Uターン親元就農
伝統野菜である毛豆の栽培を開始
独自の販路で販売する毛豆とリンゴ
今回インタビューした農家は、青森県弘前市の斎藤農園代表の齊藤勝仁(さいとう かつひと)さんです。
大手企業を辞めてUターン親元就農して、リンゴと毛豆を栽培されています。
JA以外の独自の販路を持つ齊藤さんに、就農した経緯や栽培や販路で試行錯誤したことなどを取材しました!
大手建材商社を辞めて親元就農

齊藤さんはどのような学生でしたか?



畑でよく遊んでいて、自然や虫が好きな子どもでした。
農家の長男でしたけど、「農家を継げ」とも言われてませんでしたね。
だから農業をするかどうか悩みつつも、決めるのはまだ先でいいかと思いながら就活して、結果として就職する事になりました、



農家の長男だったのですね。
農業をされるまではどんな勉強をしてどんな仕事をされていたのですか?



生物の生態や進化の過程を研究したいと考えて、東北大学の理学部生物学科に入学して、大学院の修士課程を修了しました。
大学院卒業後は建材資材を扱う商社に入社して、東京で6年と大阪で3年、発注からお客様への対応までしていました。
給与や福利厚生面は、良い方の会社だったと思います。



…えっ、誰もが知る大手企業じゃないですか!
そんなエリートサラリーマンを辞めて、農業を継ぐことになったきっかけはなんでしたか?



結婚して子どももできた時に、
「これからも全国転勤の可能性がある仕事でいいのか?」
と、ふと疑問が生まれたんです。
定住して子どもに故郷を作ってあげたかったという、要するに親のエゴですね。
私の父親の病気も見つかっていて、いつ動けなくなるか分からないというタイミングも重なりまして。
2015年に、青森に帰って農業を継ぐことを決断しました。



そういう経緯だったのですね。
農家になると決めた時の、周囲の反応はどうでしたか?



妻も青森県出身で、青森に戻って農業をすることは反対ではありませんでした。
会社の同僚は引き留めてくれたり、頑張れと言ってくれたり。
今でもたまに連絡をくれているので、嬉しかったですね。



齊藤さんはサラリーマンと農家を両方経験されていますが、
サラリーマンと農家の違いは何だと思いましたか?



違いはあれど、どっちも精神的にきついことはありますね。
サラリーマンの時は、売上ノルマやお客様対応で大変なことはありました。
特にリーマンショックの時は、自分ではどうにもならない世界情勢でしたから。
農業は天候不順や台風などが脅威ですが、どうしようもないリスクが常に付きまとうという点では、サラリーマンも農家も一緒だなと思いますね。



金銭面では、会社から毎月安定した給与が入って来るか、数か月で1年分の売上が入ってくるかの違いはあります。
だけど一年トータルで見れば、お金を使うものはだいたい一緒なので、農業だけがきついと感じることはあまりなかったです。


適期収穫にこだわった栽培



齊藤さんの現在の栽培作物や労働力はどんな感じですか?



リンゴが約3ha、毛豆が30aほどでしょうか。
リンゴの品種はサンふじと王林で9割で、あとは紅玉などの加工調理もできる品種も少し育てています。
労働力は基本的には母親と私たち夫婦で、あとは親戚や知り合い、学生などの期間パートさんが春と秋の繁忙期に手伝いに来てくれます。



リンゴの他にも、毛豆を栽培されているのですね!
栽培のこだわりはありますか?
昔ながらの手をかけたリンゴ栽培



リンゴに関しては、昔ながらの栽培をしています。
色づきと糖度を良くするために、無袋栽培でつる回しをしています。
雑な栽培にならないように、管理が遅れずにできる面積で栽培しています。



リンゴ栽培の課題はありますか?



病害虫や天候の変化に対応していくことは課題ですね。
病害虫の傾向は年々変わりますし、これからの猛暑でリンゴが日焼けするのを防がないといけません。
だから剪定の仕方や丸葉の大きな樹形などを工夫して、ロスを減らしていくつもりです。



なるほど。
ただ毛豆に関しては、リンゴと作業時期が少し被っていますよね?
なぜ毛豆を栽培しようと思われたんですか?
毛豆のこだわり、適期収穫にこだわる



大学生の時に居酒屋でバイトをしていたんですけど、その時の枝豆よりも、地元で食べていた毛豆の方が、何倍も美味しかったんです!
「おいしい毛豆を作って消費者に知ってもらえば、地域の伝統野菜を守れる!」
という理由で、私が就農した時に栽培を始めました。
まあ経営面から見たら、ぶっちゃけ毛豆はやらないといけないわけじゃないんですけどね。



なるほど、
毛豆栽培のこだわりはありますか?



一番はやっぱり、鮮度に妥協しないことですね。
鞘に実が入って一番おいしい時期まで待ってから、一気に収穫します。
毛豆の収穫適期は3日ほどと言われていますから、9月下旬~10月頭までは、毛豆の収穫につきっきりです。
そして鮮度保持のために、リンゴ用にある冷蔵庫を活用して、収穫後から発送まで予冷をしっかりして配送しています。



短い旬を逃さずに、収穫しているのですね。
予冷ができる設備があれば、美味しさを逃がさずに出荷できそうです。
毛豆栽培で失敗したことはありますか?



失敗はいっぱいありましたよ。
特に毛豆栽培初年度は畑に直播していたのがダメでしたね。
直播する前からハトに狙われていて、食べられまくってました。
毛豆が雑草の勢いにも負けてしまって、栄養も吸われて害虫もいっぱいついていました。



直播は苦労が多いんですね。
その失敗から、どのように毛豆栽培を改善をしていきましたか?



直播を辞めて、セルトレーでの育苗をしてから定植をすることにしました。
苗が出来てからであれば鳥害はほとんどないですからね。
雑草対策としては、選択制除草剤を使ったり、管理機で中耕で土寄せをしました。
対策を講じてからは収量も格段に増えて、消費者に美味しいと言ってもらうことが増えましたね。





豆って直根が深く伸びるので、直播のイメージがありました。
定植でうまくできるのであれば、管理しやすいですね!
リンゴは東京の大田市場へ、毛豆はSNSを駆使して販売



現在の販路はどんな感じですか?



リンゴは御歳暮や青果店を含めた個人販売が2割ほどで、残りの8割は大田市場に出荷しています。
毛豆に関しては、産直ECサイトとX(旧Twitter)で販売していますね。



リンゴも毛豆も、JAを通さずに販売されているのですね。
それぞれどのような意図で、販路を決めたのか知りたいです!
東京に向けたリンゴの出荷



リンゴはJAにも出荷できるでしょうし、青森県にはリンゴの専門市場がありますよね?
なぜ東京の大田市場に送っているのですか?



元々JAなどを経由して販売していましたが、その後紹介等もあって大田市場の仲買の方と繋がりができ、東京への販路ができたんです。
祖父の代から「差別化してリンゴを売ろう。」としていて、都会の消費者に向けた出荷は、アイディアとしてはあったんですね。
そこから現在では、10㎏×5000~6000箱ほどのリンゴを大田市場に出荷するようになりました。



遠方の市場に出荷されている農家は珍しいと思いますが、実際の取引価格はどうですか?



やっぱり遠方への輸送は送料もかかりますし、段ボールや緩衝材などの資材も倉庫にかさばるんですけど……、
それでも、納得いく価格で取引されていると考えています。
他県産の供給が落ち着く年末頃から大田市場には出荷していて、冷蔵庫に入れて時期をずらしているからですかね。
ハロウィーンの時期には、東京のパン屋さんが産直ECサイトから、紅玉を買ってもらうことも多いです。



なるほど、ハロウィーンのアップルパイ需要があるんですね!
人口が多い東京は、美味しいリンゴの引き合いが強そうですね。
X(旧Twitter)で広まった毛豆の認知度



毛豆は全量直販で売り切ってしまうんですね!
栽培当初から、毛豆の直販は順調だったのですか?



いや、地元や東京の規模が大きくない居酒屋に営業のDMをして、取引を始めたですが……
1度毛豆を出荷しても、規模が大きくない店では思った程消費されずに、注文間隔が伸びてしまいました。
毛豆の短い収穫シーズンがすぐに終わってしまって、結果的に安定的な需要にはならなかったです。
だからとりあえず産直ECサイトに登録してみたんですけど……。
登録した2017年は、2件しか毛豆の注文がありませんでした(笑)。



2件だけ!?
2017年くらいは産直ECサイトは黎明期でもあったので、なかなか注文が来なかったんですかね。
でもさすがに、2件では毛豆は捌ききれないですよね…。



でもその2件は、同じ消費者がリピートしてくれた2件でした。
だから毛豆の認知度さえ上がれば、味は認めてもらえる自信はつきましたね!
そこで始めたのが、X(旧Twitter)でのPRです。



Xでの発信ですか。
SNSでの宣伝はなかなか苦労されている農家さんが多いと思いますが、齊藤さんはどのようにして毛豆をPRしていったのですか?



毛豆の栽培風景や食べ方などを発信する他に、
X農家の方々と物々交換して、齊藤農園の毛豆をタイムラインに載せてもらうことにしました。
ありがたいことに、舌の肥えたX農家の方々から、毛豆を絶賛していただいて!
そのX農家のお客様にも認知が広がって、注文が増えていきましたね。



たしかに自分でおいしさをPRするよりも、第三者に口コミをもらった方が説得力がありますよね!



送料の関係から毛豆は1㎏以上での注文になるんですけど、それでも家庭ですぐに食べ切ってしまうと高評価をいただくことが多いです。
近所や仲間に配る用で、9㎏の毛豆をまとめて買う方もいます。
Xや産直ECサイトでの認知度が上がったからか、飲食店からも注文が来るようになりましたね。
「齊藤農園の毛豆がこんなに美味しいなら、リンゴも注文してみようかな。」
と、リンゴの売上にもつながっているので、Xの波及力は恐るべしです!



毛豆9㎏の注文!
だいたいスーパーで売っている枝豆の袋が300~400gでしょうから、1㎏以上を一気に食べ切れるほど、美味しい毛豆ということですね!


今後の目標や就農希望者に対してのアドバイス



齊藤さんの今後の目標を教えてください。



うーん…、規模を増やしたいとは思ってないですね。
毛豆もリンゴも手が回らないような、雑な栽培をしたくないので。
売上ももちろん大事ですけど、元々家族との時間を作るためにUターンして就農したので、子どもたちのイベントややりたいことをしてあげられる時間の方が大事ですね。



家族の時間が最優先、素敵ですね!
最後に齊藤さんのように、親元就農を考えている方にアドバイスをお願いします。



「親元就農して親と仲良く働く」という理想通りにはならず、相性が合わないという親子は周りにもいます。
いくら血の繋がった家族と言えど、仕事や家庭に支障をきたすくらいなら、物理的金銭的に距離を取るのも一つの手だと思います。
・アパートを借りて生活を分ける
・親とは別経営にする
など、工夫はできると思います。
家族が仲良く一緒になって働くことよりも、農園全体のパフォーマンスを最適化することが大切ですからね。





取材させていただき、ありがとうございました!
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