999年の30歳の時に就農しました。
農地は両親名義の30aの田んぼがあったので、客土を入れて畑にしました。

ナス男(筆者)

西田さんが農業をやりたいと言った時、周囲の反応はどうでしたか?

西田さん

妻とは就農してすぐに出会ったのですが、その時は収入ゼロでした。
改めて思い返しても、良く結婚してくれたなと思います。(笑)
なんとか1,2年で小さな農業を軌道に乗せて、家族を安心させたいという一心でしたね。

ナス男(筆者)

器量の大きい奥さまですね!
質問ですが、一般的な慣行栽培の農家ではなく、「小さな農家」になろうと思ったきっかけはなんでしたか?

西田さん

オーストラリアでファームステイをしながらのバイク旅の中で感じた経験が大きいですね。
オーストラリアでは、地平線の果てまで続く農地を日本では見たことのないような大型農機で栽培している様子に圧倒されました。
日本にも大規模農家はいますが、さらに桁違いの規模を目の当たりにして、
価格競争では大規模農業に勝てないから、自分の目の届く小規模で栽培加工販売して、付加価値を付けていこう。
と、決意を固くしました。

少量多品目の野菜が混植している畝

栽培面の決断

ナス男(筆者)

面積は30aということですが、
畑作の野菜農家だと、だいたい耕作面積が約2~3haくらいだと思うので、10分の1くらいの小面積ですね。

西田さん

言葉通り小さな農地で、一般的な農業をするには全く足りません。
この限られた農地の中でちゃんと利益を出すには、一般的な単一作物の栽培ではなく、少量多品目栽培しか選択肢はありませんでした。

少量多品目の栽培地図
ナス男(筆者)

小さな面積の少量多品目栽培のメリットはなんですか?

西田さん

一番のメリットはズバリ、機械設備にお金がかからないことです。
結局離農する大きな原因は、高額な設備投資や農業機械が負担になってお金が回らなくなることじゃないですか。

しかし小さな農業であれば、家庭菜園用の機械があれば十分いけます!
うちでは、就農当初に3万円で買った耕運機が未だに主力の機械ですからね!

ナス男(筆者)

3万円の機械が主力ですか!
一般的な農業では、1000万円を超える初期投資なんていうケースも多々ありますが、
それに比べたらほぼゼロに等しい投資ですね!
逆に、少量多品目栽培での失敗や苦労はありますか?

西田さん

もう失敗の連続でした(笑)。
野菜に適した土ができるまで何年もかかりますし、無農薬だから害虫もたくさん来る!
最初は有機無農薬栽培を打ち出して悪戦苦闘していましたが、栽培方法も試行錯誤を重ねるうちに安定してきました。
現在では、完熟堆肥を使用、農薬不使用で、何より再現性を重視した自分なりの農法に落ち着きました。」

ナス男(筆者)

西田さんのHPには農薬不使用と目立って書かれていないので、栽培方法までは知りませんでした。
単純な疑問なんですが、もっと農薬不使用を大きくアピールした方が、より売れるのでは?

西田さん

最初は私も他との差別化ポイントとして、農薬不使用を売りにして販売していました。
農薬を使わなければ、手間もかかるし、収量も7割ほどに減ってしまうのは消費者の方にも何となく想像できると思いますから。
ただ農薬不使用というだけでは、スーパーの野菜の2倍の価格で売れるわけではないんです
良くて1.3倍くらいでないと、売れ残ることもあり得るんですよね。
私は農薬を使った野菜が危険という認識もないので、積極的に農薬不使用を打ち出すのは止めました。

30年前に3万円で買った、未だに主力の耕運機
ナス男(筆者)

そんな経緯があったのですね。

西田さん

というか、農薬不使用を前面に打ち出さなくても、お客様に自分の野菜の良さが伝えて販売方法を工夫すれば、ちゃんと売れるんですよ!
それが、小さな農家ならではの、野菜セットの販売です!
「無農薬だから安全!」と栽培方法でカテゴライズして、売れ続けられるような時代ではないと確信しましたね。

ナス男(筆者)

栽培方法をPRしなくても売れる!?
ぜひその野菜セットの秘密を教えてください!

野菜セットで直販する決断

西田さん

就農当初は、直売所やマルシェなどのイベントに出したり、お客様への配送までしていました。
だけど他の生産者の野菜と価格競争になってしまうし、自分が配送したりイベントに出向いて売る時間を考えたら、能率に限界があると感じていました。
「こだわって作った野菜を想いごと伝えて付加価値を付けるには、やはり直販しかない!」
と考え、少量多品目栽培を活かした野菜セットを組んで売る今の方法にシフトしていきました。

ナス男(筆者)

なぜ野菜セットなのですか?

西田さん

例えば、ナスだけの単品販売では価格は上げにくいじゃないですか。
どうしても他のナスと比べられれば価格競争になるし、作り手のこだわりや想いも伝えにくい。
うちでは10種類以上の採れたての旬の野菜にキムチなどの加工品を加えてセットにしています。
主婦の方に野菜のおいしさやこだわり、1週間の献立イメージまでを提供できれば、付加価値は上がります

ナス男(筆者)

なるほどたしかに!
野菜セットでの失敗や苦労はありましたか?

風来と言えば野菜セット!
西田さん

常に苦労してますね(笑)
野菜セットは付加価値を付けることは出来ますが、楽に稼げる方法ではありません。
毎回10種類以上の野菜をうまく育て続けることは大前提ですし、
リピーターの方に飽きられないように、同じセットを送らないという工夫も必要です。
しかしお客様が喜んでくれたり、お礼のメールが届いた時には、何にも代えがたい喜びはありますね。

ナス男(筆者)

野菜セットならではの苦労や喜びがあるのですね。
どこの販路で野菜セットを売っているのですか?

西田さん

現在の野菜セットの販売は、風来の実店舗とHP経由に加えて、産直ECサイトからの注文が多いですね。
ちなみに、JAや市場出荷を否定する意図は全くありません。
しかし少量多品目では、同一作物を大量に出荷できないので、市場やJA出荷するにはメリットは少ないです。
やはり販売面でも、小さな農家は普通の農家と同じように出荷していてはダメということです。

六次産業化の決断

西田さん

そして、私の小さな農業の大きな特徴は、自分で加工品を作って販売していることです。
限られた小面積の農地で、付加価値を付けて野菜を売るには、農家自らが加工することも大事だと思っています。
いわゆる六次産業化ですね。

ナス男(筆者)

西田さんが考える六次産業化のメリットはなんですか?

西田さん

多少の傷や本来捨てる部分でも利用できることが、農家自らが加工するメリットですね。
例えばバジルは、葉っぱだけでなく実まで加工品にして売っています。
あとは悪天候関係なく屋内で商品が作れますし、農閑期にも加工品の売上が期待できます。

本来使わないバジルの実も、加工品にして活用する。
ナス男(筆者)

メリットが多いのは理解できるのですが……
なかなか6次産業化に踏み出すことは勇気が要りますね……

西田さん

おそらく、みなさんは六次産業化を難しく考えすぎているんでしょう。
国の補助金を入れて立派な加工工場を建てても、潰れていく加工工場のニュースは少なくないですからね。

私が主張したいのは、いきなり大きな建物を建てて始めるのではなく、まずは小さく始めて試しに売ってみることから始めるべきということです。
立派な建物なんか、なくてもいいんです。
洗い場やガスコンロ、冷蔵庫や冷凍ストッカーなどを、生活スペースと分けてつけることで始められるのですから。

ナス男(筆者)

なるほど、それなら規模が小さくても加工できますね!

西田さん

注意点としては、加工食品を作った時点で、ライバルはコンビニや大手総菜メーカーになるということです。
いかに大企業と差別化して、自らの野菜のこだわりを伝えるか。
そのためには、魅力的な商品開発とともに、情報発信が肝になります。
個人農家の強みを生かした情報発信は、コツコツしていくべきですね!

小さな加工場でも、六次産業化はできる。

情報発信の決断

ナス男(筆者)

やはり付加価値を付けるには、情報発信も大事になるのですね。

西田さん

私の場合は主に、HPとブログとポッドキャストですね。
令和は誰でも簡単に、それも無料で情報発信ができる時代です。
農家自らが直販でのPRで、利用しない手はありません!

ナス男(筆者)

ただ、何の情報を発信していいか分からないという農家も多いと思います。
個人農家の発信力なんて、大企業に比べたら弱いですし……

西田さん

それは難しく考えすぎですね。
バズる要素とか、面白い文章とか、そんなことはどうでもいいんですよ。
まず農家であること自体に希少価値があるのですから、普段の農作業や作業の様子などをアップすることから始めたらいいんです。
「変わり映えのない農作業が知りたい人なんているの?」と思われるかもしれませんが、
一般の消費者の方は農業にほとんど馴染みのない生活をしているので、日常の農作業を発信するだけでも興味がある方はいるんですよね。

ナス男(筆者)

なるほど、まずは日常の農作業から投稿してみればいいんですね。

西田さん

SNSでも悪くないのですが、できればブログやYouTube、ポッドキャストのような、自分のメディアを作って発信することをおすすめしています。
当然メディアを作って発信しても、最初はほんの一部の方にしか見られません。でも、それでいいんです。
個人メディアはアーカイブがSNSのように流れずに積み重なっていくので、それが個人農家の信頼になっていくからです。

ナス男(筆者)

がんばって継続して情報発信することが肝なんですね。

西田さん

そうですね。
そして情報発信をコツコツ続けることで、メディアから声をかけていただくことにつながることもありますよ!
私の本の出版もその一部ですし、最近では新規就農者のスクールのオンライン講師もしています。
私の講義に1000人以上の受講者の方がいて、ありがたい収入源になっています。

ナス男(筆者)

1000人の受講者!?情報発信、恐るべし……
だけど意地悪な質問ですが、ご自身のノウハウを公開することは、将来のライバルを増やすことになっちゃいませんかね?

西田さん

小さな農家は、新規のお客様をバンバン増やすことはしてはいけません。
よりたくさんの野菜の栽培が必要になるので、結果的に大規模農家や企業との競争になってしまいます。
小さな農家の目指すべき戦略は、「拡大」よりも、「拡層」が大事なんです。
お客様を大事にして、期待に応える野菜や情報発信ができれば、リピーターになっていただけますし点数を多く買っていただける。
目指すべきは、お客様にとっての「かかりつけの農家」になることなのです。

風来のHPとブログ

今後の目標や就農希望者に対してのメッセージ

ナス男(筆者)

今後の目標を教えてください。

西田さん

年齢も考えて栽培面積を減らすことも視野に入れつつ、栽培や就農などの情報発信で売上も上げていきたいと考えています。
ゆくゆくはオンラインでの農業スクールだけではなく、リアルでの実地農業研修もしたいですね。
就農当初からの理想である、「幸せになるための小さな農業」を、実践し続けたいです!

ナス男(筆者)

ありがとうございます。
最後に、就農希望者にメッセージをお願いします。

西田さん

「固定概念を捨てろ!」ですかね。
設備投資にお金がかかる、広い農地が必要、天候不順があれば儲からない、きついし休みがない、などなど……
農業に対するマイナスの先入観を捨て去ることで、個人の小さな農家でも活躍できる時代です。
「幸せになるための小さな農業」に興味があれば、私の本やHPを検索してみてください。

ナス男(筆者)

取材させていただき、ありがとうございました。

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