親とは別経営の農業
鮮度や美味しさにこだわった栽培
販路を開拓していった妻の努力
長崎県島原市の前田農産代表の前田彬光(まえだ あきみつ)さんに、就農の経緯や栽培のこだわり、販路開拓していく際の苦労などを伺いました!
親とは別経営での農業
彬光さんは、どのような性格の子どもでしたか?

好きな物にはとことんハマる性格でした。
中学高校では陸上に打ち込み、卒業後はバイクや車の運転にハマっていましたね。
実家が祖父母の代から農家をしていたので、小さい頃から自然や農業には親しみがありました。
実家が農家ということで、子どもの頃の農業のイメージはどうでしたか?



毎日のように畑に出て働いている祖父母を見ていたので、大変そうだとは思っていましたが、
「働いたら働いた分だけバリバリ稼げる!」
とも思ってました。
だから僕は跡を継ぐつもりで、農業大学校に進学し、主に野菜栽培全般を学び、2012年に実家に就農した形ですね。
彬光さんが就農した時の、周囲の反応はどうでしたか?



両親からは「就職したほうがいい。」とは言われていましたが、僕の意見を押し通した感じですね。
当時から付き合っていた妻には、20歳でいきなり農家の嫁+9人家族での同居となったわけですが、
「面白そう!」
と二つ返事で承諾してくれて、就農を機に結婚することにしました。
おお、それはおめでたい!
農業に理解のある奥さまで、何よりですね!
実際に仕事として農業をしてみて、農業のイメージは変わりましたか?



正直、疲労度や休日や給与面でも、就職した方がマシだったと後悔したのを覚えてます(笑)。
結婚した当初は妻も、かなり楽観的に考えていたようですが、
・異常気象の中での作業のキツさ
・毎年の資材の値上げ
・安値での野菜の廃棄
などで、農業のリアルを思い知ったみたいです(笑)。



特に僕は数年経ってから、親との農業観の違いには苦しみました。
休みや給与が貰えず、畑にしようと開拓した土地を取り上げられたりもしました。
思い通りに畑を使えないもどかしさから、2022年から親とは別経営をしていく事なったんです。
まあ、親子間で価値観に違いがあるのは、親元就農あるあるですよね。
彬光さんはどこまで親と別々にしていますか?



一部の機械は共同で使ってる物もありますが、基本的には僕が使う用に農機を買い足しましたね。
肥料散布機やトラクター、2トントラックや軽トラも新たに買いました。
畑も自分で空いている農地を見つけては、地主さんと交渉して貸してもらって。
何か不都合があれば調整して手伝うくらいで、肥料や農薬などの経費や確定申告も、両親とは別ですね。
ほとんど独立して、前田さんが経営をしているのですね。



そうですね、あまり褒められたことではないかもしれませんが。
ただ、親とは別経営で全てを自己責任としたことで、家族のために一層農業に力が入るようになりました。
妻も子育てをしながら僕を手伝ってくれたので、まさに夫婦二人三脚で前田農産の栽培や販路を改善していきました。


栽培:熟期や肥効を見極めるこだわり
現在の作物の栽培規模や作物、労働力はどんな感じですか?



夏のスイカとスイートコーン、あとはレタスがメインです。
試験的に新しい品目を試したり、スイカのビニールハウス栽培を増やすかなど、品目の比重は毎年検討して変動していますけどね。
労働力は収穫時期に妻や短期パートさん数名にお願いしていますが、栽培管理や大事な作業は、ほとんど僕自身で行っています。
栽培面は、彬光さんが担っているのですね。
今の作物を選択した理由はなんですか?



狭い面積の畑をガンガン回していける様に、最短で2か月で収穫できるレタスをメイン作物にしました。
夏作のスイカとスイートコーンに関しては、
「好きな作物を極めて、自分たちで食べてみたい!」
という理由ですね。
好きな食べ物のほうがやる気が出て、より一層おいしく作れそうだからです。
なるほど。
たしかに経営的な数字も大事ですけど、好きな作物を栽培する農家さんも多いイメージですね。
そんな前田さんの、栽培面でこだわりはありますか?



どの作物も、一番美味しい状態で収穫できるように工夫しています。
スイカやコーンは熟期を逃さず、ギリギリまで置いて収穫してますね。
レタスは鮮度を長持ちさせるために、植物体に残っている窒素を徐々に消費させていくようにコントロールしていきます。
教えてもらったことをヒントに試行錯誤して、今の栽培方法にしてからは、エグみがないレタスだとお客さんから評判です!
レタスもスイカもコーンも、美味しそう!
栽培面で苦労や失敗はありましたか?



最近だと、夏~秋口の高温障害には苦労しています。
レタスがちゃんと結球しなかったり、病害虫の発生が抑えられず、約2万株株廃棄したこともあります。
スイカでも異常気象が原因と見られる潤み果で、何百玉も廃棄してますし、毎年思い通りの栽培とはいっていませんね。
スイカはどの農家さんも、廃棄する数が一定数出る作物ではありますが、精神的にはきついですよね。
そんな失敗から、どのような改善をしてきたのですか?



秋口定植のレタスは複数の液肥をローテーションで散布して、とにかく根張りが良くなるように意識しています。
スイカは遮光ネットを張って、トンネル内の温度を常にチェックして、玉の日焼け対策をしてますね。
まあ妻からは、
「経費も手間もかけすぎじゃない?」
と、言われてしまうんですけどね(笑)。


販路:販路を多角化した妻の努力
Q,市場出荷、JA、契約業者、産直ECなど、販路と割合はどんな感じですか?



・レタスは契約60%、市場20%、EC20%
・スイカは市場50%、EC50%
・コーンはECが100%
ざっくりとした割合はこんな感じです。
契約出荷は売上が安定しますし、EC販売は自分で価格を決めることが大きなメリットだと考えています。
品目に応じて出荷先を変える事により、売上の安定増収に繋げたいと考えています。
契約出荷や直販の割合もかなり多いんですね!



そうですね。
販売面は妻が主導して、元々は市場を主に出荷していたのを徐々にシフトしてきた感じです。
契約出荷は売上が安定しますし、EC販売は自分で価格を決めることが大きなメリットですね。
品目に応じて出荷先を変える事により、売上の安定増収に繋げたいと考えています。
市場メインから、販路を多角化してきたのですね。
奥さまの志佳さんが販売面の担当ということですが、志佳さんが取り組んで変えていったことはなんですか?



言葉通り、直販に関すること全てを、妻が立ち上げてくれました。
・SNSやECサイトへの登録、運営
・ロゴデザインや農園の段ボールの発注、名刺の作成
実際に使用してみては、試行錯誤をして。
サイトや直販に必要なアイテムを揃えてから、妻は異業種交流会や商談会にも積極的に参加していました。
えっ、すごい!
野菜を売り込むために、奥さまが商談会にも出られていたのですね!



当時僕も独立したばかりで栽培に追われてて、一緒に商談に行く余裕はなくて……。
0歳児とイヤイヤ期の2歳児を抱えながら、本当によくやってくれたと思います。
今でも突然妻から、「商談入れたから〇日予定空けて!」とか言われるんですよ(笑)。
でもまあ妻の努力のおかげで、SNSや業者間の紹介でお声がけをいただくようになったので、全く文句はないんですけどね。
志佳さんは「肝っ玉母さん」なんですね!
販売コンサル顔負けの行動力だなあ。
それでは販売面では、失敗や苦労したことはありますか?



いやいや、最初から契約が増えていったわけではありません。
商談会での成果0なんてザラにありましたし、契約が決まったにもかかわらず音信不通とかもありました。
ECサイトも今でこそ注文が多くありますが、登録した当初は最初は全く売れず苦労していましたよ。
現在ではSNSで人気の前田農産さんにも、不遇の時期はあったのですね。
どのように乗り越えましたか?



契約出荷に関しては運もありますが、商談の数をこなすしかないと思って行動しました。
サンプルの野菜を送って、少量からでも継続して出荷し続けたことで、取引先の信頼を得られたのではと考えています。



ECサイトの直販では、うちの場合はSNSの活用が大きかったですね。
前田農産の野菜を買ってもらった方から、お褒めの言葉をいただいて、それがSNSの口コミで広まっていきましたので。
リピートして注文してもらえることも多いので、野菜の質にも満足してもらえていると考えています。
彬光さんの栽培技術と志佳さんの販売努力で、販路を切り開いてきたのですね。
販路に関しては、現状から改善すべきところはないように思えますが。



いやいや!
妻はまだまだアイディアがあるらしく、毎日1つは何か思いついてプレゼンしてきます。
レシピ提案など、農家直送のメリットを最大限に活かして、
「前田農産から買って良かった!」
と思ってもらえるようにしていくので、お楽しみに!


前田農産の今後の目標
彬光さんの今後の目標はありますか?



一番はやっぱり、働き詰めになる日を減らすことですね。
パートさんを雇うなどして、人手不足は少し改善されつつありますが……、
契約出荷のレタスを午前中までに納品するガチの繁忙期は、妻が3時に寝て僕は4時に仕事に行くなど、すれ違いで会話もできないこともありますから。
妻にも販売面に集中してほしいですし、もっと楽をさせてあげたいですしね。
なるほど。
最後に前田さんのように、親元就農や農業をやりたいと考えている方にアドバイスをお願いします。



・休みや給料
・いつ世代交代するのか
などの最低限のことは、就農前に話し合って決めましょう。
親元就農は設備や経験を受け継げる大きなメリットがありますが、同時に親世代との考え方の違いで悩むことも少なくありませんから。



あとは親が元気なうちに、たくさんチャレンジして失敗を経験したほうがいいです!
僕自身もこれまでに沢山の失敗をしてきましたが、そのたびに改善点を見つけ、次に繋げてきました。
「失敗は成長への近道」ですので、失敗を恐れず挑戦することが、農業を続けるうえで大切だと思いますよ。
取材させていただきありがとうございました!


コメント