サンチュから高糖度ミニトマトへ作物転換した理由
就農時に盲点となるお金
直販やブランド化した理由
今回インタビューした農家は、愛知県豊橋市のミニトマト農家、村上広貴(38歳)さんです。
種苗会社から農家になった村上さんに、作物転換して就農した経緯や、高糖度ミニトマトの栽培と直販について取材してきました!
いきなりサラリーマンを辞めて、親元就農するという決断
就農するまでは何をしていましたか?
四年制大学を卒業した後、トヨタネ株式会社に就職し、農家さんを回る営業をしていました。
実家が農家で、いずれは農業を継ぐだろうから、定年前くらいまでは地元の農業系の会社で勉強しようと思ったからです。
定年前の就農という将来設計を、だいぶ前倒しして就農したきっかけはなんですか?
30歳になる目前で、ふと人生と農業について思いを巡らせたのです。
「1年1作しか栽培できないとしたら、定年前から就農したのでは、20回もできないかもしれないぞ…。」とね。
「20回の栽培のうち、納得できる栽培ができる年数はもっと少ないだろうから、もっと若い時に就農しておけばよかったと後悔するだろうな。」という結論が自分の中で揺るがなくなったんです。
親元就農するという結論が自分の中で固まってからは、すぐに上司や母や妻に伝えました。
誰にも相談もせずに、いきなり会社を辞めて農業をすると言い出したもんだから、みんなびっくりしていましたね(笑)
相談もなしにいきなりサラリーマンを辞めて農業をやると言われたら、そりゃあ驚きますよね!
特に奥様は、どうやって説得したのですか?
最初は妻もびっくりしていましたけど、早い段階で私をサラリーマンに引き留めることを諦めて、静かに応援してくれるようになりましたね。
「いずれ農業を継ぐことは知ってたし、どうせあなたは決めたことを曲げないんでしょう?」
という感じで。(笑)
理解のある妻で、今でも頭が上がりません。
29歳の冬に会社を辞めて、半年間は豊橋のミニトマト農家で研修後、30歳の夏に実家の農地にハウスを建てて農業を始めたという経緯です。
サンチュから高糖度ミニトマトに作物転換した決断
サンチュの周年栽培からミニトマトに作物転換されて就農されましたが、なぜ親が栽培していた作物を変えて就農しようと判断されたのですか?
周年栽培のサンチュは、焼肉屋に卸すバイヤーの方が買い取ってくれるので、売り先は安定してあったのですが……暑さに弱いのが難点だったんです。
猛暑ではサンチュの葉っぱもとろけてしまうし、病害虫も出やすい。
夜にライトをつけながら、サンチュについたナメクジを手で取っている母の苦労している姿を見ていたので……
この先の将来を見据えれば、私が責任を取って作物転換した方がいいと判断しました。
サンチュは美味しいけど、栽培は大変なんですね……
代わりの作物候補は色々あったと思いますが、その中からミニトマトを選んだ理由は何ですか?
地元の種苗会社の営業をしていたので、就農前から地域の有力な作物は私の中ではすでに2,3品目に絞られていました。
その中でもミニトマト、それも高糖度での栽培は、全国でも豊橋が特に進んでいる作物です。
色々な栽培のコツはあるにせよ、肥料や水やりなどの塩梅は自動化数値化できるので、就農1年目からでもベテラン農家並みの高反収をあげることが可能だと分かっていました。
当時は、反収1000万円を超えるミニトマト農家も少なくなかったので、銀行としても、JAのミニトマトという作物に信頼があったのでしょうね。
あとは行動あるのみと、思い切って高軒高のハウスを建てて、農業をスタートしました。
種苗会社の経験も、作物転換に活きたのですね。
栽培の決断
現在の栽培面積と労働力を教えてください。
ミニトマトのハウスが2.5反+2反+0.5反(パイプハウス)=5反です。
ほぼTY千果という品種が9割5分、あとは直販向けに数種類栽培しています。
労働力は私と母、タイの技能実習生2人とパートさんが6人です。
栽培に関してこだわりはありますか?
高軒高ハウスでハイワイヤーで日照を多く確保し、環境制御装置を使ってミニトマトとって最適な栽培環境を作っているのが特徴です。
デジタルで算出された数字を頭で解釈した上で、アナログ的なこともします。
ミニトマトに味を乗せつつ収量を上げることは、常に考えています。
ものすごく立派なハウスですが、いくらくらいかかったんですか?
2016年に建てた一棟目のハウスが7500万円、2020年の2棟目のハウスが8500万円、総額で1億6000万円くらいかなあ。
当然融資を受けないと払えない額なので、スーパーL資金を活用して建てました。
い、1億6000万円!?
頭がクラクラしますね……。
栽培や設備投資に関して、大きな失敗はありましたか?
栽培に関しては毎年試行錯誤しているので、失敗とは捉えていませんね。
だけどお金の面に関しては、大大大失敗をしています!!
まずは初年度のイニシャルコストを見落としていたこと!
当たり前のことですが、まだミニトマトがろくに採れないうちから、一年目の栽培の苗や肥料農薬がかかってきます。
私の場合はそれなりの規模からスタートしたので、種苗肥料農薬人件費重油代など200万円が栽培スタートして間もなく必要でした。
7500万円と8500万円の融資額に気を取られ過ぎて、イニシャルコストには考えが回らず、貯金だけでは全く足りませんでした。
ハウスの融資の返済は一年間の栽培が終わるまで据え置きもできると思うので、まずは一年目の頭から必要な経費をしっかり計算しないいけませんでしたね。
ああ……
大きな初年度の大きなお金の動きは、ハウスの建設費だけじゃないんですよね。
それと、かかってくるであろう税金も、就農する前に計算しておくべきです!
就農計画書には載らないけど、消費税や固定資産税は無視できないくらいの金額になります。
特に、私のように大きな融資を受けてハウスを建てて始めると要注意!
利益はまだ少ないのに、売上がある程度上がってしまえば2年後から消費税はかかりますし、
基礎工事をしたハウスは建物扱いになるので、翌年から固定資産税のお知らせが自治体から届きます。
怖すぎる!
イニシャルコストや税金の分の資金は、どうやって確保したのですか?
もう、肥料代の請求を種苗会社に相談させてもらったり、追加の融資を受けるしかなかったですね。
サラリーマン時代は給与から天引きされるだけだったので、コストとか税金は意識すらしなかったのですけどね。
今でも残りの融資残高や税金や経費を見ると、心臓の鼓動が早くなりますね(笑)
運転コストや税金まで計算しておいた方がいいのか。
就農希望者にとっては、参考になる意見だと思いますね!
ブランド化して直販するという決断
現在の販路はどんな感じですか?
ほぼJA出荷で95%、残りの5%はスーパーと産直ECですね。
今後は、直販の割合を増やしていきたいです。
高糖度ミニトマトは、JAは販売が強い作物なんですよね?
わざわざJA以外に出荷しなくてもいいのでは?
たしかに今はJAだけに出荷していても生計は立てられますが、将来の生計も保証されているわけではありません。
少しずつでも自分で作物を売ってみて、販売の経験値を得ることは長い目で見れば大事なことだと考えています。
JAの販売価格が安い時に、文句言ってるだけの農家にはなりたくないですからね。
なるほど、それでスーパーや産直ECに出品されているわけですね。
それにしても、「あぽろん」は印象的な名称とデザインですよね。
ありがとうございます!
スーパーや産直ECに直販を増やすにあたって、やはり個人のブランド名を作るべきだと思いました。
太陽を意識した栽培で、キャッチーで短くて、覚えてもらいやすい名称を、ということで「あぽろん」と命名!
ロゴのデザインも美大生の方にお願いして、ポップでかわいらしい感じに作ってもらいました!
おかげさまでブランドはお客様にも認知されてきて、私に似つかわしくないというのが唯一の欠点ですね(笑)
欠点を補って、余りある恩恵を得られたのですね!
あぽろんを直販していく中で、大変だったことはありますか?
直販されている農家みなさんに当てはまると思いますが、やはりお客様対応は大変ですね。
特に、こちらの梱包が原因でないと思われるミニトマトの割れ(裂果)のクレームは、精神的にきつかったです。
しかし、割れているミニトマトがお客様に届いてしまったのは事実ですので、対策は打たないといけません。
そこで、ダンボールのサイズを1㎏→1.5㎏に大きくして、新聞紙やプチプチなどの緩衝材を多めに入れるように変更しました。
メールの言葉遣いや返品などの対応を含め、出来うる改善をするきっかけにもなりました。
ブランドも私も、お客様に育ててもらった部分もあるので、感謝していますね。
クレームにも感謝しているのですね。
直販は大変な部分もありそうだけど、成長できることも多そうです。
今後の目標や就農希望者に対してのメッセージ
今後の目標を教えてください。
栽培面では、天候不良を言い訳にしない栽培技術や従業員の教育を確立することですね。
面積拡大も視野に入れて、自分が何日かいなくても問題なく作業が回る体制を作りたいです。
直販の面では、直販の比率を3割程度まで伸ばしたいですね。
そのためには、商談会や営業に私が出ていって、あぽろんを積極的に売り込みたいです。
最後に、就農希望者にメッセージがあればお願いします。
「就農するにしてもしないにしても、全て自分で責任を取る覚悟があれば、後悔は減らせるよ。」ってことですかね。
就農に関することで何かしらの不安があっても、「えいやっ!」と踏み出せば、心配するに足らないないこともあります。
栽培や販路などで失敗しても、責任を自分で取るのであれば、後悔ではなく、次の機会のための反省になるはずです。
私も道半ばで潰れたら、各方面に土下座する覚悟は常にありますよ!
取材させていただき、ありがとうございました。
こぼれ話
奥様は農業を一緒にされてないのですか?
妻は医療系の資格を活かして、外で働いています。
就農当初はミニトマトの栽培管理の人手が足らずに苦しかったのですが……
いきなり私の身勝手で始めて、しかも資格が活かされない農業を妻に手伝ってもらうというのは、選択肢にすらならなかったですね。
資格勉強のための時間や努力をしていた妻にも申し訳ないですし、費用を出してくれた義理の両親にも面目なくて。
妻と一緒に農業をしないという村上さんの選択も、普通の感覚だと思います。
それぞれに事情や考え方は違いますから、夫婦で農業をされている方を否定する意図はありません。
だけど周りの農家を見ても、妻は別の仕事をしているという農家は増えていますよね。
「みんな違って、みんないい。」ということだと思います!
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