農業大学校を卒業したのちに親元就農
有機農法や資材を禁止して、数字を見て判断
都内高級フルーツ店への直販から、地元JAへの出荷に変えた理由
今回インタビューした農家は、山形県尾花沢市の高岡農園の高岡勝行(たかおか かつゆき)さんです。
1996年に実家の農業を継いで、スイカ栽培をされています。
SNSでも人気のあるスイカ農家に、就農の経緯やオカルト農法からの脱却、直販からJA出荷に変えた理由などを取材しました!
農業大学校を卒業後に親元就農

高岡さんが農業に興味を持ったきっかけはなんでしたか?



実家がスイカ農家をしていたので、農家の長男として実家を継ぐのは当たり前だと思っていました。
だから高校を卒業後は、山形県の農業大学校で2年間勉強したのちに1996年に親元就農しました。



農家の長男だったのですね。
就農した時には、周囲からはどんな反応がありましたか?



当時の就活はまだ売り手市場で、都会の企業に就職する友達がほとんどでした。
尾花沢市で就農する人自体が、私の代が十数年ぶりというくらいでしたから、
「この時代に農業を継ぐなんて、偉いねえ!」
と、皮肉も混じっていたかは分かりませんが、周りからはびっくりされていたと思います。



それでも農業大学校を20歳で卒業して、ストレートで親元就農したということで、高岡農園としてはより発展していけたのでは?



いや、実は……。
私が学生の頃から、実家の農業の雲行きがおかしくなっていることに気づいていたんです。
というのも、父親が県外の怪しい農家に何かを吹き込まれたのか、「無農薬農法」に傾倒していったんです。
米ぬかや油粕を発酵させた自作ボカシ肥料と鶏ふんのみ、農薬不使用でのスイカ栽培。
当然秀品のスイカはごくわずかしか採れず、我が家の経済状況は徐々に悪化していき、私は部活を辞めて農業の手伝いをせざるを得ませんでした。



無農薬農法…。
無農薬と表記するのは現在はダメなので、何やらオカルトじみた雰囲気がありますね…。



当時の父親は、NPKなどの肥料の基本も分かっていなかったと思います。
だから何がどう効くかも分からないような資材を、市販の似たような資材の何倍もの価格で買わされていました。
当時は有機JASという明確な指標もなかったので、オカルトの無法地帯だったと記憶しています。



基本やマニュアルがない農業、結果が出ないと精神的にきついですよね。



売上が落ちるだけなら自業自得で済むことですが、近隣農家と栽培方法でぶつかることもあって、地域との関係も悪くなっていたんです。
それでも私は農業を辞めたいとは思わず、
「むしろ俺が実家の農業を建て直してやろう!」
と奮起しました。
具体的には、
①有機農法禁止
②数字で説明できない資材禁止
③他の農家の悪口禁止
の「3禁」を発令して、悪化した農業経営の立て直しをしていきました。


有機農法からの脱却



具体的には、高岡さんはどのような改革をしていったのですか?
肥料の見直し



まずは土壌分析をして、うちの農地に足りない要素は何かを、数字で把握することから始めました。
その結果、K=カリが足りなくなっていることが分かったんです。
自作ボカシ肥料のNPKが約「3-5-1」だったので、同じように投入し続けていたら、カリ不足になるのは当然の結果ですよね。



土壌分析、栽培の基本ですね。
カリ不足の結果を受けて、高岡さんはどのような改善をしていったのですか?



そこで私は自作ボカシ肥料を止めて、土壌分析を依頼した会社から購入した肥料を使うすることにしました。
NPKが「5-5-5」のバランス型の肥料を使い始めたことで、スイカの生育が格段に良くなっていきました。



スイカ栽培に必要な肥料に変えたことで、生育が良くなったのですね。
農薬の適切な使用



次に、農薬の適切な使用を始めました。
スイカは特に害虫が付きやすい作物で、農薬を適切に使って対処しないと収量や品質が一気に落ちます。
「無農薬」にこだわっていては、まともなスイカは作れませんからね。



たしかにスイカは、アブラムシなどの害虫がたくさん湧くイメージがありますね。



農薬の使用と並行して、農薬の作用点も勉強していきました。
例えばアブラムシの防除でも、吸汁阻害なのか即効性の食害作用なのかで、全然効き方が違いますよね。
当時はまだ、即効性のある農薬が好まれて使われていましたが、
特定の農薬一辺倒では農薬の抵抗性が付きやすくなってしまいますしね。



現在では「農薬を変えたローテーション防除」は農薬の基本ですよね。



農薬の作用点を学んで防除で意識することで、害虫の発生状況によって適切な農薬を選ぶことができるようになりました。
今ではスイカのロスは少なく抑えられて、秀品率も高く出荷できるようになりましたね。
近隣農家との関係修復



最後は、近隣農家との関係改善ですね。
農村で近所との関係が悪いと、何をするにも都合が悪いじゃないですか。
だから父親の怪しげな農法から離れていった近所との関係性を戻すことは、絶対に必要でした。



田舎で近所付き合いが悪いと、生活にも支障が出ますからね……。
具体的には、どのように関係改善をしていったのですか?



まずは畑での挨拶から始めました。
少しずつ会話の内容を広げて、スイカ栽培の状況を教えてもらう感じでしたね。
最初は私が話しかけても、近所の農家からは警戒されている感じでした。
だけど徐々に、栽培談議ができるようになっていきました。
近所の農家の栽培を知っていったことで、私のスイカ栽培の見識が広がっていきましたね。



農家は細かいこだわりを理解してほしい生き物ですからね。
ただ、高岡さんがしてきた改善を、父親は良く思われなかったのでは?



そうですね、最初は父親も、私の農業改善は気に食わない感じだったと思います。
それでも目に見えてスイカが良くなって、売上も回復して結果が出たことで、父親も私に口出しをしなくなりました。
紆余曲折はありましたが、現在では尾花沢スイカの産地の中でも、見劣りしないと胸を張って言えるスイカを栽培できるようになりました。


有機肥料のみで栽培するスイカ



高岡さんの現在の栽培作物や労働力はどんな感じですか?



両親と私、パートさんが1名で、スイカを1.5haほど栽培しています。
秋口の雪が降る前から、次作の肥料やマルチを張って、4月末に定植する作型ですね。



有名な尾花沢市のスイカは、冬に入る前から準備するんですね!
そんなスイカ栽培のこだわりはありますか?



他の農家と異なるところでいうと、肥料は有機肥料のみで栽培していますね。
もちろん土壌分析をした上で、適切な量の有機肥料を投入しています。
化学肥料だけでもスイカはできますし、化学肥料を使っている農家を否定しません。
だけど私は、有機肥料を使うことで、スイカの味が良くなると信じています。



なるほど。
あとは失敗談も聞きたいのですが、高岡さんはスイカ栽培で失敗したことはありますか?



自作ボカシを使っていた頃は、スイカが「つるボケ」して実がつきにくくなっていました。
投入量が数字で分からず、肥料を入れすぎてチッソ過多になっていたことが原因ですね。
土壌分析して肥料設計するようにしてからは、つるボケは出なくなりました。
施肥設計を勉強するために、肥料会社のカタログはボロボロになるまで読み込んだのは、今ではいい思い出です(笑)。



やっぱり施肥設計の計画は重要なんですね。


直販からJA出荷に変えた理由



現在の販路はどんな感じですか?



就農当初は、ほとんど直販でスイカを販売していました。
しかし現在は、9割以上が地元のJAに出荷しています。
直販は昔からのお客様や、直接注文をもらった方のみ対応しています。



直販メインからJA出荷に切り替えた農家というのは、珍しいですね!
JA出荷に切り替えたきっかけはなんでしたか?



就農当初は遠方の個人のお客様や、北関東の市場や東京青果市場経由で、高級フルーツ店にも並んでいたんです。
だけど東日本大震災を境に、青果物の長距離ドライバーさんが不足して、スイカを輸送するコストが上がったんです。
それならばと、尾花沢スイカ選果場への出荷に切り替えました。



流通コストは、直販のネックとなる部分ですよね。
JAの選果場への出荷に切り替えて、どうでしたか?



直販をしていた頃よりも、むしろ手元に残るお金は増えましたね。
スイカ選果場に持っていくだけなので、出荷調整の時間も減り、労働時間にもゆとりが出来ました。
電話やFAXでの対応から手書きの伝票を作るのが大変でしたから、その作業から解放されて栽培に専念できるようになったことは、両親も良かったと言っています。



手間がかかる直販よりも、JA出荷の方が利益が良かったというのは、興味深い結果ですね!
JA出荷の効率の良さは、改めて見直す価値がありますね。



現在は産直ECサイトであったり、伝票の自動作成がありますから、事務作業の負担は少ないでしょうけどね。
ちなみにスイカの直販は、XのDMから注文をもらえれば対応しますよ!
SNSはお客様と直接つながれて感想が聞けるので便利ですし、私もスイカが美味しかったと言っていただけるのは嬉しいですからね!



Xで高岡農園さんのスイカを注文できるのですね!
それは投稿をチェックしとかないと!


今後の目標や就農希望者に対してのアドバイス



高岡さんの今後の目標を教えてください。



両親も高齢になって今の働き方ができなくなるだろうから、スイカ栽培の省力化が目下の課題ですね。
ですから栽培面積を減らしてもスイカの質を落とさずに、売上や利益を上げるのが目標です。
具体的には放任栽培のスイカ畑を、全てつる引き栽培に変えていって、パートさんでもできるような作業体系にしていく予定です。



ありがとうございます。
最後に高岡さんのように、親元就農を考えている方にアドバイスをお願いします。



先入観や政治的価値観などをなくして、リテラシーを持って農業の世界に入ってきてください!
数字を根拠にして、しっかりと作物に向き合ってください!
ということは、声を大にして言いたいですね。



あ、有機栽培自体を否定しているのではないですよ!私自身も有機肥料にこだわりはありますし。
だけど私の家のような「オカルト農法」で、作物がまともに収穫できないような農業はおすすめできません。
栽培の基本は、数字で判断できる慣行栽培にあると思いますから、まずは慣行栽培を学ぶのがいいのではないでしょうか。



高岡さんの苦労した経験からのアドバイス、刺さりますね…!
取材させていただき、ありがとうございました!
コメント