海外や国内の援農で農業に興味を持つ
東京都西多摩郡瑞穂町で新規就農
英語力を活かした外国人への西洋野菜の販売
今回インタビューした農家は、東京都西多摩郡瑞穂町のデュラント安都江(デュラント あつえ)さんです。
横田基地近くの立地と培った英語力を活かして、外国人向けの西洋野菜を栽培、販売されています。
海外や国内の援農を機に新規就農された安都江さんに、就農した経緯や、栽培や販路、今後の目標などについて取材しました!
海外や国内の援農がきっかけで農業に興味を持つ

安都江さんはどのような学生時代を過ごされましたか?



英語に力を入れている中高一貫校で、1ヶ月くらいの短期留学に行ったり、自然と英語は勉強する環境でした。
大学卒業後はカメラの販売店に就職して、2年間フィルム現像やプリントの受付などをしていました。



学生の頃から英語は喋られたんですね!
新卒で就職した仕事を、辞めた理由はなんでしたか?



社会人として数年働いたものの、今後の人生について悩んでしまって。
英語で「office worker」と自己紹介するのがモヤモヤして、「何者かになりたい」という焦りが、強くなってきたんです。
語学力ももう一度磨きたいとも考えていたので、24歳の時にイギリス、28歳の時にフランスのワーキングホリデーに参加しました。
イギリス各地を旅しながらの仕事や、フランスの田舎町に溶け込んだ生活は素晴らしい経験で、自分の人生を生きてるって感じました!



海外での経験によって、安都江さんの価値観が変わったんですね。
農業に興味を持つきっかけはあったのですか?



フランスでの滞在中に、林業を営む家庭で、馬糞の処理や家庭菜園をする機会がありまして。
当時は農業に全く興味がなく、むしろ土を触るとか肉体労働とか向いてないと思っていたんですけど、
予想以上に農的な暮らしや野菜栽培を楽しめたんですよ!
「農業を仕事にするのもありかも?」
と思えたフランスでの経験が、農業に興味を持ったきっかけですね。



海外での農家体験がきっかけだったのですね。



その後日本に帰国して派遣などで働きながら、援農やボラバイトという形で農家さんの所に通うようになりました。
関東近郊や山梨県の農家で、葉物の収穫や肥料撒きなど色々な作業を経験して、本格的に就農を意識し始めました。
ある時に、山梨県で新規就農された女性農家の方を訪ねたんですけど……。
なんと、ちょうど農業を辞めて、旦那さんの家業を手伝う決意をされていた時でした!
「農業って生涯やり抜くものじゃなくて、辞めていいんだ。」
と、逆に気が楽になって、私も新規就農しようと決意しました。



離農することが失敗ではないですからね。
安都江さんが農業を始めると言った時の、周囲の反応はどうでしたか?



特にはなにも…。
記憶があいまいなので、厳しいことは言われなかった気がしますね。
オーストラリア出身の夫も結構乗り気で応援してくれましたから、精神的にも助けられました。
東京都内での農業研修、農地と開業資金



ところで東京で就農ということですが、農業が盛んな県での就農は考えなかったのですか?



当初は自然豊かな所への移住して、新規就農することも考えました。
だけど夫の仕事が英会話講師でして、やっぱり人口が多いところの方が英会話講師のニーズは多いじゃないですか。
それに東京都内でも農地が多い地域があると調べるうちに分かったので、
だから東京での新規就農を目指して、東京都内で農業研修をしました。



なるほど。
習い事のニーズは、人口が多いところの方がありますからね。
農業研修をされたとのことですが、研修中はどのような作物を勉強されていたのですか?



2016年から2年間、西多摩郡瑞穂町の農家さんの所で研修しました。
長ネギを中心に、小松菜やキャベツなどの葉物野菜、トマトやナスなどの果菜類などの栽培を研修しましたね。
本格的に農業をしてみて、自分の体力のなさは痛感しました。
だけど働き方次第で休みも取れるイメージはできましたし、新規就農者のグループや農地なども見つけられたので、私にとっては重要な期間でした。





新規就農の方は、いい農地探しに苦労する方が多いです。
安都江さんは農地探しは順調でしたか?



たしかに新規就農者は農地に対して伝手がないので、タイミングと縁頼みになりますね。
何にせよ、農地を探している事を知ってもらわないと始まりません。
私の場合は研修中に、役場にかけ合ったり、瑞穂町の新規就農者グループと交流を持ちました。
不便すぎる場所の農地で断った話もありましたけど、運よく新規就農者の先輩が使っていた農地を紹介していただき、1つ目の農地を借りることが出来ました。
その後は地域の農家とのつながりで、空きそうな畑の話をいただいて、農地を増やしていった感じですね。



最初の農地が確保できてよかったですね。
あと、やはり気になるのはお金の面です。
自己資金はどのくらい準備されていましたか?



小さい栽培面積から始めようと思っていましたけど、運転資金や機械購入のために準備していた自己資金約300万円は、すぐになくなっちゃいましたね。
私の場合は認定新規就農者になって、経営開始資金の補助を受けられましたから、
中古のトラクターやマルチャー、耕運機、ハンマーナイフモアなどの購入に充てて、徐々に農機を揃えていった感じです。
就農準備資金・経営開始資金
西洋野菜を中心に20種類の栽培



現在の栽培作物と労働力はどんな感じですか?



約8反の畑があって、
ケール、ハラペーニョ、バターナッツ、長ネギなど、季節に合わせて20種類ほど栽培しています。
基本は私一人で作業していますが、英会話教室で働いている夫が、時々種まきや草取りを手伝ってくれます。
あとは東京援農ボランティアに受け入れ農家として登録しているので、月に4人くらいボランティアさんが来てくれています。



ケール、ハラペーニョ!
珍しい野菜を栽培しているのですね!



そうですね。
研修前か、研修中に知り合った日本在住の外国人の方に、
「日本のスーパーには母国で食べていた野菜がない。」
「英語でやり取りできる野菜の通販サイトがない。」
と言われたことがきっかけです。
・他の農家さんとの差別化にもなる
・英語力という強みを活かせる
・外国人が働く横田基地のすぐ横の畑がある
ということで、私の農業にぴったりだと直感しました!





英語力を活かした農業。
他の農家がなかなかマネできない農業ですね!



それに西洋野菜なら、オーストラリア出身の夫も喜んでくれますから!最初はYouTubeや種苗会社の方と話しながら、ケール、バターナッツ、パクチーを少量ずつ独学で作り始めましたね。
キャベツや大根などの重い大衆野菜は、
・大産地の状況次第で価格が変動する
・女性の一人農家には体力的に厳しい
と考えて、栽培候補にはできなかったですね。



なるほど、安都江さんならではの作型なんですね。
安都江さんは、栽培で失敗されたことはありますか?



失敗はたくさんありましたよ。
特に就農当初は完全に農薬不使用だったので、アオムシやアブラムシなどの害虫には悩まされ続けました。
手で取るにも限界があるし、防虫ネットを張るのも一人では重労働だし……。
洗い流しても取れない量の虫が湧いてしまって、途方に暮れたこともあります。



農薬不使用だと、暖かい時期は特に害虫との戦いになりますからねえ…
害虫被害から、どのような対策を取られたのですか?



「農薬不使用でも最低限の量を出すこともできないのではダメだな。」
と考え直し、2,3年目から一部の畑と野菜で、農薬を使う事にしました。
農薬散布も手間だし、重労働じゃないですか!
だから全ての畑で、農薬を使っているわけではないんですよね。
マイナー野菜を売る販路



現在の販路はどんな感じですか?



買取/仲卸業者が50%、横田基地向けの週1回の野菜セットが20%、スーパーの地場産コーナーが20%、その他マルシェや無人販売所、飲食店が10%くらいですね。
マイナー野菜を買ってもらえる業者やスーパーの地場産コーナーには、先輩農家の紹介で納品するようになりました。



横田基地向けの週1回の野菜セットが、他の農家にはない特徴ですよね。
でも、最初からたくさんの外国人のお客様がいたわけではないんですよね?



そうですね。
最初は横田基地の方と繋がりたいなと思って、フェイスブックなどのSNSを使って、ひたすら英語で投稿していました。
念願かなって繋がりができたら、紹介で徐々に評判が広がっていって。
今ではお客様が小さな消費者グループを作ってて、グループ向け野菜セットの販売ができるようになりました!





外国人のコミュニティの中で、口コミでベースサイドファームの評判が広まっていったのですね!
販売に関して、苦労や失敗はありましたか?



失敗とは思っていませんが、個人販売特有のやり取りの多さは、負担に感じることもありました。
「お客様との交流があればあるほど、ファンが増える。」
と当初は考えていて、産直ECサイトやHPから野菜セットの販売を増やそうとしました。
だけど日々の栽培で忙しくて、一人農家の私には、メールの簡単な返事に悩んだりして気疲れてしまうこともありました。
だから今は、ネット販売は少なめにして、なるべく買取業者さんへまとめて納品するようにしています。



特に一人で農業をされていると、メッセージに時間がかかってしまうのはもどかしいでしょうね。
今後の目標や就農希望者に対してのアドバイス



安都江さんの今後の目標を教えてください。



栽培面の目標は、野菜の栽培量を増やすことです。
業者の要望や個人のお客様の要望に対して、応えきれない時もあるので、安定供給を目指したいです。
販売面では、子どもたち向けの農業体験をまた企画したいと思っています。
芋掘りや植え付け作業等、どのように野菜が育っているか学んで欲しいなと思ってまして。
今は栽培に専念したいと思って、募集はかけていませんが、
一緒に企画運営してくれる人がいるなら、いつでも再開したいです!





最後に安都江さんのように、女性で就農を目指す方にアドバイスがあればお願いします。



これは援農先で出会ったネパールの方の言葉の受け売りなんですけど、
私は「日本は失敗できる国」だと思うんです。
世界では起業で失敗=死を意味する国もある中で、日本は万が一事業に失敗しても、生きていって挽回することはできるじゃないですか。
失敗のリスクの他にも、体力の衰えや家族の都合など、未知なるハードルが人生には待ち構えているはず。
だから農業をやりたいと思ったら、なるべく早めに行動に移した方が良いとお伝えしたいです。



取材させていただき、ありがとうございました!
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