脱サラ後、食品リサイクル分野で起業
自社で配合するリサイクル飼料で、高品質な豚を生産
豚肉の6次産業化にも力を入れる
今回インタビューした農家は、愛知県豊川市の「リンネファーム」代表の高橋慶(たかはし けい)さんです。
食品リサイクル分野で起業→リサイクル飼料で養豚に関わる→自らも養豚で新規就農!
ローコストでサスティナブルな農業を掲げる高橋さんの、就農までの経緯やエコフィード(食品リサイクル飼料)での豚の飼育、今後の展開などについて取材しました!
脱サラ後に食品リサイクル会社を設立

高橋さんはどんな学生でしたか?



家庭菜園や川遊びが好きで、自然をきれいに保つことに興味がある学生でした。
高校卒業後は名古屋大学農学部に進学して、肥料や堆肥を専攻して学んでいました。



そうだったのですね。
大学卒業後はどのような進路を取ったのですか?



浄化槽のメーカーに就職して、主に設計や研究開発の仕事をしていました。
だけど、サラリーマンに飽きてしまって……(笑)。
どの分野で起業しようかと考えた時に、大学で学んだ堆肥化の知識を活かした仕事をしようと思いまして。
そこで2005年の31歳の時に、愛知県豊川市の工場を借りて、「㈱環境テクシス」を立ち上げたんです。



肥料や堆肥化の分野で起業されたんですか!



そうですね、会社設立当初は食品工場で廃棄される副産物を回収して、堆肥化して販売していました。
だけどすでにリサイクル肥料会社は弊社以外にもたくさんあって、リサイクル堆肥は価格競争が激しい状態だったんです。
起業時のマーケティングの甘さもあり、なかなか思うように売上が伸ばせず、廃業も覚悟していました。



廃業の危機をどのように乗り越えたのですか?



会社の方向性に悩んでいた時、近くの養豚農家から、
「堆肥じゃなくて、養豚の飼料を作ってくれ。」
と言われて、エコフィード(食品リサイクル飼料)を開発したんです。
そのエコフィードが、養豚農家やJAから、高評価をいただいて!
そこからは食品リサイクルの出口を飼料化に注力して、現在に至ります。


環境負荷が低く、高品質な飼料の製造販売



飼料会社は他にも多くありますが、環境テクシスさんのエコフィードはどんな特徴があるのですか?



一言で言えば、一般的な飼料に比べて、ローコストであることですね。
弊社のエコフィードは、国内の食品工場から発生する食品製造副産物をリサイクルして製造しています。
近年は特に輸入飼料の値上がりが顕著ですから、エコフィードを利用していただいている養豚農家は、餌代は2~3割少なくなる場合もあります。



餌代が抑えられるのは、農家にとってはありがたいですね!
でもリサイクル飼料って、栄養素とかの品質の安定性はどうなんでしょうか?



エコフィードの品質も、畜産農家から好評をいただいています。
というのも弊社は、回収してきた副産物は、
・パンやバウムクーヘンは、乾燥機で乾燥させる
・ウイスキーなどの廃液は、リキッドフィード(液体発酵飼料)の原料にする
・もやしや野菜類は、脱水して乳酸菌発酵させる
など、種類ごとに分別して、栄養素を分析して加工配合しているんです。



えっ、副産物はごちゃまぜにするのかと思っていました!



栄養素の安定した高品質のエコフィードでないと、畜産の出荷成績に影響が出てしまいますからね。
だから油分の多い揚げ物は、肉質を落とすと言われるリノール酸が増えてしまうので、取り扱っていませんし、
契約外の廃棄物を持ち込まれても、取引していません。



正直食品リサイクルは匂いが強烈なイメージがありましたが……、
回収した副産物から嫌な匂いがしないのも、副産物の取り扱いがきちんとしているからなんですかね。



あとは契約している食品工場には、その場である程度のリサイクルをする「オンサイト処理」をする場合もあります。
保存性を上げることで、一度にまとめて輸送出来て、運送コストを下げることができますからね。
まあ大量コストを投下して環境負荷を考えなければ、どんなリサイクルでもできるんですが……。
「ローコストかつサスティナブル(低投下で持続可能)」が弊社のモットーですので、ブレてはいけない所だと考えています。



なるほどたしかに、環境のためのリサイクルですしね。
養豚農家からエコフィードが選ばれる理由が、分かる気がしますね。



おかげさまで近年では養豚農家だけでなく、酪農家からも牧草や濃厚飼料の代替飼料として、弊社のエコフィードの注文が増えています。
ご要望に応える形でリサイクル量は増えていき、愛知県内を中心に年間で3万t、100種類以上の食品副産物をリサイクルしています。
2005年に1人で始めた会社が、現在は20名以上の社員がいて、自社でも養豚業に取り組むまでになりました。



食品リサイクル会社を大きくするのもすごいことですけど、自ら養豚まで手掛けることも、すごく勇気がいる決断だったと思います。
高橋さんが養豚業を始めるきっかけはなんだったのですか?



お客様である養豚農家をより理解するために、エコフィードの良さを身をもって証明するために、自社で養豚をやる必要性があると思ったんです。
自社でも養豚をしていれば、エコフィードの試作改善のフィードバックも早くなりますし、宣伝にもなりますしね。
ただ私の家は非農家でしたから、まさか私自身が農業をやることになるとは、子どもの頃は思ってもみませんでしたね(笑)。



養豚業をやると決めた時の、周囲の反応はどうでしたか?



うーん、周りの意見はあまり耳に入ってこなかったですが、
「本当に素人に養豚ができるのか?」
とは思われていたと思います。
飼料提供という形で養豚に携わっていたとはいえ、飼育に関しての技術や豚舎などの設備は、まさにゼロから始めましたからね。


ゼロからの異業種参入で養豚業にも取り組む



2017年にリンネファームを設立されたということですが、
ゼロから養豚業となると、豚舎や設備はどのように揃えたのですか?



弊社近くの牛舎を借りることができたので、それを豚舎に改築しました。
リキッドフィードを供給する配管も、前職の浄化槽メーカー時代の経験を活かして、DIYしました。
食品リサイクル業のトラックも、養豚で使うトラックも、全部中古で購入したものです。
あいにく私は、新品に全くこだわりはありませんので(笑)。



食品リサイクル業の社長らしい考えですね!



私は新規就農時の補助金には該当しませんでしたが、認定新規就農者として、青年等就農資金の融資はフル活用しました。
中古をうまく活用することで、養豚の初期投資を約4000万円ほどに抑えられました。



おそらく新品の設備一式は1億は下らないでしょうから、大幅なコストカットですね!
肝心の飼育技術は、どのように習得されたのですか?



養豚のセミナーを受けたり、飼育の本を一通り買って勉強しました。
つまりほぼ独学で、あとは現場で飼育しながら体で覚えていく感じでしたね。
だけど飼育の知識よりも、
「豚のちょっとした異変に気づけるか、養豚を面白いと思えるか。」
が何より重要なんですよ!
エコフィードやリキッドフィードの試作改善が目的で始めた養豚でしたが、日々成長する豚たちを見る面白さにハマってしまって……。
養豚が好きだから飼育技術や注意深く観察するクセがついた、と思っています。



好きこそものの上手なれ、ですね!
リンネファームさんの、現在の飼育状況はどんな感じですか?



肥育豚を年間で600頭ほど生産しています。
養豚場では従業員1人と、サポート数名で日々の飼育を担当してもらっています。
私は現在は、食品リサイクル業などのマネジメントと並行しながら、飼育状況のフィードバックをしていますね。



飼育面でのこだわりはありますか?



やはり何といっても、自社のエコフィードを使用していることです。
弊社の飼料は旨味成分と言われるオレイン酸を上げて、余分な脂分になると言われるリノール酸を抑えるような配合をしています。
「豚肉の脂がしつこくなくて、あっさりしてるけどうまい!」豚肉になっています。
豚肉の質=餌の質と言っても過言ではないので、自社で納得のいく飼料をローコストで使えているのはプラスですね。



食品リサイクル飼料だけで、肉質までコントロールできるんですね!
あとは、猛暑対策も伺いたいです。
どの作物の農家も近年の暑さで苦戦している印象ですが、リンネファームさんはどうですか?



たしかに夏場の暑さで豚の食欲が落ちたり、繁殖の成績が落ちたりするのは、養豚の一般的な課題ではあります。
しかし弊社の場合は、自社配合したリキッドフィードを適時与えることで、夏でも豚の食欲は落ちていません。
猛暑でも豚の体重を増やせて、安定した出荷ができているというのも、弊社の強みだと考えています。



リキッドフィード、すごいですね!
では強いて挙げるとするなら、飼育面での課題はなんですか?



中古の牛舎を改築した豚舎なので、新築の豚舎に比べて作業効率は悪いことですね。
業者から購入する輸入飼料なら、給餌システムで自動で餌やりができるんですけど……、
弊社は自社のエコフィードを毎日3回手作業であげていますから、大変ではあります。



中古の設備だと、効率面では限界があるのですね。



なので今後は豚舎を増やして、母豚から繁殖→肥育までを一貫して飼育することを計画しています。
ある程度の規模まで増やせれば、人員配置や日々の飼育で効率が上がりますからね。


ブランド豚の商品開発



現在の販路はどんな感じですか?



生産した豚は、一度養豚市場に出荷しています。
そこから1~2割ほどを豚肉として買い戻して、自社ブランド「雪乃醸」として直販しています。



6次産業化、ということですね。



そうですね。
2018年に就農した当初から自社ブランドの構想はあって、豚のブランド名をネット公募しました。
雪乃醸は、飲食店や百貨店などに卸す直前まで話が進んでいたのですが……。
2020年にコロナ渦に突入して、飲食店が休業していき、出荷予定だった豚肉の売り先がなくなってしまったんです。



コロナ渦で出荷先がなくなってダメージを受けた農家は多いですよね……。
どのように販売の活路を見出していったのですか?



ホームページや産直ECサイトでネット販売を始めました。
巣ごもり需要もあったと思いますが、たくさんの注文をいただいたんです!
雪乃醸の味の評判も良く、リピーターも多くて、豚肉のネット直販の可能性を感じましたね。



多くの消費者から、支持されたのですね!



そこからは全国のお客様に雪乃醸を届けるために、豚肉の商品開発をさらに進めました。
ローストポークやウインナーなど、私が調理して試食しながら、本当においしいと思える商品を増やして。
2024年には雪乃醸の直売店をオープンしまして、地元豊川市の方にも愛される豚肉にしたいと考えています。



なるほど、高橋さん自らが商品開発に携わっているのですね。
でも6次産業化って、価格は自分で設定できるけど、大変なことも多いと聞きますが……。



たしかに6次産業化したからといって、利益が上がるとは限りません。
ただ食品リサイクルにしても養豚にしても、世の中にない価値を生み出して循環させることが、弊社のモットーですから。
リサイクル飼料で育った雪乃醸は、消費者や養豚業界にとっても、価値があることだと考えています。


仕事に対する価値観と、就農者に対するアドバイス



高橋さんは数字で判断する経営者の一面もありながら、最終的には自分が面白いと思える方向に進んでいるんですね。



そうですね。
食品リサイクル飼料を製造して会社を経営する立場としては、栄養素や経営の数字を把握することは絶対必要なことです。
だけど単に売上や利益を伸ばすだけであれば、農業以外で起業したほうがよっぽどいいでしょうね。
結局仕事って、世の中のためになって面白いと思えるかだと思うんですよ。
私は養豚も食品リサイクルも、自分が面白いと思うからやっています!



素敵ですね!
最後に高橋さんのように、養豚や新規就農を志す方にアドバイスがあればお願いします。



どの品目で新規就農するにしても、設備投資の高さは課題になるでしょうね。
特に新築の豚舎は何億としますから、養豚での新規就農は年に数件しかないという厳しさも納得です。
だから弊社のような「ローコストでサスティナブルな農業」というのは、これからの農業に必要な考え方になるのではないでしょうか。



取材させていただきありがとうございました!
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