会計事務所→神奈川県秦野市で新規就農
農薬化学肥料50%削減の決め手となったアンケート
ネット直販を経約的に伸ばせた理由
神奈川県秦野市の双葉農園代表の佐野浩司(さの こうじ)さんに、新規就農するまでの道のりや、栽培のこだわり、ネット直販の秘訣などを伺いました!
会計事務所→神奈川県秦野市で新規就農
管理人佐野さんはどのような子どもでしたか??



内向的な性格ではありましたが、秦野市の祖父母の農業を手伝うのが好きで、将来的には農業がしたいと思っていました。
ですから高校卒業後は東京農業大学に進学して、発展途上国の農業などを学びました。



元々農業に興味があったのですね。
ただ大学卒業後は、会計の仕事をされていたそうですが?



そうですね。大学生の頃にふと読んだ農業本の、
「これからの農業はどんぶり勘定では通用しない。会計の知識も必要になる。」
という内容に影響を受けまして。
外食チェーンの内定を辞退して、会計事務所を母体とした企業に入社することにしたんです。



そうだったのですね。
会計の仕事とは、具体的にどんな仕事をされていたのですか?



伝票の入力作業を始め、委託された企業の会計業務など、会計に関すること全般を4年半ほどしていました。
2014年に会社を辞めるまではハードな毎日でしたが、 おかげで農家になった今でも確定申告や経理で困ることはありませんね(笑)。



会計の知識、就農者には必須になりそうですね。
会社を辞めて新規就農を目指すと決めた時の、周囲の反応はどうでしたか?



「農業は儲からないぞ。」
と親戚からは言われましたし、会計知識がある私もそう感じていました。
だって、時給換算で100円を切る野菜もあるんですから。
作物の選択や販路も含めて、よほどの工夫をしないと農業は成り立たないだろうとは思っていました。



時給換算で100円、あり得るシーズンや野菜もあるんですよね…。
それで会社を辞めてからは、就農までにどのように行動していったのですか?



かながわ農業アカデミーと秦野市の農園でそれぞれ1年間、野菜栽培を学びました。
その間にも10数件は農家さんを回って、手伝いながら栽培と農業経営のコツを聞かせてもらいましたね。
そして2016年に、実家のある神奈川県秦野市で、双葉農園として独立しました。



新規就農者は農地や資金の確保が課題になることが多いですが、
佐野さんの初期投資と農地確保についての話が聞きたいです。



300万円ほどの資本金で農業を始めました。
新規就農時の補助金に加えて、夜にはスーパーの総菜コーナーでアルバイトをして貯めましたね。
その資本金で、中古のトラクターや耕運機、HPやパンフレットなどを揃えていきました。



農地に関しては、さほどの苦労はせずに確保できました。
というのも私の実家の周りには、中間管理機構に載っている耕作放棄地も多く、母からの紹介もあったからです。
狭くて雑草だらけの放棄地を耕すのには、苦労しましたけどね(笑)。



なるほど、参考になります。
佐野さんは農家とサラリーマンの働き方の違いは何だと思いますか?



農業は起業と一緒なので、専門分野以外にも複合的なスキルが必要になってきますね。
サラリーマンは所属部門のことだけができれば問題ありませんが、農家は時には、栽培以外にも販売やマーケティングの勉強も必要になりますからね。


栽培:特別栽培の決めて



では、現在の双葉農園さんの栽培はどんな感じですか?



夏はトウモロコシや枝豆などで、冬は様々な野菜を栽培して、野菜セットを作っています。
合計1haくらいを、私とパートさん2名と、たまに両親が手伝ってくれています。



栽培面でのこだわりはありますか?



私の場合は、直販で喜ばれる野菜を提供したいと思っていますので、
①旬を意識した栽培
②採れたての鮮度がいい野菜
③食味がいい品種
を意識して栽培しています。



なるほど、美味しさを重視した選択をしているのですね。



もう一つ、農薬や化学肥料を50%以上削減した特別栽培をしています。
就農前は有機栽培も検討していましたが、
・慣行栽培野菜の1.2倍程度しか値上げが許容されにくい
・病害虫のリスク高い
という雑誌のアンケート結果を見ていて、迷いがあったんです。



そこで、私自身がお客様にアンケートを取ってみたんです。
アンケートから分かったことは、
〈栽培方法よりも、誰が作ったのかが重視される。〉
ということでした。
現在は農薬化学肥料を最小限に抑えつつ、生産者である私の顔写真と栽培の作業風景をパンフレットに載せることにしています。



なるほど、アンケートを自分で取った結果で判断されたのですね。
あとは失敗談も聞きたいのですが、佐野さんは栽培面で失敗はありましたか?



毎年のように失敗しながらも、最近は大失敗は減ってきていたのですが…、
2025年は夏の暑さと雨の少なさで、トウモロコシがほとんど実入りが悪くなってしまい、ほとんど廃棄することになってしまいました。
近年は異常気象が頻繁に起きているので、対応に苦慮しています。



猛暑に苦戦している農家さんは多いですよね。
佐野さんはこれからの猛暑対策としては、何を考えられていますか?



・作付を早める
・作付け量を分散させる
・ソルゴーやオクラなどを、日除けとして利用する
ことはやるつもりです。
〈夏は何も作らない〉というのが最善かもしれませんが、お客様の期待を損ねることはできないので。



なるほど。
今後の栽培面の課題はありますか?



栽培や出荷調整の効率化のために、品目数を絞ってきています。
お客様のニーズを見ながらも、売れ行きが悪い作物を除いていって、年間10数種類までにしたいですね。


販路:ネット直販が飛躍的に伸びたマーケティング



双葉農園さんの販路はどんな感じですか?



産直ECサイトやふるさと納税が、8割ほど占めています。
残りの2割は地元の直売所や、スーパーに納品している卸業者さんに出荷しています。秦野市は平野部の農村地帯ほど農業は盛んではないですけど、消費者がたくさんいる地域です。
ですから直販をメインにやっていくことは、就農前から決めていました。



ECサイトやふるさと納税で、大半を占めているのはすごいですね!



それでも産直ECサイトを登録した当初は、全然売れなかったんですよ。
転機になったのが、産直ECサイトのマーケティングのセミナーを受けたことです。
「おいしさは食べれば分かる!」
という訴求ではなく、
「食べてもらうためにはどのような文章や画像にしたらいいかを考えろ!」
という内容で、すごく勉強になりました。



マーケティングの本なども読み漁って、
「おいしいだけではなく、食卓が豊かになるところをイメージしてもらおう。」
と考え、双葉農園の野菜の特徴やキャッチコピー、画像などを徹底的に突き詰めて試行錯誤しました。
徐々に注文数が増えていって、最近ではとある産直ECサイトの野菜部門の20位にランクインするほど、評価をいただいております。



何百件と産直ECサイトに登録している農家が要る中で、トップ20に入っているんですか!
マーケティング、恐るべし…!



しかし多く売れるようになった今でも、一番大事なことは1箱1箱丁寧に届けることだと考えています。
野菜の品質や出荷調整が雑にならないように注意しながら、レシピやパンフレットなどの梱包物にも力を入れて、食卓に並んだ時に喜んでもらえる野菜を届けたいです。


今後の目標とアドバイス



佐野さんの今後の目標を聞かせてください。



ふるさと納税返礼品は、もう少し増やせる余地があると思っています。
異常気象も増える中で、野菜の予約注文の難しさも痛感していますが…、
秦野市の返礼品数の3割を、双葉農園が占めるのが目標ですね。



市全体で3割が双葉農園になれば、農家の直販コンサルができるレベルじゃないですか!?



まだまだコンサルができるだけの実績はないですよ。
だけど直販の実績を積み重ねて、いずれは私の直販のノウハウを広めていきたいです。
その上で、地域農業の担い手として、農業所得650万円を目指したいですね。



ありがとうございます。
最後に、新規就農者に向けたアドバイスがあればお願いします。



農業本によっても農家によっても、専作or多品目がいいとか、機械設備はどうとか、それぞれ見解は異なります。
自分の農業の最適解は、自分で考えて試行錯誤して見つけるしかありません。
ただ一つ共通して言えることは、「畑に足しげく通って、作物を観察することを怠らないこと。」だと思います。
病害虫の早期発見や対処ができますし、日々の小さな変化に気づくことが出来るようになりますよ。



もう一つは、就農前~就農当初は、農業以外の収入源があると精神的にも金銭的にも余裕ができます。
私はスーパーの総菜コーナーでアルバイトしていましたが、
野菜のシールの貼るスピードは誰にも負けませんし、商品を手に取る心理を考えるきっかけにもなっていました。
当面の生活費の足しにもなりますし、農業以外の仕事からも学べることはあると思いますよ。





取材させていただきありがとうございました!

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