放牧養鶏の魅力を伝えたい!長崎県平戸市の新規就農者の、前例がほとんどない農業。

記事の内容

体を壊して食生活を見直して気づいた平飼い卵の美味しさ

鶏たちが自由に動き回る放牧養鶏

全国から認知されて地域に認められる販路

今回インタビューした農家は、長崎県平戸市のナチュラルエッグラボ代表の山野暖尭(やまの はるたか)さんです。

病気をきっかけに、卵や平飼い養鶏に興味を持って新規就農!

日本でもほとんど見かけない放牧養鶏をされている山野さんの、就農までの経緯や鶏の飼育、販路などについて取材しました!

目次

病気をきっかけに卵や平飼い養鶏に興味を持って新規就農

ナス男(筆者)

山野さんは農業をする前はどんな仕事をされていましたか?

山野さん

ホテルマンや介護など、転職を何度かしました。
うちの田畑は親が栽培するわけでもなく、他の農家に貸しているだけでしたので、
当初は農業をやるなんて、考えたこともなかったですね。

ナス男(筆者)

それは大変な思いをされましたね…。
農業に興味を持ったきっかけはなんでしたか?

山野さん

ラーメン屋の店長をしていた時、ハードな仕事で休みもなかなか取れずに、自分の体を壊してしまったんです。
休職して入院したんですけど、病気の後遺症で脚にマヒが現在もまだ残ってしまってて……
肉体的にも精神的にも追い詰められていました。

山野さん

リハビリ生活をしている時に、妻が平飼い卵を使った料理を作ってくれたんですが、その卵がびっくりするほどおいしくて!
それで平飼い養鶏に興味を持って、平飼い養鶏をされている農家さんの所に見学に行ったんです。
鶏たちがイキイキと動き回っている自由な姿に、一瞬で虜になりました!
「自分がやりたかった仕事はこれだ!」
と運命を感じましたね。

放牧されている鶏たち
ナス男(筆者)

なるほど、平飼い養鶏に魅了されたのですね。
そこから平飼い養鶏の研修に行かれるのですか?

山野さん

いや、早速ホームセンターで20万円の小さなビニールハウスを買って所有していた田畑に建てて。
2019年の11月から、鶏3羽を試しに飼い始めました。
早く鶏を飼いたいという一心でしたから、農業研修という考えが当時は思い浮かばなかったんですよね。

ナス男(筆者)

研修せずに、いきなり鶏を飼い始めたんですか!
山野さんの場合、田畑は所有していたとしても、ご両親も農業はされていなかったわけですよね?
しかも全く別分野の養鶏を始めるとなると、新規就農の補助金なども対象になるかと思うのですが…?

山野さん

新規就農の補助金に関しては農政の方と相談したんですけど、地域の推奨する作物でないと認可が下りなくて。
平飼い養鶏で放牧もするという営農は、前例がなさすぎということでしょうね。
でも新規就農の補助金の対象にならなかったことで、逆に奮起するきっかけになりましたよ!
だから半年後の2020年3月には、3羽から100羽になってました(笑)。

ナス男(筆者)

筋金入りというか、全くぶれずに羽数を増やしたのですね!
いきなり新規就農したことに対する、周囲の声や反応はどうでしたか?

山野さん

会社の上司からは、
「1個100円もする高級な卵で食っていけるわけないだろ。」
と言われましたね。
自分の親も呆れてました。
だけど徐々に販売個数も増えて認知されてきて、地域や親にも認めてもらえるようになってきました。
あとは妻には苦労をかけてしまっているので、もっと妻が安心できるだけの結果を出さないといけませんね。

ナス男(筆者)

サラリーマンから農家になることに、不安はありましたか?

山野さん

自分が鈍感すぎるのか、あまり不安はなかったですね。
たしかに生き物を飼っているので、気温や天候によって産卵数=売上は安定しないし、休みもないです。
だけど売上目標や労働時間は、自分の裁量で決められる
じゃないですか。
それに鶏たちが走り回っている姿は、自分はずーっと見てられるんです!
もしかしたら鶏たちと同じように、自分も自由を求めていたのかもしれませんね。

鶏たちの自然な姿を追求する放牧養鶏

ナス男(筆者)

現在の養鶏はどんな感じですか?

山野さん

「後藤もみじ」という採卵種を、ヒナを合わせて700羽ほど放牧養鶏で飼育しています。
基本は自分一人でやっていて、卵の出荷作業を母が手伝ってくれることもあります。

後藤もみじのヒナ
ナス男(筆者)

放牧養鶏、聞いたことがなかったのですが、放牧養鶏農家としての一日の流れはどんな感じなんですか?

山野さん

・朝にエサを作ってエサやり、鶏たちを運動場に放す。
・前日の卵の出荷作業。
・昼からは卵を採集。
・夜に鶏小屋を閉じる。
という流れですね。

ナス男(筆者)

他の農家とは違う、飼育のこだわりはありますか?

山野さん

とにかく、鶏たちを自然な姿で生活させることだけを意識しています。
だから広い運動場を設けてますし、集団には卵を産まないオスもいますね。
餌はトウモロコシやおからや牡蠣殻、あとは鶏たちの腸を整えるような微生物飼料も加えて、自家配合した飼料を使っています。

ナス男(筆者)

ケージ飼いではなく、配合飼料も使わないのですか!
スーパーに売っている卵とは、明確に違いがありますね。

山野さん

あ、だからといって、一般の卵やケージ飼い養鶏を敵視しているわけではないんですよ!
うちは有精卵ですし、飼料にもこだわっていますけど、過度にそこだけを強調するような宣伝はしていません。
一番伝えたいのは、自分が感動したように、鶏たちが自然な日常の中で産んでくれた卵だということだけですね。

ナス男(筆者)

色々アピールしないことで、山野さんの養鶏のこだわりが、逆に伝わってくる気がしますね!
あとは養鶏をされている中で、失敗したことはありましたか?

山野さん

失敗はたくさんありましたよ。
でも一番の失敗はやはり、2024年にイタチやテンなどの野生動物の襲撃に何度も逢って、200羽の鶏たちがやられてしまったことですね。
イタチやテンって、穴を掘ったり網をかみちぎって侵入してくるんです。
羽数や契約してくださる方も増えてきた中での被害だったので、一気にどん底に叩き落された気分でしたよ。

ナス男(筆者)

あまりにも惨い惨事でしたね……。
野生動物の被害を受けて、どのような対策をしたのですか?

山野さん

2重の電気柵やトレイルカメラなどの設置費用を、クラウドファンディングで調達させていただきました。
元々野生動物たちの縄張りに鶏小屋を建てているので、野生動物たちが鶏たちを狙う気持ちは分かるんです。
だから自分に慢心があったと反省して、見回りや管理の強化をしていくつもりです。

ナス男(筆者)

クラファンで資金調達ができて何よりでしたね。
今後の飼育面での目標はありますか?

山野さん

獣害対策で被害が落ち着けば、まだ羽数を増やせる余地があるので、1200羽くらいまでは鶏を増やしたいですね。
現状は卵を注文していただいたお客様を待たせてしまっているので、スムーズに卵の出荷数を増やすことを目標にしています。

全国の個人直販がメイン販路

ナス男(筆者)

現在の卵の販路はどんな感じですか?

山野さん

産直ECサイトやHP、ふるさと納税など、個人の直販が9割ですね。
あとは、取り扱っていただいている飲食店への納品があります。

ナチュラルエッグラボの平飼い卵
ナス男(筆者)

全て直販で売り捌いてしまうのはすごいですね!

山野さん

とはいえ、販売開始当初はなかなか売れずに、卵が余ってしまうこともありましたよ。
飼育をしながら自分ができる宣伝と言えば、SNSしかありませんから、
とにかく鶏たちが自由に動き回っている姿を伝えようと、特にインスタグラムの動画に力を入れました。
徐々にネット販売で卵が売れ始めて、平戸市のふるさと納税からの注文も増えて、地元の方からも覚えてもらえるようになりましたね。

ナス男(筆者)

私も山野さんのインスタ見ましたけど、鶏ってこんなに飛べるんですね!
一般の消費者の方にもインパクトがあると思います。
あとは、チーズケーキや鶏肉も販売されていますが、これは六次産業化ということですか?

山野さん

そうですね、チーズケーキも鶏肉も、OEM(外部受注生産)でお願いしています。
卵の加工品というアイディアはずっと持っていたので、美味しいシェフに自分の卵が使われるのはうれしいです。
鶏肉加工も、専門業者の方に納品して作ってもらっています。
卵を産まなくなって廃用になる鶏たちも、価値のある最期になるような商品ができて良かったです。

今後の目標や就農希望者に対してのアドバイス

ナス男(筆者)

山野さんの今後の目標はありますか?

山野さん

牧養鶏を間近で見てもらえるような、子どもたちの農園見学を準備中です。
売上目標とかは、うーん…、ないですね!
もっと鶏たちを自然な形で飼育するには、飼育方法や設備投資はどうするべきか、だけを考えています。
鶏たちを優先して考えてしまってるので、よく親や妻からは怒られるんですけどね(笑)。

走ったり飛んだりする鳥たち
ナス男(筆者)

鶏たちの様子が間近で見られるのは、子どもたちのいい経験になりそうですね!
最後に山野さんのように、養鶏や新規就農を志す方にアドバイスがあればお願いします。

山野さん

自分がアドバイスできるほどの農家ではないですけど、あえて一言いうのであれば、
「新規就農したいなら、すればいいんじゃない?」
くらいに、楽に考えるのはどうでしょうか?

そりゃあ失敗して離農することになるかもしれませんが、色々悩んで動けない就農希望者の方も見てきているので。

ナス男(筆者)

取材させていただきありがとうございました!

農家さんのリンク

こぼれ話:メディア出演も断っていた理由

ナス男(筆者)

山野さんほど独特な養鶏をされている方は珍しいでしょうから、メディアの出演依頼も過去にはあったんじゃないですか?

山野さん

そうですね、テレビや雑誌の取材の話もありましたけど、断っていました。
まだまだナチュラルエッグラボが認知されてなかった頃は、ありがたいお話でもあったのですが……
流行だけで終わってほしくなかったですし、「高級な卵」って所だけを切り取って取り上げてほしくなくて。

山野さん

それにメディア経由で注文数が増えても、卵の数が足りなかったら、バズっても意味がないので。
だから今回の記事で、自分が一番伝えたい「鶏たちの自由な日常」までを取り上げてもらって感謝していますよ!

ナス男(筆者)

いえいえ、こちらこそ。
ナチュラルエッグラボの魅力が全部伝わるように、頑張って文字にします!

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