子育てとの両立を優先して農業を始める
ひょう害でリンゴが壊滅的被害を受けた過去
HPや産直ECでの販売を開始
今回インタビューした農家は、青森県弘前市の山上亜木子(やまがみ あきこ)さんです。
兼業農家だったご主人と結婚されて、子育てを機にリンゴ栽培に関わるようになった山上さんに、
就農当初の苦労や販売面の改善、農業の心構えなどを取材させていただきました!
子育てを優先して農業を手伝うように

山上さんはどのような学生時代を過ごされましたか?



保育園児の時に青森県弘前市に転校してきてから、ずっとここで育ちました。
高校卒業後に法律事務所に就職して、主に書類関係の仕事をしていました。



農家になる前の農業のイメージはどんな感じでしたか?



クラスメートの大半が農家の子どもという田舎町で育ったので、周りの農家家庭の女友達は、
「農家とは絶対に結婚したくないよね~。」
って言ってました(笑)。
けど、私は特にマイナスイメージもなく。
結婚した主人もリンゴの兼業農家でしたから、いずれは農業を自分もやるだろうとは思ってはいましたけど、特に嫌でもなかったです。



周りの友達が農業をやりたくないと思ってしまうのは、農家の長男の私も分かりますね(笑)。
ご主人の家のリンゴ栽培をするようになったのは、いつ頃からですか?



2002年ごろからでしょうかね。
子どもを保育所に通わせながらできる仕事を探していて、弘前市役所の団体職員の臨時雇用で働いていた時もあったんですけど……。
・パート求人のある市街地まで、車で片道45分もかかる
・子どもが体調不良で休まざるを得なくなった時に、申し訳ない気持ちになる
のが、どうしても合わなくて……。
リンゴの農作業であれば家の目の前に仕事場がありますし、子どもの急な休みにも気を使わなくてもいいじゃないですか!
ということで子ども優先で、農作業のお手伝いから始めるようになりました。





たしかに農業は、時間の融通が利く農家は多いイメージですね。
お子さんが小さい頃、どのようなスケジュールで働いていたのですか?



・朝起きて子どもを保育所に送って、家事を一通りやる
・9時~12時 農作業
・13時~16時 農作業
・子どもを保育所に迎えに行って、晩御飯の支度など
みたいな生活でしたね。
主人も2008年に専業農家になって、子どもも手がかからなくなってから、私も本格的に農業をするようになりました。



農業が仕事になるということに、不安はありましたか?



当初はそれほど不安はありませんでしたね。
というのも、主人は結婚当初はサラリーマンでしたから、
「リンゴ以外の収入がある。」
というのが、精神的にゆとりができていたのかもしれません。
それに、当時の保育所のママ友も、9割リンゴ農家だったんです(笑)。
だから子育てや農業の話も含めて、色々相談しやすい環境だったというのもあると思いますね。
有袋栽培の「ふじ」をメインにしたリンゴ栽培



現在の栽培面積と労働力を教えてください。



全部で1.8ha、約300本のリンゴの樹を栽培しています。
労働力は主人と私と息子、お義母さんです。
品種は有袋栽培の「ふじ」が約50%で、残りの50%は「王林」「ジョナゴールド」「とき」「つがる」です。





リンゴ栽培で苦労したことはありますか?



苦労と言えば2008年の、収穫直前のリンゴが雹にやられて傷だらけになって、9割9分出荷できなくなってしまったことですね。
春から栽培してきて袋掛けして防除もしてきて、あと数日で収穫という所で……
収入の当てが途絶えたので、どうしたものかと途方にくれてしまいました。



99%が傷ものに……。
労力と経費が全てかかったリンゴがダメになるのは、金銭的にも精神的にもきついですね……。
どん底のような状況を、どのように乗り越えたのですか?



とりあえず、家にあったお金をかき集めて資材の経費を払って、最低限の生活費を確保しました。
地域のリンゴ農家もうちと同じように大損害を受けていたので、なるべくジュース加工場に納品できるようにと、農家と加工業者みんなで協力しました。
当時できることは全てやったので、あとは気持ちを切り替えて、努めて普段通り明るく過ごしていました。
突然のひょう害は対策の立てようがなかったですし、起きてしまったことは取り戻せませんから、
落ち込んでいる毎日では、子どもにも心配をかけてしまいますからね。



気持ちの切り替え、なかなかできることではないので、勉強になります。
栽培に関して、今取り組んでいることはありますか?



近年は秋も高温が悩みの種ですね。
リンゴをきれいに色づかせるためには、「葉取り」と「つる回し」という作業が必須なのですが……
その作業のタイミングがずれると、リンゴが日焼けしてダメになってしまうんです。
例年通りの作業日程では暑すぎてダメになってしまいますから、タイミングを見極めないといけません。
あとは、色づきしやすい「着色系ふじ」への改植を進めています。
定番の「ふじ」を始め、リンゴの改良品種が出ているので、栽培と並行して植え替えもしていく予定です。
直販



現在の販路はどんな感じですか?



うちは90%以上はリンゴ専門市場に出荷して、数%は直販しています。
日本で唯一のリンゴ専門市場があって、距離的にも近いですし、入金も3営業日で入金されるのが理由です。



リンゴだけの市場、さすがはリンゴの生産量日本一の町ですね!
それに、入金が早いのは農家にとってはありがたいですね!
ところで、山上さんが直販を始めたのですか?



そうですね、私がHPや産直ECサイトへの登録出品、SNSなどを始めました。
一般的なスーパーに並ぶリンゴは、冷蔵施設で一旦保管されてから出回るリンゴが多いのですが、
うちが直販するリンゴは、収穫して翌日には発送します。
リンゴを食べ比べているスーパーの元バイヤーも、うちのもぎたてのジョナゴールドは美味しいと褒めてくれていますね!



もぎたてのリンゴ、なかなか食べられないものなんですね。
あとはリンゴジュースも販売されているのは、6次産業化ですか?



そうですね、ジュースの加工販売、いわゆる六次産業化にも取り組んでいます。
試しに選果して余ったリンゴを加工場に持ち込んで、産直ECユーザーの方に試飲してもらったら、それが好評で!
企業とのコラボのお話をもらったので、商品化に乗り出すきっかけになりました。



なるほど、でもリンゴジュースって、大手企業も多く参入していますよね?
他の企業との差別化ポイントはあるのですか?



多くのリンゴジュースは、様々な品種のブレンドジュースが多いんです。
だからうちは、単一品種で品種ごとの味の違いが楽しめるジュースが作りたいと思って。
今販売しているのは、ジョナゴールドと王林のストレート果汁です。
リンゴに詳しくない消費者の方でも、この2品種は一般的なリンゴのブレンドジュースと比べて明らかに味の違いが楽しめるはずです。





リンゴの品種の違いが素人でも分かるジュース、おいしそうですね!
だけど直販や六次産業化を始める中で、苦労もあったのでは?



そうですね、直販や六次産業化は簡単ではありません。
特にメンタルの面で、農作業に支障が出る農家は続かないと思います(笑)。
私も細心の注意を払っていても、100件に1件あるかないかくらいは、返金事案が発生してしまいますから。
その中で印象に残っている直販の失敗で言えば、リンゴジュースのビンが割れた状態でお客様に届いてしまったことです。
直販でスーパーより高いリンゴを買っている分、期待値が高いので、ダメなものが届いた時のお客様のガッカリ感は大きいんですよね。



気を付けてはいても、返金事案は発生してしまうのですね。
クレームが来た時は、どのように対処するのですか?



配送業者にも確認して、なぜビンが割れたのかを調査して、丁寧にメールして。
こちらに非があれば、電話口でお客様が怒っているのは受け止めるしかないですし、誠心誠意謝るしかありません。
ただクレーム対応でも大事なことは、「事実と感情を分けて考える」ことだと思います。
ジュースのビンが割れたという事実は変えられないけど、お客様の感情は対応次第で納得していただくことはできますからね。
コントロールできる部分の対応にフォーカスすれば、対策が見えてきますし、こちらのメンタルも切り替えやすいですよ。



なるほど、事実と感情を切り分けて考える、直販のクレーム対応には必要な考え方ですね!
山上さんの、直販に関しての目標はありますか?



「新規のお客様や直販の注文件数をもっと増やしたい!」……とは考えていません。
コロナ渦が落ち着いて、送料も徐々に上がっているので、農家から直接買う消費行動は落ち着くと思っています。
それにどの農家も差別化を意識して商品を出品していますから、私の商品だけが売れ続けることは難しい情勢ですしね。
ただSNSや公式ラインで、今まで私のリンゴやジュースを買ってくださったお客様に向けて、発信はしていくつもりです。
農作業の様子をSNSで投稿したり、お客様の投稿も楽しむような、相互の交流を深めていければと思っています。
今後の目標や就農希望者に対してのメッセージ



ここまでお話を伺ってきて、りんごママは達観されているというか、メンタルの保ち方が上手ですよね。



そうですかね?
私が特別にメンタルが強いとは思っていませんよ(笑)。
ひょう害で大損害を受けた時もクレームで凹んだ時も、起きてしまった事実ではなく、負の感情を変えるように考えてきました。
失敗や苦労も経験してきて、今はだいぶ楽な気持ちで農業ができています。
どんな気持ちで生きても一日は同じように過ぎますから、辛い気持ちを引きずっているのはもったいないですからね。





私を含めて、失敗を引きずってしまう方は、「事実と感情を分けて」考えることを身に着けないといけませんね。
最後に、就農希望者や結婚を機に農家になる方にメッセージがあればお願いします。



結婚を機に農家になるという女性の方は、農業をしてほしいという周囲の期待はあるかもしれませんが……
農業が好きになれなかったら続かないですし、嫌々農業をしても誰も幸せになりません。
今では農家の奥さんも、自分の仕事を続けていく方もかなり多いので、よく家族と相談して決めたらいいと思いますよ。



もう一つ、起業でも同じことだと思いますが、就農するときにお金はあればあるだけいいです!
私は、子どもの大学入学までにかかる進学費用を貯めてから就農することをお勧めします。
サラリーマンと農家の夫婦でもいいですし、教育資金を貯めてから就農しても遅くはありません。
将来の必要な資金が事前に確保できていれば、精神的にも安定して農業ができるでしょうからね。



取材させていただき、ありがとうございました!
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