地域おこし協力隊→茨城県城里町で新規就農
中古&自作の機械で初期投資を安く抑える
紅茶専門に商機を見出した理由
茨城県城里町のしろさと紅茶ラボ代表の市丸大地(いちまる だいち)さんに、就農までの経緯や紅茶栽培のアレコレを伺いました!
地域おこし協力隊→茨城県城里町で新規就農
管理人一丸さんはどのような子どもでしたか?



東京都で生まれ育ったのですが、福岡にいる親戚の裏山で駆け回ったり、秘密基地を作ったりするのが大好きな子どもでしたね。
友達からも「大地は将来は田舎に住むんだろうな!」と言われるほど、田舎への憧れがずっとありました。



田舎に興味がある子どもだったのですね!
大学ではどのような勉強をされていたのですか?



野球部のトレーナーとしての経験を積み、アスレティックトレーナーとトレーニング指導者の2種類の資格を取得しました。
大学院では筋肉痛をテーマにして、トレーニング後の筋肉痛からの回復方法を研究していました。



野生動物に関することを、修士課程まで学ばれたのですね。



学生時代にお世話になった方お誘いいただき、スポーツ整形外科クリニックに併設されたスポーツジムに入社しました。
・会員様に合ったトレーニングメニューの作成や指導
・小学生~社会人までのトレーニング指導やリハビリ
など、トレーナーとして活動できるのは本当にやりがいがありました。



将来も長く続けられるイメージがなかったということですが、トレーナー業のどのような部分に不安があったのですか?



自分の仕事スタイルが若さや体力頼みのような感じで、歳を取ったとき(40歳超えたくらい)に同じようにはできないと感じたときに、少し不安を覚えるようになって。
もちろんその歳でされてる先輩はいましたし、やり方はあったと思ってますが、自分のやりたいことができなくなるんじゃないかという不安がありました。



茨城県への移住を決めた時の、周囲の声はどうでしたか?



なぜ縁もゆかりもない和束の援農ボランティアをしようと思われたのですか?



援農ボランティアを見つけて応募しようと思ったのは、鹿児島の祖父母の影響ですか?
小学校の頃は夏休みに鹿児島の祖父母のところに毎年稲刈りの手伝いに行っていて、子供なのでほぼ遊んでましたが。笑
その影響もあり農業に興味を持ちました。
当時、すでに祖父母は農家を廃業していたこと、生まれ育った関西から出たくないということもあり跡継ぎではなく、近場で何となく農業と言えば京都というイメージで探し始めました。



その時期に宇治玉露を飲ませていただく機会があり、今まで「お茶は渋い」というイメージだったのを180度ひっくり返され、同じお茶といえど様々な味、香りを出せることにものすごく惹かれました。
そのときにお茶で有名な和束町での援農アルバイトがあることを知り、その参加を決めるとともに、可能であれば自分でもお茶を作ってみたいと思うようになりました。
実際に初めての茶畑仕事はしんどいことばかりで、あまり楽しいというのは…
がっつり肉体労働で、早朝からのこともありましたし、大変でした。
期間中はシェアハウスでの共同生活だったんですが、そういう体験は新鮮で楽しかったですね。
援農が終わる頃に、自治体に話聞きに行ったりして、研修を受け入れてくださる農家さんも紹介していただき、その勢いで茶農家になることを決めました。
就農経緯:援農→茶農家で研修→新規就農



寒暖差や土壌など土地条件の良さはもちろん、多くの茶農家さんが「和束町のお茶として恥ずかしくない、良いものを作ろう」という伝統的に行われてきた茶業へのリスペクトとプライドを持ったお茶作りをされてるのが印象的です。
高齢化と後継者不足は顕著で、私が研修を開始する頃は300件と言われていた町内の茶農家の件数は、今では200件と言われるようになっています。
耕作放棄地も増えていて、私が借りている茶園の隣も今年から耕作放棄されています。



会社を辞める時や農業を始めると決めた時、家族や周囲の反応はどうでしたか?



家族はやりたいようにすればという感じで特に反対はなく、見守ってもらえたと思います。
会社の上司からも「日本の伝統守れるのは素晴らしい」と応援してもらえたと思います。



農業を始める前のイメージはどうでしたか?



家業継承で行う仕事という印象でしたが、いろいろと調べる中で、非農家からの新規就農者の方の活躍を知り、頑張れば何とかなると思えました。
また体力的にも精神的にも大変な仕事という印象で、かなり不安なところもありました。
体力的にも精神的にも大変というのは変わりないです。
ただ自分のお茶が市場で良い評価をいただけると、その大変さも報われるなと感じています。



移住して新規就農ということですが、住まいはどのように確保されたのですか?



援農アルバイト時にシェアハウスとして使っていた住居を、大家さんのご好意もあり、そのまま借りることができました。
今は移住してから知り合った知人の家を借りています。






2018年5月に援農アルバイト、同年9月に研修開始、2020年8月に研修終了し、2021年4月に新規就農です。



新規就農には、農地確保や設備投資、資金というハードルがあると思います。
農地に関して、江籠さんはどのように動いて確保しましたか?



先輩農家さんからの紹介がほとんどです。
研修先をはじめ、いろいろな農家さんから情報収集しています。
機械や資材も先輩農家さんからの紹介で中古を購入させていただきました。
また今年は軽トラの新調、来年はリモコン動噴を購入する予定です。
経営面積を増やすにあたり、作業の効率化やスピードアップに重きを置いて設備投資しています。
就農時は大体200万円ほどです。
少なかったとは思いますが、機械や資材を中古で確保できたので、なんとかなりました。
いくらというよりはとにかく多く準備できるようにしていました。






お金の不安は非常にありました。
就農1年前がコロナ禍の外出自粛の影響で、お茶の相場がかなり下落し、その価格が続くなら経営は行き詰っていたと思います。
モチベーションはやはり自分のお茶を作ってみたいということでした。
いろいろ試行錯誤して、イメージ通りのお茶が作れたり、作れなかったり、様々なお茶を作れ、市場で茶商さんに評価していただけるのは、やりがいがあります。



サラリーマンとの違い



一番は働き方が比較的自由ということでしょうか。
繁忙期は基本的に休みなく、朝早いこともあれば夜遅くなることもありますが、農閑期は急ぐ仕事がなければ休むことも自由なところです。
ただ、逆に休もうと思っても天候や茶園の状況次第で急な仕事をしなければならなくなったりもあるので、難しいところです。
栽培:



現在のしろさと紅茶ラボさんの栽培や労働力を教えてください。



約2haの茶園を管理しています。
収穫や一部の管理作業は必ず二人でないとできないので、そういった作業時は町内で同じく茶農家をしている先輩と互いに作業しています。
また4月下旬から7月の一番茶・二番茶の繁忙期は今年からもう一人雇用して、3人で作業しています。



どんな、何種類くらいの品種を栽培されていますか?
収穫時期をずらすのが目的ですか?



品種はやぶきた、おくみどり、めいりょく、さやまかおり、あさひ、さみどり、ごこう、在来種の7種類です。
さみどりは今年定植したばかりであと5年ほどで収穫できると思います。
収穫時期をずらすことはもちろん、煎茶、碾茶などそれぞれの茶種に対する向き・不向きがあるので、そういったところも重要視しています。
とはいえ町全体どころか日本全体で見ても「やぶきた」の茶園が多く、私も1.1haと半分以上を占めているので、もう少し品種のバリエーションは増やしたいと思っています。
2025年の一番茶は被覆栽培と露地栽培の割合は半々くらいです。
露地栽培は全て煎茶、被覆栽培は約20aは煎茶、約80aは碾茶です。
二番茶は約80a被覆して全て碾茶です。
被覆作業は遮光ネットを直接茶園に掛ける直掛け被覆をしていますが、そのネットを茶園に固定するのに腰を曲げた姿勢になってしまいますので、腰が辛くなります。
また新芽の生育状況により多くの茶園を被覆しないといけない時期はゆっくり作業するわけにもいかないので、それなりに大変です。
またそのネットを剝がすのも収穫直前にしなければいけないので、収穫時もひと手間増えてしまいます。






基本的に斜面地の茶園は一人で作業できる乗用摘採機が入りませんので、可搬式摘採機と呼ばれる小型機械を使います。
その機械は二人いないと扱えませんので、誰か雇う必要があります。
先輩も私も就農時にその作業の相方探しが課題で、ちょうど二人でやればという話になり、一緒にすることになりました。
人を探す手間が省けること、機械の扱いに慣れた者同士で作業することで、作業がより正確に行え、作業効率も上がっていると思います。
三番茶、こちらでは秋番茶と呼びますが、茶工場に買っていただけるので、基本的に私はすべて収穫しています。



こだわりは



肥料は効かせたい時期を考慮して、有機を主とした配合肥料と化成肥料をバランスよく使っています。
農薬に関しては、病害虫が発生しないように、必要最低限の使用をしています。
何かにこだわるということはせず、管理作業から収穫作業、製茶まで自分ができることは全てこだわっています。
こだわりがないことが、こだわりですね。笑



では質問を変えて、今までの茶栽培で苦労したことはありますか?



たくさんありますね。
今年は防除に失敗して、霜と害虫被害で一部の茶園で一番茶の収穫を見送りました。
逆に失敗なく作れたと思えることがほぼないくらいで、施肥や薬剤散布の時期、被覆や摘採のタイミング、製茶のやり方などなど、何らかの反省点はあることばかりです。



どのようにして、試練の時を乗り切ったのですか?



自分で調べられる範囲は調べつつ、研修先含めていろいろな先輩農家さん、資材販売店の営業の方や機会があればメーカー営業の方、府の農業改良普及センターなどに聞くようにしています。
他の茶農家さんは、企業秘密だなんて言わずにどうしているのか包み隠さず教えてくださるのでありがたいです。



温暖化や猛暑などの天候不順は、どの農家さんも苦慮されていますが、何か工夫をされていますか?



実際、なかなか有効な対策ができていないのが現状で、来年もなかなか厳しい収量になりそうな感じです。
来年は酷暑環境下でも樹勢保てるよう資材投入や、樹勢の落ちた茶園は一番茶のみの収穫で二番茶は収穫せずに樹勢回復する期間をより長くとれるようにしたりしています。
販路:



現在の緑茶や碾茶?の販路と割合はどんな感じですか?



基本的には全て農協の市場出荷です。
市場で茶商さんがお茶を見て値段をつけて落札してくださる入札制になっています。



出荷する理由や特徴はなんですか?
就農してから4年はJAオンリーだったそうですが、その狙いはなんですか?
直販を意気込んで就農当初は動いたこともあったそうですが、何がネックだったのですか?



一番は基本的に全量買い取ってもらえるところです。
出来上がった翌日には出荷なので、保管場所に困らずに在庫を抱える必要がないところです。
また、梱包して出荷するだけなので、手間が少ないことも大きいです。
あとはお茶を見るプロである茶商さんに値段をつけてもらえる=評価していただけるのは、良ければ励みになり、悪ければまた頑張ろうと思え、やりがいも感じられます。
市場での価格は入札のため、基本的に需要と供給のバランスで決まるので、引き合いの弱い品質になってしまうと、思いのほか販売価格が安くなってしまったりすることはあります。
それが直接届かないのが市場出荷のデメリットかもしれないです。
品質が悪いと値段が安くなるだけで、「何が悪かったのか」というフィードバックはほとんどありません。
そのため、自分で何が悪かったのかを後からでも確かめられるよう、自分のお茶を審査する必要もあります。






①保管にそれなりの冷蔵庫が必要になりますが、それを置く場所や費用を確保できなかったこと。
②袋詰めや発送などの作業を取る時間が、特に繁忙期に取れないこと。5月上旬からの新茶売りは売上が期待できますが、畑での作業の合間に時間を取りづらいこと。
③市場出荷は荒茶と呼ばれる、葉だけでなく茎や粉も混ざった状態ですが、そこから二次加工で分別や再乾燥などが必要ですが、その委託先を見つけられていないこと。
結局は現状で直販にかかるリソースを考えると、市場出荷との収益に差がないという結論になっています。
それなら茶園の栽培管理にリソースを割く、経営面積の拡大をしていったほうが良いと考えています。



たくさんの取引を受けるのも、リスクがあることなんですね。






煎茶に関しては、私自身の好みということで、旨味をしっかり出しつつ、渋味や苦味もバランス良く、香気も良いものができれば良いなとは思ってます。
碾茶に関しては、とにかく旨味強く、香気よく、色も良いものですね。とにかく市場での評価が高くなるようにしていきたいです。
そこに対して「何をどうすれば」という方法ははっきりわかってないですが、試行錯誤してよりイメージに近いお茶が作れるようにしていきたいですね。
目標とアドバイス:



一丸さんの今後の展望を教えてください。



売上に関しては、今年のように大幅に相場が上下動してしまうので何とも言えませんが。
市場でお茶を見てくださる茶商さんに、「良いものを作れる生産者」であることを認知してもらえるようになれるように、毎年良いお茶を作れるようにしていきたいです。
もちろん、消費者の方に自分のお茶を直接飲んでもらいたい思いはありますので、その準備はすすめたいです。
最後に一番大きいのは、「和束町産として、宇治茶として、直販して大丈夫な品質のお茶なのか」というところです。
市場出荷でそれなりの評価をもらえるようになり、自信を持って出せるようになりたいですね。



緑茶や純国産のベルガモット。
しろさと紅茶ラボは、ますます面白くなりそうですね!



目標を実現していくために、法人化を見据えた雇用もしていくつもりです。
茶の他にも、米が1.5ha、サツマイモも50aほど栽培していますが…、
5月は田植えとサツマイモの定植と紅茶の時期が重なって、毎日20時間くらい働かないと回らない状態なんですよ。
城里町の方々にはいつもお世話になっているので、農業を通して地域に恩返ししていきたいですしね。



素敵ですね!
最後に一丸さんのように、移住や新規就農を考えている方にアドバイスがあればお願いします。



移住や新規就農のアドバイスは、いつも決まって、
「地域に溶け込め!」と回答しています。
私は地域の行事には積極的に参加しますし、コミュニケーションを面倒だと思っていません。
冷めた都会の人間関係より、密な田舎の人間関係を覚悟して移住してきましたから。
地域の方々と打ち解けられていくことで、農地や機械を借りられたりします。
私なんて、農機や農地、作業場や家まで、全部もらいものですから!



とにかく、地域に溶け込む努力をすることが大事なんですね。
取材させていただき、ありがとうございました!
緑茶や抹茶ブームの現状と対策



今年はかなり緑茶や碾茶の価格が良かったと聞いています。
今年価格が上がった要因と、来年以降の江籠さんの栽培戦略はどうですか?



報道されているとおり世界的な抹茶ブームの影響です。
今年は始まる前から碾茶の相場が高くなると言われてましたが、予想以上で私の場合で昨年の約3倍の値がついた茶園もありました。
来年以降も茶工場の受け入れの関係もあり、碾茶はあまり増やせないと思いますので、煎茶との割合はあまり変える予定はないです。
高単価でも浮かれずに地に足つけて、お茶を作っていきたいと思っています。

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