カジツを通してため息をハナウタ気分に!熊本県植木町のおせっかい農家が紡ぎ出す農業観。

記事の内容

フリーターから親元就農

年間5種類の果樹栽培

「おせっかい」な農家が作り出す農業戦略

今回インタビューした農家は、熊本県植木町のハナウタカジツ代表の片山和洋さんです。

様々な果実の栽培に留まらず、講演やコラボ商品、クラウドファンディングなどの取り組みをされています。

そんなハナウタカジツさんに、就農までの経緯や果樹栽培のこと、農業以外の様々な取り組みについてインタビューしました。

目次

フリーター→なし崩し的に親元就農

ナス男(筆者)

片山さんはどんな学生時代を過ごされましたか?

片山さん

一言で言えば、将来の成りたい職業がコロコロ変わるような、すごく飽きっぽい学生でした。
教員やケーキ屋さん、デザイナーや記者などを夢を見ては、すぐに飽きて続けられない。
だから進学校を卒業したにもかかわらず、センター試験で勉強に飽きちゃって、4年制の大学には行かなかったり、
コンピュータの専門学校を卒業しても、定職に就かなかったりで。
中途半端な20代前半だったと思います。

ナス男(筆者)

そうだったんですね。
将来の夢には入っていなかった農家になったのは、何かきっかけがあったのですか?

片山さん

フリーターしているよりマシだろうと、なし崩し的に2002年に親元就農した形ですね。
だから、なんとも情けない農業のスタートでした。
実家が農家だったのですが、子どもの頃から「農家はカッコ悪い、農家にはなりたくない」と思っていたんです。
だって、軽トラでの送り迎えも嫌でしたし、収穫シーズンには休みもなくてどこにも行けないじゃないですか。(笑)

ナス男(筆者)

実家が農家の方は、農業に対してネガティブなイメージを持っている方もいますよね。
では、親元就農した時の、家族や周囲の反応はどうでしたか?

片山さん

特に、うれしいとか嫌だとかは言われませんでした。
ただ、ちょうど柑橘類の育成期間が終わって収穫できる年だったので、就農するにはいいタイミングだったと思います。
今思えば、私の就農を見越して両親が準備してくれていたんでしょう。

主力作物のキンカン
ナス男(筆者)

果樹だと収穫するまでに4,5年はかかりますから、ご両親が前から計画して準備してくれていたのかもしれませんね。
無事に就農した後、農業のイメージは変わりましたか?

片山さん

就農前は全くいいイメージがなかった農業ですが、農家として年数が経つうちに徐々に、栽培の奥深さや販路を含めた農業の自由度の高さが面白くなってきて!
飽きっぽい性格の私が、農業にのめり込んで続けられているのがびっくりです!

ナス男(筆者)

農業は、何を作ってどこに売るかも自由ですからね。(笑)
就農した時に、お金の不安はありましたか?

片山さん

親元就農した当初は、「遊べるくらいのお小遣いがあればいいや。」くらいで、何も考えていませんでした。(笑)
しかし2015年に事業継承をして、ハナウタカジツの代表になってからは、飽きずに楽しめる農業だけではダメだと意識を変えています。
がっつり農園の経営に携わって家族もいる今は、利益を出してお金を残すことも意識しないといけませんからね。

年間を通した果樹栽培

ナス男(筆者)

現在の栽培作物と規模、労働力を教えてください。

片山さん

ハウス栽培のモモが1ha、スモモが10a、キンカンが45a、不知火が60aですね。
労働力は、主に父と私と妻と義弟の4人で、収穫のピーク時にパートさんに数名来てもらっています。

ハウス栽培のモモ
ナス男(筆者)

栽培のこだわりはありますか?

片山さん

それぞれの果実の収獲時期を分散して、なるべく長期で収穫することを心がけています。
例えばモモの場合は、ハウスの積算温度管理やビニールを張る時期をずらすなどの工夫をしていますね。
収穫シーズンにいっぺんに採れた方が、市場の単価は高い傾向にありますが、
1年で数回リピートして買いたいというお客さまに、私は「おせっかい」がしたいんですよ。

ナス男(筆者)

なるほど、お客さまのリピートに応えやすい栽培ということですね。
栽培面で失敗したことはありますか?

片山さん

これはもう、マンゴー栽培に手を出したことですね。
うちの栽培スケジュールでは夏に収穫できる果実がないので、空白を埋めるためにハウス栽培のマンゴーを30aほどやろうとしたんですけど……
冬の重油代もきついし、なによりモモやキンカンの管理作業が遅れてしまって。
それでは本末転倒だと思い、マンゴーの樹は全て伐採しました。

ナス男(筆者)

えっ、せっかく収穫できるまで育てたマンゴー30aを伐採!?
なかなか勇気が要る撤退ですね……

片山さん

収穫できるまで6年かかったマンゴーでしたが、意外にもあっさり伐採しちゃいましたね。
うちの主力のモモやキンカンに影響が出ちゃってた以上、ハナウタカジツを買っていただけるお客さまにも申し訳ないですから。

JA以外にも、ハナウタカジツとして直販

ナス男(筆者)

現在の販路はどんな感じですか?

片山さん

JAやスーパーの卸、ハナウタカジツとしての直販やEC販売が主ですね。
あとは毎年一定量を、ケーキ屋さんなどの個人のお店に出しています。
販路の割合は年によってまちまちです。

ケーキ屋さんとのコラボ商品
ナス男(筆者)

JA以外も出荷されているのですね。
狙いはなんですか?

片山さん

JA出荷より単価がいいとかよりも、「ハナウタカジツがおいしい!」と言ってリピートしていただけるお客さまのためですね。
JAも利用しつつ、ある種のすみ分けをしているイメージです。
あ、断っておきますけど、JAにはランクが落ちるものを出しているわけではありませんよ。
うちはハナウタカジツの直販だけ品質のいい果実を出しつつ、JAにもちゃんと品質のいいものを出すのが、ハナウタカジツのモットーですね。

ナス男(筆者)

直販だけに品質の比重が傾いているのではなく、JAにもいい品質のものを出すことは、簡単ではないと思います!
あとは、直販をしていく中で、失敗したことはありますか?

片山さん

1㎏入るダンボールに、7個のモモ1050gに緩衝材を被せて入れたら、届いた先で傷んでいてクレームになってしまいました。
1㎏以上入れようとモモを詰めすぎて、傷みやすい状況になっていましたね。

ナス男(筆者)

おそらくサービスという意味合いで1㎏より多めにモモを入れたつもりだったのでしょうけど、それが良くなかったということですかね。
その失敗から、どのような改善をされましたか?

片山さん

1㎏の段ボールに7個で1050gではなく、6個で900gという規格を新たに作りました。
ぎゅうぎゅうに詰めずに余裕を持たせることで、緩衝材が活きて傷みがほぼ出なくなりましたね。
規格を自分で作るという発想はクレームから生まれたので、気づきを与えてくれてありがとうございますと思っています。

ナス男(筆者)

クレームから新しい発想を得たのですね。
販路に関しての課題や目標はありますか?

片山さん

「直販を増やして、全ての収穫物をハナウタカジツとして売りたい!」とかはないですね。
果実が全て直販で売り切れるとは思っていないですし、個販を増やすことで事務作業の負担も増えるので。
自分が飽きないように、何か面白いチャンスがあれば飛びつける余裕がある今くらいが、ちょうどいいような気がします。

「おせっかい」で繋がっていく宣伝

ナス男(筆者)

面白いチャンスと言えば、ハナウタカジツさんは栽培以外にも様々な取り組みをされていますよね。
ぜひ伺いたいです。

片山さん

そうですね。
過去には中学校の出前授業や、熊本農業経営塾での講師を務めました。
クラウドファンディングでハナウタカジツの果物を使ったクラフトコーラのリブランディングをしたこともありますね。

ハナウタカジツを使ったクラフトコーラ
ナス男(筆者)

講師の依頼も、クラファンもされたのですね!
すごい!
依頼って、どういう経路で来るものなんですか?

片山さん

だいたいはハナウタカジツの口コミから依頼を受けることが多いですね。
「ハナウタカジツって、なんか面白いらしいよ!」という具合で。
仕事の依頼をくれた方には、全力でおせっかいが焼きたくなる性分なんですよ。

ナス男(筆者)

口コミから依頼が来るのは嬉しいですね!
ハナウタカジツさんは他にも、「ハナウタカジツってこんな人」という企画をHPで公開したりしていますよね。
自社HPで、他の業種の方のリンクを貼って宣伝するってなかなかないことだと思うのですが?

片山さん

「ハナウタカジツってこんな人」に関しては、自分語りをするよりも他の人に紹介してもらった方がイメージが鮮明になると思うからです。
仕事で関わらせていただいた方のリンクを貼るのも、恩返しという言い訳で「おせっかい」がしたいんですよね。

こんな人 | ハナウタカジツ(熊本・植木)|桃・すもも・横綱みかん・きんかんを農家直送でお届けします。

ナス男(筆者)

たしかに、第三者からの評価の方が信ぴょう性が高く感じられますよね。
だけど私からすると、一直線に自分だけの宣伝をした方が、もっと利益が上がりそうな気もするのですが。

片山さん

うーん、たしかに自分だけで宣伝した方が手っ取り早いかもしれません。
繰り返しになりますが、第三者からの口コミ戦略という体で、私がおせっかいを焼きたいだけですね(笑)
これはハナウタカジのコンセプトでもあるんですが、
ハナウタカジツの生産者や果物が目立つのではなく、ハナウタカジツを通して、関わってくれた方やお客さまが、ハナウタ気分になってほしいんです。
数字も当然大事にしながらも、ハナウタカジツが広がっていく世界観が作れれば、もっと面白い農業ができる気がしています。

ナス男(筆者)

なるほど、ある意味おせっかい焼きの片山さんだからこそできる宣伝なのかもしれませんね。

今後の目標や就農希望者に対してのアドバイス

ナス男(筆者)

ハナウタカジツさんと同じように、親元就農される方にアドバイスがあればお願いします。

片山さん

まずは親が続けてきた農業を、そのまま引き継ぐつもりでやってみたらいいのではないでしょうか?
そしてプラスαで、販売面から自分の色を出してみることをおすすめします。
個人で小さく販売する分には、リスクなんてほぼないに等しいですからね。
失敗は、寝て忘れましょう!

ナス男(筆者)

ありがとうございます!
最後に、ハナウタカジツさんの今後の目標を教えてください。

片山さん

規模拡大をして売上目標を高くしたいとかは、考えていないですね。
具体的な目標は立てないようにしているんです。
これからもおせっかいで飽きっぽい私が楽しめるような農業で、私の子ども達にも、私が夢を叶えていく姿を体現していきたいです。
教員にもケーキ屋さんにもデザイナーにもなれなかった私でも、ハナウタカジツの農業を通して、授業をしたりケーキ屋さんに材料を提供したり、デザイナーの方に世界観を作ってもらうことができて、ある意味で夢が叶っているのですから。

ハナウタこぼれるおせっかいで笑顔を作る
ナス男(筆者)

参考になりました。
取材させていただき、ありがとうございました!

こぼれ話:おせっかいがテーマのコンセプト絵本

ナス男(筆者)

2024年11月に、ハナウタカジツさんのコンセプト絵本が発行されたと記事になっていました。
絵本作家デビューということですが、きっかけはなんでしたか?

片山さん

ハナウタカジツが大切にしている「おせっかい」をテーマにパンフレットを作る予定だったのですが……
1枚の紙では伝えきれなかったので、絵本になっちゃいました(笑)

でも他の農家さんではない販促ですし、ハナウタカジツの世界観も表現できて、結果オーライです!
コンセプト絵本はハナウタカジツを購入していただいたお客さまに、果実と一緒に梱包して送らせていただく予定ですね。

おせっかいがテーマのコンセプト絵本
ナス男(筆者)

読ませていただきましたが、子どもに読ませたくなるような、ほっこりするストーリーでした!
ハナウタカジツさんらしい取り組みで素敵です!

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